【特別企画】

【EVO2024】「鉄拳8」最終日は日本・韓国・パキスタン・サウジの四つ巴に!! ネット上に衝撃を与えたパキスタン勢が格ゲーの祭典で再び暴風を巻き起こす

日本VSパキスタンはドラグノフミラー対決!!

グランドファイナル最後の椅子を賭けて戦いへ臨むノビ選手(左)とATIF選手(右)

 Arslan Ash選手の待つグランドファイナルへの最後の切符をかけたルーザーズファイナルはドラグノフをメインで使うノビ選手とATIFの同キャラ対決となった。しかもノビ選手をルーザーズサイドに送った相手はこのATIF選手。リベンジマッチの機会がこの土壇場でやってきたのだ!

 昨日の借りを返したいノビ選手だが、1試合目は2ラウンドまで連取されてしまう。選ばれたステージはINTO THE STRATOSPHERE。マッチポイントになるとフロアが移動し、地面に叩きつける技を当てると追撃ができるギミックが現われる。なんとかこのギミックを活かして大ダメージを与えて逆転の布石にしたいところだが、このギミックを使ってダメージを与えたのはATIF選手。そのまま壁際へ追いやり、逃げ場の少ない地の利を活かしてATIF選手が3ラウンド連取でまず1試合目を獲得した。

EVO Japanではこのステージギミックによって大きく試合が動くことが多かったが、こちらも直近のアップデートにて若干ギミック起動時のダメージが減少された。とはいえ、やはり試合を決めるキーであることには変わりはない

 2試合目の1ラウンド目、ノビ選手の苦しい展開が続くが、なんとかリーサル圏内まで体力を奪うことに成功し後半でATIF選手に壁を背負わせ、中・下段択の2択を通すチャンスが到来する。壁があるため中段攻撃がヒットすれば壁コンボで倒しきりができるためか、裏をかいて下段択を選択するが、ここでATIF選手は下段ガードを選択。期待値で考えればミスしてもラウンドを落とさない下段択は諦めて、ワンミスで敗北になる中段攻撃をガードしていたいものだが、ここの判断力は恐ろしく感じた。

 そして2ラウンド目ではその逆にATIF選手がノビ選手に壁を長時間背負わせ、同じ様に2択を迫る。こちらはことごとくヒットして2ラウンド連取。最終ラウンドもポジション取りを巧みに行なったATIF選手がノビ選手に強力な壁攻めを行なう時間が長く、最後は1コンボの内に2回壁破壊ギミックのウォールブレイクを発動させるコンボを完走し勝負あり。パキスタン勢は対海外勢に1ラウンドも取らせない圧倒的なリザルトを維持していることにお気づきだろうか……。

 3試合目に選ばれたのはARENA(UNDERGROUND)ステージ、バランス調整前は一瞬で決着がつくステージだったが、こちらもステージギミックのダメージ調整の影響でかつての火薬庫ぶりは若干鳴りを潜めている。

 開幕から対KEISUKE選手戦での風神拳への空振りへ見せた、強烈かつ高速のスカ確定を狙おうとするATIF選手。その攻撃性の高さはAsh選手も一目を置いているほどで、その猛攻に基礎的な防御テクニックで攻撃をかわすことが多いノビ選手がたまらずパワークラッシュ技を用いるという大変珍しい光景が1ラウンド目から見られた。しかも、これも冷静にガードし、確定反撃の投げ技までミスなくこなす精密さを披露。

 2ラウンド目もATIF選手が位置取り、スカ確ともに高精度でこなし、再びノビ選手が体制を立て直す為に今度はヒートバーストのパワークラッシュ判定で切り返そうとする。が、ここでも前述のアップデートの影響であるホーミング性能の削除が響き、ATIF選手は冷静に横移動で空振りを誘い、さらにしっかりと浮かせ技で大きな痛手を負わせる。最後もショートアッパー1発止めからの再度ショートアッパーでの中段2択がヒットし、ノビ選手のピンチが続く。

 3ラウンド目も序盤からノビ選手が壁を背負ってしまい絶体絶命かと思ったが、ここで渾身の右投げが決まる。

全キャラクターが共通で使用できる通常右投げ(右パンチ+右キック同時押し)は、投げ抜けは容易に行なえるためガードを崩す手段としては弱い。しかし、ヒットまたは投げ抜けをしたばあいキャラクターの向きが入れ替わる。これによりノビ選手は壁際から逃れることに成功。古典的なテクニックで操作も簡単だが、ポジション取りの駆け引きとして参考になるテクニックだ

 壁際の読み合いを「回す」ことで体制を立て直すことに成功したノビ選手だが、その後もATIF選手の多彩なラッシュを捌き切るのは困難で、体力差が大きく開いてしまう。最後は下段削りのシャープナーに被弾してしまい日本のラストサムライは惜しくも姿を消した。

パキスタン勢のワン・ツーフィニッシュ確定! 連覇のAshか、初参戦&初優勝のATIFか

 グランドファイナルはウィナーズファイナルと同じArslan Ash選手(ウィナーズ側)とATIF選手(ルーザーズ側)の組み合わせとなった。Ash選手は引き続きニーナを、ATIF選手はドラグノフを使用する。Ash選手が優勝すれば昨年の「鉄拳7」部門に続いての2連覇、ATIF選手が優勝すればEVO初挑戦で初優勝というどちらにしても大きな歴史が刻まれることになるカードだ!

 1試合目、1ラウンド目はAsh選手も認める攻めが巧みなATIF選手が攻め込んでいくが、なぜか体力はATIF選手のほうが減っていくという奇妙な光景を目にすることになった。そしてそのままAsh選手が1ラウンド目を先制か? と思ったところでATIF選手の渾身のヒートスマッシュがAsh選手のニーナが行なったヒートバーストを貫通し逆転! ニーナの体力は何を被弾してもKOになるまで減少するが、体力が減ったことで攻撃力アップのレイジ状態でドラグノフを猛追する。しかしそこで削り技として使えるローキックが刺さりATIF選手がギリギリの1ラウンド目を制す。

 2ラウンド目では勢いそのままにドラグノフが攻めるか? と思ったところで忘れたころにヒットするのが本日何度目かのニーナのレッグスイープ。これで勢いを取り戻しラウンドも1-1へ。3ラウンド目は体力がほぼ同じペースで減っていくシーソーゲームだったが、これも本日何度も見たヒートバーストへ横移動からのスカ確定反撃によってATIF選手が勢いを盛り返し、2本連取。1試合目はATIF選手が獲得した。

 2試合目は本日の「鉄拳8」部門では珍しい非常にステージ幅が広く、壁やギミックを活かしにくいCOLISEUM OF FATEステージがランダムセレクトで選ばれた。

 そのためか壁を押し付ける戦い方を得意としていた両選手だが、比較的静かな立ち上がり。小技を使って少しづつダメージを奪い合う対戦となった。ウィナーズファイナルで両者が戦ったときは1試合中3回もパーフェクト決着が発生したとは思えないやや静かめの対戦は、Ash選手が勝利し、スコアを1-1に戻す。

 3試合目はDESCENT INTO SUBCONSCIOUSステージ。EVO Japanではその狭さ、ギミックの発生しやすさから攻めるプレイヤーが多いイメージで、苛烈な攻めでここまで勝ち上がってきた両者ならそういう試合展開になるのかなと戦前は予想していた。

 が、意外にもここでは先程の試合と同じような細かい削り合いが頻発。お互いに手数の多い技や、横移動による様子見をする時間が長く、今大会の最終決戦にしてようやくタイムカウント1桁での決着が見られた。

大幅アップデートにて、やや火力を抑え気味の調整が多く施されたが、それでも本作のテーマが「アグレッシブ」であり、強気に攻めるゲーム性であることは変わりない。そしてここまで強力な攻めや、防御から大ダメージを取ることに長けていた両者が、ここまでの長期戦を行なうとは思わなかった

 残り1カウントでのせめぎあいを制したAsh選手は次のラウンドではついに床を破壊してダメージを伸ばすハードフロアブレイクを発生させ、そこからの丁寧な体力の削りを行いラウンドを連取。優勝まで後1勝となった!

 いよいよ後がなくなったATIF選手だが、ここでキャラ選択画面で異変が起こる。ここで今まで投入していなかったキャラクター、フェン・ウェイを使用したのだ。

 今回活躍していたドラグノフに比べると攻撃性能は劣るが、RAEF選手が使用していた風間仁のように、相手の攻撃を受け流して攻撃したり、軸をずらしながら攻撃する技を持っているので、手数の多いニーナへはドラグノフよりも効果的だろうという判断と思われる。

 この判断が上手く機能し、2ラウンドを連取、ニーナの細かい攻めへ対応しつつ、Ash選手自体は今まで戦っていたドラグノフとは違う動きへの切り替えを強いられることになった。

フェンの強さを支える技の1つ、撲面掌。発生が速く、カウンターヒットで大きなリターンが得られる。この技の性能がニーナの主力技であるアパストに対して抑止力として働いていた

 撲面掌が機能した結果、ニーナは戦い方を変更せざるを得なくなり、フェンが確実にニーナの体力を奪っていく。そして3ラウンド目終盤、今まで神がかったヒット率を誇っていた渾身のレッグスイープを放つも、ここはATIF選手が冷静にガードし空中コンボを絡めた反撃で勝負あり。リセットか、優勝か? 大きな分岐点となる5試合目へ突入した。

 5試合目も不思議な現象から始まった。今大会は「鉄拳ワールドツアー」ルールに準じているため、各試合ごとにステージはランダムセレクトで決定される。そして選ばれたステージは先程と同じREBEL HANGARステージだった。ランダムセレクトで同じステージが選択されることは非常に稀だろう。同じ条件での連戦となれば、先程の試合展開と同じイメージが筆者の中に浮かび、ATIF選手がリセットを達成する期待が高まった。

 1ラウンド目は前の試合のイメージ通りATIF選手が素早く先取。2ラウンド目もフェンの技相性を生かした攻めを展開し優位に試合を進めるが、後半でニーナのコンボによってステージギミックが作動、それにより大きなダメージを負ってAsh選手がラウンドを取り返す。ここからリズムを取り戻したのか、Ash選手は撲面掌への対策を行ないだす。今までは撲面掌を被弾するタイミングで動かず様子見を行ない、撲面掌の空振りのスキに反撃を行なうことで形勢を逆転、優勝まで後1ラウンドとなった!

 ラウンド4ではATIF選手もプレッシャーに負けず冷静に戦術変更、撲面掌に頼らず、他の技を用いてニーナの戦術を突き崩したその結果、しっかりと大幅な体力リードを奪う。しかしここでウィナーズファイナルの大逆転劇の再来と言わんばかりに土俵際の強さを見せニーナが追い上げていく。そしてとうとう1撃でKO圏内となったフェンだが、ここで削りの下段を見越した下段さばきが炸裂、コンボによってダメージを奪いつつ、ニーナは壁を背負う理想的な状況へ持ち込む!

 最後の大勝負でATIF選手が下段・上段の連携を放つが、その連携は空を切ってしまった。そこを逃さず立ち途中攻撃で反撃し、激戦に終止符が打たれ優勝したのはパキスタン出身のArslan Ash選に! 彼はEVO出場7回中5回優勝、「鉄拳」部門2連覇、EVO平均順位1.25位という驚異的な記録を打ち立てたのだった。

同国のライバル対決をウィナーズファイナルに続けて制した瞬間、喜びを大爆発させるArslan Ash選手

大会の喜びも束の間、新たな衝撃も

 EVO Japanからの3カ月で、「鉄拳」の競技シーンは大きく様変わりしたと筆者は考える。本文中でも述べたが、大きなゲームバランスの変更が行なわれたためだ。例えばあまりにもシンプルかつ強力な戦術で席巻していたキャラクター達の弱体化調整である(新キャラクターのアズセナ、ヴィクターがその具体例)。当然、逆に「鉄拳8」の新たな楽しみが得られるよう強化されたリロイのようなキャラクターも多数存在する。また、ダメージを減らすことで駆け引きの回数を増やしたり、ヒートバーストの性能が変化したりなど。この様に一見防御的な方向性に舵取りを取ったようには見えるが、やはり今作のコンセプトは「アグレッシブ」である。それは今回のTOP6での激闘の様子で一目瞭然だろう。

 「鉄拳8」の発売以降はこのような大きなテコ入れが頻発していたが、これからは重篤な状況でない限りそのようなことは控えることが開発側からアナウンスされている。つまり、ここからは熟成を経る期間だと筆者は考える。

 今回の結果だけを見ればパキスタンの1強状態にも思えるが、日本、韓国、米国のような鉄拳王国、猛者鉄拳プレイヤー達が黙って指をくわえているとは思えない。まだまだ「鉄拳8」のシーンは始まったばかり。間違いなく反撃の狼煙は上がるはずだ。

TOP6残留の暁には何かパフォーマンスをするとX(旧ツイッター)にてポストしていたノビ選手。普段キャラクターカスタマイズでお気に入りの着せ替えパーツである食パンで登場するとはエンターテイナーである。余談だが、日本のKEISUKE選手も先日の大規模大会で三島家の高等テクニックであるステステをリアルで披露して大会を盛り上げる入場を行なっている。プレイ以外にも価値を生み出せる選手の登場にも期待したい

 ちなみに、「鉄拳8」TOP6の開催前には、「鉄拳7」のストーリーでとうとう死亡したと言われていた三島平八の復活が発表された。ゲーム本編のストーリーにおいて三島一族の戦いがまだまだ続きを予感させるように、プレイヤーたちの大喧嘩も終わりはない!!