【特別企画】

コタケクリエイトの新たなチャレンジ!「8番のりば」プレイレポート

大旋風を巻き起こした「8番出口」を超えるホラー体験と新感覚のゲームフィール

【8番のりば】

5月31日 発売

価格:470円

 「8番出口」で一大ブームを巻き起こしたコタケクリエイトが放つ新作「8番のりば」。

 コタケクリエイトによる前作「8番出口」は、地下通路を歩きながら"異変"を見つけるという斬新なゲームシステムが話題となった作品で、一方5月31日に発売された本作「8番のりば」は電車の中が舞台。いずれもホラー要素を含む“ウォーキングシミュレーター”であり、最終的に脱出を目指すのは同じだが、ゲーム性は少し異なっている。

 「8番出口」はそのシステムの新しさやゲームそのものの面白さから多くのフォロワー作品を生み出した。作者自身がフォロワー作を”全く同じ場所やシステムでない限り”公認していたことも大きく、「8番出口ライク」というジャンルを作り出したのはひとつの大きな功績だったと言えるだろう。

コタケクリエイトの前作「8番出口」

 「8番のりば」は前作と似ている部分はあれど、直接的で過激になった恐怖体験や新たなゲームシステムにより、いい意味で前作のプレーヤーを裏切る作品に仕上がっている。一ジャンルの創設者とも言える作者自身が過去作の模倣にとどまらず、あえて変化を入れてきたというのは大きなポイントだと言えるだろう。

 今回はそんな本作の魅力についてお届けしていく。なお、本稿では「8番出口」及び「8番のりば」の一部異変についてのネタバレを含んでいるため、ご注意いただきたい。

【8番出口の続編「8番のりば」トレーラー】

無限に続く電車の中から脱出するべく、多くの異変を乗り越えていく

 「8番のりば」の舞台となるのは、まるで無限に続いているかのような電車の車内で、電車内を進んでいくと、窓ガラスが突然割れたり、人の形をした正体不明の何かが現われたり……と様々な異変が起こる。プレーヤーはそれらをやりすごしたり、時には立ち向かいながら、この不気味な電車からの脱出を目指す。

 本作のベースは前作と同じウォーキングシミュレーターだが、異変への対処が大きく異なる。「8番出口」では“異変を見つけたら戻る”という大前提があったのに対し、「8番のりば」では基本的には起きた異変に対して何らかのアクションを起こさなければならない。この要素が前作とは異なるゲーム体験を生み出していおり、ここが何より新鮮だった。

 電車内は電気はついているので暗くはないが、どこまでも続くようにも思われる車両が生み出す独特の閉塞感がプレーヤーを不安に陥れる。前作「8番出口」の地下通路とは異なる雰囲気で、この表現は本作のポイントのひとつと言えるだろう。

 また、前作のプレーヤーなら異変を感じたら前の車両に戻ろうとすると思うが、本作では基本的に前の車両に戻るためのドアは開かないようになっている。「どう見ても異変があるのに戻れない」という焦りは、前作のプレーヤーなら特に強く感じる部分だと思う。

 閉鎖空間での恐怖体験という点では共通しているが、「8番出口」と比べると「8番のりば」はよりダイレクトなホラー表現が特徴だ。「8番出口」では一般的に”やや怖い”と思われる演出はあれど、看板の文字が変わっていたり、通気口から液体のようなものがツーっと流れてくるなど、直接的なホラー要素が薄い異変も多かった。しかし、「8番のりば」では、突然車両にベタベタと手形が現われたり、明らかに人ならざる存在が立ち塞がったりと、直接的な恐怖を煽る演出が多数登場する。

突然、車両内にベタベタと手形が現われる。お化け屋敷的な演出とも言える
明らかに人ならざる存在も現われる。関わらない方が身のためだろう

 作中には様々な演出が用いられており、プレーヤーの恐怖心を効果的に煽る点は本当によく考えられていると感じた。「8番出口」は異変があるかもしれないし、ないかもしれない、という疑心暗鬼な感覚と、異変を探すために集中して周囲を見ているとドキッとする演出があるという仕組みでプレーヤーの精神力をジリジリと削っていく作品だった。今作においてはより身の危険を感じるような、ホラー要素が強い演出の数々が盛り込まれており、そこが「8番出口」とは異なる体験を味わわせてくれる。

 一方でもはやお馴染みのキャラクターになったおじさんによるホラー演出はなくてはならない存在だと思うし、作中で現われる車両が突然傾き始めるような異変は、直接的なホラー演出ではないものの、プレーヤーに予測不能な状況を突きつけて戸惑わせる表現として秀逸だ。数多くの異変が発生するのは本作にも共通する楽しさであり、怖いのがわかっていながら他の異変を見たくなる、というのは前作から変わらない本作の面白さでもある。

 中でも特に印象に残ったのは、「作中に掲示されている広告やポスターにも異変が発生する」ということ。本作では制作中からゲーム内に登場する広告を募集しており、それに応じた実在の企業や団体による広告やポスターが登場する。「流石にそこに異変を仕込むことはできないのだろう」と思っていたのだが全くそんなことはなく、広告も容赦なく異変の一部として取り込んでいるのが面白かった。

 なお、本作においてひとつポイントとなるのは電車内ならではの電光掲示板。ここに表示される文字が、異変を乗り越えるためのヒントになることもある。例えば「(ドアを)開けるな」というヒントが表示されていたりするので、詰まったときはまず電光掲示板を見てみる、というのも重要だ。

”目”が特徴的な広告が異変に変わるケースもあった。かなりビックリする
ちなみに1度ゲームをクリアすると残りの異変の数が表示される。当然のように全てを見てみたくなる

「『8番出口』らしさは残しつつ、別のゲーム性で楽しめる」と語るチャレンジ作

 作者は本作について「本作は8番出口の続編ですが、8番出口のような異変探しゲームではありません。全く異変を探さない訳では無いのですが、8番出口らしさも残しつつ、別のゲーム性で楽しめる物になっています。」とポストしていた。

 この発言からわかるように「8番のりば」は前作の異変がキーになるというゲーム性を継承しつつも、新たな方向性を目指した作品であり、前作が大きな人気を博した中、あえて新しいゲーム性にチャレンジしている。「8番のりば」は「8番出口」で確立されたゲーム性のユニークさやホラー的な雰囲気を発展させ、前作のエッセンスを継承しながらも、新たなプレイ体験をプレーヤーに提供する野心作とも言えるだろう。なお、作者は「このシリーズはもう満足したので続編を作らない」とも話している。

わかりやすく、ホラー感が強い演出を多く盛り込んでいるのは「8番のりば」と「8番出口」の大きな差である

 「8番のりば」は、確かに「8番出口」とは違う作品だ。前作のような「異変があるかもしれないし、ないかもしれない」というヒリヒリとした感覚は薄れている一方で、直接的なホラー表現やジャンプスケア要素が追加されたことでプレイ体験は大きく異なるものになっている。「8番出口」ファンはもちろん、ホラーゲームファン、そして多くのゲーマーに体験してもらいたい、ユニークなプレイフィールが楽しめる作品に仕上がっているので、是非プレイしてみてほしい。

 ちなみに、「8番のりば」には「8番出口」を繋ぐ要素も存在しているので、前作のファンはニヤリとできることだろう。