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【SIGGRAPH 2018】悪たれベビーが「Real Time Live!」会場を席巻!!
聴衆の投票で勝者が決まる恒例のリアルタイムCGアワード
2018年8月16日 21:08
SIGGRAPH会期3日目、本年も恒例の「Real Time Live!」が開催された。
「Real Time Live!」は、リアルタイムCGが出場応募条件のイベントで、アワードを競うコンペ形式で行なわれる。プレゼンテーションは、文字通りライブで行うことが求められており、リアルタイムに相応しい趣向になっている。昨年まではCGのオーソリティで構成される審査員の投票で優勝者を決定していたが、今年からは会場に集まった聴衆がSIGGRAPHアプリから投票する形式に改められ、こちらもライブで集計されることになった。
過去の勝者には、Epic Games「A Boy and His Kite」(2015)、Ninja Theory「Hellblade」(2016)、The Mill「Blackbird」(2017)と、大掛かりで派手なライブパフォーマンスが選ばれており、Unreal Engineで実現されているものが独占している状況だ。応募は商業ベースの作品に限られないのだが、予算規模の大きい商業作品が有利なのはやむを得ないところだろう。
本稿では、「Real Time Live!」出場10チームの作品のなかから、特に目を引いたものを3つ紹介していきたい。せっかくのライブ感が冷めぬうちに早速振り返っていこう。
まず最初にご紹介したいのは、Xiaoxiaoniu Creative TechnologiesのXiang Cao氏による「Wonder Painter」だ。何の変哲もないホワイトボードに消えるマーカーでお絵描きをして、モバイルデバイスの「Wonder Painter」アプリから描いたイラストをキャプチャすると、キャプチャしたオブジェクトが立体になって動き出すという、見るからに楽しそうなデモを見せてくれた。
ARジャンルに位置するアプリと言えるが、Google Tangoのようにステレオカメラの視差を利用して、現実の空間をモバイルに撮り込んで、あらかじめ用意しておいた3Dモデルを合成するというものではない。
「Wonder Painter」では、撮影した2Dイラストが瞬時に3Dモデルになって表現されるのだが、2Dイラストには立体的な情報はない。そこで、機械学習済みのAIが、色、形といった特徴から、2Dイラストが何かを判断して、一致する物体になるように奥行きを補い立体化する。さらに物体に相応しいアニメーションを与えて、自由に動き回るのだから驚きだ。楽しい知育アプリに見えて、実のところかなり高度なことをやっているように思える。
実際のデモにおいても、馬が駆け回る、芋虫が這いずる、人型のキャラクターが戦闘待機モーションを続けるといった、それぞれに相応しい動きをみせることが確認できた。
もちろん、2Dイラストの描かれ方からくる立体化には限界はあるようで、むしろ写実的で立体的な投影画法でない方が、いろいろと都合が良いように感じられた。そういう意味でも、画法の学習をしていない素朴な絵を描く子供向けのアプリに合っている。
続いて、興味を引いたのはLevel ExのSam Glassenberg氏らによる外科手術シミュレーション「Gastro Ex」だ。
プレーヤーは消化器科の医師となり、内視鏡を使った消化器手術に挑戦する。小腸、大腸といった消化管が健康な状態だけでなく、びらん、炎症、ポリープといった疾患もかなりリアルに表現されているのは、Level Exが、ゲーム仕立てではあるものの、真面目な医療トレーニングソフトの開発に取り組む会社だからだ。
技術的には、柔軟に伸縮する臓器に対してテッセレーションするソフトボディが、臓器表面の光沢にサブサーフェイススキャッタリングの拡散光が、流れる血液や洗浄液には流体シミュレーションと、リアリティを追求するために、かなりリッチな表現手法が用いられており、非常に良くできている印象だ。
ところが、会場に集まった聴衆からは驚きによる感嘆の声より、ポリープをちぎったり血液が飛び出たりしたときに、大きな笑い声が起こっていた。どうやら、シリアスゲームというより、B級ゾンビ映画のように受け取られていたようだ。国民性の違いなのか、体の内部を切り刻まれ血が吹き出るさまを、タブーに対するブラックユーモアのひとつとして受けとっているのだろうか。
最後に紹介するのは、Kite & LightningのCory Strassburger氏によるiPhone Xを使ったリアルタイムフルボディパフォーマンスキャプチャだ。Xsensのキャプチャスーツに身を包み、全身タイツ状態で現われたStrassburger氏が、プレゼンテーションを行ないながら操るのは、同社のVRコンテンツ「BEBYLON: BATTLE ROYALE」に登場する、いかにも悪そうな顔つきの不良ベビーたちだ。
スピーカーであるStrassburger氏の出で立ちと、悪童ながらあどけなさが残るBEBYLONキャラとのギャップが、もうこれは反則なのである。やっていることは誰しも一目で分かることなので説明はいらない。Strassburger氏がパフォーマンスをするたびに、会場全体から大きな笑い声が巻き起こっていた。
聴衆の大多数はライブパフォーマンスキャプチャの現場風景を見たことがあるはずで、アクターの姿がどんなに滑稽に見えても、シリアスに演技する姿から普段は笑うことはできない。Strassburger氏のおどけたアクションと、それに追従するBEBYLONキャラによって、その抑圧が一気に解放されたように感じられた。
応募作品には、この他にも、「Real Time Live!」常連のEpic GamesからはILMxLABと協業している「Star Wars: Secrets of the Empire」のリアルタイムレイトレースのアニメーションを壇上でライブキャプチャして、すぐさま既存のシークエンスと入れ替えるデモが行なわれた。
またUnity Technologiesからは、「ADAM: Episode 2」のカメラ位置を任意の位置に変更したり、登場キャラクターMirrorのフェイス部分のマテリアルやアニメを制御するパラメータを変更して、それらをリアルタイムでカットシーンに反映するデモを行なった。
加えて、最新技術でも「Book of the Dead」のチームからは、同作の1カットを題材に、実写撮影のカメラや、クレーン、ドリーを模した機器をつかって、あたかも実写撮影のように撮影機材を操作してカットシーンを製作するという、普段ならEpic Gamesがやりそうな大掛かりな舞台装置を用意して実演していた。もしかしたら、今年こそはと、勝ちに来ていたのかもしれない。
冒頭で触れたように、今回の最優秀賞は聴衆の投票によって決まる。今回の最優秀賞は、3つめに紹介したKite & Lightningのライブパフォーマンスキャプチャが獲得した。技術的な見方をすれば、描画にUE4、ボディキャプチャハードにXsens、キャプチャしたデータをリアルタイムでUE4に渡すミドルウェアにはIKINEMAと、ここまでは2016優勝のNinja Theoryによる「Hellblade」と構成はまったく同じだ。
では、違いはというとフェイシャルキャプチャと、コンテンツの中身ということになる。前述したように、iPhone Xでリアルタイムキャプチャができるのかという驚きはあるにはあるが、TrueDepthカメラには赤外線を顔の3万点に照射して、それぞれの位置の変化を観測して顔認証するFace IDとしての機能が標準で備わっていることから実現性のあることにすぐ気づく。TrueDepthカメラを利用するためのSDKもAppleからARkitとして公開されていて、Kite & Lightningはこれを活用して手軽で安価なリアルタイムフェイシャルキャプチャを実現している。
というわけで、Kite & Lightningの優勝を突き詰めて言えば、悪童に大の大人がパフォーマンスをリアルタイムにつけるのが楽しそう、というコンテンツの魅力の勝利であったと言える。ゲーム、映像、VR/AR、ツールと、それぞれのアプリケーションのテーマやゴールは違っても、エンターテイメント志向が強い聴衆が、心から楽しそうだと思えるものが評価された。もちろん、プレゼンテーション自体の巧拙も結果に影響するだろう。
SIGGRAPHの参加者全体が投票権をもった今、以前のように大掛かりな舞台装置を用意できなくても、最優秀賞の輝くチャンスが増えたように感じられた2018年の「Real Time Live!」であった。