2018年2月28日 12:15
薄闇に包まれた森の中は、様々な生き物たちの音で満ちている。空を飛ぶエイのような姿の鳥、四つ足の小さな獣、シカに似た角を持つ勇壮な獣。彼等はそれぞれが独自の「音」を持っており、お互いの音をシンクロさせることで交流している。
だが、平穏だった森にある日、音を持たない謎の存在「サイレント・ワン」が飛来してくる。弾丸のように飛んできた彼らは、次々と森の中に落下していく。プレーヤーは、森に住む小さな生き物「Fe」を操作して、不気味なサイレント・ワンの脅威に立ち向かっていく。
Electronic Artsが2月16日に、プレイステーション 4/Nintendo Switch/Xbox One/Windows用のダウンロード専用アドベンチャーとして発売した「Fe」は、プレーヤーを光と音が融合した不思議な森へと誘ってくれる。開発は、スウェーデンのヨーテボリに拠点を構える独立系のゲームスタジオZoink!。
スウェーデンのデザインといえば、シンプルながらカラフルで優しい雰囲気を想像するか、「Fe」のビジュアルにも、そんな北欧らしい絵本のような美しさがある。
森の植物や地形は、切り絵のようなデザイン処理がなされており、絵本のような可愛らしさがある。あちこちに光るキノコや花が生えており、Feが鳴くと、その鳴き声反応して光をこぼす。森は広大なオープンワールドになっており、自由に冒険することができる。
だが「Fe」はビジュアルだけのゲームではない。ステルスあり、ギミックありのパズル的なアクションは、しっかりと作り込まれており、ゲームとしての完成度は非常に高い。実際、最初はビジュアルの美しさに魅せられていた筆者だが、気が付くとギミックを解くために夢中で走り回っていた。
今回はPS4版の「Fe」をプレイしてみて感じた、EAがほれ込んで発売するのも納得の面白さを紹介したい。
会話の代わりに優しい旋律で思いを伝える
主人公のFeは細長く先端が光る尻尾と、房になった先端が光る大きな耳を持った、黒くて、非力な小動物。森の中でうずくまるように眠っていたFeが目覚めると、近くに小ジカを見つける。Feはシカに誘われるように森の中を進み始める。
先に進むと、紫色の大きな植物が佇む広場に出る。奥の道はガケになっており、とても乗り越えられそうにない。ここは歌によるインタラクトのチュートリアルになっている。
「歌」は本作で最も重要なシステムだ。歌といっても、実際には「鳴き声」と表現する方が正しい。「R2」ボタンを押すと、Feはウニャウニャと言葉とも音ともつかない鳴き声を漏らす。それに合わせて周りに細い白線の枠と、どの歌を歌っているのかを示すアイコンが表示される。ずっと押し続けると鳴き声が次第に大きくなり、最後は頭を上にあげて朗々と鳴く遠吠えになる。
前述の紫植物近くで鳴くと、植物が歌に反応して同じように白い枠線とアイコンが付いた音を返してくる。さらに近づいて鳴くと、Feと植物が淡いピンク色のラインで結ばれる。ラインは、最初はグネグネと不安定に動いており、強くボタンを押して大きな声で歌うと、波が鋭角なギザギザになり、大きく振幅する。
この波はお互いの歌の波長がどのくらいシンクロしているかを示している。「R2」ボタンを押す強さで鳴き声の大きさを微調整していると、やがてまっすぐな一本線になる強さが見つかる。そのまましばらく維持すると、やがてお互いの身体から光の玉が出て線にそって中央に近づいていく。この2つの玉が重なるとコンタクト成功だ。ただボタンを押せばいいというものではなく、自分を主張しすぎず、相手に合わせるという優しさが必要だ。
相手に対する優しさやいたわりは、ゲーム内の他のシーンでもよく見かける。動物たちはみんな怯えており、突然近づくと驚いて逃げてしまう。いきなりズカズカ近づくのではなく、「ほら、怖くない」とナウシカのように優しく接しよう。
コンタクトに成功すると、紫の植物は崖の下に咲いていた花を巨大化してくれる。この平なタンポポのような花は、上にジャンプするとトランポリンのように跳ねて、崖を登ことができる。
サイレント・ワンに奪われた卵を取り返せ
この後も、ものを掴んだり投げたりといった簡単なチュートリアルをこなしながらしばらくは一本道を進んでいく。その道の途中では、サイレント・ワンとの初めての遭遇も体験する。
「サイレント・ワン」は一つ目のロボットのような姿の謎の存在。普段はサーチライトのような一つ目で周囲を照らしながらゆっくりと二足歩行で動いているが、敵を見つけた時などには手を地面についてワサワサ素早い四足歩行で追いかけてくる。不思議な姿の生命体が多い森の中でも、ひときわ不気味で怖い存在だ。
Feには攻撃手段がないので、見つかると問答無用でゲームオーバーになる。そう、本作はステルスアクションゲームなのだ。Feは真っ黒い茂みに潜り込むと、身体の光が消えて完全に闇と一体化してしまう。この状態なら、完全に体がぶつからない限り真横をすれ違っても気付かれることはない。
発見されてから、ゲームオーバーになるまでには多少のタイムラグがあるので、その間にサイレント・ワンの視線が切れる場所に逃げ込めば助かることもある。ゲームが進むと、このタイムラグを利用して、サイレント・ワンをおびき出して倒すというギミックも登場する。
サイレント・ワンは、Feが仲良くなった小ジカも捕まえて、連れて行ってしまう。Feにはそれを見守ることしかできなかった。一人ぼっちになってしまい、遠吠えも心なしか寂しげに響く。サイレント・ワンがなぜ動物たちを捕まえて、どこに連れていっているのかは謎だが、森の中で時々見つけることができる碑石や、サイレント・ワンの過去がのぞけるクリスタルなどで、少しずつ謎を解き明かしていくことができる。
一人ぼっちになったFeが向かった先には、大きな鳥がいる。鳥は間もなく孵る卵を温めている。だがそこにサイレント・ワンが現れて鳥を捕まえようとする。Feの活躍で、間一髪鳥を助け出すことには成功したが、3個の卵が持ち去られてしまう。この卵をすべて取り返すのが、このフィールドのメインミッションとなる。
奪われた卵の場所は、マップに表示されたマーカーで確かめることができる。本作のステージはオープンワールドになっているので、どこから攻略するかは自由に決められる。
ただ、マップは非常にざっくりしたもので、高低差が多い地形ではなかなか目標を見つけられないこともある。そんなときには案内をしてくれる小鳥を呼び出す。遠吠えをすると、声に応じてどこからともなく小鳥が現れる。小鳥の飛行ルートは白い軌跡として残り、行くべき道を示してくれる。
ただし、サイレント・ワンが近くにいるときに遠吠えを使うと、ステルスしていても見つかってしまうので、周りがサイレント・ワンだらけの奥地では使う場所を選ばないと、やり直しになる。
何度か失敗を繰り返しつつ、順当に卵を取り戻すと、鳥はお礼に鳥の歌を教えてくれる。これ以降、歌を切り替えて使うことができるようになる。鳥の歌では、空を旋回しているエイのような姿の鳥とコンタクトして背中にのって移動したり、サイレント・ワンが作るオリを壊せる黄色い花粉を手に入れることができる。
いくつかあるクエストをクリアして、そのエリアのボス的な動物を開放することで新しい歌と能力を開放するという流れは、この後のパターンとなる。歌は全部で6つ。鳥の次はシカ、そして蛇と順番にストーリーが進んでいく。
かけらを集めて新たな能力を獲得しよう
新しい言葉を覚えることとは別に、「かけら」を集めることで、Feは新たな能力を得ることができる。ピンク色のクリスタルのような「かけら」は、森のあちこちに隠されている。これを一定数集めると、木登りや滑空、ダッシュなど新たなアクションを習得できる。
かけらを集めると、森の中央にある不思議な広場から、透き通った動物たちが行き交う神秘的な空間で、一つ目の巨大な樹から能力を授けてもらえる。
かけらは序盤こそ簡単に手に入るが、次第に辿り着くのが難しくなっていく。中には、山頂付近にちらっと見えるが、絶望的に行き方が分からないようなかけらもある。かけらを求めて断崖絶壁を上ったり、トンネルの中を右往左往するのも本作の楽しみの1つだ。
ゲームを進めていくには、歌でアンロックされるギミックと、かけらで覚える能力の両方が必要だ。たとえば、シカの歌を覚えると上昇気流に乗って舞い上がることができるようになるが、これに滑空の能力をプラスすると高くまで飛翔して見上げるような断崖絶壁を登ることができるようになる。サイレント・ワンとのかくれんぼに疲れたら、かけらを探して冒険してみるのもいいだろう。
さて、鳥を助けたとしばらく冒険していると、序盤で捕らえられてしまった小ジカに似た姿のシカと出会う。だがこちらは、もう生物とは思えないほどに巨大で、遠目でなければ全体像をとらえることもできない。
よく見ると巨大なシカの脚には白く輝く鎖が巻き付いている。そして足元にはまたしてもサイレント・ワンの姿が。どうやら巨大シカは、サイレント・ワンの拘束に捕らえられ、苦しんでいるらしい。Feの次の任務は4カ所の拘束を解くことだ。
あまり詳しく書いてしまうとネタバレになってしまうため詳細は伏せるが、ギミックは鳥のフィールドよりもさらにパズル的な要素が高くなり、そしてだんだんと高低差を利用したアクションが多くなってくる。崖に生えている木から木へ飛び移って上を目指したり、一定時間しか開いていない花を足場に連続ジャンプで移動したりと、手に汗握るシーンが増えてくる。
高低差があり、入り組んだ迷宮のような森は、実は緻密なレベルデザインで作られている。行き詰りそうになった時には、少し離れた場所からじっと観察すると、必ず近でヒントを見つけることができる。黄色い花粉の花の周りには成長途中の子株がプレーヤーを導くように生えていたり、登れなさそうに見える場所はやはり登れなかったりと、意地の悪さがなく素直なアクションなのが、単純な筆者には嬉しいところだ。
まさか、こんな結末が待ち受けているとは……。
さて、サイレント・ワンの包囲をかいくぐり、最後の1本の拘束を解くと超巨大シカは自由を取り戻し、不穏な赤色に染まっていた森は、緩やかに青い平穏さを取り戻していく。
あとは、この超高層ビルのようなシカに話しかけて、シカ語を教えてもらうだけ……なのだが、あまりにもスケールが違い過ぎて、地面でいくら鳴いても気付いてもらえる気がしない。
マップを確認すると、シカが歩き回っている動きに合わせて目標マーカーが移動していく。とりあえずしばらくはそのマーカーを追いかけてみるが、足元をちょろちょろしていると、木の何倍も太い足で踏みつぶされそうになった。少し高いところで鳴けば気付くかもと山の上まで登って鳴いてみても反応がない。
超巨大シカは山よりもさらに巨大で、身体には何本もの木が生えている。少し離れた場所から見ると、なんとなくその木を伝って上に登れそうな……。そう。このフィールド最大のギミックは、この超巨大シカに上ることだった。動かない木から木へと飛び移るだけでも手に汗握るのに、ゆっくりとはいえ常に動き続ける木々を移動するのは、今までで最大に勇気をかき集める必要があった。
シカ語を習得して、頭から飛び降りた時には風景は一変していた。サイレント・ワンはすっかり姿を消し、今までは入れなかった場所にも、鳥に乗っていくことができるようになった。そして覚えたシカ語で上昇気流の花を動かして、飛翔することもできるようになった。飛び上がった先には、地上と地下を行き来する不思議な蛇が待っていた。そして、新たな物語が始まる。
生き生きとした、絵本のような美しい世界
今回はスキルとメインストーリーに当たるミッションを中心に紹介したが、本作の本質は活き活きと描かれる森の情景にあるような気がする。森の動物たちや植物たち、無機質なサイレント・ワンですら、決して単なるオブジェクトやNPCとしては描かれない。森の風景は単なるゲームの背景ではなく、その森自体がゲームのキャラクターといってもいい。
このレビューを書くために撮り貯めたスクリーンショットを改めて見返してみると、恵さんされた色彩の豊かさに改めて感動を覚える。1枚1枚のスクリーンショットが、すべて絵本の1ページとして成立しそうな美しさとストーリーをもっている。そんな画像を見ていただくだけでも、本作の豊かな世界観の一端を感じてもらえるのではないかと思う。そして、興味を持ってもらえたら、ぜひ実際にプレイしてみて欲しい。
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