2019年8月16日 11:00
既報のようにロジクールは8月16日、「ロジクールG」ゲーミングキーボードシリーズの新しいハイエンドモデルとして「G913」、「G813」を正式発表した。
参考価格は「G913」が30,250円(税別)、「G813」が23,250円(税別)と、ゲーミングキーボードとしては高額となる3万円の大台に到達した文字通りのハイエンドゲーミングキーボードとなる。3万円といえば、日本が誇るキーボード「REALFORCE」と同等の価格となる。「G913」はそれに匹敵するスペシャルな価値があるのか。発表に先立ち、製品を触る機会を得たので、レビューをお届けしたい。
4年振りに最上位モデル「G91x」シリーズがフルモデルチェンジ
今回発表された「G913」は、3桁目に9、2桁目に1を冠していることからもわかるようにロジクールGのゲーミングキーボードの最上位モデルとなる。2015年に発売されたハイエンドゲーミングキーボード「G910」以来、4年振りのフルモデルチェンジとなる。
ロジクールが誇るワイヤレステクノロジーLIGHTSPEEDを採用し、連続使用時間は30時間。もちろん、RGBライティングを調整すれば、連続使用時間はもっと延ばせる。姉妹モデルの「G813」は、LIGHTSPEED/Bluetooth機能を排して価格を下げた有線モデルとなる。
基本設計は、昨年リリースされたヒット商品「G512」の進化形で、ボディはA5052アルミニウム合金を採用し、メカニカルスイッチには好みに合わせてタクタイル/リニア/クリッキーの3種類から選択可能。自由にカスタマイズ可能なRGBイルミネーション、最上位モデルならではのGキーやメディアキー、ボリュームバーなどを完備している。
その上で、最大の特徴となるのが、ロジクールGとしては初となるロープロファイルキーボードであるところだ。“ロープロファイル”とは、スリム性、省スペース性などをアピールする際に使われるIT用語の1つで、本来は「1インチ(2.54cm)以下」を意味する表現。ロープロファイルキーボードは、ノンゲームの分野では、徐々に増えてきているが、ゲーミングの分野ではまだまだ珍しい。そのロープロファイルキーボードをハイエンドモデルに採用したところが最大の特徴となっている。
コアゲーマーであればあるほど、このロープロファイルキーボード「G913/813」の見た目は異様に感じるだろう。キースイッチを半分に押しつぶしたような外見は、まるでノート用のキーボード、あるいはテンキーレスの省スペーススリムキーボードのように映るはずだ。
筆者自身、少し前に開発中のプロトタイプを見せられたとき、正直に告白するが、これがメンブレンスイッチを採用したゲーミングキーボード「G213」のような、「G21x」や「G31x」といった数字を冠したバリエーションモデルではなく、フラッグシップである「G910」に変わる存在になるということが信じられなかった。
というのも、プロを含めたPCゲーミングシーンでは、筆者が記憶している限り、メカニカルスイッチを採用したゲーミングキーボードが誕生して以来、ずっとフルキーストロークのメカニカルスイッチを採用したゲーミングキーボードしか使われてこなかったからだ。
ロジクールがなぜいきなりハイエンドモデルにロープロファイルキーボードを採用したかというと、それがゲーマーにとってベストだと判断したからだという。
では、ロープロファイルキーボードのどこがゲーマーにとってベストだと言えるのか。それは純粋に“入力が速くなる”のだ。
もっとも、アクチュエーションポイントは、G910で初採用されたROMER-Gから変わっておらず1.5mmのママだ。アクチュエーションポイントとは、キーを押してから実際にその入力が有効になるまでの距離。ROMER-Gが切り拓いた1.5mmというアクチュエーションポイントは、初代ハイエンド「G910」も、現行の「G512」も、そして新たにロープロファイルメカニカルゲーミングスイッチを採用した「G913」も同じなのだ。
それではどこに違いがあるのかというと、キーストロークだ。キーストロークとは、キーを押し始めてからパネルにカツンと接地するまでの距離を示す。
プレーヤーは実際にゲームをプレイする際、当然のことながら1.5mmだけ押しているわけではない。がっつりキーストローク分まるまる押すのが普通だ。長ければ長いほど、打鍵感があり、打ち心地が良くなり、逆に短ければ短いほど使い心地が悪くなる。MacBookのバタフライキーボードが好例だが、キーストロークをわずか1mmしか確保しないと、慣れの問題以前に、単純に打鍵感が限界まで下がり、打ちづらくなる。このため、ヒューマンインターフェイスとして快適さを確保するために、一定のキーストロークの確保は必要だというのが今のキーボード界の常識だ。ゲーミングキーボードの場合は、それが3mmから3.5mmほどだ。
そして、その常識を覆す存在が、「G913/813」だ。「G913/813」のキーストロークは2.7mmしかない。G512の3.2mm、G910の3.0mmに比べていずれも短いのが分かると思う。このわずかコンマ数ミリの差が、次の入力を速くする。ゲームプレイで無数のキー入力をすることを考えた場合、この積み重ねがゲームプレイ全体に大きな影響を与える。「これこそが次世代のゲーミングキーボードのあるべき姿」というのがロジクールの考え方だ。
なおかつ、キーストロークを短くしたのに合わせてキースイッチそのものも短くなっており、そのビジュアルは見慣れていない現時点では異様というしかない。ただし、MacBookのように多くの人が拒否反応を起こすような押しにくさはなく、しっかりとした打鍵感を与えてくれる。ただ、キーストロークはキースイッチ自体が薄いことも相まって、5mm以上の違いを感じ、すぐカツンと届く印象だ。打った瞬間「なんだこれは!?」という衝撃がさざ波のように広がる。
筆者も商売道具としてキーボードを扱って20年以上が経過するが、この打鍵感は未だかつてなかったものだ。既存のあらゆるデスクトップ用キーボードともノート用キーボードとも異なる第3のウェーブ。指を動かす距離が従来のデスクトップキーボードよりも確実に短くなり、それでいてデスクトップキーボードと遜色ない打鍵感。最初に見た印象は「これは大失敗するのではないか?」と思ってしまったが、実際に1日使った後は、「なぜ今までこのような製品がなかったんだろう」というぐらいのフィット感がある。
ある意味で、2019年上半期に格闘ゲーム界で大きな話題を集めた「hitbox」と同じ発想の製品だが、「hitbox」と違って、eスポーツ大会においてキーストロークに関してルール決めはないため、「G913/G813」を使用禁止にすべきか否かという議論にはならないだろう。ただ、プロシーンが一気に塗り替えられる可能性を秘めた、凄まじいポテンシャルを秘めた製品だ。
ただ、実際問題として、買うかどうかの決め手となるポイントは、“本当に入力が速くなるのかどうか”だろう。
筆者もそれを客観的に証明するために、キャラクター操作のためにキー入力を多用するFPSタイトルをプレイしたり、キー入力テストを試してみたり、あるいはキーボードを商売道具にしている物書きの端くれとして普通に原稿を書いてみたが、速くなるという確証は現時点では得られなかった。
もっとも、実際に使ってみると、確かに「なるほどこれは速いわ」と実感できるのだが、その反面、一定以上のスピードで入力すると、つまり原稿執筆やゲームプレイがそれにあたるわけだが、その感動を打ち消す勢いで誤入力が発生してしまうのだ。このためトータルで見ると、原稿執筆スピードやタイピングスピードはやや遅くなる印象だ。ゲームプレイにおいても「CS:GO」のようなデリケートな操作を要求されるゲームでは、誤入力が致命的となり、イライラさせられることが多かった。
これは「G913/813」に設計上の問題があるわけではなく、かといって筆者の入力が下手くそすぎるわけでもなく、純粋に既存のあらゆるゲーミングキーボードとは別次元のプロダクトなのが原因だ。しつこいようだが、このロープロファイルキーボードは、既存のフルキーストロークのキーボードとも、ノート用のキーボードとも異なる第3種の打鍵感を持っているため、全ゲーマーはまずはこのキーボードに慣れる必要がある。
今回、筆者が海外出張が多かった関係で試遊期間が3日ほどしか取れなかったため、十分に馴染むところまで使い込めなかった。筆者はこのまましばらく使い続けてみるつもりだが、リリース後はわざわざ筆者が証明するまでもなく、ロジクールがスポンサードしているプロゲーマーたちが証明してくれるだろう。
本当に速ければ光速の勢いで利用者が増えるはずだ。そしてその勢いは他のペリフェラルメーカーにも伝播し、プログレードのロープロファイルゲーミングキーボードの開発に乗り出し、ロープロファイルキーボードがPC ゲーマーのスタンダードになる日が来るかもしれない。
バッテリー切れの心配は“ほぼ”なし。安心して「G913」を選ぶべし!
「G913」は、ロープロファイルキーボードを語るだけで9割5分ぐらい説明した気になってしまうプロダクトが、実際には「G913」はハイエンドモデルとして様々な付加機能を備えている。
1つはワイヤレスモデルとしてバッテリー駆動であるところだ。本体内にリチウムイオンバッテリーを内蔵し、フル充電で30時間連続で使える。この30時間は連続した場合の時間を意味しており、実際には30時間連続でキーボードを使う人間は、交代制のゴールドファーマーか、オンラインゲームの育成代行業者ぐらいしかいないため、実際はもっと長く、数週間は余裕で使える印象だ。
また、この30時間はG HUBでRGBライティングを調整することによっていかようにも調整できる。調整によってどれぐらい長くなるかというと、標準の「色の波」(RGBライティングがフルカラーで波上に展開していく)で34時間なのに対して、特定色固定で109時間、そしてRGBライティングオフで1,102時間となる。
βドライバのため一瞬バグったのかと思ったが、正常にカウントしているらしい。1,102時間は、しつこいようだが連続使用時間であって、日に換算すると1カ月半持つ計算になる。比較的充電しやすい環境でプレイするならフルライティングのままで良いだろうし、リビングキーボードとしてたまに使う程度ならRGBライティングをオフにしておけば、充電はほぼ気にせずに使えるだろう。
最初連続駆動が30時間と聞いたときは、「これは有線(G813)だな」とこっそり思ったが、RGBライティングを調整するだけで駆動時間が飛躍的に延ばせることを知った今では、断然無線派(G913)である。「G913」と「G813」の違いは、LIGHTSPEED/Bluetooth 5.0による無線接続ができるか否かだが、「G813」は着脱不可のケーブルが付いており、USBハブが1ポート付いているところはプラスポイントではあるものの、プロダクトとしてのスタイリッシュさ、トータルでの完成度は「G913」が断然上だ。
もちろん、価格については厳然たる差があり、「G813」が23,250円(税別)に対して、「G913」は驚きの30,250円(税別)であり、このコストを本当にキーボードに掛けて良いものなのか、それとも若干日和ってCPUやビデオカードに回した方がいいのか、という問題からは逃げられない。ただ、筆者自身、「Libertouch」(富士通、実売18,000円)というメンブレンスイッチのキーボードが気に入り、修理を繰り返しながら10年以上に使って愛用し続けた過去があり、その経験則から言えば、「ヒューマンインターフェイスは高いものを長く使う方が良い」と確信を持って断言できる。
その意味では、PCゲーマーが「G913」にいきなり手を出すのはありだと思う。「G512」ユーザーならご存じの通り、「G913」にも茶軸相当のタクタイル、赤軸相当のリニア、青軸相当のクリッキーの3種類のキースイッチが用意されている。こればかりは個人の好みとなっているため、実際に触り比べてベストな1台を探してみて欲しい。ちなみに筆者は、編集部では打鍵音がもっとも静かなリニア、自宅ではカチャカチャとややうるさいものの、その打鍵音も含めてもっともゲームをプレイしている感が味わえるクリッキーを使うつもり。参考になれば幸いだ。