レビュー

「OVERLORD: ESCAPE FROM NAZARICK」レビュー

壁は三角飛びで登り、天井を空中ブランコのように渡る!パルクールアクションの達成感に痺れる迷宮探索型ゲーム

【OVERLORD: ESCAPE FROM NAZARICK】

ジャンル:アクション

開発元:エンジンズ

発売元:KADOKAWA

発売日:2022年6月16日

価格:

【DL版】2,980円(税込)

【パッケージ版(Switchのみ)】

[通常版] 4,378円(税込)
[限定版] 8,118円(税込)

 KADOKAWAは6月16日、アニメ「オーバーロード」を題材とした迷宮探索型アクションゲーム「OVERLORD: ESCAPE FROM NAZARICK」を発売する。本作は、「オーバーロード」に登場する人物の一人である、英雄級最狂戦士クレマンティーヌを主人公に、ナザリック地下大墳墓を舞台とした彼女の大立ち回りをゲームオリジナルストーリーで描く。

 プロローグでは原作同様に物語が展開する。クレマンティーヌは当初戦士姿のアインズと戦い善戦するものの、彼が正体を明かしたあとに鯖折りで命を落とすところが描かれる。そして彼女が目覚めたのは、ナザリック地下大墳墓の最下層。記憶や能力など、すべてを失ってしまった彼女は、偉大なる死の王アインズによりとある実験への強制参加を告げられ、迷宮を探索しながら地上への脱出を図ることとなる。今回、リリースに先駆けてPC用のマスター版を遊ぶことができたので、その先行レビューをお届けしよう。

冒頭では、アインズの鯖折りによってクレマンティーヌが殺され、そして復活するまでが語られる。

 「オーバーロード」は、丸山くがね氏によるライトノベルを原作としたアニメ化作品。異世界へ転生した主人公アインズを描くダークファンタジーだ。元々は小説投稿サイトの「Arcadia」にて連載が始まったが、のちに「小説家になろう」でも掲載され、その後に書籍版がKADOKAWAより発売。2015年には夏アニメとして7月から放映が開始され、2017年に映画も公開された。今年7月からはアニメ4期目がスタートするが、そのタイミングに合わせて6月16日に発売されたのが本作となる。

【TVアニメ「オーバーロードIV」第1弾PV】

 アニメを題材にしていると聞くと、「放映済みのアニメを履修しておかないと、面白さがまったく分からないのでは……」と不安に思う人もいるかもしれない。もちろん、ゲーム中の世界観やストーリーに奥深さを求めるのであれば、アニメを見ておくにこしたことはない。しかし、実際はそういった予備知識ゼロで遊び始めても、何の問題もないと断言しておこう。むしろ、迷宮探索型のアクションゲームが好きな人や、マップをしらみつぶしに埋めていくことに爽快感を感じる人向けの、やりこみゲームとして仕上がっているのだ。

軽快アクションで初見の手触りのよさを感じさせる作り

 プレーヤーは主人公のクレマンティーヌを操作して、ナザリック地下大墳墓最下層から地上を目指して進んでいくことになる。冒頭に記したように彼女は英雄級最狂戦士……つまり人間としてはかなり強いのだが、ゲーム開始時点で能力と記憶を失ってしまったため、非常に頼りない状態で探索を始めなければならない。最初は武器すら持たず素手の状態だが、愛用の剣・スティレットを即座に見つけられるので、まずはこれを装備して敵と戦っていく。

クレマンティーヌのアクションは、剣を使っての攻撃以外にジャンプ、ダッシュ、バックダッシュがある。最初はこれだけだが、ゲームが進むと少しずつできることが増えていく。いきなり多彩なアクションが使えるわけではなく1つずつ追加されていくので、プレーヤーとしても覚えやすくありがたい。

 プレーヤーキャラの動きは非常に軽快で、ダッシュ中なら背丈程度の段差であればジャンプ操作をしなくてもトントントンという感じで自動的に登ってくれるため、操作していてかなり気持ちがいい。同じくダッシュボタンを押していれば、通路の端などで落ちそうになったり、ジャンプでギリギリ届く場所などでレバー(方向キー・カーソル)を入れっぱなしにしておけば、よほどでない限りは落ちそうになってもよじ登ってくれる。一昔前のゲームのように、距離がほんの僅か届かないために落ちてやり直し、ということがないのは嬉しい仕様だ。

このくらいの段差はわざわざジャンプしなくても、その方向にレバーを入力するだけで自動で登ってくれる。
ジャンプして目的地にギリギリ届きそうな時は、クレマンティーヌが端にしがみついて登ってくれる。これのおかげで、操作ミスで事故って落ちることはまずないのだ。アクションゲームにありがちなイライラを軽減してくれるので、非常にありがたい。

 サイドビューで展開されるステージ内を探索していくと、あちこちでスケルトンやゴブリンを始めとした、ファンタジー世界でよく目にする敵が出現する。それらを倒したり、道中の緑に光るアイテムを回収するとマナをゲットすることができるのだが、当初は何に使うのかさっぱり分からないまま進んでいく。すると、迷宮内で大きな黄金の鍵を見つけ、これを鍵穴と思しき場所で使用すると泉が出現。マナは、そこへ注ぎ込むために使い、これを行なうことでクレマンティーヌの能力が少しずつパワーアップしていくという仕組みになっている。なお、マナには他にもいくつかの用途があるが、それは追々説明していこう。

 奪われてしまったキャラクターの能力が徐々に戻っていくという流れではあるものの、プレーヤーにとっては弱小キャラが成長していくというRPG感覚も味わえるので、これもまた本作に面白さを加えていると感じられた部分だった。

敵のHPは画面右下に表示されるが、しばらくはサクッと倒せるので、あまり見る機会はないかもしれない。
敵を倒したり、緑の巾着のようなアイテムを取得すると、マナがゲットできる。後々、さまざまな用途で使うことになるので、しっかり回収しておきたい。
本が置かれているようなアイコンの場所は、セーブポイント。スロットは全部で5カ所あり、経過時間や踏破率なども確認可能だ。なお、セーブポイントを通過するとHPが全回復する。
パワーアップには、武技「能力向上」と呼ばれるHPの上限が増えるものと、防御力が上昇する武技「不落要塞」などがある。迷宮内の至るところに存在し、鍵穴に鍵を入れないと泉が現れない場合と、最初から泉が見えていてマナを注ぎ込めばパワーアップできる時の2パターンがある。

ナザリック攻略の軸となるパルクールアクション

 迷宮内には多数のギミックが配置されているのだが、なかでも本作の特徴を表しているのが“パルクールアクション”と呼ばれるもの。これは、画面内の青く光るポイントにジャンプして飛びつくと、そこを中心にしてクレマンティーヌがグルグルと回転。その間に行きたい方向を選んでジャンプボタンを押すと、そちらへと飛んでいくというシステムだ。通常のジャンプよりも非常に遠くまで飛べるだけでなく、壁に到達すると数秒間その場所に張り付き、そこからさらに上へとジャンプすることも可能だ。最初は操作に戸惑ったのだが、プレイを続けていけば自然と実践できるようになる。これを利用してタイミング良くワナを越えなければならないシーンも数多く存在するので、必須ともいえる操作方法だ。

青い部分に飛びつくと、そこを中心としてクレマンティーヌがグルグルと回転し始める。同時に彼女を中心とした8方向の矢印が表示され、レバーを入力した方向が明るく光るので、ジャンプボタンを押すとその方向へと勢いよく飛び出していく。着地点が壁の場合は数秒間張り付くので、そこからさらに上へとジャンプすることが可能だ。

 他にも、ゲームを進めていくと高速ダッシュする疾風走破を覚えるのだが、この状態でジャンプすればより遠くへ跳べるだけでなく、壁に向かって走ることで身長の3倍近くまで垂直の壁を駆け上がることができるようになる。パルクールアクションと合わせることで、これまでは行けないと思われていた場所へも侵入することができるようになり、探索の幅がグンと広がるのだ。これも慣れるまでは大変だが、体が覚えるとしっくりくる。華麗に移動できれば、思わず脳汁出まくりに。

高速ダッシュの疾風走破状態で壁にたどり着くと、壁を登り始める。そこからジャンプすれば、通常よりも高く遠くまで届くのだ。

 道中、クレマンティーヌのメインウエポンであるスティレットだけでなく、それと切り替えて使えるショートソードやレイピアといったサブウエポンを複数見つけることができる。サブウエポンは、武器により攻撃範囲や速度などが一つ一つ異なるので、その都度使い分けるのが良い……のかもしれないが、気づけば2、3種類しか使用していなかったので、深く考えなくても問題なさそうだ。スティレットは攻撃範囲が狭く威力もそれほどではないので、ゲーム中主に使うのはサブウエポンとなる。

数多くのサブウエポンをゲットするが、序盤でのオススメはブロードソードで、中盤以降はサクラフブキ。どちらも攻撃範囲が広くてモーションが素早く、与えるダメージも大きいためだ。

 そんなサブウエポンの中でも、特殊な立ち位置にあるのがモーニングスター。これを入手すると攻撃に使えるだけでなく、一部の黄色く塗られた天井や壁の部分にモーニングスターを打ち込むことができるようになり、垂直の通路を三角飛びの要領で登っていったり、天井を空中ブランコのように移動することが可能になるのだ。パルクールアクションと疾風走破、そしてモーニングスターを使用した移動、これらを複合的に要求されるシーンが数多く用意されているのだが、操作がビシッと決まって突破できた時の爽快感は、なかなかのもの。慣れてしまえさえすれば、ありとあらゆる場面を突き進むことができるようになるだろう。とはいえ、人によっては操作に混乱してしまい、ここで挫折してしまう可能性もあるかもしれない。

足場が見当たらない場所で天井が黄色い壁になっているところは、モーニングスターを天井に打ち込み空中ブランコの要領で進んでいく。アクションゲームが苦手な人には厳しいシーンかもしれない。
ダッシュ後にレバーを下に入力すればスライディングで狭い通路を滑り抜けられるほか、歩いて通れない道の前で立ち止まりジャンプボタンを押せば、ゴロゴロ転がりながら通過が可能。
行く手を遮るドアは、通常は近づくと自動で開くのだが、中には解錠の動作を必要とするものもある。ドアに近づき攻撃ボタンを押し続けることで鍵を開けられるが、その途中に敵から攻撃されてしまえば最初からやり直しに。

 迷宮を探索していくと、随所で火の入っていない“炉”を見かけることがある。ここへマナを注ぎ込むことで火が灯り、クレマンティーヌの装備する武器を強化することができるようになるのだ。その際には追加でマナが必要となってくるので、敵を倒して地道に集めたり、パルクールアクションを駆使して移動しなければ取れない場所に置かれている大量のマナを回収するなどして用意しておこう。とはいえ、マップは常に画面左下に表示されているほか、いつでもポーズメニューから確認することもできる。抜けがある部分にはマナがあることが多いので、見つけ次第探索してみよう。

炉では、所定のマナを消費することでウエポンのパワーアップが図れる。普通にプレイしてれば、すべてのウエポンを最大までパワーアップしても問題ない量のマナをゲットしているはずなので、プレーヤー的に合わない武器以外はすべて強化してもいいかもしれない。最低でも、オススメしたブロードソードとサクラフブキだけは目一杯までパワーアップしておくのが吉。
迷宮の中には、ジグソーパズルのピースのような形をした記憶の片鱗が隠されている。これを回収すると、ポーズメニューの“記憶の片鱗 コレクション”から確認することができる。全部で100用意されているので、ぜひコンプリートを目指そう。

トラップの突破に欠かせない魔法の習得

 さまざまな仕掛が配されている迷宮内でも目立つのが、炎や電撃が出てくるギミック。それらの中には、タイミングを計って通り抜けることが可能なものもあるが、吹き出しっぱなしで途切れない壁状になっている仕掛けはどうやっても突破できない。ここをクリアするのに必要なのが魔法で、炎・雷・氷の3種類が存在し、何を装備しているのかは画面左上のアイコンで分かるようになっている。

対応する魔法を取得し装備しておけば、ギミックや敵の攻撃に当たってもダメージはゼロになる。

 選んでいる魔法と同じ属性のダメージは無効化されるので、例えば炎魔法を装備している場合なら、炎の壁のトラップを通り抜けたり敵の炎攻撃を防ぐことが可能になるのだ。序盤に炎の魔法が手に入るほか、中盤を過ぎて雷と氷の魔法が入手できれば、それらのトラップで塞がれていた迷宮深部の探索もできるようになるので、新たな発見があるだろう。

 魔法とパルクールアクションを融合させたトラップも待ち受けていたが、そこはさすがに苦労させられた。5度6度と挑戦して失敗するたびにイライラしたが、クリアできてしまえばスカッとして忘れるので、根気強く頑張りたいところ。

魔法で封印された壁の向こう側には、たいてい“美味しい”アイテムが隠されていたりする。該当する魔法を手に入れてから、戻って探索しよう。
氷の魔法は、敵を凍らせて足場にするという使い方ができる。疾風走破でもジャンプでクリアできない場所や、空中に漂う敵以外に足場と思しき場所がないところで氷の魔法を使えば敵が足場になり、その上をジャンプして渡っていけるように。
後半になると頭上から針の山が落ちてくる中、魔法を素早く切り替えながら走破していくトラップなども設置されている。途中で失敗するとイライラするが、最終的にクリアできればスカッとした気分になれて苦労も報われるというもの。

 広大なナザリック地下大墳墓を、地上目指してひたすら進むだけならそうでもないのだが、新しい魔法を入手して行けなかった場所へ移動できるようになると、以前の未探索地へ行きたくなるというもの。とはいえ、そのたびに迷宮内を戻るのは一苦労だ。そのための手段として、マップの各所には扉が配置されている。ここへマナを注ぎ込むことで、扉と扉の間を自由に行き来することができるようになるのだ。筆者も、魔法が3種類揃った段階で先へ進むことを止めて未踏破部分の探索に出かけたのだが、扉があるおかげで苦にならなかったのがありがたい。

扉は、使えるようにする際にマナが必要となるが、一度アクティブ化すればコストなし。便利なので、バンバン使わせてもらおう。
いつでもナザリック地下大墳墓内のマップを拡大して見ることができるので、そこで探索していない部分を常にチェックしておきたい。

おなじみの階層守護者たちがボスとして立ちはだかる

 アニメ本編に登場したキャラクターたちのうち何人かは、クレマンティーヌの地上脱出を阻止するべくボスキャラとして立ちはだかってくる。その1人目は、戦闘能力を備えるメイドチーム“プレアデス”の長女ユリ・アルファ。肉弾戦を得意とし、姿が霞み短距離転移を思わせる速さを持つ特徴そのままに、強力な攻撃を仕掛けてくる。この時点ではクレマンティーヌのステータスがそれほど育っていないこともあってか、筆者は苦戦を強いられてしまった。何度も戦いを挑んで、敵の攻撃パターンを把握することが勝利への近道といえるだろう。

筆者の場合、ほとんどのボスキャラは初見または2戦目で倒せたのだが、最初のユリ戦は主人公のHPが少ないので苦戦した。しばらくは捨てゲーとして、攻撃パターン把握に全力を注ぐのが吉。
無事に各ボスを倒すことができれば、クリア後にちょっとしたイベントシーンが挿入される。アニメおなじみのキャラクターたちがドット絵になって動いている様は、なかなか感動もの。

 この後も、エントマやアルベド、シャルティア、ハムスケ、コキュートスといったキャラたちが手強いボスとして登場する。こちらも、各キャラクターの特徴をしっかりと反映した攻撃を行なってくるので、アニメなどでキャラを把握しているプレーヤーならば、どのような攻撃を行なってくるかの想像が付いて戦いやすいかもしれない。まったく知識がなくても、戦いの中で相手の行動パターンをしっかり覚えれば、それほど場数を踏まなくてもある程度の腕があれば労せずに倒すことができるはずだ。

後半になればボスもより強くなるので、その攻撃パターンを見極めるのが重要。基本は、相手の攻撃をかわして背後に回り込んでダメージを与えること。

 こうして、地上への道を探して上へ上へと突き進んでいけば、最後に待つのはアインズとの戦い。これまでとは比べものにならないほどバリエーション豊かな攻撃で襲いかかってくるため、パターンすべてを見切るまで苦労するかもしれないが、ぜひともクリアしてエンディングを見てほしい。

アインズは、これまでに登場したどのボスキャラよりも攻撃パターンが多い。それらを一つずつ覚えて、確実に避けられるアクションを採りつつ隙を見てダメージを与えていくのが攻略法となる。もっとも、ここまでたどり着けたプレーヤーならば、そうそう苦戦はしないかもしれない。

元作品を知らなくても間違いなく楽しめるし、探索系アクション好きにはゴリ押ししたいほどハマれる1本。

 筆者が元々探索もの&アクションゲームが好きということもあり、気づけばほぼ1周クリアまでぶっ通しでプレイするほどのめり込んでしまった。主人公が取れるアクションも最初から何でもできるのではなく徐々に増えていくので、覚えられないために使いこなせないということもなく、非常にバランス良くできていたといえる。

 これがあれば良いと思ったのは、マップに書き込める機能。行けなかった場所などにメモ程度でも良いので記述できれば、後から見返して「ここから先に行けないのは、あの魔法がなかったからか」などと思い出せるので、実現できればかなり便利かなと感じた。難しければ、全体マップをボタン一つで画像ファイルに書き出す機能でも良いかもしれない。

 「OVERLORD: ESCAPE FROM NAZARICK」では、難易度をEASY、NORMAL、HARDの3種類から選べるのだが、NORMALであれば80年代から90年代のアーケードゲームを1コインクリアできる腕があれば、鼻歌交じりで攻略していくことができる程度の難易度と感じた。本番は、HARDモードだろう。

 逆に、「オーバーロード」が好きだけどアクションゲームは得意ではない、という人には厳しいかもしれない。その要因は敵との戦闘だけでなく、パルクールアクションを駆使して移動する場所が多いためだ。壁を連続で登ったり天井を上手に綱渡りするには、コントローラーを器用に操作することが求められるので、そのあたりに自信のない人にはツラいと思われる。こればかりは、どれだけ難易度を下げても変わらないので、致し方ない部分だ。

 サイドビュー視点の探索もの好きで、アクションゲームに苦手感を持たない人ならば、元ネタを知らなくてもみっちりとハマれること間違いなしだ。プレイの際には、コントローラーの使用を強くお勧めする。念のためにキーボード操作も試してみたのだが、モーニングスターをゲットして壁を登れるようになったあたりから指がもつれる感じになり、そこから先はボロボロだった。外出するのがおっくうになる梅雨のこの時期に、集中して遊ぶには最適の1本だ。