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「ファイナルファンタジーXV」“孤高の写真家”プロンプトの撮影技法が明らかに
ミスショットも楽しさのうち。プロンプトの写真に収められた“もう1つの物語”
2017年3月4日 17:49
GDC 2017では、ディレクター田畑端氏のセッションを皮切りに、「ファイナルファンタジーXV」のセッションが目白押しだった。それぞれのセッションはいずれもテーマ、ジャンルが異なり、「FFXV」というゲームの奥深さ、ポテンシャルの高さを実感させられる格好となったが、本稿では中でもユニークなセッションだったプロンプトの撮影に特化したセッション「Prompto's Facebook: How a Buddy-AI Auto-Snapshots Your Adventure in FFXV」をお届けしたい。
「FFXV」をプレイしていて、誰もが驚くことがある。主要キャラクターのひとり、プロンプトは、自身が持つカメラと、その撮影スキルを駆使して、旅の間の写真を勝手気ままに撮影し、寝る前にそれをノクティスに見せてくれる。十数枚の写真は、素人丸出しのミスショットもあれば、いつのまに撮ったのか記憶にない目線入りの記念写真もあり、中にはハッと驚くほど見事な写真や、自分(ノクティス)が知らなかった他のキャラクター同士の触れあいを納めた貴重な1枚もあったりする。メインストーリーには一切影響を及ぼさない、サブ的な要素だが、プレーヤーはいつしか、プロンプトの写真に収められた“もう1つの物語”に引き込まれていく。プロンプトの写真機能は、もっともっと評価されていい、「FFXV」における中核的要素のひとつと言っても過言ではない。
謎なのはこれはどのようなシステムで実現されているかだ。本セッションはまさにその謎に迫るもので、意外な秘密が明らかになった。まず、このプロンプトの撮影システムは、三宅陽一郎氏率いるAIチームがバディシステム(パーティーAIシステム)の一環として実装しており、担当したのは流ちょうな英語、そして日本語を話すタイ人 パサートウィットヤーカーン・パサート氏。セッション開始前に、三宅氏と共に筆者の元を訪れ、「長いので“サン”と呼んで下さい」と挨拶されたので、以下、サン氏と呼ぶことにする。
繰り返しになるが、プロンプトの撮影システムは、主人公ノクティスと共に旅をする3人の仲間を制御するバディシステムの一環として実装されている。「FFXV」をプレイした方なら誰もが知っているように、「FFXV」はこの旅そのものがゲームにおける重要な目的のひとつになっており、その体験を濃密にするために、行動を共にして一緒に戦うだけでなく、キャンプやクッキング、ドライブ、フィッシュ、ライド(チョコボ)などのバディ独自の共通体験が用意されている。そのひとつがプロンプトの写真だ。
現実世界を振り返ると、仲間と共に撮る写真は楽しいものだ。誰もがそれを見たがるが、実は撮りたがる人はあまりいない。このため、現実世界のパーティーなどでは、専用のカメラマンを雇ったり、信頼の置ける仲間に撮影係をお願いして、パーティーの記憶を写真という形で残す。「FFXV」ではその役をプロンプトが担っているというわけだ。
では、プロンプトはいったいどういう基準で撮影しているのだろうか。というのも、全員が目線を合わせた記念撮影や、ハッとするほどのスーパーショットだけでなく、ミスショットもふんだんに織り交ぜられている。これはどういう判断基準なのか?
まず、撮影基準については、物語の進行上必ず撮られる記念写真があり、そのほかに各エリアの象徴的な背景をバックに、サイドストーリーを喚起させるような写真や、移動中の特定の条件に従って撮られる写真などがある。
サン氏によれば、ミスショットは意図的に入れており、理由は「それが楽しいから」だという。ボスバトルのような、ハイライトシーンでも、スーパーショットが撮れるか、ミスショットになるかはプレーヤーの“運次第”で、4人の記念撮影ですら、NPCの体が邪魔していたりする。サン氏はそういうアクシデントも含めてエンターテインメントだと説明。薄々感づいていたが、プロンプトの大量のミスショットは、バグや実装ミスではなく、確信犯的に行なわれていたわけだ。
撮影のトリガーは、アチーブメント、旅をエンハンスするシーン、ユニークなシーン、そして楽しいシーンの4つで、独自の重み付けでその都度判定され、撮られることもあれば撮られないこともある。つまり、同じようなプレイをしても、遊び手によって、撮られる写真が異なるということになる。
プロンプトがシャッターを切る条件について、もう少し掘り下げていくと、プロンプトのAIが、嬉しいとき、素敵だと感じたとき、興奮したときなどとなっている。嬉しいシーンの代表例が、ポートレイト、ツーショット、共に行動しているシーン、ドライバー、セルフなど。素敵だと感じたシーンは、走っているシーン、チョコボシーン、助手席から見たシーン。そして興奮したシーンは、敵との遭遇、1対1で戦っているシーン、敵と対峙するシーンなど。
先述したように各シーンではミスショットも許容しており、間抜けな表情のカットや、逆光でまともに写ってないカット、余計な人物が写り込んでいるカットなどもすべて受容している。プレーヤーは寝る前にそれらを確認し、それらの偶然の1枚を楽しみ、プロンプトの基準ではなく、自分の基準で残したい写真だけ残しておくことになる。
驚いたのは、このプレーヤーの取捨選択も、プロンプトの撮影に影響を与えているところだ。プロンプト(のAI)は、プレーヤーが任意で選ぶ写真から、その傾向を掴み、それ以降、プレーヤーが好みやすい写真を撮るようになる。相変わらずミスショットはあるわけだが、旅を続けていく間に、徐々にプロンプトの写真に引き込まれていくのは、そうしたAIの技術が活かされているためだ。
そしてときおり、プロンプトの写真を見ている時に、仲間達が会話を交わす。「お前の顔はなんでこんなにデブいの?」(ノクティス)、「デブくないよ、写真がそう見えるだけ」(プロンプト)という他愛のない会話だが、まさに気の合う仲間と旅をしている感覚を楽しむことができる。
サン氏のセッションは、今年から増えた通常の半分となる30分セッションで、駆け足での説明となり、ちょっと消化不良のところもあるが、メインストーリーとはまったく関係のないところで、AIという特殊な要素をフル活用することで、濃厚で彩り豊かなゲーム体験を提供しているところに、比類のない凄さがある。
サン氏は、我々が提供したのは写真ではなく、撮影体験であり、撮られた写真はプレーヤーの情感を呼び覚まし、メインストーリーとは別の物語を展開させることを熱っぽく語ってくれた。「FFXV」を未体験の人はもちろん、すでにクリア済みの人も、プロンプトの写真に注目して遊んでみると、より深い旅が楽しめるかもしれない。筆者ももう少し意識して遊んでみたいと思った次第である。