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【芸術の秋企画】「アサシン クリード オデッセイ」で名作「走れメロス」を再現したら

これが”リアル“な「走れメロス」だ! 「ACOD」の緻密なギリシャ世界を最大活用してみた

 「走れメロス」って知っていますか? 「メロスは激怒した」という、インパクトのお手本のような書き出しではじまるあの小説です。太宰治が著し、1920年に発表したものですね。教科書に出てくる定番中の定番ですから、普段の生活の中でもきっとどこかで触れたことがあるのではないでしょうか。中にはメロスが友のために必死で走るストーリーが、パッと思い起こされる人もいるでしょう。名作と言われるだけあって、困難や誘惑に負けそうになりながらも信念を貫くメロスの熱い気持ち、「走れ! 走れ!」と言いたくなるようなクライマックスの展開は、今でも筆者の心に深く残っています。

 そして、今回出てしまいました……。つまり、「アサシン クリード オデッセイ」(ACOD)です! 「アサシン クリード」シリーズ最新作となるオープンワールドアクションゲームですが、本作の何が素晴らしいって、舞台が古代ギリシアということ。史実を元に、その世界が緻密に再現された本作では、古代ギリシアに文字通りダイブすることができるのです。これ、「走れメロス」と同じ舞台なんですよね。

古代ギリシアにダイブできる「アサシン クリード オデッセイ」。緻密に再現された古代ギリシア世界が広がっており、街並みや人々の暮らしを身近に感じながらプレイできます。内容についてもっと知りたい方はレビュー記事をどうぞ

 そうです。今回の企画は、この「ACOD」のリアリティあふれる古代ギリシア世界をフルに使って、「走れメロス」を再現したらどうなるか、というものです! そもそも「走れメロス」には、以前から少し違和感を持っていました。何しろこの小説に多くの人が初めて触れるだろう学生時分は、ほとんどの人が古代ギリシアの正確なイメージを知らないのです。筆者だってその1人でした。カーテンよりも大きな白い布を肩にかけて体に巻き、そして必死に走っているメロスの定番イメージ以外は、想像に頼るほかなかったのです。あの時の想像は、本当に合っていたのでしょうか?

 でももし「ACOD」を使えば……。「走れメロス」が一体どんな世界の中で展開されていた物語だったのか、答え合わせができるなと思いました。いくら古代ギリシアがテーマだからといって「走れメロス」と合致するシーンが「ACOD」にあるかどうかすらわかりません。でも、どうしてもやってみたくなってしまったのです!

 ちなみに、「走れメロス」についてはすでに著作権が切れているので、WEB検索すれば全文を今すぐ読むことができます。本企画は話の内容を知っているほど面白みが増しますので、まだ読んだことがないという方、話を忘れているという方は、この機会にぜひお読みください。

本企画では、男性主人公のアレクシオスさんにメロスになってもらいます。防具をすべて外すと、このような服装。白いカーテン布じゃないんですね。「走れメロス」に、さっそく新鮮なイメージが吹き込まれました
メロスは羊飼いという設定なので、羊の群れと一緒に撮影。物語冒頭のケファロニア島に、「羊飼いの丘」という場所がちょうどありました。羊の見た目も想像とはすこし違います。当時の羊飼いはこんな感じだったのでしょうか。なお、本稿のスクリーンショットのほとんどはフォトモードを使っています。いろいろ調整できて、本企画に最適なシステムでした

「走れメロス」のイメージがどんどんアップデートされていく!

 「走れメロス」を再現するためには、小説の中から風景描写のヒントを見つけなければなりません。まず目に飛び込んでくるのは、「シラクスの市」という場所です。メロスが激怒する直前、妹の結婚式の衣装やご馳走を買いにやって来る街ですね。

 さて「シラクス」という場所を調べてみると、なるほど、今のイタリア シチリア島南東部に位置する都市だそうです。へぇ、イタリアね。えっ! イタリア?!

 「ACOD」は現在でも変わらないギリシアの半島や諸島が舞台となっていますが、地図を見てみるとシラクサはがっつりイタリアにあります。シラクサは確かに古代ギリシアの都市の1つだったようですが、今のギリシアから見るとイオニア海を挟んで反対側にあって、そもそもの場所がまったく違うんですね。「ACOD」に「走れメロス」の街、出てこないんかい……。

 というわけでさっそくの挫折を味わうと共に、目指していた「『走れメロス』の完全再現」から「『走れメロス』の雰囲気を再現」と企画がグレードダウンし、「ACOD」の様々な場所からシーンを拝借する方針へと切り替わりました。同じ古代ギリシアですから、そんなに間違いはないはず……。むしろ寓話に近い物語ですから、古代ギリシアのイデア(本来あるべき理想の姿)ということでどうか1つ!

 気を取り直して、本文の描写に戻ります。場面はシラクサの市の続き。「もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい」。シラクサは夜だったんですね。しかもひっそりしている。ということで、古代ギリシア最大の都市「アテナイ」の市場にて、そんな場面を狙ってみました。

“歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。”

 作業をしていて何より驚いたのは、「走れメロス」のイメージがどんどんアップデートされることです。「ACOD」における古代ギリシア世界のおかげで、今までモヤッとしてた物語の場面がより具体的に想像できます。太宰治がこのような場所を想定していたかどうかは別にして、「史実に照らし合わせるなら『走れメロス』はこんな雰囲気」という1つの勉強をしたような気持ちになります。これ、面白いですね!

 だんだん盛り上がってきた気持ちと共に、撮影のコツも掴んできましたので、このまま続けていきたいと思います。続いて、メロスが「邪智暴虐の王」ことディオニスの王城へ無策で乗り込んで、そのまま警吏に捕まる場面。

“聞いて、メロスは激怒した。「呆れた王だ。生かして置けぬ。」メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。”
メロスの友人セリヌンティウス(のイメージ)。「ACOD」には装備の売買やアップグレードをしてくれる石工がいますので、配役としてはバッチリです。こういう方がいきなり捕まって、メロスの代わりとなっていたんですね

 え? 「このメロス、荷物じゃなくて弓矢背負っているじゃねえか」ですって? まったくそのとおりです。撮影では防具や装備を極力外していますが、弓矢だけはどうしても外せないんですね……。では次です。

“セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。”

 王との対話のあと、妹の結婚式を挙げるため街を出たメロス。美しく静かに広がる夜空と、メロスの燃えるような決意が呼応するような、いいシーンに仕上がりました。ここから先は、「走れメロス」的撮影シーンを一気にお見せします。

村での結婚式

“結婚式は、真昼に行われた。”

 メロスが故郷の村へ戻り、妹とお婿さんの家族に無理を言って結婚式を挙げてもらうシーン。ちょうど、結婚式に関するミッションがありました。

“狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。メロスも、満面に喜色を湛え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。”

 結婚式の家で陽気に踊る人たち。ちなみに、小説ではこの時の家の外は豪雨です。

“メロスは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。”

 結婚式後に寝るメロス。藁にイーグルダイブする瞬間を使いました。

濁流を渡るメロス

“メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。”

 シラクサへ向かう道中、目の前に濁流が立ちふさがります。「のた打ち荒れ狂う浪」にはぜんぜん見えないのですが、これは「ACOD」で濁流を見つけられなかったから……。どアップにしてがんばって対応しました。

山賊との遭遇

“山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。”

 第2の試練、山賊(これはアテナイ兵ですけど……)に襲われるメロス。一応、「ACOD」で登場する「棍棒」を持たせています。

疲労困憊のメロス

“ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。”

 疲労により体が言うことを聞かず、眠り込んでしまうメロス。画像のメロスは死んでいるように見えますがそんなことはありません。疲れすぎてふて寝しているだけです。

“その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。”

 束の間の眠りから覚め、水を飲むことで復活するメロス。ここからクライマックス!

走れ! メロス

“野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。”

 「走れメロス」を象徴するシーン。メロスがぐんぐん走っていきます。すべてフォトモードのおかげですが、とても格好いい画像ではないでしょうか。

シラクサへの帰還

“信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。”

 街の人々を突き飛ばしつつ、夢中で走るメロス。小説では、この時ほぼ全裸です。

“「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」メロスは腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。”

 メロスがギリギリで到着した直後、セリヌンティウスとお互いの頬を殴り合う場面。いや、さすがにこんなに激しく殴ってはいないと思いますが。

“ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。”

 全裸のメロスに少女がマントを差し出して、それまで無我夢中だったメロスが裸に恥じ入るというラストシーン。さすがに全裸にはできなかったので、マント(のつもり)を着たあとのイメージです。「緋のマント」って鮮やかで、勇者らしくていいなぁとずっと思っていたのですが、夕陽の下だとせっかくの赤があまり目立たないことに今回初めて気づきました。……ちょっと野暮ですよね。

 というわけで「ACOD」で再現する「走れメロス」、完走です! フォトモードのおかげで、最初に想定していた以上に「走れメロス」を再構築できたと思います。惜しむらくは、ディオニスを場所としても人物としても上手く見立てることができず、王との対話シーンが作れなかったこと。ぜんぶが上手くいくとはハナから思っていませんでしたが、課題として残ってしまったように思います。

 そうは言うものの、個人的には大満足の結果です。今回はスクリーンショットで一致する場面を切り取ってみましたが、「史実に照らし合わせた『走れメロス』の雰囲気」を掴むには、いっそのこと「ACOD」をプレイするのもいいなと思いました。その方が古代ギリシアの全体像がわかりやすいからです。

 街も自然も本当に細かく作り込まれているので、どこに行っても「写真が映える!」と思えましたし、そのおかげでロケ場所を探すこと自体も楽しめました。それとフォトモード。加工機能を駆使して夕焼けの風景を生み出せた時には、心の中でガッツポーズを決めていました。普通のプレイでは見られないような景色が生み出せるのは、フォトモードの奥深いポイントです。古代ギリシアとの組み合わせには、まだまだ可能性を感じます。

 「ACOD」では世界があまりに生き生きとしているので、今や筆者はすっかり古代ギリシアの虜です! 「走れメロス」再現に時間を費やして本編がまったく進んでいないので、これから本格的なプレイを始めたいと思います!