東京ゲームショウ2012、基調講演で鵜之澤伸CESA会長が登壇
「ゲーム業界各社は堅調」であることを具体的な数字と共に示す
後半は日経BP社の品田英雄氏との対談という形で進行 |
社団法人コンピュータエンターテインメント協会 (CESA) は、9月20日に開幕した「東京ゲームショウ2012」と併せて開催中の「TGSフォーラム」において基調講演を行なった。第1部はここのところ定着しているCESA会長による講演だ。今回登壇したのは今年CESA会長に就任したバンダイナムコゲームス副社長でもある鵜之澤伸氏だ。
鵜之澤氏は、ゲーム業界の変遷を1980年代から書かれた年表を示しながら振り返り、「ゲーム業界は、ここ1年から2年の間にソーシャルやWEBマーケティングの方達がやってきて、フリー to プレイなど大きな変化を迎えた」と激変の時期にあることを再確認した上で、「我々は十分対応できているが、まだまだ伝えきれていない」とし、メディアで喧伝されているような「ゲーム業界が右肩下がりである」といった表現に対して講演において具体的に反論してみせた。
鵜之澤氏は米Electronic Artsの決算資料を示し、「デジタルとノンデジタル(パッケージソフト)をハッキリ分けてだしている。これによるとゲーム配信事業が伸びており、この数値を出すことで、自社がネットワーク事業にも対応できているということを、対外的に示している」と分析。ここで日本でのCESA白書の数値を引き合いに出し、家庭用ゲーム機用ソフトの出荷規模のグラフを映し出した。「このグラフだけ見ると『ゆるやかな右肩下がり』と捉えられるかもしれない」としながらも、「でも大手6社の決算の数値をみると堅調。右肩下がりと言われていることに対しての違和感の根源はここにある」と語った。
同氏はゲーム業界としてフリー to プレイにも対応が進んでおり、「販売店のデータだけでなく、ユーザーにはフリー to プレイのビジネスモデルも受け入れられている」とした。ここで新たなデータが映し出された。任天堂の「ファイアーエムブレム 覚醒」のダウンロードコンテンツのデータだ。なかなか任天堂からこういったデータが出されることがなく、非常に貴重なデータとなっている。
それによると、ニンテンドー3DSのネット接続経験率はすでに75%に達しているという。鵜之澤氏は「みなさん任天堂のハードだと50%くらいと思っているかもしれませんが、すでに8割近い」と驚きを隠さなかった。さらに、有料追加コンテンツのダウンロード数は120万、有料追加コンテンツの売上げは約3.8億円となっている。この点について「『ファイアーエムブレム 覚醒』の販売は50万本ほどだと思うのでダウンロードの数値はスゴイ。はじめに無料で訴求して、有料DLCの販売も受け入れられている。これだけユーザーの支持を得たのは驚き」と続けた。任天堂のハードのネット接続率が高い点に触れ「Wii Uについても、ネットのヘビーユーザーを意識したPREMIUM SETには期待している」と期待感を示した。
さらに自社データについても披露。基本プレイ無料の「ガンダムバトルオペレーション」のデータで、基本的にはフリー to プレイのモデルとなっている。1プレイ8分ほどで3回まで無料、2時間すると1プレイ復活するという課金モデルだが、8月末の累計売上げが7億で、鵜之澤氏が昨日受けたデータによれば「8億を超えたと聞いた」のだという。鵜之澤氏は「正直に言ってソーシャル要素はそんなにない。制作に3年ほど掛かっているが、ビジネスプランの決定は今年に入ってからで、腹を括ってフリー to プレイにする事を決め、ソーシャルがわかる若いスタッフを入れて練り込んだ」のだという。ちなみにこの作品における宣伝費は従来タイトルの1/10と破格の値になっているという。「40時間以上ガッチリ遊ぶフルプレイする客とは別に、こういった遊び方をするお客様が付いてきてくれた。意外にこういったビジネスモデルが受け入れられた」と、様々なチャレンジにより新たな顧客をつかめたとしている。
また、セガの「ファンタシースターオンライン2」についても触れ、「ゲームの本質的な要素を楽しむためには課金せず、コスチュームや保管倉庫など深く楽しむところで課金する。本質的なところで課金すると、お金を掛ければ勝てるということでバランスを取るのが大変。ゲームが長続きしない。そういったところはセガさんはしっかりしている」と分析した。
こういったデータを示しながら鵜之澤氏は「パッケージだけでは計りきれない。出荷タイトル数だけでなく、こういったいい話もあるんだと公開して欲しい。ビジネスチャンスはある」と、ゲーム業界は健全に発展していることをアピール。また、任天堂のネットワークでの販売についても、販売店と協力しながらダウンロード販売を進めていることについて「素晴らしいと思う。子供がすべてクレジット決済をするわけではない。お店に行ってプリペイドカードなどを購入したりする。すべてがデジタルになるわけではなく、みなで手を取り合って進めて行ければ良い」と語った。
一方でネットワークにおけるこういったフリー to プレイのビジネスモデルについて、アジア市場での期待感を示した。「パッケージ作品は値段が高かったり海賊版の問題などで売るのが難しかったが、新しいビジネスモデルを使うことでアジアで展開できる」とアイディアを出した。鵜之澤氏は「業界は右肩下がりではないという情報を発信して行ければと思う」と元気に締めくくった。
このあとは、日経BP社の「日経エンタテインメント!」編集委員を務める品田英雄氏との対談という形で進行。海外展開について「海外で背伸びして、海外のスタッフに言われるままに腹に落ちなくても訳がわからない我々が悪いんだとばかりにやったが、少なくとも我々はうまくいかなかった。技術云々ではなく、ハリウッド映画と日本映画のような違い。一方で、任天堂さんやカプコンさんのように海外にこびていない、丁寧にローカライズして世界に通用するのであれば、それでイイと思う」と振り返った。鵜之澤氏は「自分たちの方針を曲げないで、面白いと思うものを出していく。ゲームの手触り感などは間違いなく世界に通用すると思う」と海外展開についても意見を述べた。
また、ソーシャルゲームについて「ソーシャルゲームは1つのジャンル。空いた時間を楽しむと言うスタイルにはパッケージを買うのではなく、フリーミアムと言うスタイルがあっていた」と昨今のソーシャルゲームのビジネスモデルについて分析し、こういったビジネスモデルが登場したことが良かったと振り返っている。
最後に鵜之澤氏は「この業界どうなることかと思ったが、対応できたと思う。我々がこの業界に入った頃、流れが速かった。いまのソーシャルゲー関係は3倍速いスピードで動いている。すごいスピードで変わっている。昔のスピード感を取り戻せてこれからにも期待している」と語り締めくくった。
これまでのゲームの販売ビジネスからの変化を示した |
(2012年 9月 20日)