インタビュー

バザール・エンタテインメントCEO大和田健人氏インタビュー

新興国にゲームを届ける取り組みを聞く。「最後はアフリカ、南米まで南半球をぐるりと」

5月収録



シンガポール

 3回にわたってお届けしているバザール・エンタテインメントの新興国向けゲームプラットフォーム「TOKYO Game Network」。その締めくくりとして、バザールCEOであり、バンドンに移住して自ら普及活動を行なっている大和田健人氏、そして「TOKYO Game Network」のシステム開発を担当しているCTOの伊澤伸氏へのインタビューをお届けしよう。

 大和田氏は、元SCEで、キャリアの大半を占めるSCE Asia時代に台湾、中国に赴任し、新興市場の立ち上げを行なっている。伊澤氏はゲームビジネスの経験はないものの、楽天時代やノボット時代に「ぴたっとアド」「ぐるなび」「ぴあ」など様々なWebシステムを立ち上げている。インタビューは、スタートアップ向けのイベントに参加するために伊澤氏が来星するのに合わせてシンガポールで行なった。

TOKYO Game Networkの誕生秘話について

バザール・エンタテインメントCEOの大和田健人氏
バザール・エンタテインメントCTOの伊澤伸氏
SCE時代に中国のゲーム開発志望者に向けて授業を行なう大和田氏
2013年に実施したCEDECの講演でも大和田氏は「私を変えた出会い」としてボタンがすり切れた携帯電話を紹介している

――バザール・エンタテインメントの創業の経緯から教えて下さい。

大和田氏: もともと前職のSCEで働いていた時に最初はゲーム開発者でした。そのあと中国と台湾でセールスとマーケティングをやってこいと。それまではゲームクリエイターだったので、セールスとマーケティングは全くわからないので、結局僕にできるのは中国語の話をして聞くことだと考え、目標を立てて中国を100都市くらいまわって各都市のゲーム屋さん10店舗を回ってお話を聞こうというような取り組みをずっとやっていたのです。

 その中である田舎の工場の調査の仕事がありまして、そこで向こうの若者と一緒に昼飯を食っている時に「2468」のキーが擦り切れたガラケーを使っている子たちがいたのです。「これなぜ擦り切れているの?」と聞くと、ずっとゲームを遊んでいるんだと。ほかに何か遊ぶことはあるでしょと聞くと、俺らにはもうこれしかないんだと。要はもう外に行く時間もないし、会社から遊ぶエンターテイメントも提供されていないと。いまこの手元のゲームでしか僕らの寝る前にちょっと気持ちをリラックスさせるようなものはないのだといわれて、その時はっと気がついたんですね。

 1つはプレイステーションというビジネスは、特に新興国は貧富の差が激しいところのお金持ちに向けて、「ここにプレイステーションがありますよ買いに来てくださいね」ということで大きな広告を打って立派なお店を作って、お客さんを集めることに非常に苦労していたビジネスなのです。でも、富裕層の若者には色々な娯楽があるので、プレイステーションは他の娯楽との激しい競争をしないといけない。その一方でまったく広告やマーケティング活動をしないところで、ものすごくゲームを欲している人がいる。これならばやはりビジネスとしてその人たちにゲームを届けるという事のおもしろさに加えて、ゲームに携わってきた人間の使命として娯楽を求めている人にもっと良質の娯楽をお届けして楽しい生活を送ってもらえたら。そういうことに気がつかされたことがあり、既存のプラットフォームでは実現が難しいだろうと考え、独立することになりました。

――携帯電話のゲームということは、まだスマートフォンが中国で普及する前の話ですか?

大和田氏: はい。それを見かけたのはもう5年くらい前、iPhone3sが出たころですね。

――そのアイデアをフィーチャーフォンにそのまま投入するのではなく、スマートフォンで実現させようと?

大和田氏: そうですね。一時期フィーチャーフォンでどういう風にビジネス化ができるかを考えていたのですが、なかなか難しいなと。スマートフォンは当時まだ400ドルとか500ドルとかしました。一方で値段が下がるだろうというところも感じていて、ちょうど良いタイミングでスマートフォンが100ドルどころか、50ドルを切る価格帯で出て、一気にガラケーからリプレイスしてきたという状況が今の私たちのビジネスとして立ち上げるに至った大きな1つのターニングポイントですね。

――常勤の取締役は大和田さんと伊澤さんの2人ですが、おふたりはどういう縁で会社を一緒に立ち上げようというお話になったのですか?

大和田氏: そうですね、同じく共同創業者で社外取締役の高橋宏典という、彼は私がSCEでゲームを開発していた時の初めての上司なのですが、彼と伊澤さんが古いお知り合いということでご相談したところ、伊澤さんを紹介いただきました。

――伊澤さんは、大和田さんからTOKYO Game Networkの構想を聞いたときに、技術者としてどのように思いましたか?

伊澤氏: 1つは、私は前職でNOBOTという会社でCTOをやっていて、NOBOTはKDDIの子会社にバイアウトされて、それで辞めたのですが、その後、結構いろんなバイアウトの経験からいろんなスタートアップの相談に乗っていたりしていました。様々なスタートアップのピッチをみたりとか、SAMURAIインキュベートのスタートアップアイランドで色々なスタートアップと知り合ったのですが、大和田さんのピッチを見た時に、やはりその大和田さんの経験に基づいてこの事業の骨格ができている。ほかのスタートアップのピッチとは全然レベルが違うなと思ったのですね。

 ほかのいわゆるテックスタートアップって、「こういうテクノロジーがあったら便利でしょう?」みたいな仮説なんですね。これをやったら世界が変わるみたいな感じなのですが、「それ本当にお客さんがいるの?」みたいな世界で、どうなんだろうといつも思っていたのですが、高橋さんに大和田さんを紹介されて、高橋さんの会社の会議室でプレゼンを受けたのですが、その時に企画の厚みが全然違うなと思ったのですね。

 そのあとも、少ししてインドネシアとかに一緒に連れてきてもらって、現地の若者がゲームをやる様子とかを見せてくれたのですが、やはりゲームに対してはすごく素直に反応する。こういうゲームがあるんだ!と。すごくウケるんです。だからマーケットというか、お客さんがはっきりそこにいるのだからこれはやったほうがいいよねというのを実感しましたね。

――現在バンドンで実証実験を行なっている「TOKYO Game Network」ですが、1番の強みは何ですか?

大和田氏: 新興国に共通する課題なのですが、インターネットがとても遅い。しかも従量課金制で好きにダウンロードできないという環境の中で、誰もがいつでも超高速でゲームをダウンロードできることです。やはり「欲しい!」と思ったときに手に入らないとエンターテイメントってすぐに心が冷めてしまうのですよ。その機を逃さないというのが1つ。

 もう1つもやはり新興国共通の課題で、クレジットカードがないお客さんが多い。既存の決済インフラがなかなか使えないというところでも、面白かったら、お客さんがちゃんとお金が払えるような仕組みを提供してあげる。これによって、クリエイターさんに対して今まで「このマーケットのお客さんってお金が払えないのでマーケットじゃないよね」と言われていた状況に対して、ここにもマーケットがあるんですよ、ゲームが好きなお客さんがいるんですよということをしっかりと発信できるプラットフォームになっているところが特徴です。

【「TOKYO Game Network」のサービス概念図】

実証実験に参加するインドネシア バンドンの大学生達

――実証実験を私も取材させていただきましたが、なぜバンドンで始めたのですか?

大和田氏: その前にまずはなぜインドネシアだったのか。狙うところは、我々の目指しているマーケットはそれこそ世界すべてですが、当面の目標として狙うのはアジアの新興国にだいたい20億人いるといわれている中間層市場です。その中でもまずインドネシアを1番最初のマーケットにしました。なぜインドネシアなのかというところは、SCEを辞めて以降かなりアジアを放浪してですね。それこそ行ったところですとミャンマー、ラオス、カンボジア、そしてインドネシア、シンガポール、フィリピンにそこらへんを回りましてその中でお客さんと話をしたり、学校の前でブルーシートを広げて、日本から持ってきた色々なゲーム機を遊んで貰うというテキ屋のまねごとをやってたわけです。

 労働ビザがないので、お金は取れないんですが、それで実際にお客さんに遊んでもらいながら、ビジネスとしての可能性がありそうだとか、日本のコンテンツこれ知ってるよという声をかけてもらったりとか、そういう非常に反応が良かったところがインドネシアだったのですね。

 インドネシアがいいなと思って後で調べてみたら、2.4億人の人口がいて、人口の半分以上が30歳以下の若者で、かつ日本語学習者が80万人いるのですね。2位がタイの3万人。20倍以上の差があると。非常に日本のコンテンツを受け入れる土壌がある。ということでまずはインドネシアに絞って、インドネシアにもいろいろな都市があるのですが、回った中でバンドンという町には若者が非常に多くて、日本語でコミュニケーションを取れる人が非常に多くて、なぜなんだろうと聞くと、大学や専門学校が非常に多くて、ゲームを作っている人たちも多い。というわけでまずはバンドンでテストマーケティングをしようということになったのです。

――現在はバンドンでやっていますが、今後は様々な国や都市にテストマーケティングを広げていくわけですか?

大和田氏: 当然水面下でいろんな国でテストマーケティングを各国のパートナーと話をしながらやってもらっています。まずは核となるビジネスモデルをしっかり立ち上げていくというところで、全面的に注力するのはインドネシアです。

――技術的にこのTOKYO Game Networkの大きなキーポイントはどのあたりなのでしょうか?

伊澤氏: 大きな目的としてネットワークのインフラがないところでどうやってゲームを配信するのかというところが1つの大きなポイントになりますね。僕らが最初に考えたのは、すごく単純な発想で。Wi-Fiの基地局の中にSDカードを入れて、Wi-Fiにつないでもらうことによって、ローカルなWi-FiからそのSDカードをダウンロードできるという仕掛けを考えていたのです。

 これはこれでハードウェアがあるということは結構わかりやすい。そのハードがある場所に行けばというわかりやすさはあるのですが、実際これをテスト運用してみると、このハードどこに置くんだという色々と問題があるし、そのハードのお金を誰が負担するのという問題もあるし、Wi-Fiの仕様上、いっぺんに数十人という人が1つのWi-Fiにぶら下がってしまうと、どんどん分割されて遅くなってしまうじゃないですか。素早くダウンロードをさせようとしているのに、お客さんが来れば来るほど遅くなってしまうハードになってしまっているので、今考えているのはユーザーが持っているスマートフォン自体が通信をしてゲームのデータを交換し合う。このモバイルPeer to Peerというやり方で。

――それはWi-Fiすら使わない?

伊澤氏: Wi-Fiは使います。というのは、まずBluetoothでお互いを認識し合うのですが、ファイルをダウンロードしたりするときにBluetoothってものすごくスピードが遅いのですよ。だから、Bluetoothで情報を交換し合って、ファイルの転送はWi-Fiに繋ぎ直すということをしようと思っています。そうするとこれを持って歩いている時に、欲しいゲームを持っているユーザーがそばに来ると、勝手に通信をしあってダウンロードが起こるということになっています。そうすると何が起こるかというと、人気のあるゲームは持っている人が多いわけです。そうなるとすれ違う確率も高いわけですから、人気のあるゲームほど早くダウンロードできるというような仕掛けができるようになっています。

――そのシステムだと何十人ぶら下がっても、ある程度高速な通信が可能なのですか?

伊澤氏: そうです。やっている間はPeer to Peerなので1対1で交換し合ってそれを切るという。

――どれくらいのスピードが出ますか?

伊澤氏: まあWi-Fiなので何十MBくらいは出ると思います。

――これは例えば、日本で行なわれているニンテンドーDSやPSPのWi-Fiスポットとは技術的に違うのですか?

伊澤氏: すれ違い通信はちょっと近いところがありますが、あれは短い情報を交換し合っているので、大きな塊はやっていないですから。というのは結局すれ違って、また離れていってしまうから、短い間で交換できる情報ということになると思うのですが、Peer to Peerの場合は大きなファイルでもブロックに分けていってそのブロックを交換し合っているので、途中ですれ違って切れてしまっても、交換し合ったブロックはそのままでまた別の人とすれ違うと、また違うブロックを交換しているという感じです。

――イメージ的には、ゲームクライアントを大きなパケットに分割し、それを送り合うみたいな感じですか?

伊澤氏: そうですね。

――このデータ配信方式は、バザール独自のものなのですか?

伊澤氏: 基本的なやり方はBitTorrentというCDN、コンテンツデリバリーネットワークみたいな感じで使われているやり方があるのですが、それをベースにしてます。あれはPCの世界なので、有線で繋がった時にやるものですが、これをモバイルのスマートフォン同士でやるという方式ですね。

――ところでTOKYO Game Networkという名前の由来は?

大和田氏: バザール・エンターテイメントというのが社名で、TOKYO Game Networkというのがサービスやプラットフォームの名前です。新興国の方にとって日本って何をイメージするのか、東京って何をイメージするのかというと、やはりアニメや漫画、ゲームの名前が出てくるので、皆さんにわかりやすい名前ということで決めました。そしてすごい先進のゲームと出会える場所というとやはり東京というイメージがあるので、あえて東京という名前を付けています。

インドネシアは世界的に見ても海賊版が蔓延している国のひとつ

――コンペティターは何だと考えていますか?

大和田氏: 例えば将来的にネットが速くなれば、GoogleやAppleが来るわけですが、今のところネットがない状態で、みんながGooglePlayやApp Storeを自由に使えないようなところです。直接的なコンペティターは海賊版のゲームのAPKファイルを配っている人たちですね。後はそういったディスクを販売している業者。そういったいわゆるイリーガルな人たちが直接的なコンペティターになります。そうではなく間接的なものだと、本当にその他の娯楽との時間の奪い合いになると思います。

――いまお話にでました海賊版は、インドネシアが抱える大きな問題のひとつですが、それ以外の課題は何ですか?

大和田氏: すごく大きな問題だと思うのですが、1つはインフラの問題。それは通信と決済の仕組み。通信インフラって機械を買おうと思うと世界中でほぼ同じ値段になってしまうので、その国の所得事情によってどれだけ普及できるかが大きく変わってくるわけですね。これは国ごとの経済格差が解消されない限りは世界で均質的な数字はちょっと難しいと思います。あと課金についてもその国の経済が発達しなければ与信システムが出てこないので、その問題も非常に大きなところです。

 1番大きな問題は、これは貧困や所得格差の問題だと思います。やはり貧困があるからコピーソフトが生まれるのであり、所得が低いからインフラが満足に利用できないということがあると思います。そういうときにやはり、より多くの所得を稼げるような状況になって初めてみんなが満足できる。

 1人1人の所得が増えることで、生きることに精いっぱいという状況から、もうちょっとエンターテイメントに手を出せるような人たちが増えてくる。当然私たちとしても、例えばこのバザール・エンタテイメントを手伝ってくださる多くの学生さんや若者で、コンテンツの配信を手伝ってくれている方にもちゃんとレベニューシェア、利益を分配することによって彼らの生活を一緒に豊かにできる取り組みをすることが必要だと思っています。

――TOKYO Game Networkのビジネスモデルは、バザールが儲かるだけではなくて、ディストリビューターも食べられる?

大和田氏: もちろんです。はやりこれは前職のSCEアジアプレジデントの安田さんから叩き込まれたことですが、“三方良し”といって「作る人、買う人、売る人、この3人が喜ばなければビジネスとして回らないよね」という1つの日本古来の考え方ですけど、これってアジアでも通用すると思っていて、いまだにアジアって中間流通であったりとか、それこそ街中のバザールがなぜあれだけ人気なのか。彼らも中間流通なのですよね。それはやはりアジアの商習慣というだけではなく、誰かが、供給側が大きく利益を取るのではなくて、供給者側の減るかも知れないけど、商品を広く広めるためにはそういった人たちと一緒にWin-Winの関係を作っていかなくてはいけないというのを、僕らのビジネスの中に仕組みとして持っています。

 そもそもアプリはストアで配ります、後はTVCMでも打ってユーザーを獲得しましょうって、本当に効果があるのかな? ゲームって主観的な商品じゃないですか。それよりも、店頭のお兄さんにおもしろいから遊びなよって勧めてもらうこととか、友達からおもしろいから一緒に遊ぼうよって行って貰うことが本当は1番大事なことなんだけど、昨今の流れで、その大事な中間流通・間接流通の人を排除する方向になっているのは残念ですね。

――ディストリビューターというのは、専業でも食べていけるのですか?

大和田氏:それは人によると思います。すごく頑張っている人は当然食べられます。この間やった実験で試算したところ、サラリーマンくらいの月収が取れる人もいます。ただ兼業で「このゲーム面白いんだよ」といって配っていったりとか、そのうえで僕らのゲームを遊ぶ上でのプリペイドのポイントを買って、販売していく。それが副業であればそこそこというところですね。ただ、手伝ってくれている若者を見ていると、収入だけでなく、友達と一緒にゲームを遊ぶことであったり、友達から「おまえがくれたゲーム、凄いおもしろかったよ」と言って貰えることが嬉しいという声を多く頂いています。

――今現在のゲーム配信のチャンネルはゲームショップですが、そことは何らかの連携は模索していくんですか?

大和田氏:まあ実際ゲームショップはそんなにないですよね。まだ家庭用ゲーム機というものが日本のように広く広まっているものではなく、産業として成り立っていないものであり、ジャカルタみたいな大都市はいくつかゲームショップがありますけれど、やはりあってもショッピングモールに一軒。ないショッピングモールもあります。

――なるほど。想定している数としては少なすぎると?

大和田氏: 少ないですね。後は先ほど申し上げたように、欲しいと思ったときにすぐ手に入る距離にはまだないというところが1番の問題なので、何よりも1番のユーザーさん自身がセラーになるというところがコンテンツを届け、プロモーションするうえで1番大事なことだと考えています。彼ら1人1人が、あたかもショップオーナーという気概で取り組んでくれるのではないかと思っています。

「TOKYO Game Network」のビジネスモデルとタイトル調達について

「TOKYO Game Network」のビジネスモデルでは、スマホそのものがMDCになる
ディストリビューターからユーザーがゲームを受け取るイメージ

――ビジネスモデルについてお伺いしたいのですが、まずMDC(Micro Data Center)については、ディストリビューターさんが1人1人、MDCの機能を備えたスマホを持つようなイメージなのですか?

大和田氏: そうです。ディストリビューターさんの持つスマホが配信のノードになります。

――正式サービスでは、基本はスマートフォンで配信して受信するという、スマホだけで完結するプラットフォームになるわけですか? 日本のWi-Fiスポットみたいにどこかに据え置きであるんだみたいなイメージではなく?

大和田氏: わかりやすさという点では先ほど伊澤さんがいったようにそういう活動も必要だと思っていますが、基本はクライアントアプリケーションで配信していくことになります。

――MDCのストレージに関してはどの程度までサポートするのですか? スマートフォンがMDCの機能を持つということは、単純にストレージが大きければ大きいほど多くのゲームを置けるのか、それとも一定の区切りがあるのか。

伊澤氏: 今のところそれほど大きなストレージの端末をユーザーが持ってないですので、あまりそういった想定はしていません。特に何GBまでとかそういうクォーターを設けるつもりはないです。

――逆に下限は、どのくらいないと困るというのはありますか?

伊澤氏: そうですね。例えば4GBくらいからいくつか入れて遊んでいくことはできると思います。

大和田氏: BitTorrentベースで配信していくので、例えば全部の人が同じゲームを持っている必要はないわけですよね。すれ違う中で、かなりマイナーなゲームばかりをラインナップしている人がいたりとか、そういうところはあるので、すべてのカタログをユーザーさんのストレージにれ入れる必要はありません。

――気合の入ったディストリビューターさんは、できるだけ大きなストレージのデバイスを購入して。

大和田氏: するでしょうね。

――何百何千タイトルとありますという風景でいいのでしょうか?

伊澤氏: ディストリビューターの努力ポイントはそういうところですね。僕はすごくたくさんタイトルを持っているので、僕からダウンロードしてっていう人がいるかもしれないです。

 そのために我々としてもディストリビューターの、配っている人のお客さんからの評価であったりとか、どういうラインナップを持っているとか、後はそのディストリビューターさんたちがゲーム大会を主催したり、お客さんとのコミュニケーションもしっかり評価をしてあげて、彼らもビジネスへの加点ができるようなシステムを提供していこうとしています。

――ディストリビューターにとって重要になるのは、コンテンツの品揃え、見せ方だと思います。おそらくエンドユーザーは、新しいゲームをどんどんダウンロードできるほどストレージがないと思うので、カタログを見て落とすという形になると思います。カタログの見せ方はディストリビューターが決められるのですか? それともバザールが固定で?

伊澤氏: アプリの中に出てくるのはGooglePlayのアプリみたいなおすすめとかランキングとかそういった形になってくるので、バザールが決めるということになってくると思うのですが、ただやはりフェイストゥフェイスで話してますから、ディストリビューターによっては僕はすごくパズルが得意だとか、これどうやるのと聞かれたら教えてあげるとか、という努力をしてダウンロードを促進していくとかいうのもあると思うんですよね。

――ディストリビューターによっては、僕はパズルゲームが好きだからパズルゲームだけしか入ってないとか、そういうこともできる?

大和田氏: もちろんです。

――基本的にはディストリビューターによって、そのあたりの性格付けができるわけですね。

大和田氏: まさにバザールなわけです。品揃えは店によって違うし、値段も全然違うし。

伊澤氏: 夜中に対応してくれるからちょっと高いけどここにとなるかもしれないですし。

――当然この端末をデータセンターとして使うためには電源は常にオンにしておかなくてはいけない?

大和田氏: そうですね。

伊澤氏: スリープでもなんでもオンにしておかなくてはだダメです。

――そうなるとバッテリーが問題になりそうですね。充電をしっかりしておかないと

大和田氏: まあみんなモバイルバッテリーを持ってますしね。そういう人は絶対にコンセントに近いところに座って、常に電源供給しながらやりますよ。

――もう1つ重要なのがクライアントアプリですが、この開発状況はいかがですか?

大和田氏: 開発中です。今は単純にスマホからPeer to Peerで落とせますよという一方通行な配信で実験をしているところです。クライアントアプリについては夏過ぎくらいですかね。夏ぐらいから配信実験ができればいいなと。

――クライアントアプリの技術的な特徴はどの辺ですか?

伊澤氏: クライアントはそういう結構複雑な仕掛けが入っているクライアントなのですが、これは複雑だと使いにくいという事だと困るので、ただインストールしてなんとなく例えばAppStoreみたいに、アプリをブラウズしているだけでこれをダウンロードしたいというといつの間にかダウンロードできている。裏では複雑なことが動いているのですが、ユーザーはなんとなくいつの間にかダウンロードできているという風に見せたいと思っているので、そこをどうやって見せていくかUIやUXを構築していくのが大変だなと思っています。

――TOKYO Game Network向けのゲームを作るためのBazaar SDKはどのような機能を備えているのですか?

伊澤氏: SDKというのはゲームをこのバザール・エンタテイメントのサービス基盤で動くようにするためのライブラリですよね。だから課金の仕組みですとか、そういったものをSDK化してライブラリとして組み込んでもらいます。それを使うとユーザーの課金のタイミングでゲーム自体がサーバーアクセスとかいろんなものを書かなくても、ここで何ポイント消費みたいなことをそのSDKに対して指示すれば、あとはうまい具合に処理するということですね。あとはサーバーに接続して対戦するみたいなことが結構大変なので、アドホック対戦みたいなことをしたいと思っているのですが、その部分の接続の面倒とかをみるライブラリになると思います。

――たとえば、日本のタイトルについては、すでにAndroidやiOSで配信中というものもあると思いますが、TOKYO Game Networkで配信する場合、Bazaar SDKを組み込む必要はありますか?

大和田氏: はい、そうしないとタダで配ることになってしまうので、我々とディストリビューターさんがビジネスにならないと思うので、そこでお金をお客さんに課金をしたいというときにBazaar SDKを組み込んでもらうという考えです。

――TOKYO Game Networkはゲームプラットフォームなので、どういうゲームが遊べるかが大切だと思います。タイトルの調達についてはいかがですか?

大和田氏: いま我々は3つの方法で取り組んでいます。1つは日本のゲームメーカーさん、先進国のゲームメーカーさんからコンテンツをお預かりしていくということがあります。特に日本のゲームメーカーさん、日本のリッチな通信環境を前提としたゲームはどうしてもアプリケーションサイズが大きくなってしまうのです。100MB、200MBとか。当然新興国では配信できないようなものが多くて、あきらめられているタイトルが非常に多くありますので、そういったものを中心に私たちのプラットフォームでは皆さんが簡単に入手できるようになりますよということでお預かりさせていただきます。

 2つ目としては、共同創業者の高橋が代表をしているたゆたうという会社や、台湾の私のこれまで付き合いがあったゲームメーカーさんなど、いわゆる我々のファーストパーティとして、こういったゲームを作りたいんだけどといったことを相談しながら一緒に作っていただいています。そこで既存のゲームではなくて新興国の文化的に根差したものや、我々のSDKに対応したゲームというところを開発していただいています。

 3つ目としてはローカルのゲームクリエイターさんともコラボしていこうと思っていて、いろんなゲームのアイデアを持っている若者やメーカーさんがあるのですが、なかなかそういったアイデアを最終的にプロダクトに落とし込むところが非常に経験値が必要ですし、コスト的なものもあるので、なかなか新興国で最終的なプロダクトまで落とし込むことがハードルが高いなというのが、これまでSCEでクリエイターを育てるお手伝いをしてきた中で見えてきたところです。

 私たちとしては現地のクリエイターさんのアイデアをブラッシュアップしながら日本ですとか、経験のあるゲームメーカーさんと組んで彼らのコンテンツをローンチしていくというようなローカルと日本のコラボレーションのところにオリジナルなタイトルをそろえていきたいなという取り組みでやっています。

ファーストパーティータイトルの中でも要注目なのが台湾開発の「FunBeat」。インドネシアのハウスミュージック「Funkot」をモチーフにした音ゲーだ

――ファーストパーティタイトルですが、どれくらい数を準備しているのですか?

大和田氏: 今すでにインドネシアのテストマーケティングとして提供しているのが4タイトルありまして、一応計画としては20タイトルはローンチまでにそろえたいと。いわゆるファーストパーティとセカンドパーティ的なところですね。いまたゆたうと台湾の会社以外にもそういったお話はさせていただいていますので。

――ゲーム開発は主には日本と台湾で行なうイメージですか?

大和田氏: 日本と台湾中心ですね。

――ジャンルはどういったものですか? 新興市場が好むゲーム像というのがまだ曖昧ですよね。

大和田氏: そうですよね。そこ次第だと思っていて、私たちの調査ですと非常にプリミティブなゲーム性を持ったタイトルが人気ですので、例えばそれこそプレイステーション1とか2の初期のころの、いわゆるスタンドアローンでも十分楽しいようなゲームというようなジャンルで考えているので、形としてはアクションとかリズムゲームであったり、そういったわかりやすいゲームを中心に取り揃えていますね。

――3つ目として現地クリエイターのアイデアを拾い上げるというものですが、その募集はどのように行なっているのですか?

大和田氏: 今私たちが実証実験をしているバンドンという町には、バンドン工科大学というインドネシアで最高峰のITの大学があるのですね。そこの卒業生、在校生も当然ゲームを作りたいと考えていますし、あとは卒業生がゲームの小さなスタジオをずいぶん立ち上げていてバンドンのゲームデベロッパーコミュニティというものがあります。そこに加盟しているスタジオが全部で40数社あるのですね。そういった方々が毎月集まっていろんな情報交換をしていますので、今はそのコミュニティと一緒にラマダン明けの7月8月くらいから、2、3カ月に1回ゲーム開発のコンペティションをする準備をしています。

――そのゲーム開発のコンペティションはどういった形で募集をするのですか?

大和田氏: 1つのアイデアはゲームのこういった企画を皆さんで考えてみましょうというお題を出して、それに対してプロファイルを作ってもらうと。そしてプレゼンテーションをしてもらう。

――それは企画を考えるだけでなく、コードを書いてもらう?

大和田氏: いや、コードを書ける人は当然コードを書いてもらってもいいですし、普通のペーパーモックアップでも構わないのですが。ゲーム性がわかるものを出してくださいと。

――正式サービス時の参加メーカーの数や、配信タイトルの数はどのくらいの規模間があるのですか?

大和田氏: メーカーさんの名前は申し上げられないのですけど、日本でも大手のゲームメーカーさんから、非常に好意的なお話をいただいています。それとプラス自社でそろえたものということで40本位を目指してまずは準備しています。

――今はAndroidのみですが、今後iOSに展開することもあるのですか?

大和田氏: ユーザーさんが持っているデバイスのマーケットシェアを見て考えたいと思いますが、一方でiOSの中でこういった勝手ストアを配信するということは、Appleとしては多分許さないでしょうし、受け手側が技術的にアプリケーションをインストールできるのかということがあるので、マーケットシェアを見ながら考えていきたいと思います。我々としては当面はAndroidが新興国では伸びていくだろうという観点から今の形にしています。

「TOKYO Game Network」が独自の課金決済システムを導入する理由について

「PicoPay(仮称)」と呼ばれる独自の決済システムでは、セキュリティをクリプトカレンシーで担保しながら、SMSによる送金、手渡しによる現金授受を基本とする。非常にユニークだ

――TOKYO Game Networkの特徴として、独自の決済システムの提供が予定されていますが、なぜ既存のプリペイドカードではなくて独自の課金システムにしたのですか?

大和田氏: まず、クレジットカードの普及率はインドネシアでは1%以下。それ以外の地域も同様で、そもそも銀行口座がないという人も多くいます。その代替手段として、コンビニ等で販売されるプリペイドカードが考えられますが、プリペイドカードはどうしてもミニマムのチャージが500円とかからスタートしてしまうのですね。それはなぜかというとコンビニ流通を使っている以上、トランザクションフィー等の形で、最低決済金額が決まってしまっているのですね。

 一方でお客さんがポケットに入っているお金でゲームに対してパッとお金を払えるのは、日本円で10円、20円ですから、10円、20円のためにプリペイドカードを買うかとか、そのために流通させるかと考えるとコストが見合わないのですね。しかし、お客さんは10円、20円からゲームにお金を払いたいというところを考えていくと、それに対応できる課金システムを我々で作らないといけない、というところが1つ。

 あとは既存のプリペイドカードもやはり、買いに行かないといけないのですね。ジャカルタのようにコンビニエンスストアがどこにでもあるのならまだいいですけど、地方の都市に行くとほとんどそういったコンビニ流通がないことになりますので、そういったときにぱっと身近で買えるような仕組みが必要だろうと。というわけで、コンビニ流通に頼らない形での課金システムを提供することにしました。

――なるほど。例えば、今日自宅で遊びたいなと思ったときに、近くにディストリビューターがいない場合、どうやってゲームを手に入れてポイントを購入するのですか?

大和田氏: ゲームを手に入れるのは別にディストリビューターに会わなくても欲しいなと思ったものを登録しておけば、勝手にゲームが入ってくれるのでそれでいいですが、しっかりした通信環境がある場合は、オンライン上でダウンロードすることもできます。

 ポイントの購入については、ポイントを販売しているのは我々が“ゲーム名人”と呼んでいるディストリビューターなのです。クラスに1人はいるようなゲーム好きの子たちに、我々のポイントのディストリビューターとして活躍してもらっています。例えば夜に買いたいなと思ったときに、通常だったらコンビニに行かなくてもいいのですが、クラスにいる1人の顔見知りなので明日金を払うから悪いけど先に20円分だけゲームのポイントを送ってくれないだろうかとお願いをすることができるのですね。SNSとかでコミュニケーションをとって。

――それは例えばメールでも電話でも良いわけですか?

大和田氏: それはもう通常のコミュニケーションチャンネルですね。LINEかもしれないし、電話をかけてもいいですし、そこで明日金を払うから20ポイントだけ入れておいてというと、ゲーム名人が入れておいてくれるわけです。

――“入れる”というのはどういうことでしょうか?

大和田氏: 単純に私の持っているポイントから何ポイントをだれだれに転送してあげてくださいという仕組みなのですね。

――ちょっと技術的に解説していただけますか?

伊澤氏: ポイントってバーチャルなものなので、いまこのディストリビューターさんが持っているポイントがありますと。ディストリビューター専用のアプリがあるので、それで操作すると誰それに何ポイント送りますというのができるのです。

大和田氏: 全体の銀行口座の通帳の中で振り替えが行なわれるようなかたちです。

――ほー、ちなみにそのあたりのセキュリティはどう担保するのですか?

伊澤氏: ポイントシステムをこれから作るというのは非常に負荷が高いと思っているので、実際にはバザールのポイントなのですが、バックグラウンドにはなにかしらクリプトカレンシー(暗号型通貨)を使って、例えば今ビットコインの口座を1人1人が持っていて、名人がビットコインの口座からその一部をユーザーのビットコインの口座にトランスファーするというようなことを考えています。そうすると、セキュリティは要するにビットコインのセキュリティとなります。その方法を提供しているだけなので。僕らだけで全世界に通用する信頼性のあるポイントシステムを作るのはものすごく負荷が高いので、バックグラウンドをクリプトカレンシーに任せちゃいたいなというのがあります。

――実際に採用するクリプトカレンシーというのは、ビットコインですか?

伊澤氏: ビットコインになるかもしれないですし、まあちょっとトランスファーのスピードが遅いとか、いま相場が結構上下してますからそのリスクがどうかみたいな話もあるので、リップルみたいなもう少し新しめのものにするかもしれないですけど、まあいろんなプラットフォームがいろんな会社があっていろんなAPIが用意されているのでビットコインがやりやすいので、最初はビットコインで行くかもしれないです。

――提供されるアプリのビジネスモデルなのですが、売り切りもありなのか、それとも基本プレイ無料で行きたいのか、そのあたりはいかがですか?

大和田氏: 売り切り、落とし切りは考えていません。

――では500円で売りますというのは基本はない?

大和田氏: 基本はないです。基本はコンティニュー課金であったり、ゲーム内アイテムの販売になると思います。

――課金モデルについては従量制とアイテム課金のどちらが多くなるのですか?

大和田氏: お客さんの利用次第ですかね。我々はSDKとして対応できるのはそういったサービスです。

――ファーストパーティタイトルではどうしていくつもりですか?

大和田氏: 基本はやはり大きなアプリケーションの会社さんが多いので、意外と落とし切りのゲームが多かったのですよ。それに対して我々の中でこれをコンティニュー課金したらどうですかという形で提案させていただいています。

――なるほど、新興市場に合わせてビジネスモデルを変えるわけですね。

大和田氏: はい、落とし切りのものを我々の方でコンティニュー課金に変えて、各ゲームメーカーさんのゲームとしての面白さに応じて、我々の方でビジネスモデルを提案させていただく形です。

――日本のゲームメーカーだと、過去のアーケードゲームをアプリでまとめて提供して、時間で充当される範囲内であれば無料、それ以上なら課金してねというものが主流ですよね。

大和田氏: そうですね。それも1つの方法ですね。

――TOKYO Game Networkでは1回いくらぐらいを想定していますか?

大和田氏: やはりゲームとして遊ぶ上では、パッとお金が払えるところというと10円、20円です。

――その値段を決めるのはディストリビューターなのですか? それともアプリを作る会社ですか?

大和田氏: ゲームの中で消費するポイントを決めるのは、ゲームクリエイターさんやパブリッシャーさんの方です。

――ではゲームセンターとは違うビジネスモデルなのですね。

大和田氏: 違いますね。ただ、ポイントをいくらでお客さんに売るかを決めるのはディストリビューターです。

――1ポイントを10円で売るのか、100円にするかはディストリビューターが勝手に決められる? ということは、この人は安い、こいつは高いぞという話になる?

大和田氏: 当然です。そこでいろいろな価格競争であったりとか、サービス競争があると思いますが、それも狙いです。

――純粋にエンターテイメントを楽しみたいという人間からすると、ポイントを安く買うためにディストリビューターを探し歩くというのはなんか不毛な行為にも見えるのですが。

大和田氏: そこは収斂されます。確実に。これだけSNSが発達してきてますからね。

――逆に価格が下がり続けるということはないですか?

大和田氏: それはないのではないでしょうか。そうするとみんな何のためにやっているのかということになりますから。例えばコカ・コーラ1本見ても、新興国には定価がないですから。それはその時の“時価”で売っているので。彼らディストリビューターの子たちがちゃんとビジネスとしてエンジョイできるようなバッファを設けてあげることが大事なので定価は定めずにやっています。

今後のサービススケジュールについて

インドネシア展開後は更なる新興国に攻めていくという大和田氏

――配信したゲームについてですが、ゲームアプリのアップデートはどうするのですか?

伊澤氏: アップデートも同じ仕掛けにはなるのです。またその差分をダウンロードしてくるという形になるので。

――その都度、プラットフォーマーとしてデータをパブリッシャーから預かって、それを配信していくというわけですね。

大和田氏: ディストリビューターさん向けのサイトがあるのでそこで最新ゲームのダウンロードができます。

――そこはある程度のネット回線がないとどうしようもないわけですね。

大和田氏: そこはBitTorrentベースで提供しようと思っています。そして寝てる間にやったりすることである程度の負荷は軽減できると考えています。

――オンラインプレイ、オンライン対戦ができるアプリも増えていますが、そのあたりはどうですか?

伊澤氏: 対戦といってもいろんな形があると思うのですが、MMORPGみたいに非常にリッチな内容をやり取りしながらリアルタイムで多人数が交戦するようなやつってネットの環境がないと難しいのです。そんなにマッシブな人たちではなくて、ここにいる人たちだけがアドホックで対戦できることはしたいなと思っています。

――最大何人くらいですか?

伊澤氏: Wi-Fiの制限があるので10人とかじゃないですかね。

――今までそういうのってありそうでないですよね。できたらそれこそ「モンスターハンター」みたいなことができるようになりますね。そういったものはファーストパーティタイトルで提供していきたいということですか? 具体的な構想ってありますか?

大和田氏: そこはまさに現在取り組んでいる資金調達次第です。ただ一緒にやっている高橋のところではスタジオとして非常にマッシブなゲームの開発まで手掛けている感じですね。彼らの経験値を使いながら、いずれそういうゲームも作りたいなという感じです。

――例えば「キャンディクラッシュサーガ」のように、ほとんど通信しなくて、やりとりするのはランキング+αのみというのは、TOKYO Game Networkのビジネスモデルに非常に適していると思います。

大和田氏: オンラインというかいわゆるアドホック対戦というのも考えています。ただまあスコアだけではなくさまざまなセーブデータとか色々なものをデータ量が少ない中でもサーバーにあげることができるので、その中でやっていこうと思っています。

――それ以外にプラットフォームに乗せるためのゲーム開発の条件はありますか?

伊澤氏: 我々の方でお預かりしたタイトル全部ローカルな端末で動くかどうかの検証をしないといけないのですね。SDKへの対応もそうですが、その前に各地の低スペックな端末でも動くかどうか。後はサーバーへの通信の頻度ですよね。これがユーザーさんに受け入れられるかどうか。特にお預かりしたサードパーティさんのタイトルについては検証をしてユーザーさんからのコメントをパブリッシャーさんにフィードバックして、そのうえで我々として配信するかを一緒に考えていくことになると思います。

――ちなみにスペックの下限はどのくらいで考えていますか?

大和田氏: 難しいですね。今1番安いところで言うと、RAMとROMでそれぞれ256MBみたいなところだったりしますから。そこまで対応するのは難しいと思います。

――AndroidのOSは最低どのくらいですか?

大和田氏: 今は4.X以上を考えています。2.0以上はだいぶ減ってきてはいるのですが。まだ市場としては使っている人もいますが、だいたい今は4.Xですね。

――今後正式サービスが始まってからのロードマップを教えてください。

大和田氏: 今年の夏から秋にかけてアプリケーションをインストールした状態でテストマーケティングをバンドンでやっていきたいです。それは実際にポイントも流通させ、コンテンツも流通させという大規模な実験兼ビジネスですね。いわゆるオープンβテストですね。そういうものに取り組んでいきたい。

――それはあくまでバンドンのみで首都のジャカルタではやらないのですか?

大和田氏: やらないです。その後バンドンで立ち上げていき、来年の早い時期にジャカルタ、スラバヤ、ジョグジャカルタに広げていきたいです。

――まずはインドネシアを制覇する?

大和田氏: そうですね。

――それは自社単独でやるのですか?

大和田氏: インドネシアにおいては現地のパートナーとのお話をさせていただいています。パートナー企業の名前はまだ契約が終わっていないので出せませんが。

――いわゆる正式サービスのタイミングというのはいつくらいですか?

大和田氏: アジアなのでズルズルっとした感じになるかと思いますが。

――それではβテストが実質的な正式サービス開始?

大和田氏: そうですね。まあ1つのターゲットとして、そこからずるずるっとアジャイルな感じで立ち上がるのがアジアのビジネスなので。そこから広げていこうと。

――インドネシアの後はどうなるのですか?

大和田氏: 私たちのビジネスは基本的にカウボーイビジネスなので、どんどんお客さんの環境の悪いところ、求めるところに進出していかなければいけないと思っています。次の段階ではフィリピン、ラオス、カンボジア。そこが1つのテーマだと思っていて、何とか3年以内にはそれらのマーケットにも進出したいです。

――ビジネスモデルをお伺いしていると、実は新興国に限定せず、日本やアメリカでも十分通用するのではないかと思うのですが、逆に先進国向けへの展開は考えていますか?

大和田氏: あまり考えてないです。日本では公衆Wi-Fiがどんどん増えているところがありますし、クレジットカードを持ってなくてもコンビニの決済がずいぶん使えます。何よりもゲームを求めている人たちで、かなえられない人たちが多いのは新興国なので、そちらの方に注力したいです。

――将来的な展望について聞かせてください。

大和田氏: 1つはGoogle、Appleが来る前に市場を取りたいです。通信環境が速くなって日本みたいになる頃には多分Google、Appleが本格進出してくるわけですね。それまでにはしっかりと、ネットが速くなる前にお客さんをしっかりと私たちのユーザーさんに替えていきたいというところが1つです。それと先ほど言いましたように、すべての20億人のマーケットに届けていきたいというところもあるので、最後はアフリカとか南米まで、南半球をぐるりと。

――今年インドネシアでローンチするわけですが、ユーザーの目標は何人くらいですか?

大和田氏: それはちょっとまだ申し上げられないですが、バンドンという街で、15歳から24歳でフェイスブックモバイルを使っているユーザーさんが80万人くらいいますね。まずはその中でマジョリティは取りたい。

――最後に新興市場のゲームファンに向けてメッセージをそれぞれお願いします。

大和田氏: 僕はゲームって凄い素敵だと思っていて、ゲームによって救われることも多いです。辛いことがあってもゲームをしたらちょっと気が紛れて、お互いのことを知らなくても一緒に遊んだら仲良くなって。そういう体験をもっと多くの人に知ってほしい。僕は日本という遠い国で沢山のエンターテイメントに育ててもらってきました。ただこれからは、自分たちが楽しいだけではなくて、やはりもっと多くの人に喜んでもらいたいです。人を幸せな気持ちに刺せるということは幸せなことですので、新興国に住むゲームズ機の人にも、一緒にパートナーとして関わって貰える同志が増えるといいなと思います。

伊澤氏: スマホの文化は欧米から発信されて、日本が解釈してそれを全世界にディストリビュートしていくような図式だと思うのですが、そうではなくてアジアのインドネシアの若い人たちから、新しいゲームの文化が生まれたらいいなと思っています。新しいゲームの楽しみ方、新しいゲームのタイトルをこのプラットフォームを通じてできていくといいと思っています。そういうことを願っています。

――頑張って下さい。ありがとうございました。

シンガポールのホテルロビーにあった年代物の力車をバックに

(中村聖司)