韓国ゲーム業界、ちょっとした裏話
連載第3回
“裏のプロゲーマー”が暗躍する世界。BOT問題で揺れる韓国MMORPG業界。結局、BOTは良いのか悪いのか?
2019年5月7日 00:00
皆さんはオンラインゲームのBOTをご存じだろうか。BOTとは、ゲームクライアントとは別にツールを組み込み、自動的にゲームをプレイさせることをいう。通常のMMORPGでは、ゲームバランスやゲーム内経済が破壊されてしまうため、禁止されていることが多い。狩り場がBOTだらけになると、一般プレーヤーが狩りのできるモンスターがいなくなってしまい、ゲームにならなくなるというのがその理由だ。
だが、それは昔の話だ。現在、韓国のみならず、日本や中国で大流行しているモバイルMMORPGでは、最初からオートバトルが実装されており、クエストの遂行や目的地の移動まで、全て自動的にプレイしてくれる機能は当たり前のように提供されている。
ゲームファンならおわかりの通り、これはどう考えてもBOTそのものなのだが、メーカーはこれをBOTとは呼ばず、問題にもしない。しかし、第三者が手がけたBOTツールは依然として禁止されており、使用したアカウントはBANしている。このダブルスタンダードはどういうわけなのか。今回は、韓国ゲーマーのBOT利用の最新動向についてレポートしたい。
昔ながらの韓流プレイスタイル「BOT」は本当に悪いことなのだろうか?
現在、韓国モバイルゲーム市場では、MMORPGがトレンドになっている。売り上げランキング1位は「リネージュM」が2年近く維持しており、「ブレイドアンドソウル:レボリューション」、「黒い砂漠MOBILE」、「リネージュII:レボリューション」、「ミューオリジンII」、「TRAHA」など、PC MMORPGをモバイルゲーム化したものや、オリジナルIPのものまで、とにかく大型MMORPGが売り上げトップに君臨しているのが今の韓国モバイルゲーム市場だ。
こうしたMMORPGは殆どが競争コンテンツがメインであり、ユーザーたちも競争コンテンツに参加するために毎日キャラクターを育成させて強くしている。同じモバイルゲームでも、コンテンツ利用に一定量のスタミナが必要なRPGとは違い、MMORPGはいつまでも狩りができるため、上位を目指すユーザーは24時間体制でゲームを回すのが当たり前に行なわれている。
PCオンラインゲームの例で言えば、睡眠などで自分がプレイできない場合、“副主(サブのアカウント管理者)”を立てて、狩りを続ける。“副主”は時間制で給料を貰えるか、獲得したアイテムをRMT(リアルマネートレード)で販売して、利益をシェアすることで、お金を稼ぎ、生活を立てている。ここではその是非は論じない。RMTについてはまた別の機会に論じたい。
とにかく常に競争が強いられているMMORPGで、トップのプレーヤーを目指すならここまでしなければならないのが現実だ。
ところが、先述したようにモバイルMMORPGでは、ゲーム内の機能として、オートプレイが搭載されている。⽇本でもサービスしている「⿊い砂漠MOBILE」を始め、ゲームによってはクエストの遂⾏も全部⾃動でやってくれるものも登場している。これにより、“副主”を使わずともオートプレイを利用して、24時間体制で簡単に育成することが可能となったのだ。
上位を目指すプレーヤーたちは24時間体制でキャラクターを育成するために、PC上でモバイルゲームをプレイできるエミュレーターを使って、24時間オートプレイを回している。携帯の端末で24時間回すには、発熱やバッテリーなどの問題があるからだ。結局、今も昔もトップランカーたちは、PCでMMORPGをプレイしているわけだ。
モバイルMMORPGでもBOTを使いたい韓国ゲームファンたち
しかし、ゲーム側がサポートするオートプログラムだけで、韓国のゲームファンが満足するはずがないのだ。オートプレイだけでは機能が足りないと思ったユーザーは第三者が制作したBOTプログラムを使っている。第三者が提供するBOTを使うことで、低いグレードのアイテムを自動的に販売したり、ポーションを定期購入したり、時間制の特殊ダンジョンを利用したりなど、ゲームを一切触れなくても24時間体制でキャラクターを育成させることができるのだ。
前述したとおり、PCオンラインゲームでは、狩り場でモンスターが無くなる被害や、大量のゲームマネーが生まれることからゲーム内の経済バランスが崩壊されてしまう理由でBOTの使用を禁じている。そのルールはモバイルMMORPGでも受け継がれており、BOTを使用したと感じたアカウントはBANされている。
実際に「リネージュM」は24万個、「ミューオリジンII」は1万2千個、「黒い砂漠MOBILE」は2千個以上のアカウントを毎月BANしており、自分のアカウントがBANされたというユーザーも続出している。BOTを使いたい側と禁止したい側のイタチごっこは、モバイルを舞台に移して今なお続けられているのである。
ここで筆者は一つ疑問を持っている。既にオートプレイを提供しているモバイルMMORPGは、何を根拠にBOT使用を禁じているのかだ。
韓国の法律では“RMTを目的に、大量のアカウントでBOTを使用すること”と“メーカーが認定していないプログラムを制作/流通すること”は、違法となっているが、個人でBOTを使用することは違法でも何でもない。
そもそも狩り場の被害や経済バランスの云々はオートプレイをサポートしている時点で根拠になっていない。今やオートバトル、オートプレイを基本とした、“放置系”というジャンルも生まれているぐらいだ。こんな現状でBOTを使用することが本当に悪いことなのだろうか?
ゲームメーカーとしては、ユーザーニーズやトレンドに対応してきた結果なのだろうが、ゲームメーカーが自らの手でBOTを禁じる根拠は無くしていながら、自社のBOTはOKで、第三者はBANという矛盾した状況になっている。一定のユーザーニーズがある時点で、もはやBOTは悪ではなく、メーカーは自らBOTを提供しているということを認めた上で、新たにオンラインゲームを始める層に対して、BOTとどう向き合っていくべきなのか、サービスプロバイダーとしてしっかり説明責任を果たすべきだと思う。