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「UE」 ならここまでできる!!セッションのステージでリアルタイムモーキャプを披露
Tim Sweeneyをホスト役に「Unireal Engine」採用タイトルが集結
(2016/3/20 09:32)
GDC3日目となる現地時間の16日、Epic Gamesは、例年通り「State of Unreal」と題した、自社および「Unreal Engine」(以下「UE」)を採用するパートナーの現況をお披露目するセッションを行った。セッション会場となったルーム3001の前には、本セッションを楽しみにしている開発者や関係者が、開場の1時間前から約100名近くは詰めかけており、同社のゲームエンジン「UE」が引き続き高い関心を集めていることを感じさせた。
本セッションでは、同社の共同設立者でレジェンドプログラマとして知られるTim Sweeney氏がホスト役を務め、同社の共同設立者でレジェンドプログラマとして知られるTim Sweeney氏がホスト役を務め、パートナー各社からゲストが次々と登壇して、それぞれの現況を報告するというスタイルで進行した。本稿では、注目のタイトルとテクノロジにポイント絞って本年の「UE」の最新動向としてお伝えしたい。
現地18日現在、すでに先行アクセス可能となっている自社初のMPBAタイトル「PARAGON」のトレーラーをオープニングにTim Sweeney氏が登壇して変わらぬ元気な姿を見せると、会場からは大きな拍手が巻き起こった。Sweeney氏は昨年のGDCより無料化を果たした「UE」が新たに150万人の開発者を獲得していることを報告すると共に、「UE」を採用するタイトルが大きな成果を上げているとした。
特に、「Gears of War」、「BATMAN」、「Tom Clancy's Rainbow Six」等7つのライセンシーが、それぞれ10億米ドル以上の成果を上げている。さらに昨年の「UE」採用成功タイトルとして、CCP Gamesの宇宙戦シューター「EVE: Valkyrie」とGear VR向けVRコンテンツ「EVE: Gunjack」、元EA DICEの開発者によるスタートアップFugitive Gamesの「Into the Stars」、Steamの先行アクセスゲームで一番人気のStudio Wildcardの「ARK: Survival Evolved」、小規模のインディ開発ながら7,000万ドル以上を稼ぎ出したPsyonixの「Rocket League」を紹介した。
「UE」採用タイトルは、これらにとどまらない。これまでの「Unreal Engine」を採用したコンテンツの数々をまとめたラッシュムービーを上演してオープニングを締めくくった。
「Unreal Engine 4」のビジュアル表現力を極限まで引き出した「Hellblade: Senua’s Sacrifice」と「PARAGON」
オープニングに引き続いて、Sweeney氏が「UE」の特徴である、無料からスタート、四半期のセールスが3,000米ドルを超えた時のみロイヤルティ5%の支払い、エンジンのC++ソースコードにフルアクセス可能、スタートアッププロジェクトへの支援プログラムといった項目をおさらいした後、次々とEpicの担当者やゲストが登壇して「Unreal Engine」採用コンテンツを紹介していった。
なかでも、目を引いたタイトルが2つある。ひとつめは、登壇したNinjya TheoryのTameen Antoniades氏によって紹介された同社の「Hellblade: Senua’s Sacrifice」だ。Antoniades氏が、Epic Gamesと協力して開発しているフェイシャルリギングの技術などを解説した後、「Hellblade: Senua’s Sacrifice」のトレーラー“ムービー”が上演された。
「Hellblade: Senua’s Sacrifice」のトレーラー“ムービー”のカットシーンは、映画的で非常に美しい。バイキングの襲撃を受けて悲しみにくれるケルトの女戦士Senuaの心情をよく表現している。実はこのトレーラー、単なる“ムービー”の上演ではなく、実際にアクトレスがステージ上で演技している“ライブ”のフルボディモーションとフェイシャルアニメーションをリアルタイムでキャプチャしていたのだ。トレーラーが、情景描写からSenuaが悲しみにくれるカットに移行すると、舞台の下手にキャプチャスーツ姿のアクトレスが現れ、上演中のカットシーンがあらかじめ撮影されたムービーではないことが分かった。音声もリアルタイムにアクトレスのマイクから拾っているようで、彼女の迫真の演技と相まって、カットシーンは非常に素晴らしいものになっていた。
もうひとつは、同社CTOのKim Libreri氏が紹介した、Epic Games自身が開発するMPBAタイトル「PARAGON」だ。MPBAとは、マルチプレイヤーバトルアリーナの略で、RTSのサブシステムから派生した比較的新しいゲームジャンルである。「PARAGON」のビジュアルは、「Unreal Engine 4」ならではのハイコントラストなもので、光のエフェクトが異形のヒーローたちのシルエットによく映える。
この「PARAGON」のキャラクターたちは、現状、最高峰のフォトリアルな品質で、人間の皮膚の細かいシワやシミ、素肌に対する反射、拡散と透明感、瞳の虹彩による反射、ヘアの質感どれをとっても完璧に近い。Libreri氏によると、生身のアクターを撮影した素材からライトスペーススキャンを行ない、キャラクターに適用しているということだった。こうして作られたキャラクターは、デフォーマブルなブレンドシェイプでフェイシャルアニメーションを行なえるという。コスチュームのシェーダーも革の質感をよく表現していた。
「Hellblade: Senua’s Sacrifice」のライブカットシーンも、「PARAGON」のトレーラームービーも、「UE」が、従来のマチネに代わってUnrealエディタに導入を計画してきた新しいカットシーン製作機能、シーケンサーによるものだ。登壇した同社のディレクターでCinematic ProducerのMichael Gay氏が、シーケンサーを使って、ビデオ編集ソフトのようにタイムラインベースで柔軟にノンリニア編集するプロセスを解説した。このシーケンサーは、複数人で同じカットシーンのシーケンスの共同作業をすることも意識して開発されている。このシーケンサーのお披露目の後、シーケンサーが正式に含まれたUnrealエディタの配布が開始されることが発表された。
未来のUnrealエディタ!VR対応Unrealエディタをソースコードリリース
さらに注目なのは、ゲームそのものではないが「Unreal Editor in VR」の存在だ。Sweeney氏の紹介を受けて登壇した、同社のTechnical DirectorのMike Fricker氏と「Bullet Train」UE4 Development ManagerのNick Penwarden氏が、この革新的なVR開発環境の実演で、未来のゲーム開発の形を見せてくれた。ゲーム開発者たちがVRエディタを使って、ワールド内をウォークスルーしながらアイディアを練り、ディスカッションを深め、そして自身の身体を使って、まるで土木建築現場の作業員のようにコンストラクションを行なう日も、そう遠くないかもしれない。
Penwarden氏が、通常のデスクトップのUnrealエディタからVRモードに切り替えて「Oculus Rift」を装着すると、「Unreal Editor in VR」内に西部劇風のデモワールドが広がる。世界の中にも表示されている両手のTouchコントローラーからは、オレンジ色のレイが前方に向かって伸びている。Touchコントローラーの向きを変え、オレンジのレイがヒットした場所にあるオブジェクトに対して、操作を加えることができる。
Touchコントローラーの別のボタンを押したまま、左右の手で交互に掴んで自分に引き寄せるような動作をすることで、よじ登るようにして自分の位置を変えることができる。Y軸方向の移動も可能で、その結果空中に浮遊することもできる。マウスでのドラッグ操作を3D的に行っているのだが、Penwarden氏が言うようにスパイダーマンをイメージしたほうがわかりやすい。
別のボタンを押しながら、両手を左右に開いた状態から胸のあたりまで近づけると、ズームアウトして、見かけ上ワールドのスケールが縮小方向に変化する。逆に両手を胸のあたりに近づけた状態から両手を離していくとズームインとなり、反対にワールドが拡大方向に変化する。こちらは、スマートフォンやタブレットのピンチ操作をイメージすると分かりやすい。
両手のTouchコントローラーからポップアップさせたUIを操作すると、アセットのリストウィンドウを呼び出すことができ、ウィンドウから掴んだアセットオブジェクトを、放す動作でワールド上に配置することもできる。すでにワールド内に設置されているアセットのインスタンスを作成して、別の場所に配置したり、アセットオブジェクトの位置、向き、スケールは、DCCツールや2DのUnrealエディタでの操作と同様のインターフェイスで操作できる。こちらは、マウスでのドラッグ&ドロップをイメージすると分かりやすい。
ワールド内の空中に、Unrealエディタのサブウィンドウを表示して、任意の位置に配置することもできる。3Dワールド内に浮遊しているウィンドウの中身に対する操作も可能で、ブループリントのノードをつなくといったことも可能のようだ。普段Unrealエディタの2Dウィンドウ内にドッキングさせていたり、デスクトップに分離して配置しているウィンドウが空中に浮遊している様は、見慣れたもののはずなのに、どこか新鮮だ。
本セッションでの「Unreal Editor in VR」のお披露目の最後に、Fricker氏は、この新しいエディタのソースコードをGitHubから入手可能にしたと発表した。現在は、ソースコードのみの配布のため手元でビルドする必要があるが、「Oculus Rift」の開発キットとTouchコントローラがあれば、すぐに試すことができる。バイナリの配布開始は6月に予定されている。
「Unreal Engine」の新機能は、従来のワークフローに革新をもたらすか
まず言えることは、すでに「Unreal Engine」を導入しているプロジェクトでは、従来のマチネで苦労していたカットシーンの製作が、シーケンサーの導入で改善され、生産性の向上が見込めることだ。ただ、シーケンサーの導入以上に、これは未来を変えるな、と筆者が思ったのはライブキャプチャのほうだ。伝統的なストーリーボードに加えて、現在はプレビズを起こして、そのプレビズで十分に検証してから、本番のショットを製作していくという手法が取られている。今後はプレビズはほどほどにして、ボイスのプレスコのように、シナリオの読み込みを行った俳優の演技を、まずは演技をキャプチャしてから、その演技を尊重して周辺のアセットやシーンの情景を構成していく手法の可能性を感じた。
すばやくリアルタイムキャプチャして、直ちにシーンに適用できるようになれば、十分にあり得る手法だろう。すでにキャラクターモデルを、たとえ非人間でも俳優の特徴に似せて造形していく手法はハリウッドでは当たり前に行われているため、アクターの演技をリスペクトする欧米では、アクションに関しても、遅かれ早かれそうなると思われる。
VR対応のUnrealエディタのほうも、常に確認を伴って製作するというエディタとしての本質的な生産性の高さもさることながら、VRファーストパーソン視点で開発者たちが同じシーンを共有しながら情報交換を行えることに意義を感じる。たとえVRゲームでなくとも、ファーストパーソン、サードパーソン等カメラ視点に関わらず、あらゆるゲームで活用する余地はあるように感じた。
これら「Unreal Engine」の開発環境が、ゲームのみならず映像製作のワークフローも改革する可能性があるとは、なんとも楽しみである。