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ゲームエンジンビジネスに押し寄せる無料化の大波!

本格的インディー時代の到来を伺わせるゲームエンジン事情まとめ

3月2日~6日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 世界中のゲーム開発者が集まるGDCは、ゲームエンジンビジネスの切っ先が火花を散らす最前線だ。大型ゲームエンジンを展開する各社から毎年のように大きなアナウンスが行なわれてきたここ数年の中でも、特に今年は極めつけのトレンドが姿を現している。

 それは、“ハイエンドゲームエンジンの無料化”だ。今回のGDC 2015ではまずEpic GamesがUnreal Engine 4の利用無料化と、完全ロイヤリティ制ビジネスへの移行を発表。次いでUnity Technologiesは、かねてより提供してきた無料版から機能制限を撤廃し、フル機能を無料で提供する旨を表明した。

 トドメに来たのはValve。Valveは、Steam Link、Steam VR、Steam Machinesなどのゲームガジェットの発表に合わせる形で、次世代エンジンSource Engine 2をコンテンツ開発者に無料で提供するとアナウンス。

 これらに並ぶ大手エンジンメーカーであるCrytekのCryEngine 3については、昨年より実施している月9.99ドルのサブスクリプションプランに変更はなかったものの、NVIDIAの新しいコンソールマシンであるSHIELDへの対応が明かされたり、ブースではVRゲームのデモに力を入れるなど、対応プラットフォーム活用範囲の拡大をアピールしていた。

 国産グラフィックスエンジンを開発するシリコンスタジオも、今夏に正式提供を予定する次世代エンジン「Mizuchi」をブース出展。物理ベースレンダリングの能力を引き出すオーサリングツールの拡充を進めており、こちらもまた違ったアプローチで普及を狙っている。

 本稿ではこれらメジャー系のゲームエンジン事情を、各社ブースの風景を交えつつまとめてお伝えしよう。

Source Engine 2 - Vulkan対応でSteamプラットフォームを包括強化

Valveブース完全クローズドで直接の取材はできなかった
Steam Machines (Alienwareモデル)
HTCが製造を担当するSteam VR

 Valveが無料提供をアナウンスしたSource Engine 2の最大の特徴は、使用グラフィックスAPIとしてVulkan(旧名:glNext)に対応することだ。旧名の通り、VulkanはOpenGLベースのクロスプラットフォームAPIで、OpenGLなどと同様、非営利団体Khronos Groupによって仕様が策定されている。

 Vulkanの特徴は、いわば“ゲーム開発に特化したOpenGL”となっているところだ。最新世代のGPUアーキテクチャを前提にその性能を最大限に引き出すことを狙ったAPIになっており、Windowsプラットフォームにおける対抗馬はDirectX 12。しかしVulkanはOpenGLと同様、Linux系のOSにも対応するため、PC、Andoid、iOSといった幅広いプラットフォームで、コンソールマシン的なハイパフォーマンス・ゲーミングを実現できる。

 Valveの狙いはまさにそこだろう。Valveが11月に発売を予定するSteam Machinesは、LinuxベースのSteamOSを搭載する。つまり、非Windowsプラットフォームであるため、DirectX 12ではその能力を引き出せない。そこでSource Engine 2がVulkanに対応することで、Steam Machinesはその能力を大いに引き出されることになるわけだ。特に500ドル近辺の安価なSteam Machineで効果大になるはずである。これは、高いパフォーマンスが必要とされるVRヘッドセット、「SteamVR」の魅力を高めるためにも効果的な施策だと考えられる。

 Steam Machinesの発売が当初より伸びに伸びて今年11月と発表された背景には、そのSouce Engine 2を使ったゲームをローンチタイトルとして用意するために必要な期間というものも含まれているはずだ。そのような角度で考えると、Source Engine 2はSteam上でビジネスをしたい多くのPCゲーム企業やインディーデベロッパーにとって、採用を真剣に検討すべきゲームエンジンとなる。

 商利用でロイヤリティが発生するかなど詳しい利用プランはまだ説明されてないが、基本的には無料で利用できることが発表されていることもあり、Steamプラットフォームの存在感にも後押しされて急速な普及が進みそうだ。

【SteamVR - Aperture Science VR Demo】
先日披露されたSteamVRのデモ「Aperture Science VR Demo」はSouce Engine 2で作られているという。Valveにとって、Source Engine 2はSteamVR / Steam Machinesを含めた包括的なSteamプラットフォーム大戦略の要石ということになる

Unity 5 - 無料版がフル機能に。ブースも例年通りの盛況

GDC Expoの開幕に先立ってUnity 5のリリースを発表したUnity Technologies

 Unity Technologiesは既報の通り、Unity 5の無料版となるPersonal Editionがフル機能を搭載することを明らかにし、GDC 2015の開幕と同時に提供を始めている。

 スタートアップ企業や個人向けの無料版でフル機能が使えるというのもリーズナブルだが、商業ベースで既に成功しているデベロッパー向けに提供される有料のProfessional Editionも1,500ドルの買い切りであり、完全ロイヤルティーフリーである。それも踏まえて考えると、四半期で3,000ドル以上の売上があれば5%のロイヤルティが発生するUnreal Engineよりもリーズナブルだ。

 このリーズナブル制からインディーズゲーム開発のデファクトとしての地位は盤石であるし、グラフィックスを中心とした大幅な機能強化によりAAAクラスのタイトルでも採用がさらに進んでいきそうだ。

 ブースは例年通りの好立地で、Unity 5のエディター機能のデモや、Unity 5採用ゲームのサンプルを展示。そのほかにも、Asset Storeで配信されるサードパーティ製のカスタムミドルウェアも積極的にアピールされていたことがUnityブースの特徴的な風景だったと言える。

常時人だかりのできていたブースでは、Unity 5と連携できるサードパーティ製のソリューションも多数展示。拡張性の高さ、柔軟性の高さを引き続きアピールしている

Unreal Engine 4 - 無料化。インディーゲームでの活用をアピール

Epic Gamesのブース。多数のインディーゲームをデモ
ぱっと見、Unreal Engineっぽくない2.5Dゲームもあり、幅広い活用をアピール

 GDC 2015の開幕に合わせて無料化が発表されたUnreal Engine 4は、大型ブースの半分で採用インディーゲームを多数展示。以前のように重厚長大なAAAタイトルをこれ見よがしに展示するスタイルは捨て、リーズナブルで幅広く使われるエンジンという側面を大いに打ち出してきた格好だ。

 利用そのものは無料化されたUnreal Engineだが、公開情報によれば、使用コンテンツが四半期毎に3,000ドル以上の売上を発生させると、5%のロイヤリティ支払い義務が発生する。このためスタートアップ時にはタダで開発を始められても、ある程度ビジネスになってきた段階で売上情報の申告や、ロイヤリティ支払いの手続きといった手間とコストは発生することになる。会計専門のスタッフなどがいない小規模チームなどでは、これを理由に採用を躊躇してしまうケースはありそうだ。

 とはいえ、既にモバイル系OSにも対応し、Oculus RiftのようなVRヘッドセットといったトレンドへの対応にも素早いフットワークを見せている強力なエンジンである。今回のブースでインディーゲームでの活用例をメインにアピールしたことで、Unity 5と引き続き覇を競い合う展開になりそうだ。

インディーゲームの展示に並んで力を入れていたのが、ブースの半分を使っての解説セッション。無料化の発表直後ということもあり、注目度も高かった

CryEngine 3 - 対応ハードやジャンルの拡大に注力

NVIDIA SHIELD版の「Crysis 3」開発版
Crytekのブースもインディー系タイトルの展示がメイン

 CrytekのCryEngine 3は、利用プランについての発表はなし。引き続き月額9.99ドルのサブスクリプション制を継続していく模様だ。めぼしいところでは、Androidベースのゲームコンソール「SHIELD」に、「Crysis 3」が対応することがNVIDIAより明らかにされている。

 「Crysis 3」Tegra X1のようなハイエンドモバイルチップ環境に対応するということは、つまりCryEngine 3がそうなるということだ。それを元に来るハイエンドモバイル端末市場への積極展開を狙うとすれば、そのカギとなるのがインディーゲーム業界からの支持を集めることだろう。

 それを反映してCrytekのブースでは、やはり重厚長大なAAA系タイトルの展示は控えめで、多彩なジャンルのインディーゲームを中心にデモを行なっていた。もちろん、CryEngine 3ならではのハイエンドグラフィックスのアピールも忘れていない。

 コミュニティからはドキュメントの不足を指摘されるなどの問題点も抱えるCryEngineだが、グラフィックスや物理シミュレーションのリッチさ、エディター機能の充実などによりAAAクラスインディーゲームの開発で存在感を出していきそうである。

インディーゲームが多数展示されたほか、VR対応もアピール。製造数が少なく極めて希少な「Crescent Bay」を使ったデモも行なわれていた

Mizuchi - 高品位な物理ベースシェーダを武器に今夏リリースを目指す

シリコンスタジオのブース。昨年比1.5倍くらいの規模で出展したそうだ
大きなスペースをとって展示されていた「Mizuchi」エンジン
半透明表現への対応、オーサリングツールの充実といったアップデートが行なわれていた

 上述の各ゲームエンジンとは違った展開を狙っているのは、日本のゲームエンジン企業であるシリコンスタジオだ。シリコンスタジオは現在、高品位な物理ベースレンダリングを実現する次世代グラフィックスエンジン「Mizuchi」の開発を進めており、今夏の正式提供を目指している。

 「Mizuchi」はプロフェッショナルなゲームデベロッパー向けのエンジンで、グラフィックス機能と、シーンとマテリアルをセットアップするためのオーサリングツールから構成されている。いわゆる統合型の“ゲームエンジン”ではなく、例えばゲームロジックの部分やオーディオ、物理といった他の部分は各社のインハウスエンジンや、他のミドルウェアに任せるスキームだ。

 こういった構成をとっているため「Mizuchi」は、既に社内で独自のフレームワークを構築している企業への導入がしやすい。UnityやUnreal Engineといった統合型ゲームエンジンでは社内の技術資産が活かしにくかったり、ゲームの作り方が大幅に変わることがリスクになるケースで、それでも次世代グラフィックスを導入したい場合に威力を発揮するというわけだ。

 ブースの様子を見てみると、重点的に開発が進められているオーサリングツールの機能を中心にデモが行なわれていた。今後も機能拡張を続け、正式提供を目指していくという「Mizuchi」。同社が以前より展開しているエンジン「Orochi」は国内作品で多数の採用実績があるため、そこからの移行というケースを中心に国産タイトルの品質を高めていくことになりそうだ。

統合型のゲームエンジンではなく、次世代グラフィックス機能をピンポイントで提供する「Mizuchi」。海外デベロッパーからの問い合わせも多いそうだ

(佐藤カフジ)