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富野監督が「実際に想像したガンダムに近い」と感嘆した“18mのロボット”を動かす技術はどのようなものか?

【CEDEC2021】

開催期間:8月24日~26日

 CEDEC2021の目玉の1つでもあった「”不可能を可能に” 「動くガンダム」実現までのプロダクションノート」。本稿では後編をレポートしていきたい。こちらも登壇者は本講義は一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE GGCテクニカルディレクターの石井啓範氏と、アスラテック株式会社 取締役 チーフロボットクリエイター/GGCシステムディレクターの吉崎航氏。モデレーターはタイトー店舗戦略本部 店舗戦略部 新規業態企画課課長の濱野隆氏が務めた。

一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE GGCテクニカルディレクターの石井啓範氏(左)と、アスラテック株式会社 取締役 チーフロボットクリエイター/GGCシステムディレクターの吉崎航氏
「動く実物大ガンダム」とお台場にあった「ガンダム立像」の相違点

 非常に興味深かったのが「動くガンダム」と「実物大立像」のデザインの差異だ。動くガンダムの方ははっきりとすねが短く太ももが長い。人間に近い体のバランスとなっている。これは膝立ちをする前提でのバランスになる。

 また背中のバックパックはGキャリアとの連動も考え小さなものになっていたり、デザインには理由がある。短くなったすねを目立たせないよう膝のアーマーを大きくしたり、そこにはデザイン上の工夫も多く盛り込まれている。

 実機とシミュレーションではより慎重な検証が行なわれている。シミュレーションで各部のクリアランス、部品の干渉を防ぎ、設計上でもきちんと実現、しかし実機ではぶつかりそうだ。そういったことは多々ある。CGではうまくいくように作った、ここが注意ポイントだ、と言うように、あらかじめ精巧な実物大シミュレーションを作ったからこそ確認できる部分は多かったという。

 もちろん“立体物”での検証も数多く繰り返している。1/500、ガンプラを使った検証ミニチュア、モーターを仕込んで動作を検証したモデル。様々なアプローチで「動くガンダム」を検証した。

立体物の試作機も製作された

 BANDAI SPIRITSからは動くガンダムを再現したプラモデルも販売されたが、これは実機が完成される前に試作品が完成したため、プラモデルを使ってデモンストレーションのポーズ検証にも使用したという。

 実際のモーションプログラムは1つ1つの手作業だけではなく、自動でのモーション補正、各モーターや減速機の負荷、連動などをプログラムで修正している。小型ロボットや、ビデオコンテで出力してみて実機への導入へ近づけていく。腕を上げるのもただ右手だけを動かすのではなく、腰や首様々な連動を考え「ガンダムのポーズ」へと落とし込んでいく。

 ガンダムの生みの親・富野由悠季氏からは「Vサインはできないのか」と言われていたが、実機には指が横に広がる関節はなく、現在プログラムなどを駆使して近い手の動きはできるようになったが、デモンストレーションに組み込めるかはまだ検討中とのこと。

 石井氏は「Gキャリアで支えられているガンダム」について、富野監督からプロジェクトの最初から「それでいいのか、最初から自立歩行を諦めていて、本当にいいのか」と何度も指摘を受けたという。しかし安全基準や、デモンストレーションの期間、技術的な課題など様々な点を考慮し、「最初のステップとしては、まずはこう言う形で実現させて欲しい」と言い、プロジェクトを進めていった。

 そう言う中で実現した「動くガンダム」だが、フレームがあって、外装があって、中のモーターで手足が動く、その18mのガンダムを見た富野監督から、「実際に想像したガンダムに近い」と言葉をかけてもらったとのこと。それは作ってうれしかったと石井氏は語った。

プログラムはテストを重ねられ実装される
富野監督が希望したVサインもチャレンジしている

 ここで石井氏と吉崎氏は「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE official making book」をアピール。Gドックの全長がもっともっと長いという初期案もあった、規格の変遷や、実際の技術など、様々なポイントが語られている本だという。デモンストレーションで話される技術用語の解説など、読み応えたっぷりの本となっているとのことだ。

 この後は講義の時間半分を使った質疑応答となった。最初の質問は操作方法について。「動くガンダム」の操作は遠隔制御室で行なうが、タイマーによる完全自動制御も、タブレットを持ち出し、ガンダムの目の前で動きを操作することも可能だという。いわば鉄人28号のように、「リモコン」でガンダムを操作できるモードは、前述の装甲などの干渉の検証用に用意されたモードだという。

 「実際に歩行ができるようなロボットはどのくらいの大きさで可能か?」という質問に吉崎氏は「8mくらいなら可能ではないか?」と答えた。石井氏もある程度の大きさの、人が乗り込むロボットは今後ぜひ挑戦してみたいとのこと。「動くガンダム」は“最初の一歩”である。今後どのような具現化がされるか、気になるところだ。

 技術的には可能だが、「動くガンダム」のように、1年以上事故を起こさずデモンストレーションをする、というのは「歩行」とはまた異なる大きな課題があったと言うことも強調された。ちなみに石井氏は「ジオンのMSが好き」とのことで、ザクを作ってみたいという想いもあるが、ガンダムとは全くプロポーションが違う上、動力パイプが足を動かすところでは大きな課題になるだろうとのこと。

開発の集大成と言える「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE official making book」

 このほか、「ガンタンクなら作れるのでは?」という質問に、「履帯のブロック1個が乗用車くらいの大きさになる」と、その大きさでやはり難しい。鉱山などで使う機械のようなもので作ることは可能かもしれないという。

 このほか、「防水対策は予想したより大変だった」、「台風時には風に耐える姿勢にして各関節などを固定する準備がある」、「地震には耐えられるように設計されている」、「毎日のメンテ、1週間で完了する各部のチェックの他、3カ月に1度は全メーカーでのチェックをするスケジュールを組んでいる」といったことも明らかになった。

 筆者も「いろいろな方面から反響があったと思うが、印象に残ったものは?」という質問をしたが、「ゲーム業界であるGDCに声をかけられたこと」とのことだ。教育関係など様々な業界が興味を持ってくれたことも印象に残ったという。

 「動くガンダム」はやはりワクワクさせられる存在だ。個のプロジェクトが成立し、実現できたのはまさに日本だからだと思う。そして「最初のステップとしては、まずはこう言う形で実現させて欲しい」という言葉は、本当に期待が膨らむ。このプロジェクトは「歩く巨大ロボット」につながると信じたい。その時社会はどう反応するのか、そこから未来が変わるのか、できればその変化を見たい。