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「モンスターハンター:ワールド」は一貫したビジョンと練りこまれたコンセプトから生まれた!
世界初公開の“プロトタイプ”をベースに、徳田氏がポイントを解説
2018年3月23日 17:49
「モンスターハンター:ワールド(以下、MHW)」はこれまで築いてきた「モンスターハンター(以下、モンハン)」の世界観はそのままに、「生態系」や「環境」をキーワードにして新たな試みをこれでもか!と盛り込んだ意欲的なタイトルだ。
GDCの4日目にあたる3月22日に行なわれた「'MONSTER HUNTER: WORLD' POSTMORTEM: CONCEPT DESIGN THROUGH PROTOTYPING AND ITERATION」では「『MHW』の振り返り」というセッションタイトルの通り、新たな「モンスターハンター」を目指した「MHW」のコンセプトが改めて紹介されたほか、そのコンセプトを盛り込んだプロトタイプの映像も見ることができた。
プロトタイプが紹介されるのは世界初、しかも「MHW」ディレクターの徳田優也氏がプロトタイプで何を検証したか、というポイントを随時解説しながらの進行ということで、極めて興味深い内容となっていた。
開発段階から一貫した“ビジョン”が「MHW」を創り出した
「MHW」の開発にあたり、"コア"として設定されたのは「アクション」、「マルチプレイ」、そして「繰り返しのプレイ」だ。これは刷新されたアクションやトレーニングモードの存在、「救難信号」によるマルチプレイや、巻き戻しなども可能になった生産システムからも伺える。
また、「MHW」プロデューサーの辻本良三氏は次世代の「モンハン」をコンソールで展開したいということ、日本に限らず世界中のプレーヤーに楽しんで欲しいという想いをビジョンとして掲げた。
こうしたコアとビジョンを軸にした「MHW」には、生態系が存在する世界とそれを実現するためのシームレスなフィールドが用意された。生態系が存在することによってモンスター同士の争いなども発生するようになり、モンスター達がよりリアルな生き物として「モンハン」世界に存在することになったのだ。
さらに、ひと繋ぎとなったフィールドではモンスターを誘導して他のモンスターと鉢合わせさせたり、草に隠れてモンスターをやりすごしたり、あるいはモンスターを罠に嵌めたりといった新たな遊びが楽しめるようになった。
「MHW」のプロトタイプを徳田氏が紹介!
次に紹介されたのは、コンセプトを盛り込んだプロトタイプのプレイ動画だ。これが公開されるのは世界初だということで、極めて貴重な機会だったといえる。動画の大まかな内容としては、「古代樹の森」のベースになったのであろうマップを森から岩、そして崖へとハンターが進んでいき、「アンジャナフ」や更なる大型モンスターと遭遇する……というものであった。
プレイ動画の撮影はそれぞれの要素が上手く働くかどうか、というテストも兼ねていたとのことで、徳田氏は検証のポイントを動画の進行に合わせて解説していった。
初めにポイントとなったのは森に張られた蜘蛛の巣。蜘蛛の巣を払うと蜘蛛が逃げていくシーンが描かれており、フィールドにこうした生き物を沢山配置していって、どれだけ密度の高い生態系を表現できるとかということを検証したのだという。
次に辿り着いた場所では、プレーヤーが持っている導蟲の明かりや生き物が放つ光を元に、暗いところでどれだけの探索感が出せるかという検証を行なったのだという。プロトタイプではスリンガーで光るコケを壁に放ち自分で光源を用意するというシステムも盛り込まれていたが、ゲーム的に遊びにくくなってしまうことや光源周りの技術的な問題があった。そのため、残念ながらこのシステムは削除され、暗所を少々明るくすることで対応することになったのだという。実は徳田氏はこうした暗所の探索は雰囲気があって気に入っているとのことで、これから先いつかまた再び挑戦したいと思っている要素だという。
暗所を抜けると小動物に囲まれた。ここではあえて武器を使わず、環境を利用してどのような展開を作れるかというテーマの元、草むらに身を隠しつつ、刺激を与えると胞子を出す草を利用してモンスターをやりすごした。
小動物をやりすごし、開けた場所にでると、ここで待ち構えるのはアンジャナフ。アンジャナフは木の間をすり抜けながら移動していたが、これはモンスター自身が移動経路を探索して、障害物に引っかからないように移動することを確認するテストとなっていた。従来の移動制御だと引っかかってすぐに動けなくなってしまっていたとのことで、徳田氏はこの姿を始めて見たときは感動すら覚えたのだという。
次はアンジャナフをツタに絡め、ハンターはその体の上に乗る。モンスターに乗れるようになったのは「モンスターハンター4」からだが、「MHW」では乗られたことをモンスターが認識して、色々なところにぶつけてプレーヤーを落とそうとするアクションを取るようになった。それに対してプレーヤーは頭やしっぽなどモンスターの体の上を移動して、モンスターを疲れさせていく。
アンジャナフが倒れて隙を見せると、小型モンスターがアンジャナフに群がっていった。小型モンスターはこれまで敵でしかなかったが、状態によってはハンターの味方になることをここで検証した。
ここまでは「MHW」で新たに用意したエンジンで描画したものであったが、ここから先の展開は既存のフレームワークエンジンを用いたバージョンのプロトタイプの動画を用いて紹介された。前後編ともいえる2本の動画には一目でわかるほど画質に差があり、図らずも「MHW」エンジンの優秀さが浮き彫りになった形だ。
2本目の動画の冒頭、立ち上がったアンジャナフは怒り状態に。狭いところやデコボコした壁なども構わずハンターを追いかけてくるが、これはもちろんモンスターが地形に対応できるかどうかの検証だ。道中ではモンスターの足止めとして「光蟲」を利用する場面もあった。
アンジャナフはハンターに追いつくと、噛みつき、宙に放り投げ、また噛みつく。これはモンスターからの掴み技の検証で、技術的には通信の同期を取らなければならない関係上、非常に難易度の高いアクションだったということだが、徳田氏は「『モンスターハンター』自体がボスとの戦闘が長く続くゲームなので、そこのテンポを変える要素はすごく大事」という観点から、コストをかけてでも対応していったのだという。
ダメージを受けたハンターは、草に隠れてアンジャナフから1度身を隠し、回復薬を飲んだ。エリアを切り替えてHPを回復する、というのは従来シリーズではお馴染みのテクニックだが、今作からはマップがシームレスになったことでそれは不可能になってしまった。そこで、新たに草や木の陰に隠れてモンスターから逃れるという要素を導入したのだという。
一方で、これでずっと隠れていられると、プレーヤーがモンスターの行動を制御して“ハメる”ことができるようになってしまうという懸念があった。そのため、一定時間後にモンスターはプレーヤーが残したにおいを元に周囲の捜索を始めるという仕組みも盛り込まれた。
ちなみに、写真に収めることはできなかったのだが、アンジャナフがプレーヤーを探して木の隙間に顔を突っ込んでくるシーンでは、木にくっついていたヤモリがサッと逃げ出す一幕もあった。ここで徳田氏は「ヤモリの制御までしっかり作っていることに誇りを持っている」とコメントしており、小動物にまで拘って世界を作りこんでいるということを強く感じさせた。
そしてハンターはツタを利用して川へと移動する。もちろんここでは誰もが予想したであろう展開の通り、岩を破壊して解放した水の勢いを利用し、アンジャナフを滝壺に落下させる。アンジャナフは流されている途中もハンターを攻撃しようとしてきており、これにはアンジャナフの持つ攻撃的なキャラクター性を表現する意図があったのだという。
下まで落下すると、そこに現われたのはなんと「ラギアクルス」。実はラギアクルスは首の長い骨格などにより、モーションを新たに作成すると非常にコストがかかるほか、技術的な問題点もあるとのことで、製品版では実装されなかったという経緯がある。
また、ラギアクルスの接近時には地面が隆起していたが、これは接近を知らせる記号としての効果のみならず、地面の特性をモンスターが変えるという検証の一部だったのだという。ラギアクルスそのものの実装は見送られた形だが、地面が隆起する仕組みなどは「ジュラトドス」をはじめ他のモンスターに引き継がれることになった。
そうして現われたラギアクルスはアンジャナフを一蹴。モンスター同士の争いという、「今作で1番大事にしたかった要素」の検証が最後に行なわれた。
こうして動画の解説を終えると、徳田氏は「『モンスターハンター』で1番挑戦的な変更点である、「環境利用」など、武器を使わなくても色んなアクションが展開できるということを最初のプロトタイプとして形にした」のだと説明しPeter氏に後を引き継いだ。Peter氏はこうしたビジョンの設定や、それをプロトタイプとして形にした結果として、「複雑な要素を明確にしないとゴールを理解するのは難しく、これまでの取り組みはクオリティの向上と制作のスピードアップに寄与した」と語り、セッションを締めくくった。