【特別企画】
秋田の映画館で大画面のスクリーンに映る「アマガミ」のアノ娘に恋をした
目に迫る大スクリーン、息遣いまで聞こえてくる音響。映画館でプレイするゲームは最高だ!
2020年11月20日 00:00
少しでも大きなスクリーンでゲームをプレイしたい――というのは多くのゲーマーが望んでいることのひとつだろう。ホームシアターやプロジェクターを使ったり、ヘッドマウントディスプレイで擬似的な大画面を楽しむゲームファンがいる。
そんな中でも究極とも言える形なのが「映画館」でのゲームプレイだ。一度でいいからやってみたい、そう考えるのは筆者だけではないはずだ。それを成し遂げたあるゲームファンがいる。それが今回の記事に登場する松村直樹さんだ。
秋田県大館市にある東北で唯一の単館常設の映画館「御成座」の存亡をかけたクラウドファンディングに用意されていたリターンの1つ、「御成座を個人貸館できる権利(1日分)」を使い松村さんは秋田にある映画館「御成座」を1日貸し切った。
そして約8時間ほど甘酸っぱい学生生活を送り、そして「桜井梨穂子」と結ばれた。……そうこれはゲーム「アマガミ」の話である。
「アマガミ」は2009年3月19日にエンターブレインより発売されたPS2用恋愛シミュレーションゲーム。「トゥルー・ラブストーリー」や「キミキス」のスタッフが開発に携わっている。またテレビアニメ版も放映されるなど当時人気だった作品だ。
映画館の貸し切り、そしてプレイするのは2009年のゲーム「アマガミ」。こんなにも興味深い企画はないと思い筆者も本企画に同行した。その始終のレポートをお届けしよう。
クラウドファンディングをきっかけに映画館を1日貸し切り
松村さんはどうやって東北の映画館を貸し切ったのか。それには今回の舞台になった映画館の歴史から語る必要がある。
今回の舞台になったのは秋田県大館市にある東北で唯一の単館常設の映画館「御成座」。1952年(昭和27年)に洋画専門のロードショウ館として開館するも、3年後の1955年に火災により焼失。同年に再建され2005年に閉館するまで、50年余り市民の映画館として親しまれてきた。
そこから約9年後、映画館と知らずに賃貸の住居として借りた切替桂さん一家によって、2014年に復活することになる。こじんまりとした建物に、圧倒的な存在感を感じる絵看板、昭和レトロを感じる内装など、強烈な個性をアピールする映画館だ。
今ももちろん映画館として営業していて、取材に行った時は「風の谷のナウシカ」と「ゲド戦記」を上映していた。取材の翌日に「風の谷のナウシカ」を劇場で鑑賞したのだが、家のテレビで観るのとは違う、大画面だからこそわかる細かな描写や、映画館の音響だから感じる迫力を満喫してきた。
そして今回の企画は御成座の存亡をかけたクラウドファンディングから始まった。
賃貸として借りていた切替さんだが、物件を買い取らなければ更地にされるという通告を受ける。そこで実施したのがクラウドファンディングだ。そして支援のリターンの1つにあったのが「5万円で御成座にて個人貸館できる権利(1日分)」。元々御成座のことを知っていた松村さんはこのクラウドファンディングを見つけ、「それが映画館の応援になるなら」と残り1つだったこの権利を獲得した。
だが松村さんも最初から映画館でゲームをしようとは考えていなかったのだという。「貸し切って何をしようか1カ月くらい悩んでいました。DVDのBOXを持ち込んでひたすら観ようとも思ったり、映画やアニメを観ようか、それともゲームをやろうかという感じで……。最初の頃はDVDを持ち込んで映画を観ようと思っていたのですが、それだと一般的で食指が動かない気持ちでした」と話す。
そこで映画館の使われ方としてはユニークな映画館でのゲームプレイに決めた松村さんだが、プレイするジャンルやタイトルはさらにかなり悩んだのだという。「借りると言っても24時間借りれるわけでもなく(※今回は1日=9時間分)、その時間の中で始めて終えることができ、その時間飽きることがない……」。数あるゲームの中からプレイ時間やプレイ経験などを考えた結果、たどり着いたのが“恋愛シミュレーション「アマガミ」”だ。
ちなみに「アマガミ」はプレイ経験はあるものの、ハッピーエンドにたどり着いた経験はなかったのだという。つまりぶっつけ本番、映画館を貸し切ったこの数時間でゲームスタートからハッピーエンドにたどり着けるのか。そういった挑戦の側面も持っていた。
スクリーンに映る彼女にドギマギ。無限の可能性を秘めた映画館ゲーミング
実際に映画館でゲームをプレイしている様子を見させてもらったのだが、一言で言うと想像以上だった。
まずは文字通りの大画面に目を奪われる。4m×9mの大スクリーンの迫力には文字通りに圧倒された。これまで筆者が体験したことがあるのは家庭用のプロジェクターや、ヘッドマウントディスプレイ、イベント会場などにある巨大モニターなどだが、そのどれとも違った極上の体験だった。
4m×9mの大スクリーンは擬似的なものでは体験できない圧倒的な迫力がある。また映画館用のプロジェクターの映写はクッキリで非常に明るかった。今回の映像ソースはプレイステーション 2でコンポジット端子を使ったため、滲みやボケなどが発生するかと考えていたのだが想像を遥かに超えるクオリティだった。
もう1つがサウンドだ。映画館なので当然なのだが、音響設備も充実している。ホームシアターの大音量、7.1chサラウンドヘッドホン、ノイズキャンセリングイヤフォンなど様々なデバイスがあり、自宅でもクオリティの高いサウンドを楽しむ手段は色々あるが、そのどれとも違う異次元のサウンドだった。無理に音量を上げたり低音を強調しているわけではないナチュラルなサウンド、それでいて細部まで表現する圧倒的に解像度が高い。もちろん映画館なので防音・吸音はしっかりしており、シアター内での不要な反響や、外部からの騒音などもほぼ入ってこない。
今回は恋愛シミュレーションをプレイしたため、ド迫力の爆発音などではなくボイスがメインだ。このボイスを映画館の音響で聞くのが最高だった。大げさな表現ではなく言葉を発するまでの息遣い、具体的にいうとセリフに入る前の「んっ……」という僅かな息使いまで聞こえてくるようだった。
そしてこの最高クラスのゲーム体験を独り占めしている特別感がある。定員200名の映画館を貸し切り、巨大なスクリーンに映っているのはゲーム、そして観客は自分ひとりだけ。ゲーマーにとって極上の贅沢があるならば、その1つは間違いなく映画館を貸し切ってプレイするゲームと言えるだろう。
松村さんも今回の体験を振り返りながら「映像はプロジェクターも比較的安くなっているのでそこそこ大きい映像を楽しむことはできるのですが、キレイで大きな音を出すのは難しいです。また外部からの音が侵入してこないことも大きかったですね。家でプレイしていると外を走る車の音のような騒音が入ってしまうので」と特に音響面での感動が大きかったと語る。
特に今回はボイスが多い恋愛シミュレーションだったことから「特に声優さんの声にこだわりがあれば良いものになると思いますね。この立体感はイヤフォンなどでは再現できないものだなと体感しました」と話してくれた。
今回同行してみて、映画館という極上の空間でゲームをプレイするという喜びを強く感じた。個人的にもこの映像、そして音響でプレイしてみたいタイトルは色々ある。王道なのはパーティ系のゲームだろうか。特に超大画面なので「ボンバーマン」シリーズなどとの相性も良さそうだ。
FPSは画面が大きすぎて酔いそうな気もするが、TPSならその辺りの問題もクリアできそうだ。特にこの音響で戦場のど真ん中に飛び込むと、現実以上のリアルを感じられそうな期待もある。素直に音響の良さを生かして音ゲーをやってもいいし……ととにかく妄想が膨らむ。
松村さんの選んだ「恋愛シミュレーション」も相性という意味ではかなりのものだ。大画面に映るキャラクターたちの姿、そこに澄んだ音が出る音響でフルボイスを堪能する。筆者自身も以前はそこそこに恋愛シミュレーションをプレイしていたので、今更ドキドキすることもないと思っていたのだが、かなり心を揺さぶられてしまった。映画館でプレイする恋愛シミュレーション、素直に最高です。
そして「御成座」という映画館の魅力だ。令和の時代に残る昭和レトロの香り。圧倒的な存在がある絵看板もその魅力を彩る。御成座の絵看板を手掛ける仲谷政信さんは大館市の出身。「昔は恋人たちが映画を観に行くデートスポットだったんですよ」と話す。そういった地元の人に愛され親しまれてきた大切な場所が、別の形でまた大切な場所になっているというのはとても素敵な話だ。
なおクラウドファンディングはすでに終了しているが御成座では個人貸館なども実施しており、最安で2時間2,100円から映画館のスクリーンで映像作品などを楽しむことができる。今回はPS2を接続したがHDMIでの接続も可能なのでPS5やXbox Series X|Sを接続することも可能だ。なお出力解像度は2,048×1,080になっている。映像上映以外にもコスプレの撮影会場などにも使われた実績があり「まずはお気軽に相談してください」と話してくれた。
ぜひ機会があればすべてのゲームファンに体験して欲しい、そう思う貴重な体験だった。1人で大画面を独占する贅沢を満喫しても良いし、気の合う仲間達とクローズドなイベントを開催しても良いだろう。もっと大きな企業単位でのイベントなども可能かもしれない。とにかく映画館でゲームをプレイする体験を感じてほしいのと、昭和レトロあふれる魅力ある映画館「御成座」にぜひ遊びに行ってみて欲しい。ちなみに御成座がある大館市までは東京から電車とバスを乗り継いで約4時間30分ほどで、飛行機や高速バスなどでもアクセスできる。