レビュー

「Stray」レビュー

猫がサイバーパンク世界に迷う! 恐怖と癒やし、驚きが交互に襲う猫チャン堪能アドベンチャー

【Stray】

ジャンル:アドベンチャー

発売元:Annapurna Interactive

開発元:BlueTwelve Studio

プラットフォーム:PS5、PS4、PC(Steam)

発売日:7月19日

価格:3,500円(税込)

 7月19日に発売予定のプレイステーション 5/4/PC「Stray」は”猫ゲーム”だ。PlayStationインディーズのタイトルで、PlayStation Plus エクストラおよびプレミアムを対象としたサービス“ゲームカタログ”にも追加される。6月3日に放送された配信番組“State of Play”でも紹介されたことから、記憶に残っている人もいるのではないだろうか。

 「Stray」は、とある迷いネコが主人公の、アドベンチャーゲーム。ふとしたことから家族とはぐれてしまい、ひとり(一匹?)謎のサイバーシティに迷い込み、様々な謎を解きながらサイバーシティから脱出を目指すタイトルとなっている。開発はBlueTwelve Studio、パブリッシャーはAnnapurna Interactiveだ。本稿では、本作のレビューをお届けする。

【STRAY | Release Date Trailer】

癒しのゲームかと思ったら……

 筆者はこのタイトルをプレイする前、ひとつ大きな勘違いをしていた。というのも、本作は猫が主人公の”癒し”のゲームだと思っていた点だ。

 特にゲーム開始直後は、猫チャン同士がたわむれるほんわかした場面をプレイすることになる。なるほど、こういう癒やしのタイプのゲームなのか……という思い込みと裏腹に、ゲームが進んでいくほど筆者の顔から血の気がサーッと引いていく。

 主人公の猫が、迷い込み、ひとりぼっちになるのはいいとして、唐突に放り込まれるのはホラーテイストを感じるサイバーパンク世界。ただの可愛らしい猫チャンにとってはあまりに殺伐とした世界であり、いつなぶり殺されてもおかしくない雰囲気がある。この落差が、はっきり言って怖い。「可愛い猫チャンになんてことをするのか!」と、筆者はただひたすらにビビっていた。

可愛い猫チャンがたわむれるシーンから始まるからこそ、ゲームを開始してしばらくは、癒しのゲームだという勘違いが続くこととなってしまった
可愛い猫チャンとニャンニャンできるゲームだと思うでしょう!(怒りにも似た叫び)
可愛い猫チャンと以下略
こんな場所、ホラーゲームなら間違いなく巨大クリーチャーとか出てくるに違いない。否が応でも心臓も縮む
ネオンで描かれた「HELP」の文字が怖い。しかも誘導付き。自分が猫チャンなら、そっちには行きたくない

 だが、猫チャンは進まなければならない。離れ離れになってしまった家族の元に戻るため、様々な恐怖を物ともせず、淡々と猫チャンは目の前を阻むギミックをこなし、前へと歩んでゆくのだ。

 ちなみに筆者が最も「ひえ」と思わず声をあげたエリアは、あえてスクリーンショットを掲載していない。その衝撃は、やはり自身の目で初めて出会った時に感じるものだと思うからだ。本稿は全体的にはまろやかめのスクリーンショットを多めにしている。

怖い怖い怖い怖い怖い(連打)

猫チャンは、基本何の力も持っていない

 猫チャンが謎のサイバーシティで出会うのは、B-12という飛行型ロボット。B-12は長い間電子ネットワークの中に閉じ込められていたのだという。そのせいか、記憶があやふやなところがあるというロボットで、B-12と紡ぐ物語も本作の見どころのひとつである。

B-12は非常に小型なロボット。普段は猫チャンの背中のショルダーバッグの中に収まっている。

 B-12はロボットなのでハッキングなどもお手の物だが、猫チャンはただの猫チャンのため、基本的に何の能力も持っていない。強いて言うなら人語を理解しているのだろうかというくらいだが、それも猫チャンが理解しているのか、猫チャンを通してプレーヤーが理解しているだけなのかと言われると、どちらなのか答えは出ない。

 そんな猫チャンができることは、主に「ジャンプ」「引っかく」「くわえる」の3点くらいで、あとは一応「鳴く」というアクションもある。ただ、猫チャンには猫チャンだからこそできることもある。

 例えば少々高低差のあるところへのジャンプ。ほんのちょっとしか足場のないところへのジャンプや手すりの移動なども、お茶の子さいさい。狭い隙間も通り抜けられる。

 こういった動作の多くはガイドが表示され、「ここに登れるよ」というような場所に×印(PS5の場合)が出たり、何か特定の動作が必要な箇所では□印や△印が出ることもある。

基本的に×は飛んで乗れる場所。△は主に猫チャンが行う何かしら他の動作(場所によって異なる)、□はB-12が行なう動作だと思っていいだろう

 ただし、UIらしいUIはこれだけ。次の目的地へのガイドは存在しない。では、猫チャンの旅を導くものは何か。それはプレーヤーの”発想”――もっと簡単に言うなら”ひらめき”だ。「この場所からどこかに向かえるのではないか」「ここを抜けるにはどうすれば良いか」という、ほぼこの2点に絞られる。

 時には誰かがヒントをくれる場面もあるが、極々限られた場所のみである。しかもそのヒントは大抵ルート取りではなく「誰がどこにいる」とか「●●をしてみよう」といったような大まかな情報や提案が大半だ。とにかく、「今、何が行く手を遮っているのか」「ならばどうしたらそこを通れるようになるか」は、ほぼノーヒントで進んでいくこととなる。

巨大なファンが止まればその間をすり抜けられることまでは、すぐにわかるだろう。問題は猫チャンが、どうしたらあのファンを止められるかをよく探索し、発見し、あとは最後のひらめきにつなげられるかである。

 ちなみにヒントについては、自分自身で覚える必要がある。筆者はかなりスクリーンショット機能を活用し、人造人間の重要なヒントを忘れてしまった時などに見返していた。

 こういった仕様からも、プレイはできるだけ時間のとれるときに一気に進めるのがオススメだ。時間を置き過ぎると、現在の目的などを見失いやすいかなと思う。ちなみに、筆者の初回プレイのクリア時間はほぼメインストーリーだけを進めて6時間ほどだったので、参考にしてほしい。

 いくつか収集要素のようなものもあり、そういったところまでくまなく探索してフルコンプリートしようとすると、そこから更にプラス3時間程度はかかると見ていいだろう。

そもそも「フライトジャケットってなに?」という状態だったりと、ヒントがわかりにくいこともあるため、スクリーンショット機能は活用したほうが良い。
場所によっては□印や△印に何をするか程度の説明はついているのだが、他は一切何もない。
十字キーの下ボタンでB-12と話すことができるので、多少はそこで確認ができる。

一歩間違えば死んでしまうことも……

 猫チャンはただの猫チャンで、肉体改造などは一切受けていないため、敵の攻撃を喰らうと結構あっさり死んでしまう。そもそもとして「敵がいるのか」という話だが、敵はそこそこにいる。

 エリアは大きく分けて、探索と探求がメインのエリアと、敵をどうやりすごすかのエリアがある。そこで登場する敵のひとつは「ZURK」と呼ばれるネズミのような動きをするクリーチャーだ。

ZURKの群れ。一つしか目がない、四つ足のクリーチャー。食いつかれると○ボタンで払うこともできるが、あまりたくさんのZURKに食いつかれると振り払えないままデッドとなる
死ぬと、リトライに。チェックポイントからやり直しになる。場合によっては結構前まで戻される

 他にも猫チャンを攻撃してくる敵はいるが、どちらにしても堅実に攻略しにいくか、少々強引な手でも突破しにいくかは、性格の出るところだろう。ちなみに、そういった場面では”アクション”とまではいかないが、ちょっとした操作テクニックが要求されることもある。

 ただ、戦う手段などは持っていない猫チャンなので(シーンによって、しばらくの間だけB-12が攻撃する)、数回リトライすればクリアできる程度のものに感じた。実際筆者も数回リトライする場面があったが、その程度のやり直しで済んでいる。

ストーリーがよく出来ている

 猫チャンは一切喋らないが、その代わりにB-12はよく喋る。そして”家族の元に戻る”という猫チャンに比べて、B-12にはかなりしっかりとしたストーリーが用意されている。B-12のストーリーについて詳しくは明かせないものの、B-12が記憶を失くしていること、そしてその記憶を段々と取り戻していく様は、必見だ。

あやふやながら、B-12にはサイバーシティを超えて「アウトサイド」と呼ばれる場所へ行く約束をしているようだ。

 そして、街に何故人造人間ばかりなのかといった設定も凝っており、彼らが語るひとことふたことの会話でも、断片的に彼らがどういう道を歩んできたかがわかる。

 猫チャンとB-12を取り巻く人々(?)はいずれも、生きているようで、生きていないようで、死んでいるようで、生きているという、この世界ならではの独特の死生観を感じられる。

 ただし、翻訳の問題か、全体的に言葉が少々硬すぎる(自然さがない)と感じる部分もあり、そこは気になった。相手にしているのが人造人間なので、硬い文面も実はわざとなのかもしれないと考えだすとキリがなくなってしまうので、なんとも難しいところではある。

Momoという人造人間は、この暮らしを始めて約700万年が経過しているようだ
訳がおかしいわけではないのだが、あくまで筆者の個人的な感覚では全体的に硬いと感じる部分が多かった。日本語って難しい……

最終的には猫チャンに癒される

 猫チャンを取り巻くこの世界は、美しくもあり、醜悪でもある。サイバーパンクを取り扱う作品ではいずれもそうと言えるが、本作は冒頭でも述べた通り、サイバーパンクホラーとも呼べる作品に仕上がっており、雰囲気だけで背筋がぞわっとするような嫌な気配の漂うマップもしばしばある。

 しかしそれを上手く和らげてくれているのが、主人公の猫チャンに他ならない。

 猫チャンはただ黙々と進んで行く。B-12や人造人間の言葉をどこまで理解しているかはわからない。プレーヤーが操作することでたまたまそう動いているが、猫チャンは実は彼らが何を話しているのかまったくわかっていない存在なのかもしれない。そもそも、筆者が感じたような恐怖を猫チャンが感じているかどうかもわからない。

 だが、それでいい。猫チャンに個性を一切持たせなかったことによって、プレーヤーはこのように猫チャンに好きな想像を重ねられる。実は全部理解している魔法の猫チャンでも良いし、自宅で飼っている猫チャンを重ねても良い。健気に突き進む猫チャンの姿に、心も突き動かされるだろう。

街の人造人間も、猫チャンの可愛さにかかればメロメロだ
人間から見たらホラーな光景も、猫チャンにとってはただの見慣れない風景程度なのかもしれない。だから猫チャンは一心に進めるのかもしれない

 インディーズゲームとは思えないほど美しいグラフィックたちも素晴らしかったが、音楽で「ここには何かがありそうだ」とわからせる仕掛け、そして何よりもリアリティ溢れる猫チャンの動きには素直に感嘆した。

 猫チャン好きにもオススメだが、少々恐怖を感じる部分もあるため心臓が強めな人、そしてもちろんアドベンチャーが好きな人にもオススメのタイトルなのは間違いない。

 プレイ時間的にも気軽に遊べる作品で、猫チャン好きならばプレイが終わったあともまだまだ猫チャンと戯れたくなる、そんなタイトルだ。前述の通り、PlayStation Plus エクストラおよびプレミアムの人ならば無料でプレイできるため、加入者は前向きに検討してみてほしい。