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日本が世界に誇る、あまたのゲームをどう保存・活用するべきか?

「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」レポート

「遊ぶ!ゲーム展 STAGE3」会場のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
2月23日 開催

会場:SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ

 埼玉県が主催しデジタルSKIPステーションが企画・運営をする、「あそぶ!ゲーム展 シンポジウム」が、埼玉県川口市のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアムにて2月23日に行なわれた。

 本シンポジウムは、2018年10月6日から同ミュージアムにて開催されている、「あそぶ! ゲーム展 ステージ3:デジタルゲーム ミレニアム」の関連イベントで、「デジタルゲームの発展と研究を牽引してきた専門家たちをゲストに迎え、その進化史を改めて振り返りながらディスカッションを行ないます。ゲームアーカイブ(収集・整理・保存・活用)の課題と、ゲームの未来について討論します」(※リリースより抜粋)という趣旨で行なわれたもの。以下、ゲーム開発やゲームのアーカイブを研究している学者など、さまざまな知見を持った各登壇者のコメントをピックアップしてお伝えしていこう。

「遊ぶ!ゲーム展 STAGE3」の展示コーナー(※2018年10月5日撮影)

産・官・学の各分野における、ゲームアーカイブの実施状況やいかに?

 「ゲームアーカイブ、いつやるの? 今でしょ!」と題した第1部において、最初に発表を行なったのは立命館大学映像学部の中村彰憲教授。中村氏によると、同大学で1998年に立ち上げた「ゲームアーカイブプロジェクト」において、現在までに家庭用ゲームソフト9,200点をはじめ、家庭用ハードおよび周辺機器200点、PC用ゲームソフト900点、関連資料(書籍・雑誌)を4,200点を所蔵し、並行して目録作業も行なっている。さらに、文化庁のメディア芸術データベースのサイトでゲーム分野のデータ作成を手掛けたほか、ゲームの収集・保存活動を行なう海外の施設との国際間連携を進めているとのこと。連携が進む反面、現在はあらゆる組織がバラバラに試行錯誤をしている最中であることが問題点であり、IPホルダーによる協力も不可欠であると述べた。

司会は、第1回目の「遊ぶ! ゲーム展」から監修を担当する元ナムコのゲームデザイナー遠藤雅伸氏(左)と、学校法人 滋慶学園COMグループ 名誉学校長の馬場章氏(右)が務めた
立命館大学の中村彰憲教授は、同大学の「ゲームアーカイブプロジェクト」における、これまでの実績などを中心に発表した

 一方、日々新作ゲームを開発しているゲームメーカー側では、どのようなアーカイブを行なっているのだろうか? バンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏は、旧ナムコ時代に、「トイポップ」(※1986年発売のアーケード用アクションゲーム)などの企画および開発を担当した人物で、2015年から「ナムコ開発資料アーカイブプロジェクト」を立ち上げ、古いゲームの開発資料を保存するための活動を行なっている。2018年11月23には、同プロジェクトにおいて整理した資料の一部を明治大学で公開した展示イベント、「『パックマン』、『マッピー』とナムコ・アーカイビング小展」を開催し、その模様は12月19日の「NHKニュースおはよう日本」で放送された。

 兵藤氏によると、当初は過去の開発企画書や仕様書だけでなく、ロケテスト報告書や他社のゲームの研究資料も含め、段ボール500箱分の資料が倉庫の中で眠ったままになっており、しかも廃棄寸前の状態だったという。そこで、「開発資料の保存と活用」、「エモーショナルエクイティの拡大」を2大目標として同プロジェクトをスタートさせた結果、500箱分の資料を300箱分にまとめてナンバリング化したうえで、無事廃棄されずに保存できるようになった。往年のナムコゲームファンに限らず、社内で開発資料のアーカイブ化が進んでいるとの報告は、実に喜ばしい限りだろう。

 課題としては、企業活動として行なう以上、その存在意義がはっきりと求められるため(利益を生み出されなければならない)、いわゆるエコシステムを作らないと本プロジェクトの継続が難しいことと、他社にも呼び掛けて、業界全体の問題として開発資料のアーカイブ化に取り組むことの2点を挙げていた。

「パックマン」のトレーナー姿で登壇した、バンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏は、旧ナムコの開発資料をアーカイブ化するための社内プロジェクトの現状を説明

 「米沢嘉博記念図書館」を所有する明治大学において、漫画・アニメおよびゲーム関連資料の収集を幅広く行なっている、同大学の国際日本学部准教授の森川嘉一郎氏は、自身の経験からアーカイブ活動を進めるにあたっては「維持費が永遠に掛かり続けるため、その財源はどこの誰が負担し続けるのかを考えることが前提で、それが決まれば目的や方法、範囲が半自動的に決まることがだんだんわかってきました」と指摘した。

 自治体と協力して行なうにあたっての問題点としては、「漫画分野においてもよくあることですが、その自治体がある地域で活動するメーカーの作品の比重を増やさないと、『他県のものばかり集めるのはいかがなものか』と言われるケースが必ず出てくる」ことや、「健全なゲームはいいけれど、市民から理解を得られないような暴力的なゲームやエロゲーを集め始めると、『市役所に苦情が来るのでは?』という議論が必ずある」ことなどを挙げていた。

 森川氏によると、最も理想に近い形でアーカイブ化を実現できる可能性が高いのは、「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」が考え出した、「国立国会図書館を受け皿にして、その支部を設けて漫画・アニメ・ゲームの関連分野の資料を収集、保存する仕組みができないか?」というアイデアとのこと。同図書館では、実はゲーム(パッケージソフト)も納本制度の対象となっており、また保存を目的としたデジタル化を権利者の許諾がなくても実施できる権利を持っていることから、「これをゲームにも適用することで、デジタル化ができる唯一の手段として見出せるのでは」という考えがあることなども説明した。

 また森川氏は、アーカイブにおいては「フィジカル(実物)とデジタルが両輪」であるとともに、「漫画に関しては、お金を動かす決定権を持つ人の中に漫画に理解のある世代の人がいるので、比較的話がしやすくなっている反面、ゲームはまだそこまでには至っていないという世代的な問題もある」ことや、「アーキビスト(※アーカイブをする人)を育成できても、継続的に雇うのが難しい」問題があることも指摘していた。

漫画などのアーカイブ活動の経験談を元に、現在の課題などを指摘した明治大学の森川嘉一郎准教授

 さらに司会役の、学校法人 滋慶学園COMグループ 名誉学校長の馬場章氏によると、「遊ぶ! ゲーム展」を開催するにあたって、まず困ったのは「どこにゲームがあるのかがわからない」ことだったという。

 「国ではゲームを含めたメディア芸術のアーカイブと言いながらも、実は現物ではなくてデジタルアーカイブの集積によるデータベース化だけで、現物の保存までは考えていなくて、現物の保存の重要性をわかっていません」という問題点があることを指摘。また、同氏のヒアリングによると、「ゲームの本体はあるが、資料は残していないメーカーが多いですね」とのことから、各メーカーに対して「開発資料はぜひ保存してほしい」と要望を出した。

馬場氏作成のスライドより。行政の理解不足など、多くの課題・問題点を挙げていた

今後の日本のゲーム産業、文化はどうあるべきか? 識者たちが語った未来像

 「ゲームの未来について」と題した第2部では、「日本型eスポーツの未来像」、「注目すべき最新技術」、「日本のゲームのキーワード:Paidiaとナラティブ」という3つのテーマを元に、登壇者がさまざまなディスカッションを行なった。

 「日本型eスポーツの未来像」のテーマにおいては、司会のゲームデザイナー遠藤雅伸氏による、「日本のeスポーツは長年ダメだって言われてきましたが、実は対戦格闘ゲームに関しては良い成績を残しています。対戦格闘ゲームの場合は戦うというよりは武道であり、日本人は『道』が好きであることが研究でもわかってきていて、相手を叩くのではなくて、自分が相手を上回るという自己研鑽に興味が向くというように、eスポーツに対する見方が日本だけでは違うのではないか?」という問い掛けからスタートした。

 ゲームの通史を書いた『現代ゲーム全史』の著者である、評論家/編集者の中川大地氏は、明治大学において昨年11月に開催した、『ぷよぷよeスポーツ』、『鉄拳7』、『クラッシュロワイヤル』を使用したeスポーツ大会、「明治大学学長杯 三種混合e-sports大会」の例を挙げ、「ゲームごとに競技性が違うことから見た目が変わるため、そこにドラマが生まれたんです。TV番組の『関口宏の東京フレンドパーク』を見ているのに近い楽しさができることを経験できた」ことから、「日本のゲームがeスポーツに向かない理由のひとつは、『リーグ・オブ・レジェンド』みたいな世界的なひとつのゲームをずっと遊び続けるのではなく、いろいろなタイトルに入れ替わることです。そこで自分の体験から、大会ごとに使用するゲームを入れ替えるスタイルで、世界的なものとは違う、日本の環境に合った盛り上げ方を提案できるのでは」との見解を述べた。

評論家/編集者で、現在は明治大学野生の科学研究所研究員と、批評誌「PLANETS」副編集長を務める中川大地氏

 また、「ゲームを作る側の人は、ゲームをeスポーツに使われたいと思っているのでしょうか?」との問いに対し、ゲームデザイナーの三上真司氏は、「あまり意識したことがないというのが正直なところです」とのこと。また三上氏は、「ストリームの技術を使ってゲームを作るようになると、私は『劇場型』と呼んでいるのですが、舞台でお客さんに対して自分のプレーをアピールする側と、それを見ながらプレーヤーをサポートしたり邪魔をする人も同時に参加できて、違う立場の人たち同士が同時に楽しめるという、『劇場型』の舞台がひとつのジャンルになるのではないかと思っています」という自身の考えを披露。また、「まだ詳しくは言えないのですが、そいうことを念頭に入れたゲーム制作をいろいろ構想しています」という意味深な発言も飛び出した。

 「注目すべき最新技術」のテーマにおいては、兵藤氏が現在注目しているものとしてAI、ARとハプティクス(触覚の伝達技術)の3つをキーワードとして挙げた。なおVRに関しては、「アーケードでは装着や人件費の問題があり、細かいマネタイズがまだうまくいっていなません」(兵藤氏)という課題も挙げていた。

 さらに遠藤氏は「アイトラッカーと呼ばれる、目線がどこを向いているかを検知して、それで何かをやるという技術があります。シューティングゲームであれば、ただ敵を見ただけで倒せるようになるとか、ホラーゲームで今こっちを見ているから、その間に見ていない所に仕掛けを用意して怖さを演出をするなど、そういう仕組みのものができるかもしれない。これは結局、AIの使い方ということになるんでしょうけども」と指摘した。

 これに対して三上氏は、「ゲームを遊ぶお客さんというのは、画面の中央しか見ていないんです。アイトラッカーは、ユーザーが真ん中しか見ていないことを証明するために1度使いました。AIの使い方としては、ユーザーの流れを見ながら行動を先回りできるAIか、もしくは1対1でサービスする側がここに仕掛けを用意するという、お化け屋敷的なものしかないなと思っています」と、カプコン時代に「バイオハザード」シリーズを開発した同氏ならではの意見を述べていた。

ゲームデザイナーの三上真司氏は、「バイオハザード」シリーズなどの開発経験を元にした見解を述べていた

 「日本のゲームのキーワード:Paidiaとナラティブ」のテーマは、非常に高度な内容のディスカッションに。遠藤氏によれば「勝つことよりも楽しむことを目的とするのがPaidiaで、日本人の半分はこの遊び方が好きだということが研究でだいたいわかってきている。ナラティブは、大まかに言うと断片的な情報を与えていって、それが受け手の人生経験などの比較によって、自分ならではの物語が作られることだと言われています」とのこと。

 また同氏によると、Paidiaとナラティブによって、今はライトユーザー向けのゲームでお金が得られる方向性が示されているそうだ。さらに、かつて自身が開発したシューティングゲームの名作「ゼビウス」も、「プレーヤーごとに敵が出てくる順番が変わり、先へ進むごとにだんだん敵がバージョンアップしていくのを、ナラティブとして見ている人が多かった」と、発売してずっとの後の時代になってから指摘されたそうだ。

 ここで、とても面白い提言をしたのは森川氏。「技術的な面で、日本生まれで世界の最先端ではないかと思ったのは、『アイドルマスター』の歌うシーンです。これを見たときに、こいうものを作れるのは日本だけだろうと思ってしまいました。実は、私もボーカロイドをいじっていたときに、パソコンの中にいる女の子はけっして人間になれないし、完璧に人間らしく歌うことはできないのに、マスターである私が一生懸命に歌を教えるほど、少しずつ人間らしくなっていくような錯覚に襲われるという、奇妙な感覚に襲われたことがあります。こういう土壌があるのも、技術と言えるのではないでしょうか」との見解、体験談を語った。

 そして、「eスポーツで日本が世界に勝てるような競技を考えるとしたら、競技者はみんな美少女キャラのVTuberになり、ステージ上で踊ってアーティスティックなメリットを競うようなものではないか、と勝手に思ったのですが」と持論を展開。すると遠藤氏は、「あると思います(笑)」と即答していた。

 現在、過去、未来という順を追って議論された本シンポジウム。産・官・学の力を結集して、日本が世界に誇るゲーム、およびその文化を後世に保存するための仕組み作りが確立されるとともに、蓄積された作品や知恵をベースにしつつ、斬新なゲームが恒常的に開発され続ける、そんな日が1日でも早くやって来ることを願ってやまない。

会場内には、遠藤氏がナムコ時代に開発した往年の名作シューティングゲーム、『ゼビウス』(1983年発売)の貴重な開発資料が展示されていた