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【GDC 2013】「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」講演レポート
ついにベールを脱いだ「FOX ENGINE」。次世代のフォトリアル映像を描く!
(2013/3/28 17:45)
KONAMIは現地時間3月27日、GDC 2013で行なわれた小島プロダクションによる講演にて「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN(以下『MGS V』)」を発表した。
これに合わせて5分以上にもわたるトレイラームービやスクリーンショットが公開されている。それらについては、こちらの速報記事をご覧頂きたい。
GDCという開発者向けのカンファレンスで新作の発表を行なった背景には、小島秀夫監督の“技術へのこだわり”がある。
4年前、小島監督はGDC 2009にて「Solid Game Design: Making the 'Impossible' Possible」と題する基調講演を行ない、(関連記事)“不可能と思われることの90%は可能であり、残りの10パーセントの不可能も時間と技術の進化により可能となる”として、将来の「MGS」に向けては技術の蓄積がカギになると抱負を語っていた。
そして今回、その取り組みの結晶として本セッションにて披露されたのが、新しい「MGS」を支えるゲームエンジン「FOX ENGINE」である。この新エンジンという技術上の武器を手に新作を発表したことで、小島監督はGDCに集まった開発者達との4年前の約束を果たすことになったわけだ。
「Photorealism through the eyes of a “FOX.”」と題された本公演では小島監督を案内役に、「MGS V」の実機ゲームプレイ映像が上演されたほか、小島プロダクションで「FOX ENGINE」および「MGS V」の開発に携わる主要スタッフの面々が登壇し、これまで秘密のベールに包まれていた「FOX ENGINE」の技術的詳細が明らかにされた。
本稿でその模様をお伝えしていこう。
立てスネーク!! 「FOX ENGINE」が描く新世代のグラフィックス
今回発表された「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」は、シリーズで初めてオープンワールドのゲームシステムを採用する作品だ。その映像品質はトレイラームービーやスクリーンショットでご覧いただける通り、従来の「MGS」を超えるばかりでなく、次世代機水準と見ても差し支えないほどのリアルさである。
そのトレーラームービーの内容に加えて、会場では実機プレイシーンも披露された。小島監督によればこれは「PCを使った実機デモ」とのことで、確かに現行世代のコンソール機とは思えない、フルHDの非常に高品質な映像だ。
シーンはとある病室からはじまる。意識を回復し、ベッドから抜けだしたスネークが、床を這いずりながら移動していく。スネークの左腕は失われており、そこには粗末な義手がはめられているだけだ。癒えぬ傷の影響か、立ち上がって歩くこともできない。椅子やソファに手をかけ、半身を起こそうとしては何度も崩れ落ちるスネーク。痛々しい情景が続いていく。
やがて何者かによって病院が襲撃を受け、周囲は炎に包まれた。爆発が起き、スネークは壁面にたたきつけられてしまう。残された右腕までも骨折し、不自由な義手で這いまわるしかなくなってしまったスネーク。それでも彼は、進むことをやめない。
やがてスネークは、それでも残された渾身のちからを振り絞り、手すりを頼りに立ち上がる……。これは本作における冒頭のチュートリアル的なシーンであるとのことで、その後スネークは次第に立ったり、走ったりできるようになるということで一安心。
そのドラマティックな展開にも注目したいが、やはり目を奪われるのはその映像美だ。小島監督による直接の言及はなかったが、我々が見ることができたのはプレイステーション 4などの次世代機シーンを意識させるに十分すぎるほどの高品質グラフィックスである。
今回のセッションではこの映像美を描き出す「FOX ENGINE」について、アセット制作、ライティングおよびシェーディング、カメラ制御、そしてグラフィックスエンジンの詳細について詳しく解説が行なわれた。続いて、そのアウトラインをまとめてみたい。
「物理的に正しいライティング」が導くフォトリアルなオープンワールド
「FOX ENGINE」は単なるグラフィックスエンジンではなく、レベルエディット、アニメーション、カットシーン、特殊効果、ユーザーインターフェイス等、現代的なゲーム開発に求められるワークフローを網羅した統合開発環境だ。
その基礎となる「FOX ENGINE」のグラフィックス機能は、最も重要な概念として「物理的に正しいライティング」の手法を採用している。これは、各マテリアルの属性に現実から計測・収集されたパラメータを当てはめ、それを元に光学的に正確な陰影付けを行なうというアプローチだ。
これは近年、フォトリアルなグラフィックスを実現する上でトレンドとなっている考え方である。従来のゲームグラフィックスでは見た目の品質を上げるために各種のフェイク技法を用いてきたが、それとは対照的に、物理的に正しいライティング手法では、汎用的なシェーダープログラムであらゆる条件下における質感をリアルに表現できるというメリットがある。
そこで正しいレンダリング結果を得るためには、各マテリアルに対する適切なパラメーター付与が必須だ。つまり、アーティストのセンスに任せて見た目のよいテクスチャーを作るのではなく、光源からの影響などがいっさい排除された、ニュートラルな色味のテクスチャーを用意しなければならないわけである。
その“ニュートラル”を見出すため、グラフィックスと現実世界を比較するための基準が必要だ。そこで、「FOX ENGINE」の開発チームではリファレンス素材として小島プロダクションの開発室の写真を使用しているという。素材選定の理由は、とても身近でいつも目にする場所なので、CG化した場合にわずかな違和感も見逃さずに済む、ということだ。
会場では、そのリファレンスに使用している会議室の写真と、レンダリングされたCGの比較が披露された。もはや、どちらがCGで、どちらが写真なのか全くわからない。「FOX ENGINE」で描かれたほうにゲームキャラクターを登場させてはじめて判明するほど、レンダリング結果が近似されているのだ。
このようなライティングメソッドを導入したことで、「FOX ENGINE」では時刻・天候などの変化に対しても柔軟な対応ができるようになった。オープンワールドシステムを採用する「MGS V」にとって、全時刻、全天候をリアルに描き出させるグラフィックスまさにうってつけである。
アセット制作も“フォトリアル”。先進のワークフローがゲーム開発を加速する
また、グラフィックスエンジンによって扱われる3Dモデルも“フォトリアル”だ。すなわち、小島プロダクションでは各種の3Dモデル制作に3Dスキャンの手法を導入している。対象の物体をまず現実に用意し、それを多方向から撮影し、撮影結果を合成・計算によってポリゴンモデルとテクスチャを自動生成するという方法だ。
この手法で生成される3Dモデルは、ワイヤフレーム表示すると網目が全く見えないほどの詳細さがある。ぱっと見でなくとも、現実の物体と寸分違わないというレベルだ。これにより人物から無機物に到るまで、人の手では不可能なほどの高詳細なモデルデータがアセットに加えられることになる。
ちなみに、上下も含む全方向からカメラで撮影する都合上、人物のデータ化に際してはクレイモデルを経由する。その際、クレイ化した際に損なわれる現実の人物の肌の質感などについては、「企業秘密」の方法でひと手間をかけ、より効果的な3Dスキャンを可能にしているとのことである。
このようにしてアセット制作の高詳細化と自動化を達成している「FOX ENGINE」だが、キャラクターが身に付ける衣服モデルの制作にも最新のソリューションを導入している。韓国のミドルウェア企業CLO Virtual Fashionが開発する「Marvelous Designer 2」という衣服デザイン専門のアプリケーションだ。
このアプリの面白いところは、型紙レベルの2Dデータから着衣形状を生成できるところだ。型紙をマネキンにかぶせ、シミュレーションを実行するとみるみるうちに裁断部がつながり、着衣状態の衣服データが完成するという塩梅である。
この手法で構造的にも非常にリアルな衣服データが作成できるだけでなく、キャラクターの体型にも完全フィット。また、袖をめくったり、シワの入り具合を調整するなどもこのアプリ上で可能という。スクリーンショットでバイクに乗るスネークが着ている衣服をはじめ、ゴーグルの裏打ちや、手袋もこのアプリケーションで作成されているそうだ。
こういった目新しい技術の導入を含め、「FOX ENGINE」はワークフロー全体で“フォトリアル”を目指すという、次世代感溢れるゲームエンジンになっている。ライティング、シェーディングの詳細についても解説が行なわれていたので、以下スライド写真を中心にご紹介していこう。
小島監督が語る通り、「FOX ENGINE」は不可能の壁を超え、不可能を可能にするための大きな跳躍を「MGS」シリーズにもたらすに違いない。「MGS」のファンにとって、またKONAMI全体のゲーム作品のファンにとっても、将来が非常に楽しみな技術である。