CESA Developers Conference 2009現地レポート

「CESA Developers Conference 2009」がパシフィコ横浜にて開幕
会場を変えてさらに規模を拡大、「主役の交代」を感じさせる年に

9月1日~3日開催

会場:パシフィコ横浜

 

 社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、ゲーム開発者やゲーム業界への就職を希望する学生を対象にした日本最大規模のゲームカンファレンス「CESA Developers Conference(CEDEC) 2009」を、9月1日から3日間の日程で開催した。

 初日の9月1日は、台風一過、久々の晴れ模様のもと、パシフィコ横浜にて無事開幕した。その年のCEDECの顔を担う基調講演は、本誌でインタビューを行なった東京大学名誉教授の原島博氏が務め、「情報技術はどこへ行くのか? -主役は交代している-」と題した講演を行ない、40年にも及ぶ研究生活で得た知見をふまえながら、次世代のゲーム産業を担うゲーム開発者たちに対して「夢のストックを持ち続けて欲しい」と語りかけた。

 本稿では、CEDECの概要と共に、取り急ぎ初日の模様をお伝えしたい。GAME Watchでは明日以降、可能な限り詳しくCEDECレポートをお伝えしていくので、一般のゲームファンも、参加できなかったゲーム開発者もどうぞご期待頂きたい。

【基調講演「情報技術はどこへ行くのか? -主役は交代している-」】
原島氏の講演は、本誌インタビューでディスカッションされた内容をベースに、図と資料を交えてわかりやすく解説したものだった。情報技術の専門家として、1946年のENIAC誕生から現代までの主役の移り変わりをダイナミックに解説してくれた。原島氏は、これからの情報技術のキーワードとして「バーチャルからリアルへ、グローバルからローカルへ、パーソナルからコミュニティへ」を挙げ、今後情報技術はよりリアルなローカルコミュニティをサポートする方向へ進化するのではないかと予測。今後求められる具体的なゲーム像として改めて短時間で手応えが得られる「10分完結型」のゲームを挙げたが、この短時間に手応えが得られるゲームの必要性は、CEDECのセッションの至る所で聞くことができた。ゲーム産業の主役もまた変わりつつある



■ 11年目を期に質量共に大きく様変わりしたCEDEC

今年のキャッチコピーは「開発マインド、ボーダーレス!」。スポンサーにはプラットフォーマー3社が顔を揃えた
会場となったパシフィコ横浜。昨夜までの悪天候がウソのような好天に恵まれた
学生版CEDEC「ゲームのお仕事 業界研究フェア」に設置されたジョブカフェ。リクルートスーツ姿の学生が目立った
正規のカンファレンス会場だけに移動が容易で、ブース出展もより効果的となったようだ

 昨年2008年に10回目という大きな節目を迎えたCEDECだが、11回目となる今年は前年にも増して大きな変化が見られた。CEDECのGDC(Game Developers Conference)化はさらに加速したという印象だ。

 今年の大きな変化はいくつもあるが、なんといっても大きいのは爆発的な規模の拡大だろう。今年から日本を代表するカンファレンス会場であるパシフィコ横浜が会場となり、同時開催セッションは最大で14コマ(業界研究フェアを含む)となった。例年8から9コマ前後で推移してきたことを考えるとまさに“激変”といってよく、プログラマからサウンドデザイナーまで、より多くの開発者をカバーできる体制が整った。

 次に特筆しておきたいのは、ゲーム業界に就職を希望する学生を対象にした学生版CEDEC「ゲームのお仕事 業界研究フェア」の併催である。1~2コマを学生向けに解放というようなレベルではなく、3日間の日程で、しっかり基調講演もあり、最大3コマのセッションを終日かけて実施していくという、まさに学生版CEDECである。経済産業省からの支援を受け、入場無料を実現している。

 業界研究フェアの中で印象的だったのは「ジョブカフェ」と呼ばれる特設スペース。先着順でゲームメーカーの担当者と直接就職相談を受けることができることから、リクルートスーツ姿の学生も多く見られ、業界研究フェアのフロアはCEDECのフロアとは異なる熱気に包まれていた。この9月という時期は、一般企業が学生達に対して就職活動を行なわない時期に当たるため、余計に人気を博したようだ。CEDEC担当者は、リクルートスーツの学生らの情景に苦笑い気味だったが、今後CEDECの人気コーナーのひとつになるかもしれない。

 CEDEC担当者によれば、今年の目標はCEDEC本体で2,500名、業界研究フェアで1,000名の計3,500名の参加を見込む。初日の入場者数は未計測ということで不明だが、今年は事前申し込みの時点で予定数に到達しており、反応は上々のようでパシフィコ横浜への大移動は今のところ成功だったと言えそうだ。なお、早くも来年のCEDECの日程も発表された。このあたりもGDCへの強烈なライバル意識が見え隠れする。

 セッションに関しては、日本の風土に根付かないためか、例年不人気だったワークショップ系のセッションが減り、その代わりにアカデミック系のセッション、そしてパネルディスカッションが充実していた。特にアカデミック系のセッションの増加は、原島氏の基調講演でもわかるように、CEDECの実行委員長である松原健二氏の強い意志があってのものだが、いまやすっかりCEDEC独自の特色となった観がある。こうした形での現場レベルでの産学連携が進むことにより、今後、欧米やその他の地域では見られないようなユニークな産物が誕生するかも知れない。ぜひ今後も続けていって欲しいものだ。

 CEDEC 2009初日を終えてみて実感したのは、確かに“主役は交代しつつある”ということだ。それはゲームそのものの質的変容というより、我々遊び手側のゲームとの向き合い方の変容と言えるかも知れない。遊び手側のゲームへの要求は、ゲーム内容そのものから、そのゲームが持つ機能性に変わりつつある。具体的には、いつでも、どこでも始められて、都合の良いタイミングで、すぐに終わることができる。そして、そのわずかなプレイタイムに確かなカタルシスが得られなければならない。オートセーブは当たり前、長いローディングなどもってのほか。新聞小説のように日々新たな楽しさが味わえなければならない。

 こうして書き並べてみると大変な時代になってきたと思わざるを得ないが、多くの開発者はそうした遊び手側の変容に気づき、対応に乗り出していることも実感できたのは収穫だった。そうした“遊び手主権”の時代に求められるコンテンツとはどのようなものなのか。明日以降のセッションでもそうした点について注目していきたい。


【展示コーナー】
展示コーナーは過去最多の23のブースが設けられた。SCEやCRIミドルウェア、ウェブテクノロジといった常連に混じって今年はジャストシステムや福岡県などがブースを構えていた

【ゲームのお仕事 業界研究フェア】
経済産業省の支援のもとで、入場無料で行なわれた学生版CEDEC「ゲームのお仕事 業界研究フェア」。パシフィコ横浜会議センターの4階を使う形で大々的に実施されたが、真剣な表情の学生の姿が目に付いた



【研究者のモチベーション】
「研究者のモチベーション」は、今年増えたアカデミックセッションのひとつ。松原健二氏の実兄である松原仁氏ら3名の大学教授が、自らの経験を踏まえながら、エンターテイメント系の分野で活動する研究者の“生態”についてレポートするというユニークなセッション。大学まで似たようなキャリアを歩んできた健二氏と進む道が分かれてしまった理由について「弟との違いは、彼の方が社会性があったということです」と述べるなど、主に研究者の特異性について議論が深められた。セッションの最後に、たまたま聴講に来ていた原島先生が、エンターテイメント系研究者の先人の立場からマイクを握り、「研究者がみんな彼らのような人間だと思われると困りますが(笑)」と場を和ませた後、「彼らは自分の好きなことが出来ている幸せな研究者です。CEDECなんかに出てと言われないように、この4人をしっかり育てていただきたい」とあたかも親のようなコメントを行なったのが印象的だった

【ゲェムのカタチ】
「ゲェムのカタチ」では、SCEの「無限回廊」プロデューサー鈴木達也氏と、「無限回廊」の原作者である九州大学 藤木淳氏が登壇し、による「無限回廊」誕生秘話と、発売後のプロモーション施策について紹介された。スナップをどう処理したかについてや、トロフィーという報酬を与えることによって自作するユーザーが増えたことなど、貴重な報告が行なわれた。ちなみに新型PS3発売日の9月3日より値下げが行なわれるようなので、お見逃しなく!

【WiiでDSが動くまで】
「WiiでDSが動くまで」は、今年CEDECで唯一の任天堂のスタッフが登壇したセッション。スクウェア・エニックスからはディレクターの紙山満氏、任天堂からは業務技術部の光吉勝氏が登壇。スクウェア・エニックスが今年発売した「ファイナルファンタジークリスタルクロニクル エコーズオブタイム」における史上初のWiiとDSの相互接続プレイを実現するまでの苦難の道のりが両社の視点からそれぞれ紹介された。和田社長の「マルチプラットフォーム大前提」というスタンスから発想を得て、WiiとDSの同時接続プレイという離れ業を思いつくが、DS向けのプログラムをできるだけいじらずにWiiに実装するという無茶な命題を立て、任天堂の業務技術部の全面バックアップのもとそれを実現させていくというストーリー。聞いている分には楽しめたが、現場は相当大変だったことが想像される。余談だが和田氏のMiiは似てないと思う

(2009年 9月 1日)

[Reported by 中村聖司 ]