「WORLD OF HORROR(恐怖の世界)」早期アクセス版レビュー
WORLD OF HORROR(恐怖の世界)
ドット絵の狂気と心臓に悪いゲームデザインが徐々に理性を蝕む
- ジャンル:
- ホラーアドベンチャー
- 発売元:
- Ysbryd Games
- 開発元:
- panstasz
- プラットフォーム:
- Windows PC
- 価格:
- 1,520円(税込)
- 発売日:
- 2020年2月21日
2020年2月25日 12:00
Ysbryd Gamesは、PC用ホラーゲーム「WORLD OF HORROR(恐怖の世界)」の早期アクセス版をSteamにて2月21日に配信した。現時点では主に英語でのプレイとなっており、日本語などの他言語については、2020年後半に予定されている正式版の配信までに実装される見込みとのこと。
Steamのストアページで「1-bit love letter to Junji Ito and H.P. Lovecraft」(伊藤潤二とH.P.ラヴクラフトへの1bitのラブレター)と紹介されているように、本作は日本のホラー漫画家・伊藤潤二氏に影響されたデザインと、H.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話を意識した世界観が特徴のホラーアドベンチャーだ。物語の舞台となるのは、1980年代の日本の海辺にある小さな町「Shiokawa」。プレーヤーは町の至る所で起こる奇妙な事件を調査していき、現世への復活を目論む「Old God」(古き神)の狂気に侵食されていく……。
と、ここまで冷静を装って書いてきたが、何を隠そう筆者はホラーが大の苦手。プレイ前から理性のネジが緩む音が聞こえていたものの、これも運命と受け入れ、本作のインプレッションをお伝えしていきたい。(震え声)
寂れた街で襲い来る狂気に立ち向かえ!(いや無理!)
ゲームを始めると、おびただしい数の「恐怖の世界」という言葉が画面を埋め尽くし、タイトル画面が表示される。いきなりの先制パンチで早くも筆者のライフは瀕死寸前だが、こんなのはまだ序の口だ。本作は町で発生する事件の謎と、その裏で糸を引く邪神の存在を解き明かす……というゲームを真夜中にプレイしている設定のため、プレイ画面をズームアウトさせ、夜の窓辺を表示しながらのドキドキプレイも可能。画面の色彩もモノクロから血のように真っ赤なものまで変更できるので、よりホラーの雰囲気を楽しみたい方は試してみるといいだろう。
ちなみに今回は記事の都合上アップの写真のほうが見やすく、真っ赤な画像だと見にくいため、仕方なく通常の設定のままプレイした。決して怖いとか、心臓に悪いとかいう理由じゃないことは声を大にして言いたい。
本作のプレーヤーはゲーム開始時に4つのモードを選択でき、例えば「QUICK PLAY」モードでは、使用するプレイキャラや対峙する古き神、そして調査する5つの事件などがランダムで選ばれる。どの事件から調査するかはプレーヤー次第であり、モードによって例外はあるものの、基本的には調査パートと、調査中に発生するターン制の戦闘パートの2つで物語が進展していく。
なお、本作では事件解決に必須の調査場所は丸印で示されるため進行に迷うことはないが、敢えて任意の場所に出向くこともできる。ただし、プレーヤーは調査中に発生したイベントで「STA」(体力)か「REA」(理性)の値がゼロになる、もしくは「DOOM」(破滅)の値が100%になると、ゲームオーバーになってしまう。買い物で武器やアイテムを入手したり、仲間を集めたりするのも大事だが、そういった行動を取るたびにDoom値は上がる。また、寄り道した分だけイベントが発生して体力などが削られるリスクも増えるので、慣れないうちは慎重に進めていきたいところだ。
調査時に発生するイベントは用意された選択肢から任意のものを選び、パラメーターチェックを受ける類のものが多いが、中には選択肢がなく問答無用で体力値などが削られるものもあり、ランダム要素を含んだTRPG風のスタイルで調査は進行する。装備を整えたり、仲間を集めたりと万全な準備を行ないたいところだが、初めはイベントの発生自体が怖くて仕方がなかったので、行動を起こすたびにビクビクしてしまった。プレイキャラクターもその辺にいる普通の学生だったりするのに、不条理な目に遭って理性が削られていく展開は、ただただ恐怖の一言だ。
クトゥルフ神話を題材にしたゲームは数多くあるが、怪異から背景に至るまで不気味なほどの緻密さで描かれる1bitのグラフィックのおかげで、本作はかなり怪しく、猟奇的な作品に仕上がっている。調査と一口に言っても、徐々におかしくなっていく住民やグロテスクな怪異に襲われる危険性がある中で、恐怖に怯えながら進まなくてはならない。ゲーム全体を通して不気味な世界観が精神を侵食してくるので、ホラーが苦手な方は、くれぐれもご注意を……。
なお、晴れて1つの事件を解決すると、いつの間にか意味深な鍵がプレーヤーの自宅に届く。これが5本そろうと町はずれにある灯台に進入できるようになるので、その先に待つものはぜひ読者の皆様の目で確かめてほしい! 決して怖いとか、心臓に悪いとかいう理由で敵前逃亡するわけじゃないことは声を大にして(以下略)。
ローグライク要素で周回プレイが癖になる!?(でも怖い!)
前述のとおり、本作ではイベントや戦闘で体力と理性の値がゴリゴリ削られ、ちょっとした行動でもDoom値が上がっていく。その結果、進め方によっては理不尽な死を迎えることもしばしばだ。その代わり、1つの事件は体感的には10~20分ほどでクリアでき、また事件ごとに複数のエンディングが用意されているため、かなり周回を意識した作りになっている。Steamのページによれば、早期アクセス版では5人のプレイキャラ(+2人の隠しキャラ)に、12の事件、200のイベントが用意されているとのことなので、本作の世界観にハマった方は何度も周回してみたくなるはずだ。
実際、プレイのたびに対峙する古き神や事件だけでなく、イベントもランダムに生成されるため、慣れてくるとローグライクゲームのようなシステムが楽しくなってくる。次はこの事件を先に解決してあの武器を入手しておこうとか、ランダム要素や縛りに応じたアプローチを考えるようになるので、プレイを続けていると次第に怖さよりも面白さが勝る瞬間が訪れる。
とはいえ、ゲームを終えてから辺りが真っ暗闇になったことに気づいたとき、筆者の背筋が急に寒くなったのも、また事実だ。頭の中はピコピコした電子音の不穏なBGMが鳴り止まず、マンションの廊下に響く足音がいつもより大きく聞こえ、ガタついた扉の開閉音にいちいち反応してしまう始末……。その日の夜は妙に体が強張ってなかなか寝付けなかったので、本作の真の恐怖はプレイ後に襲ってくる、ということを読者の皆様も覚悟しておいてほしい。
プレーヤーの理性を容赦なく削ってくる一方で、ホラー要素とアドベンチャー要素、そして伊藤潤二氏風のデザインやクトゥルフ神話の世界観が絶妙のバランスで混ざり合った本作。正式版のリリースは2020年後半を予定しているため、気になる方は今のうちに深淵を覗き込んでみてはいかがだろうか。
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