【特別企画】

Absolute JUPITERが4連覇の快挙達成! 「GGC 2020」観戦レポート

FPS界最注目の大会。同時視聴者数は一時3万人を突破!

8月15~16日開催

 GGCといえば、FPSファンの中では名の知れた、由緒のある大会の一つだ。サードウェーブ主催のもと「GALLERIA GAMEMASTER CUP」として2017年から始まった本大会は、昨年から「GALLERIA GLOBAL CHALLENGE」と名前を変え、国内最高峰の戦いの場としてeスポーツシーンを盛り上げてきた。

 これまでは「CS:GO」を競技種目として採用してきた「GGC」だが、今年の種目は6月にリリースされた新作FPS「VALORANT」だ。あのRiot Gamesが手掛ける「VALORANT」は、今最も勢いがあるFPSタイトルと言っても過言ではなく、「CS:GO」で活躍した数々の名門チームが「VALORANT」への移行を表明しているほどだ。大会の数が少ない昨今ではあるが、その分今大会への注目度も高い。「GGC 2020」は「VALORANTの国内最強チームはどこなんだ?」というFPSファンの疑問を晴らすのに格好の舞台となった。

 招待された16チームから予選を通過し、プレイオフまで駒を進めたAbsolute JUPITER、Lag Gaming、REJECT、CYCLOPS Athelete Gamingの4チーム。リリースされて間もないタイトルでありながらこの4チームの動きは特に洗練されていて、予選では抜群の実力を見せていた。果たして「GGC」初の「VALORANT」王者に輝き、賞金100万円を持ち帰るのはどのチームなのか。

【GALLERIA GLOBAL CHALLENGE 2020】

絶対王者の風格を持つチーム、Absolute JUPITER

 プレイオフ進出チームの中で優勝候補筆頭といえば、やはりAbsolute JUPITERだろう。Absoluteといえば「CS:GO」時代は国内では敵なしと言われていたチームだが、「VALORANT」発表直後から移行を表明し、先日開催された「RAGE VALORANT Japan Invitational」で優勝するなど、その実力は移行後も健在だ。

 そんなAbsoluteだが、実は彼らが最初にその名を世に知らしめた大会は他でもなく「GGC」である。「GGC 2017」の「CS:GO」部門でAbsoluteが優勝して以来、「GGC」のFPS部門は毎年彼らが優勝してきた。「GGC」はAbsoluteの大会、と言っても過言ではないのだ。

 Absoluteにとってタイトルを跨いでの4連覇がかかった今大会だが、彼らの試合を見ているとやはり貫禄を感じさせられる。予選から1MAPも落とすことなくプレイオフへ進んできた彼らだが、やはりその要因は「CS:GO」時代から変わらぬメンバーで編成された5人の優れた連携力にあるだろう。本大会はオンライン開催でありながら彼らの立ち回りには全く隙が無く、相手チームの動きを完全に掌握しているようだった。彼らの連携の中心となっているのはチームリーダーのLaz選手だ。Laz選手の操るサイファーは索敵に長けたエージェントで、Laz選手のカメラに見つかったが最後、Absolute全員に動きがバレてしまうというわけだ。

サイファー

 個人技においてもAbsoluteは非常にレベルが高く、まず目を引くのはReita選手のスナイパー精度だ。「CS:GO」でもAWPer(スナイパー)を務めていたReita選手だが、「VALORANT」でもスナイパーライフル「オペレーター」を使いこなしており、Reita選手がキルをするとチャットには「オペReita」のコメントが溢れた。セミファイナルのLag Gaming戦では、Reita選手がオペレーターで4人抜きするシーンも見られ、その常人離れしたエイム精度をいかんなく見せつけた。防衛でも攻撃でも、Reita選手が狙っている窓からは顔を出せたものではない。

オペレーターで4人抜きするReita選手

 またTakeJ選手のアグレッシブな立ち回りも魅力的だった。TakeJ選手の操るフェニックスは自己回復やフラッシュバンなどのスキルを持つ攻撃的なエージェントで、TakeJ選手はその性能を余すところなく発揮していた。近中距離の打ち合いを得意とするTakeJ選手は、一対多の状況でも前に出る姿勢で相手を圧倒し、TakeJ選手のリプレイはどれもモンタージュ動画さながらの傍若無人ぶりだった。特にTakeJ選手がショットガンを購入したラウンドは驚異的で、同じくセミファイナルの試合ではバッキーでクアドラキルをして見せた場面もあった。

フェニックス
バッキ―で無双後にスパイクを解除するTakeJ選手

 圧倒的な強さを誇ったAbsolute JUPITERは、なんとプレイオフのセミファイナル、ウィナーズファイナルでもLag Gaming、REJECTに対し2MAP連勝を成し遂げ、大会通して1MAPも落とすことなくグランドファイナルへ進出してみせた。視聴者たちの中にはAbsoluteの強さを称えるものもいれば、タイトルが「VALORANT」に替わっても日本のFPSシーンでAbsoluteの右に出るものはいないのか、という一種の絶望を覗かせる者もいた。果たしてグランドファイナルもAbsoluteがストレート勝ちしてしまうのだろうか。

華麗な個人技が特徴のREJECT

 Absolute一強かと思えた中、グランドファイナルで彼らの相手となったのがREJECTだ。REJECTは苦しくもウィナーズファイナルでAbsoluteに負けを期してはいるものの、セミファイナル、ルーザーズファイナルはともにCAG相手にストレート勝ちを決めており、その実力は確かだ。加えて本大会のグランドファイナルはリセットなしということもあり、REJECTが先の敗戦から対策を練っていれば十分に勝ちは見えている。

 REJECTはAbsoluteとは違い、各々の個人技に定評があるチームだ。中心となっているプレーヤーはDep選手、“神の子”の二つ名を持つ、FPS界では名の知れた存在だ。Dep選手はREJECTに加入するまで、数多くのFPSタイトルで実績を残してきた。「Overwatch」では世界大会「Overwatch World Cup 2018」の日本代表に選出され、「PUBG」では日本公式リーグである「PUBG JAPAN SERIES」に出場していた。この活躍ぶりは彼のFPS技術がいかに卓越したものであるかを証明しており、Dep選手はまさにFPSの神に愛された存在なわけである。

 そんなDep選手は今大会ではジェットを使用していた。ジェットはゲーム中屈指の機動力を持ったエージェントで、高所へ登ったり空中を滑空したりできる。空中から鮮やかに敵を倒すプレイングからは、他のFPSで培った経験が感じられた。またジェットのUltはブレイドストームという、ストッピング不要でヘッド一撃の飛び道具を5発得る攻撃的なUltだ。Dep選手はブレイドストームの扱いも人一倍うまく、ウィナーズファイナルではUltを絡めてAbsolute相手にACEを決めてみせた。

ジェット
Dep選手のブレイドストーム

 もちろんDep選手以外のプレーヤーも猛者ぞろいで、今大会で特に活躍していたのはHaReeee選手だ。以前は「CS:GO」プレーヤーとして活動していたHaReee選手だが、特筆すべきは彼のエイム能力だ。スナイパーを持った時の圧力はもちろんのこと、HaReee選手の場合はリボルバーハンドガンであるシェリフの扱いにも非常に長けている。序盤のクレジットが少ないラウンドで採用されるシェリフだが、ウィナーズファイナルの第2ラウンドでは、HaReee選手がシェリフでトリプルキルを決める場面も見られた。スコープなしでヘッドに続々と命中させていくさまは圧巻だ。

HaReee選手のシェリフ

 REJECTとしては、このグランドファイナルはAbsoluteを倒す格好の舞台であり、自分たちの実力を証明するためにも負けられない一戦だ。というのも、REJECTの「VALORANT」部門というのは元々“Absoluteを倒すことを目標に発足されたチーム”なのだ。視聴者の間にも、もしかしたらREJECTがやってくれるかもしれない、「GGC」史上初のAbsolute以外の王者が誕生するかもしれない、そんな希望が湧いていた。

RC代表甲山氏のツイート。REJECTがいかにAbsoluteを意識して作られたチームかが分かる

 ちなみにGGC 2020では、プレイオフラウンドではダブルエリミネーションが採用されているが、グランドファイナルのみリセット無しの一発勝負となっている。理由は最終日はルーザーズ側の試合が連続するため負担が大きすぎるためということで、その代わりウィナーズ側には、マップ選択と陣営選択のアドバンテージを付与する形となっている。

 ただ、FPSは長期戦になるため、流れが決定的に重要だ。IEM(Intel Extreme Masters)の「CS:GO」大会では、予選でルーザーズ落ちして激戦をくぐり抜けたチームが優勝するという例が何度もある。この流れに乗ればREJECTがリベンジを果たす可能性もゼロではない!

【GGC 2020ルール】
グランドファイナルのみリセットなしの一発勝負となっている

第1MAPはREJECTが番狂わせを見せた!

 いざ始まったグランドファイナル第1試合、両チームの編成はほぼ同じで、REJECTのセージとAbsoluteのサイファー以外はミラーだ。試合開始前の下馬評では8割がAbsoluteの勝利を予想する結果になっていたが、ここでREJECTが底力を見せた。防衛スタートでありながら、第1ラウンドのハンドガン戦を制すと、続く第2ラウンドではパーフェクト勝利を見せ、一気にクレジットに差をつける展開を作る。

視聴者による勝敗予想はほとんどがAbsoluteを支持している
お互いのエージェント構成

 ウィナーズファイナルでのREJECTはAbsoluteの速攻に苦戦していたが、グランドファイナルではその敗戦を踏まえ、かなり慎重に立ち回っているようだった。サイトにどっしりと構えるREJECTを前にして、クレジットで後れを取るAbsoluteは攻めのペースを落とさざるを得ない。特筆すべきは第4ラウンド、Absoluteが5体3の状況を作り上手くスパイクを設置したのだが、REJECTは無理に解除にいくことはしなかった。クレジット差を保つため、ラウンドを放棄して次のラウンドまで確実に生き残る選択をとったのだ。こうしたプレイングからも、REJECTの慎重なゲームメイクが感じ取れる。

 Absoluteも所々でReita選手やTakeJ選手の攻めが光り、しっかりラウンドを取得しているのだが、それでも前半戦はREJECTに流れがあった。前半最終ラウンドでは、残り時間40秒まで5対5の状況が続いた後、REJECTのKaminari選手がLaz選手、Crow選手に対しダブルキルを決め、そこで生じた人数差が決めてとなってREJECTが勝利。この時点でラウンドカウントは9-3と、REJECTがAbsoluteに大幅リードするかたちとなった。

Kaminari選手のダブルキル

 後半に入り攻守が逆転しても、依然REJECT有利の展開が続いた。攻めに回ってもREJECTの慎重な姿勢は変わらず、時間をたっぷり使ってAbsoluteの守りが薄いサイトを的確に判断し攻めていた。Absoluteはその連携力からリテイクには定評のあるチームだが、REJECTの勢いもあってか中々上手いようにリテイクできず、気づけばスコアは12-3でREJECTがマッチポイントに到達する展開になっていた。後がなくなったAbsoluteは流れを変えようとReita選手に加えLaz選手もオペレーターを購入しスナイパー2本の構成に切り替える。これが功を奏し2ラウンド返すもスコアは12-5、REJECTがマッチポイントの状況が続く。

 そして迎えた第18ラウンド、序盤にAbsoluteのBarce選手が上手くダブルキルを決め、1対3でAbsolute有利の形成になるも、生き残ったKaminari選手のセージが温存していたUltでDep選手を蘇生した。そこからREJECT側が2対2の状況を作りスパイクを設置、そのまま第1MAPはREJECTが勝利した。下馬評で8割は負を予想したREJECTがまさかの第1MAP先取の展開に、チャットは大いに盛り上がった。

第1試合はREJECTの勝利

オーバータイムまでもつれた第2MAP、しかしAbsolute JUPITER強し!

 ここまで試合の展開はREJECT有利が続いていたが、しかしここで挫けないのがAbsoluteが王者たる所以である。第2MAPはHAVEN、サイトが3つあるため防衛側の連携力が試されるマップだが、勢いに乗ったREJECTの攻めに対してAbsoluteが堅い守りを見せる。Absoluteの守りが安定している要因の一つに、彼らのリテイク能力の高さがある。例え一度スパイクを設置されたとしても、Absoluteは落ち着いて陣形を整え、相手に占拠されたサイトを確実に取り返す技術と冷静さが備わっているのだ。

 しかし対するREJECTも負けていない。右へ左へと揺さぶりながら果敢に攻めを展開し、所々でDep選手やHaReee選手の個人技が光る。気づけば、前半折り返し時点でのスコアは6-6、まさに拮抗した試合となった。

同点のまま後半戦へ

 後半になって攻守が入れ替わると、ここでAbsoluteが怒涛の攻めを見せる。Absoluteの持ち味であるスピーディーな攻め、そして設置後のリテイクを許さない堅い陣形を前に、REJECTの動きからは徐々に焦りが見て取れるようになった。Dep選手も果敢にサイトに突入してリテイクを試みるのだが、Absolute側はジェットの動きにも徐々にしてきたようで、その陣形は簡単には崩れない。後半戦はAbsoluteが5ラウンド連取し、スコアは11-6となった。

次第に止められるようになったDep選手のジェット

 しかしここから流れを変えたのもまたDep選手だった。第18ラウンド、チームが徐々に下火になる中でDep選手がオペレーターを手にし、圧巻のクワドラキルを決めて見せた。これに勢いづいたREJECTは徐々にペースを取り戻し、また第21ラウンドではHaReee選手もクワドラキルでチームをキャリーして見せた。各々の個人技が光る、まさにREJECTといったプレイングで、そのままスコアは12-12のオーバータイムまでもつれることになる。

スモーク越しのキルを決めるDep選手

 オーバータイムでは先に2連勝したチームが勝ちとなり、Absoluteが負ければREJECTが優勝になるという状況の中、緊迫した試合が繰り広げられた。手に汗握る展開の中14-13とリードしたのはAbsolute、そして続く第28ラウンドが決め手となった。この時点で配信の同時視聴者数は3万を越えており、昨年の「GGC」の最大同時視聴者数が3000にも満たなかったことを考えると、「VALORANT」というゲームの注目度がいかに高いか分かる。

 第28ラウンド、AbsoluteはBサイトへ5人全員でなだれ込むスピーディーな攻めを展開した。REJECTの意表を突いて一気に陣形を崩した後、残り時間を1分10秒以上残した状態でスパイク設置までこじつけ、この時点での人数差は5対2でAbsolute有利、これぞAbsoluteといった連携の取れた攻めだ。REJECTの2人も果敢に解除にかかるが、5人の陣形の前にはなすすべもなく、あと一歩のところまできた優勝をREJECTはあえなく逃してしまった。

第2試合はAbsoluteが勝利

第3MAPはAbsoluteが王者の風格を見せつけた

 ここまでの試合展開を見るに、REJECTはAbsolute相手に実にいい試合をしているように見えた。第2MAPは惜しくも落としてしまったものの、まだREJECTにもチャンスがある、そう思っていた視聴者も多いだろう。しかし第3MAPの結果を見ても同じことが言えるだろうか。オーバータイムまでもつれた第2MAPとは打って変わって、第3MAPではなんとAbsoluteが13-0のストレート勝ちを決めてしまう。

 本マップでAbsoluteは3人もエージェントを変更し、これまでとは全く違う戦法をとることでREJECTを序盤から翻弄し続けた。これまでの拮抗した試合はAbsoluteが大会を盛り上げるために演出したものだったのか?とまで思えてしまえるほど、第3MAPのAbsoluteは圧倒的だった。一つには彼らがSPLITを得意マップとしていることもあるのかもしれないが、それにしても攻守ともに全く隙が見られなかった。例えば第4ラウンドでは、REJECT側がスパイクを設置しようとした瞬間、キャリアーの直上にBarce選手がオービダルストライクが飛んできていた。タイミングといい位置といい寸分たがわぬ完璧さで、Absoluteがこのマップをどれだけ熟知しているのか伺えるプレイングだった。

キャリアーに直撃したオービダルストライク

 そして勝敗を決したのは攻守が替わっての第13ラウンド、ハンドガン戦が「GGC 2020」の最終ラウンドとなった。第2MAPと同じように、Absoluteは5人そろってBサイトに攻め入り、1キルもすることのないまま一気にスパイクを設置。REJECTとしては一矢報いたいところだったが、Absoluteの堅い守りの前に一人また一人と倒されていき、最後はなんとパーフェクトでAbsoluteが勝利、「GGC 2020」チャンピオンの栄冠を手にした。第3MAPでの圧倒的な立ち回り、そして最後のパーフェクト勝利は、日本FPS界におけるAbsoluteの絶対的地位を象徴しているかのようだった。

パーフェクト勝利の瞬間

 見事優勝し「GGC」4連覇を達成したAbsoluteには賞金100万円と、近日詳細が発表される国際大会「ASIA VALORANT SHOWDOWN」への出場権が贈られた。優勝の感想を聞かれるとチームリーダーのLaz選手は「嬉しいです。今まで積み上げてきたものが全体的な強さとなって、それが勝因だったと思います」と語った。

「ASIA VALORANT SHOWDOWN」

 日本のFPS界を背負って世界に挑戦するAbsolute JUPITER、そして今後国内シーンからAbsoluteを倒すチームは現れるのかどうか、今後の「VALORANT」シーンからは目が離せない。

「ASIA VALORANT SHOWDOWN」