「Frostpunk(フロストパンク)」レビュー

Frostpunk(フロストパンク)

極寒の地で「楽になる」瞬間のない都市運営サバイバル!

ジャンル:
  • シミュレーション
発売元:
  • DMM GAMES
開発元:
  • 11 bit studios
プラットフォーム:
  • PS4
  • Windows PC
価格:
3,980円(税別)
発売日:
2020年2月27日

 DMM GAMESが2月27日に発売したプレイステーション 4/PC用リアルタイムシミュレーション「Frostpunk(フロストパンク)」。開発が「This War of Mine」の11 bit studiosということもあって、期待しているシミュレーションゲームファンも多いだろう。

 「This War of Mine」は戦争を一般市民の視点でサバイバルするストラテジーで、ハードな世界観と、「戦争の中の市民」という設定がもたらす独特のプレイフィールが人気を呼んだが、「フロストパンク」でも同様に、極寒の世界を舞台にすることで今までの都市シミュレーションとは一線を画すゲームとなっている。

 プレーヤーは極寒の地に置かれた都市のリーダーとなり、凍えた世界での生き残りを図る。世界観はもちろん、難易度も常に気を抜けないハードなものとなっており、気温が下がり続ける=難易度が上がり続ける中で都市を運営していかなければならない、所謂「死に覚えゲー」の要素も入った、試行錯誤を繰り返す楽しさが存在するストラテジーだ。本稿ではヘビーゲーマーにこそオススメしたいタイトルである本作のPS4版を用いて、プレイレポートをお送りする。

【『Frostpunk』アナウンスPV(TGS2019公開ver)】

「発展」ではなく「生き残る」ために資源を活用

 本作の舞台となるのは大寒波によって崩壊した世界で、人類は生き残るために蒸気を用いたテクノロジーを発展させたという設定だ。本作はクリア条件が設定されたシナリオが幾つか用意されているが、本稿では 最初から解禁されているメインストーリー「新しい家」シナリオを舞台に解説していく。このシナリオではプレーヤーは都市のリーダーとなり生き残りを図ることとなる。

都市の中心となるのは「ジェネレーター」で、熱源でもあると同時に発電機でもある。ゲームスタート時はたったひとつのジェネレーターと僅かな資源しか持っていない

 多くのRTSゲームと同様に、本作も資源や人口をいかに入手・活用し、建造物を効率的に稼働させ、技術の研究をいかに進めていくかを試行錯誤していくことになるのだが、これら全てが「発展」ではなく「生き残り」のための行為となっているのが特徴だ。

 多くのシミュレーションが後半に向けて生産拡大していくのに対し、本作は状況がほぼ好転せず、まさしくサバイバルを要求される。熱源確保のため、ジェネレーターの燃料である石炭を入手しても気温は下がり続け、さらなる石炭を要求される、木材や鉄といった資源も活用するほど枯渇していき状況は決して良くならない。テクノロジーを発展させても付け焼き刃でどんどん追い込まれていく。

フィールドに存在する資源は労働者を配置したり、施設を建設することで入手することが可能

 本作では手に入れた資源を活用し、テクノロジーを研究することで新しい施設などを解禁できる。こうして解禁された施設を資源をコストに建造し、そこに労働者を配置することで稼働させるという流れで進んでいく。労働者の維持には食料や暖かい環境が必要となり、これらが欠けると凍傷などを引き起こす。病人は医療施設で治さない限り働かせることができない。こんな風に、本作は常に複数の資源の管理が求められ、しかもその資源はいずれも有限だ。しかも日を追うごとに気温は低下していくので、環境を維持するためだけでも必要なコストは上昇していく。カツカツの状況で都市を運営していくしかない。

 資源の種類は、石炭・木材・鉄・蒸気核と食材・食料の6種類のみだが、どれかが欠けると住民の死につながる。まず、ライフラインとでもいうべき資源である石炭は蒸気機関の燃料であり、枯渇するとジェネレーターが動かさせなくなるので当然住民は凍死する。

 木材は序盤から終盤まで必要となる重要な資源で、序盤初期の施設や研究の主要なコストとなる。鉄は木と同様にコストとなる資源で、中盤以降に大量に必要になってくる。木材や鉄の供給が遅れ、施設の建設や研究が遅れれば悪化する状況に対応できなくなるため住人は死ぬ。また、木材は多くのゲームで終盤には不要になりがちだが、本作では後半に木材を石炭に変換する施設が研究によって解禁され、建造できるようになるため、終盤まで重要な資源であり続けるのもポイントだ。

 蒸気核はゲームの後半に研究できる強力なユニットや施設のコストとして使用する資源だが、後述する探索でしか手に入らないため貴重だ。蒸気核がないと環境の悪化についていけないのは木材や鉄と同様だ。

施設は建設後にジェネレーターと道で繋ぎ、住人を配置することで稼働する。後期の施設は研究で解禁する必要がある

 本作ではハンター小屋などの施設で食材を手に入れ、それを加工施設で食料に変換する必要がある。食糧不足になれば当然住民は死ぬ。人口が増えていくと消費量もあがるので、保管施設を建設することで余剰食糧を保存しておくといいだろう。

施設は研究の場となる「ワークショップ」や病気になった住人を治療する施設など様々だ
他にも住民が住む住居や、ジェネレーターから離れた場所に熱源を供給する「蒸気ハブ」なども建設できる。どちらも建設しなければ住人が凍えて死んでしまうので必須だ

 本作は序盤からカツカツだが、後半は人口の増加と環境の悪化で常に気が抜けない状態となる。ふと目をそらしたすきに何かが不足し、そこから死の連鎖が起きるということも少なくない。例えば、建設のために木材収集に労働力を割いていたために、人口が増えたタイミングで石炭の貯蔵が足りずに住人を温めきれず、そこから病人が増加し、総人口が増えたにもかかわらず労働者が不足、あらゆるリソースが足りなくなるどん詰まりに陥ることもある。常に都市に目を凝らし、確実に資源を管理・活用していくことが重要だ。

都市の状況などは一目で確認できるので細かくチェックするといいだろう

 また、労働力も他のゲームのように食料や住居があれば勝手に増えてくれる訳ではく、町の外の世界である「フロストランド」を探索して遭難者を救助することで人口を増やす必要がある。探索を行なえば遭難者を救助するだけでなく、各種資源を手に入れられることもある。特に蒸気核はフロストランドでしか入手できないので、積極的に探索を進めるといいだろう。

都市でビーコンを建設すれば、フロストランドを探索することができるようになる

 本作において管理するリソースの種類は多くはないが、その分どれも価値が高い。しかも、すべてのリソースが何らかの形で繋がっているため満遍なく獲得しながらも、将来一番必要になる資源を中心に獲得しなければならない。何かを切り捨ててはいけないが、一方ですべて均等に採取し続けるだけではクリアできない絶妙なリソース管理は他では中々味わうことのできないもので、頭を悩ませてくれる。ストラテジーにありがちな"人口によるパワープレイ"もできず、むしろ労働力の維持がボトルネックになりがちなのも新鮮だ。本作は極寒の地を舞台にすることで、都市シミュレーションに今までにない悩みとそれを打破する面白味を提供してくれているといえるだろう。

法律は倫理観との闘い

 前述のとおり、本作は資源も人口も足りていないことがほとんどだ。こうしたリソースの管理を円滑に進めるため、プレーヤーは法律を制定することができる。例えば労働者が足りていないければ、労働者に24時間勤務を強いたり、子供を働かせることができるという法律もあり、これを制定することである程度は労働者不足を補える。他にも食事が足りないならばおがくずでかさましした料理を供給したり、病気になった人間を"間引く"こともできるようになる。法律の中にはこうした非倫理的なものもあるが、プレーヤーの倫理と引き換えに各種管理を少しは楽にしてくれる。もちろん、住人のために人道的な法律を施行することも可能だ。

法律は様々なものが存在するが、運営を円滑にするようなものは非倫理的なものが殆どだ

 ただ、現実では倫理的にマズイ法律かもしれないが、極限状態ならば許される……という訳ではない。住人は非倫理的な法律に対し異を唱えてくるし、逆に倫理的な法には賛同する。また、ランダムに起きるイベントでの選択によっても、住人は様々な感情を持つ。こうした住人の感情を表すパラメーターが「希望」と「不満」だ。

 法律の施行やランダムイベント、感情の変化や死人が出たりすることによって人々は希望を失い不満をため込んでいく。このどちらかが一定の値に達するとプレーヤーはコミュニティを追い出される=ゲームオーバーとなるため、時には不満を減らしたり、希望を与えることが必要となる。例えば、墓地やパブを建てられるようにする法律を施行すれば、住民の負の感情を緩和することができる。とはいえ、ゲーム中は環境の悪化に合わせて住人の感情も悪くなる一方だ。住人の機嫌をとるのではなく、感情を爆発させないようにギリギリのラインを攻めていくような感情の管理が求められることになる。

都市の運営に小さな綻びができると、そこから連鎖的に破綻していき、住人の不満も溜まっていく。画像では気温の低下に付いていけず病人が急増。法律の影響で長時間労働していた住人が過労死してしまい不満が上昇。一気に追放=ゲームオーバーとなった

 法律の面白い部分は、効率と住民感情がトレードオフになっていることだ。多くのストラテジーゲームでも住民の感情は「不満」や「幸福度」「快適性」などのパラメーターで表現されていたが、その殆どが過度な発展や戦争の足枷としては機能していたものの、効率的な資源運用そのものと天秤にかけられていることは少なかった。本作は謂わば自然との戦争であり、常に戦時中であり、だからこそ効率と住民感情=倫理感のトレードが成り立ち、プレーヤーを悩ませてくれる。非民主主義的なプレイが効率的になるゲームは筆者にとっても新鮮だった。

気温が下がり続ける中で都市を守り続けられるのか

 上述した通り、本作はゲーム終盤が近づくにつれ気温は下がり続け、難易度は跳ね上がっていく。それに加えて都市に反乱分子が生まれたり、極寒の嵐が到来したりと、まさに苦難というべきイベントがプレーヤーを待ち構えている。

後半に差し掛かると、反乱分子である「ロンドン主義者」や、それに対抗するための新たな法律などが解禁される。法律は全体主義的な「秩序」か宗教の力で人々を纏めようとする「信仰」かを選択できる
中~後半に解禁されるテクノロジーや、ストーリー中に手に入る疲れない機械労働力「オートマン」は強力で、環境の悪化についていきために必須。が、もちろんこれらがあるからと言って都市運営はそこまで楽にならない

 難易度は中々に高いため、特にシミュレーションに馴染みのないプレーヤーは始めは何をしていいかわからず、大量の死人を生み出しゲームオーバーになることだろう。しかし、何回かシナリオをこなすうちに段々とプランニングができるようになっていくことに気付くはずだ。こうしたトライアンドエラーを繰り返していく「死にゲー」のような感覚が本作の魅力で、普通の都市シミュレーションでは中々感じることのできない楽しさだ。操作量は多く、確認するリソースも複数あるが、UIも数回プレイすれば直ぐに慣れるため、何度もプレイするのが全く苦ではなかったのも好評価だ。

 確かに本作には「都市が発展する喜び」はほとんどないし、リソースで世界を蹂躙する「無双感」を味わえることもない。都市の発展が足枷と感じることもあるほどだ。しかし、その代わりに資源や住人を管理しながら都市を運営する楽しさと苦しみ、そして苦難を乗り越えたときの達成感が詰まっている。プレーヤーは新たな苦境をテクノロジーの進歩によって乗り越えられるたびに安堵できる。筆者はシナリオをクリアした瞬間、誇張抜きで実際に他のゲームでは味わえないような感動を覚えることができた。

 本作は今までのシミュレーションゲームの常識を疑い、新しいアプローチで都市を運営できる名作だ。ヘビーゲーマーにこそ是非プレイして欲しいと思う。

トライ&エラーを繰り返していれば、いつかはクリアできる。試行錯誤する楽しみを是非味わってほしい