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PS3/Xbox 360「KILLER IS DEAD(キラー イズ デッド)」
左手のデザインで試行錯誤
(2013/6/26 00:00)
左手のデザインで試行錯誤
――以前のインタビューでは最初から主人公キャラクターは「スーツと刀」に決めておられたということですが、違った処刑人像は検討されなかったんでしょうか?
須田氏:スタイルは決めていました。ただ、実際に落とし込み、デザインを組み上げるときは、やはり試行錯誤しましたね。
――他の人に相談されたりはしたんでしょうか? たとえば新さんに「こんな感じにしてみたんだけど、どう?」とか。
須田氏:うーん……どうだっけ?。
新氏:左手のデザインは何度も行き来しましたね。元々は人間の腕だけど変形するオーガニックなデザインだったりとか、次は黒いガチガチの鋳造でできたようなものになった時代もありましたし。もっとメカメカしいピカピカしたものになったこともありました。
――我々は完成形を見ているから「ああいうものだ」と受け入れられますが、その過程をきいていると、オモチャの腕をとっかえひっかえといいますか、なにやら面白いですね。
新氏:「スーツ」、「日本刀」、「メガネ」というのは一貫してて、ブレなかったんです。そこに魅力あるものはなんだろう? って。なじみすぎると面白くないし、特異すぎると浮いてしまう。
――左手が飛び道具というのは、最初から決めておられたのでしょうか?
須田氏:決まっていました。
新氏:とっかえひっかえ云々は、こういうギミックで遊ばせると決める以前の話ですね。こういうゲームにすると決めたあとは、1回もブレませんでした。
須田氏:その前は色々ありましたね。注射器を装備している時代もありました。
――スカーレットが持っているような?
須田氏:あれに近いかな? 入れる薬をとっかえひっかえしたりとかで、そういう時期もあったね?
新氏:敵にブスッと刺すと毒が注入されて、膨らんで爆発しちゃうとか(一同笑)。あと掃除機みたいになっていたり。
TVドラマ風の1話完結型エピソード
――ファーストインプレッション執筆のためにEpisode7までプレイさせていただきました。各Episode1話完結というスタイルでしたが、これにはなにか特別な理由があるんでしょうか?
須田氏:はい。「KILLER IS DEAD」はワンナイトストーリーといいますか、一晩での話なんです。構成としてはTVドラマに近い。TVドラマ仕立てにして、1話完結でひとつの敵を倒していく。だけれども、全体を通していくと大局のストーリーがある。こういう構成で作っていこうという方針を打ち出して、そこで地球のなかでさまざまなミッションを選択していくインターフェイスも、かなり初期の段階で固めて「それで作っていきましょう」と。それぞれの土地にモンドが行って、極悪人やテロリストたちを倒していく。そこでシナリオを組み上げていって、現場もどんどん作業を進めていった。そういった流れで作っていきましたね。
――ディレクションする側としては、大きなものを1つ作っておくほうが楽ですよね。たとえば「ロリポップチェーンソー」であれば「サン・ロメロ高校の、このエリア」みたいな感じで作る方法もあったわけですが、1話完結形式だとそれぞれ個別に細かく、新しいものを作らなくてはならなくなるので、大変じゃなかったですか?
新氏:もちろん大変でした! アセットの使い回しがきかないところが多くなってしまって……使い捨てになるものが多かったですね。本当は使い回しをしたかったんですけど、物語の魅力を引き立てるためにはそれぞれ独立したものを作らざるをえなかった。
――先ほどの学校であれば、ロッカーとかそういったパターンを使い回せますものね。
新氏:でも、その甲斐あって、プレイされる方々はそれぞれのシナリオごとに全然違う体験とビジュアルを楽しんでいただけると思います。
――ネタバレになるので詳しくは触れませんが、各Episodeのテイストが、ときにハードボイルド風、童話風、任侠風などなど、かなり振幅があるように感じられました。このあたりは最初から意図されたものなんでしょうか?
須田氏:僕は幅が足りないな、と思いながら作っていたんですけど(笑)。
――プレイされる方によっては、置いてけぼりじゃないですけど“きょとん”としてしまうかもしれません。
須田氏:そこも、まったく違う世界を見せていきたいと申しますか、そういったものが詰め込まれている作品でありたいと。最初に地球儀をイメージしたんです。モンドが地球のあちこちに行くのが、この物語の醍醐味。なので、ワンナイトストーリー、ワンセットじゃなくて、あらゆる場所で活躍する。「007」のように“世界をまたにかけて活躍する男”のニューヒーローというイメージもあったものですから、そこで地球と月であらわして。ボンドは月にいきませんけど……いや「ムーンレイカー」で1度行ってるな!? なので、負けじと(笑)。
――ゲーム中でモンドが月面に降り立つ姿は、やたらレトロな感じですが。そのあたりは「ムーンレイカー」に影響されたとか?
須田氏:あれのベースは「ムーンレイカー」なの?
新氏:そうじゃないです(笑)。
――月にまつわる話といえば、ゲーム中で月の砂漠に洋館がポン! と建っていたり、随所に1960~1970年代風のレトロな表現を感じました。未来に素直に憧れを抱けた時代と申しますか……。
須田氏:レトロフューチャー、ですよね。これはまさに僕の“中二病感”が凝縮されたんじゃないかと(一同笑)。子供の頃に感じた、月、宇宙、その原体験がストレートに絵作りに反映していると申しますか。それこそがハイパーリアルであり、ファンタジーであると思うんです。
――最近は写実的なものが大半ですから、新鮮でした。ヘルメットだけかぶってスーツ姿で月面を歩くモンドの姿にはツッコミが殺到しそうですが……。
須田氏:写実的な領域は、もう最果てまでいってるじゃないですか。あらゆる表現があるなかで「じゃぁ俺らは、もっとこっちの違うところに行こう」、「新しいものを作ろう」という、そういう塊が詰まったものが「KILLER IS DEAD」だと思うんです。これは当然僕だけじゃなく新や笠原もそうですし。ひとりひとりのスタッフが、そこに向けてエネルギーを注いでモノ作りをしていった結果が、各パーツ、パーツにあらわれている。
僕も、モンドが宇宙服を着ず頭だけ(メットをかぶって)……もう、明らかにおかしいじゃないですか!(一同笑)。でも面白いなぁと思って。
――おかしいけど“宇宙っぽい”んですよね。
須田氏:あのスタイルは「あっ、なんか俺もコレで月に行きたいな」と思いましたもん。アリだなと思った。
新氏:あれに関しては「宇宙服、着ないんですか?」って結構いわれたんですけど「いや、着ない(キッパリ)」って。「ココ(首から上)があれば大丈夫だから」といってからは、もう誰も(いってこない)。それを説得するだけの世界観は、もうできつつあったっていう感じですね。
須田氏:あ、それね、違うわ。ディレクターが言い切ることが大事なの!。「これで大丈夫」と言い切る。
新氏:えっ、そうなんですか!?(一同笑)。僕、あのときは言い切りましたね。「これ、下は何もないんですか?」といわれて「ないよ?」って。
――そこでひるんだりすると、自他ともに無用な逡巡が生じてしまうんですね。
須田氏:言い切るってことは「これでいいんだ!」とスタッフが安心するんですよね。それでひとつの方向性、「KILLER IS DEAD」はこういうものなんだ! というのが事実として確立していくんですよね。あれはいい、良かったと思います。
――……それ、今とってつけた理由じゃないんですか? 本当ですか?
新氏:本当です、本当!(笑)。結構多いですね、こういうのは。ヘルメットしかり、デイヴィッドの服装しかり。
――デイヴィッドは月面に出てくる敵キャラクターですね。あのローマ時代の諸侯を思わせるような装飾などのデザインは、新さんが「こうしてくれ」と指示されたのでしょうか?
新氏:決まり方はキャラクターによって色々あるんですけど、デイヴィッドに関しては僕が言いました。
――デイヴィッドを作るにあたり、なにかイメージされたものはあるんでしょうか? 皇帝とか、あるいは賢人とか。
新氏:いわゆる“王様”と“ラスボス”の怖い感じをどうやって出そうかと思ったとき、やはり「王様=金色」というイメージがあって。それでキンキンなんです(笑)。かといって金色の甲冑は、それって全然面白くないなと思って。どんな奴がバッと目の前にあらわれたら怖いかな? と思ったとき、ああいう見たこともないような格好をしている奴のほうが「あっ、こいつヤバイ!」という感じがでるんじゃないかと思って。
――そのひねり方は全体のボスに通じるものがあって、凄く納得しました。処刑人という言葉のイメージから、どうしても異形などを連想してしまうんですが、実際はかなり意表を突いてくる。ちなみに、いま明かせる範疇でお気に入りのボスキャラクターはいますか?
新氏:デイヴィッドと、まだ未公開ですがEpisode5に出てくる女性が気に入っています。
新氏:普通の人なんですけど、他の異形よりも気持ち悪い感じが出ていると思うんですよね。もう、ステージとボスバトルに関しては、かなり豪華に作られていると思います。それぞれ、その場だけ。
須田氏:時間がないなか、よく作りました(一同笑)。ボスの形態(フェーズ)も手を加えたよね? 途中、フェーズがなくても十分遊べるボスもあったんです。だけど、しばらくしてROMを見るとフェーズが増えている(笑)。もっと貪欲に、このボス戦をさらに面白くするために、ここで死ぬはずなのにワンフェイズ追加されていたりとか、開発後半でガリガリ行なわれていた。
新氏:とあるボスは、ここで死んでもOKなはずなんですけど「腕を切ったら違う動きになって、もう1回襲ってきたら、ユーザーは驚くだろうな」というのを入れたかったんですよね。
――……さらっと凄いことをいってますけど、そういうことが許されるものなんですか? そのぶん(スケジュールが)伸びるわけじゃないですか。
須田氏:それを伸ばさずにやっていました。発売時期はある程度……すでに8月1日と発表しましたけど、以前はその近辺でロックされていましたから。後半の現場のテンションたるや、異常でしたね。
――開発現場によっては、隙あらば「何かしちゃうぜ」みたいな人たちがたまにおられますけど……。
新氏:僕がそんなノリなんで(笑)。
須田氏:普通、HD機ではご法度なんですけど。
新氏:だいたい開発って、デザインデータをFIXさせてからプログラムをFIXさせて……となっていくじゃないですか。今回はFIXが同時タイミングでしたからね。最後の最後までずーっといじってましたから。
須田氏:そこはスタッフががんばってくれたのもありますし。あと、Unreal Engineを使って開発するのが5周目くらいなんですよ。ほぼ全体のスタッフがUnreal Engineの経験者。
――習熟度が上がってきた?
須田氏:そうなんです。練り上げていくサイクルが(向上している)。Unreal Engineってどういうものだろう? と手探りで作っていた「シャドウ オブ ザ ダムド」の頃とはまったく違うものですから、もっと「こうしよう」、「ああしよう」ということが、非常にスムーズにいった。ただ、僕もハラハラしましたもん。「もう、もういいでしょう? もういいんじゃないかな?」って。
――なんていうか、楽しくなってきちゃったんでしょうか?
新氏:うーん……欲、ですね。
須田氏:貪欲になっちゃったというんですかね。
新氏:あと、デザインデータを最後までいじらない理由って、バグが起きるからじゃないですか。でも「これをいじるとバグるけど、これだったらバグらない」という“勘所”みたいなやつが、だんだんチームのなかでわかってきた。もう、マスターアップの数週間前にアニメをいじったりとかしてますから。
――なんてことしてるんですか! 他の開発者が読んだら「なにしてるんだろう、この人たちは」と。
新氏:いわれると思います。でも「ここだったら大丈夫だ!」っていう感覚とかがあって(一同笑)。
須田氏:なんとなくわかってくるんですよね。あと、プログラマーは本当にやばいところは絶対にいじらないですから! プログラマーは、バグとるの最悪じゃないですか。せっかくこれだけ減らしたSバグ、Aバグが、やばいところをいじったらグーン! とあがりますし。彼らがOKという領域は、それなりの勘所をふくめて大丈夫という。たぶん、そのギリギリのところを攻めていったと思います。
――今回はゲームスピードも速いじゃないですか。余計に危険度は高いですよね? 割り込みのタイミングもシビアですし。その調整もあわせてやっていたんですか?
新氏:そうです。