「ミクうた、おかわり」収録のミニゲームを監修したsasakure.UK氏特別インタビュー
動画をゲーム化をする際のこだわりを直撃!

6月11日収録

場所:セガ本社

 

 3月25日、株式会社セガは「初音ミク -Project- DIVA」追加楽曲デラックスパック「ミクうた、おかわり」の配信を開始した。「ミクうた、おかわり」は、メインとなる「初音ミク -Project- DIVA」には収録されていない9曲の楽曲のエディットデータをインストールして楽しめるのはもちろん、9曲のハイポリゴンモデルPVの閲覧ができたり、ゲーム風のPVとして公開された「*ハロー、プラネット。」(以下、「ハロプラ」)を実際のミニゲーム化していたり、オリジナルデザインの「初音ミク」カスタムテーマを選べるなど、単なる追加データ集にとどまらない内容となっている。

 今回、この「ミクうた、おかわり」に収録されている「ハロプラ」の原作者であり、ミニゲーム化するにあたり監修も行なった、sasakure.UK氏にインタビューする機会を得ることができた。氏がどのようにゲームを監修していったかはもちろん、ニコニコ動画上で100万回以上再生されるに至った動画の作成裏話など、「初音ミク -Project- DIVA」ファンはもちろん、「初音ミク」楽曲のファンにとっても見逃せない内容となっているので紹介していこう。


■ 楽曲の世界観や物語をそのままゲーム化することを重視

「ハロプラ」の動画を作成し、ミニゲームにおいてもBGMの作成と監修を行なったsasakure.UK氏

GAME Watch編集部: まずは簡単な自己紹介をお願いします

sasakure.UK氏: sasakure.UKと申します。幼少期からゲームの音楽に多大な影響を受けて育ちました。チップチューンやプログレを意識した音楽を主に制作しております。

編: ミニゲーム「ハロプラ」における、sasakure.UKさんの具体的な役割はどのようなものだったのでしょうか?

sasakure.UK氏: 僕は、ゲーム内の楽曲制作、ゲーム全体の監修・ディレクションを行ないました。

編: BGMに関しては全部で、効果音などについても作られたのでしょうか?

sasakure.UK氏: 効果音はディレクションを元に制作を行なっていただきました。

編: 実際にはどういった形で制作されていったんでしょうか?

sasakure.UK氏: そうですね。最初に方向性、曲のイメージ像をお話しました。「こういうイメージで作りたいんですよ」という感じで。それから全体の方向や展開などを決めていきました。

編:「ハロプラ」をミニゲーム化したい、というオファーを受けたときの率直な感想はいかがでしたか?

sasakure.UK氏: 元々、ゲームの音楽が非常に好きで、いつかそういった音楽を手がけられたらな……と思っていたのですが、まさかこういう形でお話をいただけるとは……! と非常に驚いたのと同時に、嬉しかったことを覚えています。

編: sasakure.UKさんの周辺の方たちや、ファンの方からはどんな反応がありましたか?

sasakure.UK氏: 「ゲームでぜひプレイしてみたい!」というコメントを、動画でかなり多く寄せられていたので、ゲーム化企画が公開された時はみんなとても喜んでくださいましたね。

編: 「ハロプラ」をゲーム化する際に苦労した点や注意した点はありますか?

sasakure.UK氏: なるべく楽曲の世界観を壊さないように気を配って作りました。

編: 動画の中にもゲームのワンシーン風なカットがありますが、そういった場面はなるべく入れてもらうようにしたのでしょうか?

sasakure.UK氏: そうですね。やはり再現したいところがいくつかあったので、実際それに近い形のものがゲーム版でもできるように努力しました!

編: それによって、ステージ構成が4つになったりしていったのでしょうか?

sasakure.UK氏: そうですね。楽曲の中の重要なシーンを抜粋して、掘り下げていくような形でステージを構成していきました。



■ 動画のファンが楽しめるような小ネタがゲーム中にも満載

シェルターに戻ってくるたびに、マスターの残した日記がポストに届く。日記の中には、マスターやミクはもちろん、世界全体がどうなっていったかが記されており、このゲームの世界観を少しずつ知っていくことができる
4面の最後に待ち構えているスフィンクス。スフィンクスが出してくるナゾナゾの答えは、マスターの残した日記の中に記されている。ナゾナゾに答え切れなかった場合は、日記をよく見返して再チャレンジしよう

編:ミニゲームの詳しい話になるのですが、マスターの日記がシェルターに戻るたびに少しずつ公開されていく形になっていますが、最初からすべて見えなくしているのはどういった理由でしょうか?はじめにスフィンクスの謎かけで苦労したもので、気になっているのですが……

sasakure.UK氏: 狙って作りましたね(笑)。そのままアクションだけで進むと苦労するようなボスを作りたいな、と思っていました。スフィンクスだけに、得意なナゾナゾで勝負! みたいなシーンがあったら非常に面白いだろうな、と。ゲームをプレイしていない人も理解できるように、戻ると日記が増えているというギミックを作ったのです。

編: 何回かスフィンクスのナゾナゾにやられて、これはダメだと思って……ステージを開始してすぐメモリでシェルターに戻ってを繰り返して日記を出したり、苦労させられました(笑)。

sasakure.UK氏: スフィンクスの問題は意外とエゲツないですからね(笑)。

編: ミクやマスター、あのコとルカは「ハロプラ」の物語内ではどういった設定になっているのでしょうか?

sasakure.UK氏: アンドロイドと人間が既に共存していた、という設定なのです。ルカとあのコ、ミクとマスターは、“世界がおっこちる”まで、それぞれ共存して生活していました。マスターとあのコは近所でお互い年齢も近いのでよく一緒に会ったりしたのでしょうね。また、それぞれのペアを違うシチュエーションで比較していたりもします。

編: マスターとミクという関係と同じような位置的に、あのコとルカがいるという形ですか?

sasakure.UK氏: そうですね。

編: マスターとあのコの間には、何か関連性があるのでしょうか?

sasakure.UK氏: ふたりは生まれ育った境遇が似ていて、それがキッカケで仲良くなったんです。それ以上の設定は一応考えてはいるのですけれども、まだ明かさないでおきます、とても大切な友達ということで(笑)。

編: 1面の途中にシェルター3らしき建物がありますが、あの建物には誰かがいるのでしょうか? シェルター3は日記の中には出てこないのですが、スフィンクスのナゾナゾの選択肢の1つに出てきたりはしていますよね?

sasakure.UK氏: シェルターがいくつかある設定だったのです。ゲームの1面の中を進んでいくと、ボロボロになってしまっているほかのシェルターが……最初のマスターとミクがいるシェルターというのは、運が良かったのか奇跡的に形をとどめていたんですよ。でも、あのコとルカがいたシェルターは破壊されてしまって、ほかのシェルターも大体恐ろしいことになってしまっている。それはマスターの日記の中で衛星が人口を調査してみたところ……というところからもわかるのですが、壊滅的になっている世界を伝えたかったんですよ。

編: 2面の途中に鏡音リンのようなリボンをした自由の女神像がありますが、あれはリンなのでしょうか?

sasakure.UK氏: リンです(笑)。ミク、ルカ以外のアンドロイド(ボーカロイド)達が全滅してしまった世界だったので、生身(?)のキャラを入れるのも……と悩んだ結果、ああいう形でゲスト出演していただくことになりました。

編: ゲーム中に登場する敵キャラクターたちに、アンテナやゼンマイがあるという共通点があるように見受けられますが、何かしらの意味があるのでしょうか?

sasakure.UK氏: 敵キャラクターは全部、人間ではなくて機械なんですよ。先ほどの世界観を重視するという話と関わってくるのですけれど、人間や哺乳類のような生物がいなくなってしまった世界なので、敵キャラクターは暴走してしまった作業ロボット達なんです。

編: 「すすめテクノポリカのテーマ」以外のゲームBGMは、ミニゲーム版が最初かなと思うのですが、こちらのBGMを作曲する際に気をつけたことはありますか?

sasakure.UK氏: 最初におおまなかなイメージを頭の中で作って、「こういうステージの構成になります」というプロットをいただき、細かく掘り下げていきました。また、自分らしい音楽性を大切にするよう心がけましたね。

編: 3面の宝石アイテムが“3390”、エクストラステージの花アイテムが“2216”と配置されているように見えるのですが、どういった意味が込められているのでしょうか?

sasakure.UK氏: 例えば、“3390”というのは、そのまんま僕の名前“ささくれ”の語呂合わせになっています。動画の中でもスコアを語呂合わせにしているところがあるので、ゲームの中でもオマージュできないかな……という話をしたときに、アイテムで“3390”とか“2216”という数字を並べるのはどうか、というアイデアがあったので採用させていただきました。

編: 動画とは違う、エクストラステージとオリジナルエンディングが追加されているのですが、これについては、どういった経緯で追加したのでしょうか?

sasakure.UK氏: 折角のゲームなので、エンディング前に何かすると、違うルートに行ける! というのをやりたかったんですよ。実は「ハロプラ」は構想のときに、エンディングを2パターン用意していたんです。それを今回収録の際に上手く演出して出せないかなあと。で、できたエンディングがあんな感じです。いかがでしょう……!?

編: では、ミニゲームのためにオリジナルEDを追加したというわけではなくて、最初から構想としては、このエンディングはあったわけですか?

sasakure.UK氏: そうですね。

2面のガレキの雨が降っている場所では、動画と同様にカサをさすことで、ミクがダメージを受けずに済むようになっている3の形に宝石アイテムが配置されているのがわかるだろうか。なにげなくステージに配置されている小ネタに注目するのも面白いゲーム版で追加された動画とは違うオリジナルエンディング。この後、マスターとミクがどうなるのかは、自分の目で確かめて欲しい



■ ファンは「ハロプラ」以外の終末シリーズもチェックしてみよう

編: ほかに、もっとこうしたかった! という点はありますか?

sasakure.UK氏: ほかのボーカロイドのストーリーも設定していたので、そういう要素を入れられたら面白かったかな、と思います。

編: このミニゲームには入れられなかった設定がまだあるということですか?

sasakure.UK氏: そうなんです。僕が制作したハロプラ以外の、云わば”終末シリーズ”なるものがあるのですが、それが4つの楽章に分かれていて、それぞれ鏡音リンや巡音ルカ、メグッポイドに歌わせた曲があるのですけれど、そこと繋がっていたりするところがあったりします。

編: 今回のミニゲームを通して、どのようなメッセージをユーザーに届けたいですか?

sasakure.UK氏: ゲームを通して、原曲の動画よりも、お話を掘り下げているので、それらを見て動画で伝えきれなかったたくさんの要素を楽しんでもらいたいですね。

編: 「ハロプラ」の誕生時の秘話など、何か裏話がありましたらお願いします。

sasakure.UK氏: 最初に楽曲ができて、そのときに映像のプロットなどいろいろとあったのですけれども、1度データが飛んでしまったことがありまして(笑)。楽曲自体は2008年の9~10月くらいにはできていたのですけれど、PVを出すまでに半年以上の時間がかかってしまったのは、また1から描くハメになってしまったからなのです。スフィンクスのデザインは当初はもっと恐かったです。

編: 「ハロプラ」以外にもゲーム化したい作品はありますか?個人的には「ニジイロ*アドベンチュア」をシューティングにしても面白そうだと思いますが……

sasakure.UK氏: ううむ、「ニジイロ*アドベンチュア」はやりたいです。いやあ、この曲はかなり当時を意識して作った作品ですね……(笑)。

編: 世界観的には何かを倒したりという感じではないのかな、と思いつつも、あえてシューティングと言ってみたのですが、そこのあたりはどうですか?

sasakure.UK氏: そうですね。「ニジイロ*アドベンチュア」も、そのあたりをうまくやっていけたらなと思います。魅せ方しだいでいくらでも広がってくれる世界だと思いますしね。

編: 最初にゲームが好きというお話がありましたが、特に影響を受けたゲームやゲームミュージックなどはありますか?

sasakure.UK氏: 子供のころは、コナミ矩形波倶楽部さんとかZUNTATAのサウンドをよく好きで聴いていました。古代(祐三)さんの楽曲にも影響を受けていたりしますね。そうそう、これは今日初めて打ち明けるのですけれど、「ハロプラ」の構想は「ミラクルロピット 2100年の冒険」(※)というファミコンのアクションゲームをやっているときに思いついたんですよ。このゲーム、世界観というか色彩感が好きなんです。ロボットと女の子の話なんですけれど、うす暗い気味悪い世界で主人公のロボットだけがひたすら明るいんです。そういうのをモチーフにして曲を書いたら、きっと面白いんじゃないかなという。内容を言ってしまうと全然違うんですけれどもね。

編: 曲やPVを作成する際に、気をつけている点や大切にしている点はありますか?

sasakure.UK氏: 曲にせよPVにせよ、全体の世界観や物語などが崩れないように、最初にぶっとい芯みたいな、これは絶対曲げない“軸”を1つ作ってしまう。そこから形を作っていくんですけれど、この芯がぶれていたりすると作品の焦点が定まらなくなってしまうんです。で、結局何を伝えたいの? みたいな……。そうならないように、普段から下地作りは1番大切にしています。

編: 最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

sasakure.UK氏: いつも楽曲を聴いてくれてありがとうございます。「ハロプラ」がゲームとして産み出されたのも、みんなの応援や温かいメッセージのおかげなのです!

 これからも、ちょっと不思議な世界観や物語性を重視した作品をどんどん作っていけたらと思います。今後ともよろしくお願いします!

 今年の3月に、「ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?」というアルバムが発売されまして、こちらに「ハロプラ」などを含めた終末をテーマにした4部作の楽曲や、プラスアルファの要素を盛り込んだ楽曲が収録されています。ジャケットなども非常にこだわって制作しましたので、「ハロプラ」のゲームをプレイして興味を持っていただけたのでしたら、アルバムも是非ぜひお手にとってみてくださいね。よろしくお願いします!

編: 本日はお忙しいところありがとうございました。


※1987年、キングレコードより発売されたアクションゲーム。

■ 7月1日には「もっとおかわり、リン・レン ルカ」が配信予定
  こちらには「トエト」のミニゲームを収録

 今回のインタビューを通して、「ハロプラ」をゲーム化する際に、sasakure.UK氏の意図する楽曲の世界観を忠実に再現していることが感じられた。まさに楽曲の作り手の思いが具現化したゲームといえるのではないだろうか。

 来たる7月1日には、「初音ミク -Project DIVA-」追加楽曲集デラックスパック2「もっとおかわり、リン・レン ルカ」が配信される予定だ。こちらは鏡音リン・レンと巡音ルカの追加楽曲集となっており、人気楽曲「トエト」のミニゲームも収録されることになっている。

 アクションゲームだった「ハロプラ」とはうって変わって、こちらはトエトとのふれあいをテーマにしたコミュニケーションゲームになるとのこと。「ハロプラ」と同じく、動画の原作者であるトラボルタ氏が監修しており、こちらも楽曲の世界観を再現した内容になると思われるので、ファンは期待して配信日を待ってほしい。


(C) SEGA / (C) Crypton Future Media, Inc.
(C) SEGA / sasakure.UK / UMAA
VOCALOIDはヤマハ株式会社の登録商標です。

(2010年 6月 29日)

[Reported by 菅原哲二 ]