2018年2月8日 12:25
作品の持つ独特の世界観とその味わい深さに、世界中に多くのファンがいるゲームデザイナー上田文人氏。その作品の中から、「ワンダと巨像」がプレイステーション 4向けにフルリメイクされて発売となった。
「ワンダと巨像」は、最初のオリジナル版がPS2用として2005年に発売。世界中で高く評価され、その後にはPS3用として高解像度対応をしたHDリマスター版が2011年に発売された。そしてこの2018年には“フルリメイク版”が発売となる。
フルリメイクは、これまでのオリジナル版やHDリマスターとはどのような違いがあるのか。そもそもの「ワンダと巨像」という作品の魅力を交えつつ、レビューをお伝えしていこう。
なお、本作はPS4 Proであれば、4K解像度HDR描写に対応し30fpsで動作する「解像度優先」か、映像の滑らかさを重視するフルHD/60fps動作の「フレームレート優先」モードかを選択できる。このレビューにおいてはフレームレート優先モードでプレイしての感想となっている。
【ストーリー】
その世界では、望めば死者の魂を取り戻せると伝え聞く。
青年の名は、ワンダ。
魂を失った少女を救うため、足を踏み入れることを固く禁じられた禁忌の地、果てが霞むほど広大な「古えの地」へと向かう。
たどり着いた「古えの地」、祭壇に少女の亡骸をそっと横たえたワンダは、天からの不思議な声を耳にする。
その声は、この「古えの祠」に立ち並ぶ16体の偶像すべてを破壊することができれば、望みが叶うだろう、と告げる。
ワンダは16体の偶像を破壊するために、対となる16体の巨像を探し、打ち倒すことを決意する。
天からの声の主は何者なのか。偶像とは、巨像とは何なのか。
たとえその行ないが、我が身に恐ろしい結末を招くものだとしても、ワンダは少女の魂を取り戻すため、広大な地を駆ける。たった1人、16体の巨大な敵に挑む。
ゲーム性はそのままに、再制作されたハイクオリティなグラフィックスで味わう名作
「ワンダと巨像」の物語は、シンプルで言葉少なく、プレーヤーの想像をかき立てるものだ。
いずこかの地より長旅を経てきたと思われる青年、ワンダ。愛馬のアグロにまたがり、その腕の中には布に包まれた人の大きさをしたものを抱えている。遺跡の橋を渡り、たどり着いた祭壇のような場所に、その包みを横たえる。布を開けるとそこには、眠りについているかのような少女の姿があった。
そこにドルミンと名乗る大きなものの声が天から響いてくる。その声が言うには、この地にいるという16体の巨像を破壊すれば、少女に魂を取り戻すことができるという……。
ワンダは失われた少女の魂を取り戻すため、愛馬アグロと共に、自身の何十倍もの大きな巨像に挑んでいく。
本作はフルリメイクといっても、何かゲーム性を変えるような要素が追加されているなどのファンからすると余分なものに思えてしまうかもしれないものは一切ない。あくまでグラフィックス周りの再構築に注力されている。
「ワンダと巨像」はそもそもオープンワールドとは言わないまでもオープンフィールドというぐらいの、繋ぎ目のない広い世界の冒険を実現している作品。それがオリジナル版だと2005年に発売されて世界中に衝撃をもたらしたわけだが、このPS4フルリメイクは、その広い世界を最も美しいグラフィックスで味わえるのが醍醐味だ。
このグラフィックスのリメイクだが、その威力は想像を超えるものがあった。筆者はオリジナルのPS2版も、HDリマスターのPS3版もプレイしたが、それらとは遥かに飛び越えるレベルで、このPS4版のグラフィックスは美しい。
表示解像度やテクスチャ解像度だけでなく、そもそもの地形の起伏や凸凹であったり、遺跡のディティールなど、ゲーム性に影響を与えない形で、おおよそゲーム内のほとんど全ての外観に手が加えられ高精細になっている。
そこにHDRにも対応しているライティングと、オリジナル&リマスターにはなかった豊富なシャドウが加わり、空気感までも伝わるようなグラフィックスを作り上げている。
前述のとおり本作は繋ぎ目なく広大な世界が続いていて開けている場所もたくさんあるのだが、その遠景までもくっきりと表示されているのがポイント。この世界の広さと美しさ、人の気配のない寂しさのようなもの、少し肌寒そうな空気感を伝える淡い色合いと儚さ。そうした本作の良さが存分に味わえるグラフィックスとなっている。
その魅力は、プレイ中に幾度も、「まるでイメージアートみたいだなぁ……」と、操作の手を止めて画面に魅入る場面があったほどだ。
また、前述のように今回のレビューにあたってのプレイではPS4 Proのフレームレート優先モードでプレイしたのだが、ほぼほぼ60fps張りつきと言っていいその滑らかさと、動作の軽快さを感じるプレイの手触りは、やはりオリジナル版やリマスター版になかった新しい魅力だ(若干、アグロに乗って広い草原に駆けだしたときなどにレートが落ちるのを感じたが、それもわずかなものになっている)。
「古えの地」各所に棲む16体の巨像たち。「ワンダと巨像」の戦いはそのはるかに大きな巨像を相手に、どこが弱点なのか、その弱点にたどり着くにはどうしたらいいのか、そうしたある意味でアクションパズル的な戦いだ。
巨像の大きさ、その造形のディティールがこのフルリメイク版ではよりくっきりとしていて、その精細なディティールに、ライティングとシャドウの陰影がついて、より迫力を増している。
巨像と対峙したときには、場面と角度によっては陽の光が逆行になり、まるで巨大な影が迫ってくるように見える瞬間もあって、オリジナル版やリマスター版にはなかった新しい見え方も生まれている。
巨像との戦いでは、しがみつき、巨像の体を登っていくというのが基本となっていく。そうしてよじ登り、光っている弱点を見つけ、そこに剣を突き立ててダメージを与えていく。しがみつける場所の目印でもある巨像の毛並みも本作ではふわっふわのもっさもさ。リッチなファー表現になっている。
操作性はというと、こちらはオリジナル版やリマスター版に準拠したものになっている。壁のフチやツタなどに掴まって、上へと飛び上がるときの本作独特の溜めやよろめきなど、「ワンダと巨像」独自のリズムや手触りがあるわけだが、それはこのフルリメイク版でもそのままに再現されている。
ほかにも例えば、オリジナル版やリマスター版では巨像が身を揺すってワンダを振り落とそうとするとき、ワンダの体がまるでキーホルダーのように激しく揺れて、ちょっと大げさに思えたりするところもあったのだが、このPS4版でもそこはあえてそのまま踏襲されている。そうした印象的なところや個性と言えるところもオリジナルに忠実というコンセプトになっている。
「ワンダと巨像」という作品そのものの面白さは、もはや言うまでもないかもしれないが、他に近い味わいの作品はなく、独創的な魅力がある。
広大な世界ながらもあれやこれやと複雑なものは置かず、16体の巨像という目的に絞ったゲームデザイン。
大きなもの、人型、獸型など、多彩な巨像のデザインに対して、その迫力や脅威を味わいつつも、どうしがみつくのかプロセスを考えて試していく。そして、それが上手くいって巨像にしがみつけたときには、パズルが解けた的なスッキリとくる高揚感が味わえる。
しがみつくのに必要な握力ゲージというシステムも秀逸。巨像の暴れを耐え、減っていく握力ゲージに焦りを感じつつ、なんとか避難してゲージを回復させていく。うまく弱点までたどり着けたときの到達感はクライミングでゴールにたどり着いたかのような達成感がある。
そして……巨像にトドメの一撃を当てたときの静寂。最初はその演出に意味を感じずとも、プレイが進むうち、言葉による説明がなくとも、プレーヤーの頭には先に待つ物語へのいろいろな予感が生まれていく。不安と期待と、悲壮さと儚さがない交ぜのまま、アグロに乗り、静かな世界を駆けていくワンダの姿に、プレーヤーは様々な感情を持っていく。
そうして、いつかラストシーンを迎えてプレイを終えたとき、「ワンダと巨像」は忘れられない作品となっている。それは2018年になっても、なにも色褪せることはない。
月日が過ぎ、技術が進化して、いろいろなことが変わっても、色褪せない魅力
上田文人氏のタイトルの中でも、「ワンダと巨像」が特に思い出に残っているという人はたくさんいるだろう。筆者もその1人だし、その思い出はものすごく美化されているわけだが、今回プレイしたフルリメイクPS4版は、その“思い出の美化”に負けないばかりか、時代の進化、技術の進化を実感させ、「ワンダと巨像」のさらなる美しさを味わえるものとなっていた。
そういう意味では、筆者と同じようにかつてオリジナルのPS2版やPS3のHDリマスター版で本作をプレイ済みという人にもオススメしたい。月日が過ぎたこと、それによって技術が進化したこと、いろいろなものが変化したことを実感するとともに、かつて好きだった作品の魅力が、今も変わらず素晴らしいものであること、新しくも変わらないものがあることを感じ取れる、貴重な機会となる。
1度も「ワンダと巨像」をプレイしたことがないという人にも、このPS4版という機会にプレイしてみるのは、もちろんオススメだ。本作のキャッチフレーズである、「最後の一撃は、せつない。」の意味を知ったとき、いいゲームを遊んだという記憶が、またひとつ増えているはずだ。
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