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「サイバーパンク2077」シネマティックアニメーターインタビュー
緻密で猥雑でダークな未来都市、ナイトシティはいかにして作られたか?
2018年6月18日 09:59
E3では「サイバーパンク2077」のデモプレイに続き、CD PROJEKT REDの開発スタッフにインタビューもできた。話を聞いたのは、「サイバーパンク2077」でシネマティックアニメーションを担当するマチェイ・ピエトラス氏。彼は「ウィッチャー3」の本編、およびのエクスパンションでも開発を担当したという。
最初にピエトラス氏に聞いたのは、1990年代のTRPG「サイバーパンク2.0.2.0.」をなぜ今ゲーム化しようと思ったのか、ということだ。「ウィッチャー3」の開発スタッフは、ゲームを発売した後、「次は何をやろうか」という議論を重ねていた。そのなかで皆がかつて「サイバーパンク2.0.2.0.」をプレイしていたことがわかり、これをやろうと思い立ったという。これまでの経験が活かせる題材だと言うのが決定の理由とのことだ。
「サイバーパンク2.0.2.0.」の魅力としてピエトラス氏は舞台となる「ナイトシティ」を挙げた。その街はただのミッションをこなすだけの場所ではなく、沢山の人が様々な思惑を持ち生活している「生きた街」であり、その生命力に魅了されたという。
「ウィッチャー3」はファンタジー世界を正面にとらえた世界観が特徴だった。その世界は、今回のようなサイバーパンク世界とはあまりにかけ離れている。世界の描写の肝となるシネマティックアニメーションを担当するピエトラス氏は、ギャップを感じなかったのだろうか?
ピエトラス氏は「それ以上に1人称視点のチャレンジが大変だった」と語った。1人称視点で見える世界はこれまでのゲーム開発経験とは大きく異なる。しかしそれは歓迎すべきチャレンジだったとコメントした。1人称視点はプレーヤーに強い没入感をもたらす。プレーヤー自身をサイバーパンク世界へ誘うことができる。
主に1990年代に作られた「サイバーパンク2.0.2.0.」が思い描いていた未来と、現代から考えられる未来は違う。「サイバーパンク2.0.2.0.」の世界を再現する場合には、様々なずれが生じるのではないかという質問に対して、ピエトラス氏は「『サイバーパンク2.0.2.0.』はあくまで基本概念であり、私達が作る世界とはまた異なっていきます」と答えた。
「サイバーパンク2.0.2.0.」での世界はあくまでベースにしか過ぎない。世界を作るのは開発スタッフであり、原作から大きく異なる要素を取り入れることも、恐れない。大企業が頂点に君臨し、下層にはサイコギャング達がうごめき、中間層の人々は社会の発展の中で様々な苦しみを抱えて生きている。「サイバーパンク2.0.2.0.」が描いたそのような世界と、現代から考えられる社会の発展などをゲームの中で表現し、人々が織りなすドラマを描いていく。それこそがCD PROJEKT REDが「サイバーパンク2077」でやっていきたいことだという。
自分たちの価値観で世界を作っていく中でも、「初期の時代のサイバーパンクのイメージ」は大事にしていきたいとピエトラス氏は語った。デモでは目を付け替えると視界情報が変わるという描写がされている。銃のグリップ部分に触れる利き手にフィルムを移植すると、視界内で残弾数がわかるようになる。それらの感覚は、直感的に伝わりやすいようにデザインしているとピエトラス氏は語った。
デモプレイを見て感じたのは、「これだけの密度の世界を、本当にオープンワールドとして作れるのか」という事だった。「サイバーパンク2077」の世界は非常に緻密で、細かくチェックすればするほど情報量がものすごい。本当にこの緻密な描写で広大なオープンワールドを構成できるのだろうか? しかし最初はその質問の意図が通じなかったようで何度か質問を重ねる結果になってしまった。
しかし今回のインタビューでわかったのは、「ナイトシティは綿密に作り上げられている」ということだ。広大な都市であっても、すべてを1人称視点で体験できるような精巧な街を用意している。「ウィッチャー3」の際は横方向に広大なマップが特徴であったが、「サイバーパンク2077」ではそびえたつ高層ビルのフロアを再現することで、“高さ”の方で広大な空間を作っているとのことだ。ナイトシティ内では車やバイクで高速移動できるのはもちろんのこと、徒歩で1ブロックずつ、裏道の隅々やビルの部屋の中までロードなしで探索することも可能とのことだ。ぜひゲーム内でナイトシティを歩いてみたい。
ちなみにストーリーは「完全オリジナル」とのこと。「サイバーパンク2.0.2.0.」のシナリオを部分的に取り込むことはあるかもしれないが、あくまでそれはベースとして使い、オリジナルの物語を構築していくようだ。「原作はTRPGだが、私達が作っているのはビデオゲーム。「サイバーパンク2.0.2.0.」は世界観のソースとして使っていくが、それらは全く違うものなのです」とピエトラス氏は語った。
とはいえもちろんTRPGのエレメントも多数取り込んでいる。サイバネティックスや乗り物、武器、企業など、緻密に設定された「サイバーパンク2.0.2.0.」の世界はクリエイターの魂をふるわせ、そしてその刺激がビデオゲームである「サイバーパンク2077」で花開いている。
その中でピエトラス氏が個人的にお気に入りのサイバーガジェットは「マンティスブレード」だそうだ。前腕が割れ、中からカマキリの鎌のような武器が飛び出す。ティザートレーラーではこの武器を持つ女性が登場する。ちなみにこの女性はフィギュア化され、E3の展示会場にてプレス向けに配られた。筆者も持って歩いているだけで、色々な人から「それはどこで手に入れたんだ?」と聞かれた。
最後にピエトラス氏は日本版への期待について、「『ウィッチャー3』では私達は日本のファンにとてもサポートしてもらえました。日本のファンは私達を支えてくれました。私は個人的にゲラルトの日本語版の吹き替え声優の声が大好きなんですよ。まるで侍のような声だと感じました。とても合っていると思います。私は日本語はわかりませんが、音声を日本語にして、字幕でゲームをプレイしたほどです。『サイバーパンク2077』でも吹き替え音声には期待しています」と日本語版への期待を語った。
改めて「サイバーパンク2077」のスタッフの情熱を実感できたインタビューだった。個人的に筆者はサイバーパンク世界が大好きだ。陰謀渦巻く都市で、己の能力を拡張させ、タフなキャラクターとして巨大都市で生きてみたい。
「ウィッチャー3」の成功は、このかなり尖った世界観を持つゲームを誕生させる土台となった。「サイバーパンク2077」は、サイバーパンク世界を表現した数々のゲームの中でも決定版となるのではないかという期待がある、そしてもちろん、日本語版についても心待ちにしたいと思う。