【特別企画】

東海理化、初のゲーミングギア「ZENAIM KEYBOARD」詳報

東プレREALFORCEに続く純国産“無接点”キーボード。その真価はいかに!?

【ZENAIM KEYBOARD】

5月16日発売予定

価格:48,180円

 東海理化は4月27日、都内で「ZENAIM(ゼンエイム)」ローンチイベントを開催し、無接点磁気検知方式を採用したゲーミングキーボード「ZENAIM KEYBOARD(ゼンエイム キーボード)」を5月16日に発売することを明らかにした。価格は48,180円。会場では実機に触れることができたのでインプレッションをお届けしたい。

【WITH HARAJUKU HALL】
発表会場となったWITH HARAJUKU HALL

新ゲーミングブランド「ZENAIM」最初のプロダクトはゲーミングキーボード

 ZENAIM KEYBOARDの発表は、日本のゲーミングデバイス界で、久々にゲーマーの心を刺激するものだった。日本のゲーミングデバイス界は、伝統的に欧米勢が強く、ロジクール、Razer、SteelSeries、ZOWIE(BenQ)で市場のあらかたを持っていってしまう。

 キーボードにおいては、自動車部品メーカーの東プレが、同社独自の静電容量無接点で市場を開拓。その代名詞であるREALFORCEは、近年ではゲーミングデバイスとして参入し、海外列強に唯一食い込む存在感を見せている。ZENAIMの発表は、こうした状況下で、幕末の下田に突如現れた黒船のような存在と言える。しかも、それが東プレと同じ自動車部品メーカーというところがおもしろい。

【ZENAIM(ゼンエイム)】

 発表会の口火を切ったのは、東海理化代表取締役社長の二之夕裕美氏。東海理化が、75年前にスイッチを作る小さな町工場からスタートしたことから語り始め、コロナ禍での環境の変化、その変化に適応していくことの必要性を感じ、自社の先端技術を活用した新たな事業を模索していたところ、創業の原点であるスイッチを活用したキーボードに巡り会ったという。

 キーテクノロジーとなるのは、クルマのシフトバイワイヤ(変速機のシフトポジションを電気信号で検出して自動変更する装置)に採用されている磁気センシング技術。これを採用したキースイッチ「ZENAIM KEY SWITCH」を全面採用した世界初のゲーミングキーボードとなる。

東海理化代表取締役社長 二之夕裕美氏

 また、二之夕氏は、同社初となるBtoCビジネスをはじめるにあたり、ZETA DIVISIONをはじめとした多くのメーカーとパートナーシップを交わし、共同開発したことを紹介。VALORANT Champions Tour 2023でLaz選手、crow選手が使用したことを紹介すると、たちまちトレンド入りするなど、早くも協業の手応えを感じているようだった。

【Laz選手が大会で使用】

 さらにZENAIMの将来的な構想も披露した。ZENAIMを東海理化のゲーミングブランドとして確立させ、キーボードのみならず、マウス、マウスパッド、ゲームパッド、ヘッドセット、チェアまで、全方位でゲーミングデバイスを展開していくことを明らかにした。PC系のペリフェラルならともかく、他業種のメーカーがこれほどまでに全力で参入してきたケースは初ではないだろうか。今後の発表が楽しみだ。

【ZENAIMは全方位戦略】

 続いてZENAIMプロジェクトマネージャーの橋本侑季氏が登壇し、ゲーミングブランドZENAIMおよび、ZENAIM KEYBOARDについての説明を行なった。ZENAIMが目指すものは「WELL GAMING」。ひとりひとりにとっての幸福なゲーム体験だという。とは何なのかというと、どこを見渡しても似たようなデザイン、初期不良やすぐに壊れるデバイス、カスタマイズできなかったり設定が面倒くさい、2~3日返事がこないユーザーサポートといった、ユーザー視点で見てのゲーミングデバイスに対する強烈な不満体験が原風景としてあるようだ。

ZENAIMプロジェクトマネージャー 橋本侑季氏

 ZENAIMでは、それらの問題を克服しつつ、プロダクト自体が高性能かつ高品質であること、ソフトウェアは直感的でわかりやすく、なおかつメーカー側がプロダクトを押しつけるのではなく、ユーザーの声をプロダクトやサービスに反映させていくこと。これらをまるっと「幸福なゲーム体験」と定義。その具体的な形の第1弾が「ZENAIM KEYBOARD」というわけだ。

【幸福なゲーム体験】

 その後に展開された橋本氏のプレゼンは非常に刺激的だった。キー押下時の安定性を示すデータを、自社のみならず、A社ハイエンドローエンドプロファイルキーボード、B社ハイエンド光学センサーキーボード、C社ハイエンド磁気センサーキーボードと、コンペティター3社を引き合いに出し、ZENAIM KEY SWITCHの有意性をアピールした。

 A、B、Cと一見ぼかしつつ、それでいてわざわざストローク量の絶対値を入れるなど、ある程度ゲーミングキーボードを知っている人間なら、この3社がどこだかわかるようになっており、A社はロジクール「G913 TKL」、B社は複数の選択肢がありうるがおそらくRazer「Huntsman Tournament Edition」、C社はSteel Series「Apex Pro」だろうか。

【パフォーマンス比較】
なかなか挑戦的な比較図

 A社は、そもそも押下圧が不安定で、押し込みも戻りの押下圧がバラバラ。B社は押し込みと戻りの押下圧に大きな違いがあり、C社は押下圧は安定しているものの、押し込みと戻りに差がある。ZENAIM KEYBOARDは、全面的に押下圧が安定し、押し込みと戻りの荷重が変わらず、「我々がもっとも優秀」というわけだ。

 代表的なテンキーレスキーボードを狙い撃ちしてこの上なくこき下ろし、自社製品を持ち上げる。先人に対するリスペクトもなければ、最後発としての謙虚さもまったく感じられない。この手のやりかたはもともとLogitechやRazerなど欧米メーカーが得意だが、これを日本のメーカーがやることにちょっとしたカルチャーショックを覚えた。近年稀に見る正面玄関からの殴り込みだ。

 発売日は予想よりも早い5月16日。価格は予想よりもかなり高い税別43,800円(税込48,180円)。税別表記は自信のなさの表れのように思えたが、橋本氏は「高い!」という会場の反応は予期していたようで、「世の中のキーボードと比較して高いなと思われるかもしれませんが、ご説明した内容と、実機を体験いただくことでご納得いただけるのではないか」と価格設定に自信を覗かせた。

【価格とスペック】
キーレイアウトは、ローンチ時点では日本語JIS配列のみとなる

圧倒的な剛性の高さと、アクチュエーションポイントのカスタマイズ性能の高さに衝撃

 橋本氏が、先人が長い期間を掛けて作り上げてきた現在のゲーミングデバイス環境に明確な不満を表明し、コンペティターすべてをなぎ倒す勢いでこき下ろすだけあって、確かにプロダクトは素晴らしいものだった。Laz選手、crow選手ら、ZETA DIVISIONのメンバーが完全監修し、何度もリテイクを繰り返し、完全プログレードのデバイスに昇華させたことが橋本氏の自信に繋がっているようだ。

【ZETA DIVISION全面監修】
Laz選手とcrow選手のプロファイルをダウンロードできるサービスも

 まず驚かされるのは、圧倒的な剛性の高さだ。先述したキー押下時の安定性のデータで、ZENAIM以外のデータが悪く見えるのは、キーボードに本来あるべきとされてきた“遊び”を取り入れているからだ。試しに手元のキーボードに触れてみてほしい。キートップに指を置いて左右に力を加えるとぐらぐらするはずだ。スペースキーやエンターキーなど、大きなキーほどぐらつきが大きくなる。これが“遊び”だ。

【まったく遊びのないキースイッチ】
キートップを外したところ

 ところがZENAIM KEYBOARDはその遊びがまったくない。左右に揺すってもぐらつかず、力を加えると、真っ直ぐ押し込まれ、力を抜くと同じテンポで戻ってくる。筆者の手元のデバイスだと、「REALFORCE GX1」がもっとも剛性が高いが、ZENAIM KEYBOARDは、それを遙かに上回る。まるでピアノの鍵盤かのような剛性感で、それでいてストローク量は1.9mmとノートPC並に浅い。「なんだこれは」とつぶやきたくなるような、まるで未来からやってきたデバイスのような異質感がある。

 もうひとつの大きな特徴は、アクチュエーションポイントを0.1mm単位で変更可能なところだ。ここが無接点磁気検知方式を採用したことの最大の凄味で、アクチュエーションポイントが変更できるキーボード自体がまだ珍しく、「REALFORCE GX1」ですら4段階という中で、付属ソフトウェアでさくさく0.1mm単位で変更できるというぶっ飛んだ機能を標準搭載している。

【短いキーストローク】
ロープロファイルキーを採用しているため、もともとキーストロークが短い

 アクチュエーションポイントは、キー入力を判定するまでの深さを設定するもので、原理的に浅ければ浅いほど入力が早くなるが、その分誤動作も発生しやすくなる。このため、トッププロは試行錯誤を繰り返しながら最適なポイントを探るわけだが、ZENAIMならそれが0.1mm刻みで調整できるという。まさに前代未聞の機能だ。

 加えて、本体デザインもよく考えられている。テンキーレス、ロープロファイル、そしてフローティングキーと、日本人好みの要素全部入りだ。本体は触り心地の良いアルミ合金が採用されており、手元は緩やかなカーブが施され、パームレスト要らず。本体サイズはテンキーレスとしてはわずかに大きめの380×139.2×24.5mm。左右に余裕を持て足せているところが特徴となっている。

【良いキーボード】
テンキーレスとしてはわずかに大きめ

 本体重量は、テンキーレスとしてはほぼ最軽量と思われる723g。ロジクールG913 TKLと比較して90gほど軽く、重量感がウリのREALFORCE GX1と比べると600gほど軽い。東プレとは明らかにカルチャーが違うという感じで、持った印象ではちょっと軽すぎてプレイ中にズレてしまうのではないかと思ったが、背面には滑り止めのラバーが手元側に3カ所、奥に3カ所配置されており、角度を変えるための2段階のツメそれぞれにも丁寧にラバーが貼られており、その心配はなさそうだった。キートップ表面にも滑り止め加工が施されており、細かいところまでこだわったプロダクトだった。

【背面】
背面はシンプル
ラバーはグリップ力高め
左右の2段階のツメ、それぞれにラバーが貼られている

 最終的な評価は、実際にプレイフィールや遊び倒した後の耐久性などを見なければ下せないが、ファーストインプレッションは満点といっていい内容だった。気になるのは価格の高さで、製品を触って納得するしないの次元を飛び越えて高い!と思う。質疑応答でも早くもエントリー、ミドルクラスの発売を期待する声も出ていたが、もう少し手軽にZENAIM KEY SWITCHの恩恵を受けられるプロダクトがあっていいように思う。

【高いが……】
将来的にはスイッチ1個単位での交換が可能。と考えれば寿命は延びるが……

 加えて生産量も気になるところだ。キーボードは、ゲーミングプロダクトの中でも、圧倒的に部材が多く、大量生産しにくいプロダクトだ。ZENAIM KEYBOARDは、オリジナルのキースイッチをはじめ、すべてがオリジナル要素ばかりで、初期ロットから大量生産できるとは思えない。発売後、いきなり幻の製品にならないことを願うばかりだ。

 発売前はメディアレビュー用のサンプルも用意せず、一般向けのタッチポイントも用意しないという。そういう意味では、ほとんどのゲーマーは、未体験かつレビュー記事に触れる機会がないまま発売が開始されることになる。この状況はちょっと寂しいところだが、リリース後はキャラバンも実施していくという。機会があればぜひ一度トライしてみてほしい新世代のゲーミングデバイスだ。

【第2のプロダクトは何になるか?】
デモ機ではZENAIM KEYBOARDにロジクールのマウスとマウスパッドが添えられていた。すべてをZENAIMで揃えられる日はいつになるだろうか

(4月28日)記事の一部に修正を加えました