NCsoftグローバルマーケティングディレクター、キム・テクホン氏にインタビュー
「The Tower of AION」の今後の展開や日本でのサービスについて語る


6月16日 収録

会場:エヌ・シージャパン本社



 いよいよオープンβテスト(以下、OBT)が間近に迫った、Windows用MMORPG「The Tower of AION(以下、アイオン)」。アトレイアという世界で、天族と魔族という2つの種族に分かれての対人戦が楽しめる、韓国NCsoftが開発した期待の大作だ。日本ではエヌ・シー・ジャパンが運営し、現在クローズドβテスト(以下、CBT)が行なわれている。

 既に韓国と中国では正式サービスが始まっている。韓国では同時接続者数が28万人を超えており、中国でも126ものサーバーが稼働するなど、先行している両国では大きな反響を巻き起こしている。日本でのCBT募集には10万人を超える応募があり、CBTへの参加人数が大幅に追加される一幕もあった。そんな「アイオン」のOBTを前に、NCsoftのグローバルマーケティングディレクターのキム・テクホン氏に日本での運営方針やアイオンをとりまく現在の状況を聞くことができた。



■ 求められるクオリティの高い日本は最も重要視すべき市場

世界市場への展開を統括する、NCsoftグローバルマーケティングマネージャーのキム・テクホン氏
日本のCBTでも人気のあった天族はキャラクターの作成制限があった

――「アイオン」というタイトルは「リネージュ II」に続くMMORPGとして開発されたのですか?

キム・テクホン氏: 「アイオン」は「リネージュ II」の後継作ではありません。NCsoftの内部では、色々なMMORPGが開発されているのですが、「アイオン」はその中の1作として開発されました。ですので、「リネージュ」シリーズとは全く別物として考えるべきだと思います。韓国ではNCsoftはパブリッシャーとしてだけではなく、最高の開発会社として認識されていますので、NCsoftが開発するコンテンツという点に期待が集まっていました。

――韓国や中国でのユーザー数はどのように維持しているのですか?

キム氏: 具体的な数字は申し上げられませんが、韓国では28万人を超える会員数を維持しています。中国の場合は、現在126のサーバーが稼働していますが、OBT開始から今まででMMORPGとしては最高の記録を更新しています。

――韓国では、正式サービス開始後にログインが集中しすぎて1時間以上のログイン待ちが発生していました。

キム氏: サーバーを物理的に増やしたり、ログインが多い時に分散されるような技術面でのチューニングを行なったので、韓国ではそういった状態はすべて解決されている状況です。スタンバイが発生したのは、お客様の反応があまりにもよくて、接続数が急激に増加しすぎたのが原因だと認識しています。

――それだけ熱狂的に受け入れらた理由は何だと思いますか?

キム氏: 「アイオン」はNCsoftの開発もかなり努力した作品です。お客様の自由度を高める表現が上手かったのではないかと考えています。例えばキャラクター作成があげられます。既成のMMORPGの場合、キャラクターの外見は用意されたものから選ぶしかなかったわけですが、「アイオン」ではかなり自由に作成できます。米国で少し話題になったのですが、オバマ大統領そっくりのキャラクターを作成してプレイしているプレーヤーがいたという事例もあります。もちろん、キャラクター作成以外にも、ゲーム中にたくさん楽しめるものを準備しました。そういったものがお客様の心を掴んでいるのではないかと思います。

――開発する側としても、高評価は嬉しいですか?

キム氏: 長い開発機関に力を尽くしてきた結果として、市場でいい反応を得られたと思っています。開発しているゲームを早くお見せするよりも、完成度の高いものをお見せするのがNCsoftの精神であり基準でありますので、そういった精神に基づいてクオリティの高いものができたのではないかと思っています。

――韓国では「World of Warcraft(以下、WoW)」も人気がありますが、「WoW」が「アイオン」に影響を及ぼした部分はありますか?

キム氏: 開発段階から意識はしていませんでした。市場に関しても、1番に見つめなければならないのは日本市場だと思っていますが、「WoW」はまだ日本市場には侵入していません。もし「WoW」を市場での競争対象として意識していたならば、まずは欧米の市場を大切にしていたと思います。ですが我々は成功の意味として日本市場を最も重要視しています。「アイオン」がいいゲームなのか悪いゲームなのかを評価していただけるのは日本市場だと思っています。日本市場で最も成功できるようなものを作りたいと考えています。

――日本で受け入れられれば成功と考えているということですか?

キム氏: それが1番意味があると思っています。「リネージュ II」がサービスを開始した時にもそうだったのですが、日本のお客様からいい評価をいただきたいという気持ちですね。

――E3で「FINAL FANTASY XIV(以下、FF14)」が発表されましたが、「アイオン」のライバルになると思いますか?

キム氏: そうなるかもしれません。「FF」シリーズは、個人的にもとても好きなゲームです。ゲームをプレイして幸せを感じたシリーズでした。日本のユーザー様に、2つともプレイしていただけませんかとお願いしたいです(笑)。

――「FF14」はコンシューマー機でもサービスされる予定ですが、「アイオン」ではそういった展開は考えていますか?

キム氏: いま現在は検討しておりません。オンラインゲームについてはプレーヤーを増やすという事も重要ですが、コミュニケーションの自由度が高いインターフェイスを提供することも重要です。その重要性を考えた時にPCの方が対応できると考えています。ただ、いつまでもPCばかりに対応するのではなく、コンシューマーでもどうやればもっと楽に使えるかを研究しています。韓国ではコンシューマー市場の歴史が浅く、進出するにはもう少し研究が必要ではないかと思います。しかしそういった研究はずっと続けていくと思います。近い未来にPlayNCのゲームをコンシューマーゲーム機でもプレイしていただけるようになるのではないかと思います。



■ BOT対策も念頭に置いた、戦略的な課金システムを検討

クエストの合間に入るカットシーンが「アイオン」では多数用意されている
CBT最終日には「龍族」が現われるイベントも開催された
レベル上げは、プレイを楽しむハードルになってしまっている部分もあるとキム氏

――正式サービスの順番が韓国、中国の後に日本となったことについては何か事情があるのですか?

キム氏: サービスの準備ができた市場から順次開始をするという形でしたので、順番には特に意図があったわけではありません。中国よりも日本が遅くなったのは、日本ではいろいろな所に気を使って準備していたせいであるということを、ご理解いただければと思っています。

――確かに日本版はかなりローカライズに力を入れていますね。

キム氏: 現在公開されている以外の場所でも、かなりこまごまとした部分まで気を使っています。

――日本でも現在CBTが行なわれていますが、CBTの応募者10万人強という数字は予想されていましたか?

キム氏: 正直申しますと、これほどの反応があるとは期待していませんでした。社内で準備に最善を尽くしてきた結果、いい反応を引き出せたのではないかと思っています。この反応に対して、お客様には感謝を申し上げたいと思います。

――このまま順調にサービスインできそうですか?

キム氏: 今のところは順調に進められると思っています。しかしそれほど欲張ってはいません。「リネージュ II」を配信した時にもそうでしたが、日本市場でより多くのお客様に愛されるような作品になるようこれからも努力していきたいと思っています。

――不安要因はないのですか?

キム氏: 現在の所、不安な点は特にありません。とにかくオープンまでは頑張ろうという心構えです。いい反応をもらえても、そうでなかったとしても、どちらにも学べる部分はあるいい機会だと思っています。今頑張らずに後で後悔することだけはないように対応しています。

――「アイオン」は代表的なタイトルになりえると思いますか?

キム氏: もちろんそう考えています。ただそれほど楽ではないと思います。もっと努力をしていかないと。それはコンテンツに対する努力という意味もありますが、楽しんでいただくための努力も含まれています。「リネージュ II」を提供するときにも、最高のサービスを提供しようと努力しましたし、「アイオン」でも消費者が不便を感じないように最善を尽くすつもりです。

――今後は「アイオン」と「リネージュ II」の2本柱での運営になっていくのですか?

キム氏: 一緒に進行していく予定です。今後「リネージュ III」も日本で発売されることになると思いますし、「アイオン」もコンテンツとして定着すれば「アイオン2」が作られることになるでしょう。また来年には「Blade&Soul」というタイトルが出る予定です。

――日本での運営体制はどのようになるのですか?

キム氏: 力を入れているので、海外に比べると独特な運営体制になっているのは事実です。詳細についてはお話しできませんが、ただ運営はどんなに改善しても、不足な部分は必ず出てきます。あちこちから上がってくる不満を継続的に改善していく必要があります。そういった体制を整えるには時間が必要なので、だんだんと整っていくと思います。

――現在、中国と韓国では月額課金と従量性を合わせた課金システムを採用されていますが、どうしてこういった課金の方式を取られたのですか?

キム氏: 会社として積極的にアイテム課金モデルに集中しないのは、長期的に評価を得たいからという考えではないかと思います。ビジネスモデルに関しては、オンライン産業が発展していく中でいろいろな変化があると考えています。昔は月額課金が多かったですが、消費者のニーズの変化で設計は変わってくると思います。課金システムを決めるには、いろいろな要因を考慮する必要があります。たとえばBOTの対策も含めた、戦略的な課金体系が必要だと思っています。

――日本での課金システムについては何かアイデアがあるのですか?

キム氏: 現在日本市場の様々な状況を確認している所です。まだ最終決定がなされていないので、今日はお話しできません。

「アイオン」にはいままでのレベル上げ主体のゲームとは違う楽しみが用意されている?

――最近サービスされているMMORPGでは、レベル上げがカジュアルになりレベル上げに使う時間が短縮される傾向にあると思います。こういった傾向の中では、月額課金というスタイルは合わなくなってきているのではないかとも思いますが。

キム氏: それに関しては、コンテンツをどのように構成するかによって違ってくると思います。「アイオン」の反応がよかったのは、これが単純にレベル上げをするためだけのゲームではないからだと思います。昔のゲームは、レベルアップが消費者にとって達成しづらい目標として設定されていましたが、「アイオン」にはレベルアップが順調に進むという特徴があります。そういったレベル上げの部分よりも、日本のコンシューマーのRPGのような、クエストのストーリー性などに力を入れています。そこが市場では新鮮に映って、消費者にアピールできたのではないかと思います。コンシューマーゲームのCGに感動するような部分が「アイオン」にも十分に入っており、今後もどんどん追加されていきます。

――ユーザーもレベル上げ以外の部分を求めていると思いますか?

キム氏: そうですね。レベル上げには疲れてきているのではないかと思います。ただMMORPGによってはレベルアップを通じて目的を探すというものもあると思いますし、「アイオン」のようにそれ以外のことが目標になりうるゲームもあって、この2つはゲームとして別のジャンルだと思います。ですのでどちらがいいとは言えないですね。実際韓国でも「アイオン」が始まっても「リネージュ」のプレイ人口が減ったという事はないのです。

――住み分けがされているということですか?

キム氏: 個人がプレイする際に何を楽しみと感じるかは千差万別ですから、今後もジャンルは多様化されていくのではないでしょうか。



■ 高レベル用コンテンツ充実のため、韓国では7月と12月に大規模なアップデートを予定

オープンβテストは7月7日からスタート。レベル制限は30なので、「アビス」でのプレイも本格化しそうだ

――「アイオン」には「アビス」という対人地域がありますが、日本ではPKのできるゲームは敬遠される傾向にあると思います。「アイオン」ではそのあたりをどのように考えていますか?

キム氏: このゲームの対人戦はPKとは違うと思います。種族という区別がありますし、同じ種族はPKできません。種族が違う相手はNPCのようなものだと理解してもいいと思います。対戦ゲームでのPvPと同じようなものです。それに「アイオン」の面白さはPvPだけではありません。お客様が自分のプレイしたいスタイルを選べるだけの選択肢があります。

――日本では、ゲームの好みに日本独自の傾向があるように思いますか?

キム氏: どれほど完成度が高いコンテンツであるかが、最も重要だと思います。日本のユーザーはコンテンツのさまざまな部分を発見・発掘してそれを楽しむのが上手だと思います。また製品を見る際に要求する水準がかなり高いという部分もありますね。日本がゲーム市場で強国なのは、ユーザーもゲームを見極める能力を持っているということだと思います。実際日本で成功したゲームは、海外でもほとんど成功します。つまり日本のユーザーの意見がグローバルな意見と言えるのではないかと思うのです。ですので、日本のユーザーがフューチャーできるようなコンテンツを作らなくてはならないと考えています。NCsoft内でも、日本の消費者の意見はかなり重要な意見として扱われています。「アイオン」でも他の地域に比べて日本でのサービスに力を入れています。

――日本では、ネットカフェよりも自宅でプレイをするユーザーが多い傾向がありますが、そういった傾向はサービスに影響しているのですか?

キム氏: 自宅でプレイされるお客様にも積極的にプロモーションを行なうために、ネットでのコミュニティ作りに力を入れています。パワーウィキなどネット上でのサービスをいろいろと準備しています。オープン後はゲームマニュアルも提供する予定です。

――現在、韓国では高レベル向けのコンテンツが不足しているとの指摘がありますが、今後新コンテンツの追加についても予定されていますか?

日本のお客様に恩返しをするためにも努力したいというキム氏

キム氏: もちろん順調に準備を進めています。先ほども言いましたように、「アイオン」はレベル上げだけが目標にならないゲームなので、レベルアップだけを目標にプレイしているお客様にとっては、コンテンツが不足している感があります。そういう流れから韓国でも7月にアップデートを予定しています。また12月にも予定されていますので、日本でのサービスは量的にも質的にも十分なクオリティで行なえるのではないかと思います。韓国のアップデートの後、できるだけ早く日本でもアップデートを行なう予定です。

――最後にユーザーの方に一言メッセージを願いします

キム氏: ゲームをサービスしていく中で、お客様から頂いた愛に対して恩返しをするために、もっと努力したいと思っています。私の出発点はエヌ・シー・ジャパンのCEOです。ですから、日本で自信を持ってサービスできるようなものを提供していきたいと考えています。今後とも「アイオン」をよろしくお願いします。


The Tower of AION is a trademark of NCsoft Corporation. Copyright (C)2009 NCsoft Corporation. NC Japan K.K. was granted by NCsoft Corporation the right to publish, distribute and transmit The Tower of AION in Japan. All rights reserved.

(2009年 7月 1日)

[Reported by 石井聡]