GDC 2011レポート

「Shadows of The Damned」須田剛一氏、三上真司氏インタビュー
構想5年、開発3年半、2人の想いがたっぷり詰まった作品に


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 「EA Partners Showcase」で高い注目を集めたグラスホッパー・マニファクチュアのサイコロジカルアクションスリラー「Shadows of The Damned」。エグゼクティブディレクター須田剛一氏ならではの独創的な世界観と、クリエイティブプロデューサー三上真司氏ならではのカッティングエッジなアクション性。日本が欧米に真っ正面から挑む意欲的な作品に仕上がりつつある。

 今回は、須田氏と三上氏にインタビューする機会を得たので、「Shadows of The Damned」の作品性を中心に、ゲームの魅力について話を伺った。インタビューは、三上氏とのワンオンワンから始まり、途中から須田氏に加わっていただいた。発表会でウィスキーをあおったこともあって、若干ほろ酔い気味のおふたりだったが、上機嫌で「Shadows of The Damned」のディープな話を語って頂いた。


【「Shadows of The Damned」最新トレーラー】



■ 「Shadows of the Damned」の企画経緯について 三上氏「EAと組んでもグラスホッパーらしさを大事に」

「Shadows of The Damned」エグゼクティブディレクターの須田剛一氏
「Shadows of The Damned」クリエイティブプロデューサーの三上真司氏

編集部: GDCでの発表おめでとうございます。

三上氏: やっとこちらでも発表できて良かったなと思います。

編: 企画が持ち上がってからどのくらいの時間がかかっていたのですか。

三上氏: 3年半くらいです。

編: とすると「VANQUISH」よりも開発期間が長いのですか?

三上氏: 「VANQUISH」は「Shadows of the Damned」より半年後にスタートしたので、本作のほうが長くなってしまいましたね。長かったですね(笑)。

編: 三上さん、須田さんともそれぞれ代表作をお持ちの大物プロデューサーですが、どういう切り分けでゲーム開発を進めていったのですか?

三上氏: 須田さんが、最初のほうのデータを作りました。僕が全体のアドバイザーや調整で入ってました。意見が食い違ったときは須田さんの意見を優先する形で2人で調整していました。そこははっきりさせないと。システムとして組んでいても、お互い人間ですから。ただ、クリエイターとしてお互い尊重しているので、喧嘩にはならなかったです。

編: 1番衝突した部分はなんですか。

三上氏: 衝突も基本的に無かったです。強いて言えば僕が勝手に喋り過ぎているぐらいですか(笑)。

編: 「VANQUISH」もセガさんと組んだ大型のアクションですが、どちらもアクションゲームですよね。作りにくくなかったのですか?

三上氏: 作りにくくはなかったです。ただ、「Shadows of the Damned」が延び延びになってしまった。「Shadows of the Damned」の1番忙しい時期を終えてから「VANQUISH」が回ってくる予定でしたから。1番忙しい時期と最初の時期が両方かぶらないから大丈夫だと思っていたのですが、違いましたね(笑)。大変でした。

編: 頭の中が混乱しませんでしたか。こちらのボスはこれで、レベルデザインはこうで、と。

三上氏: 僕が時間の使い方を分けていた時期がありました。それによってある程度整理できました。必ずどちらかを表にして整理しておかないと、無理です。時間の使い方もどうしていいか自分でわからなくなってしまう。

編: 「VANQUISH」は単純明快なシューティングアクションでしたが、「Shadows of the Damned」はまた大きく色合いが異なりますね。

三上氏: グラスホッパーらしいゲームを作りたいなと考えていました。EAさんで出すとしても、EAさんと組むのはメジャー感を出すためには良い方法だと思うのですが、私はグラスホッパーらしさというのを見失ってまでも作りたくはないという気持ちがありました。

編: 須田ワールド全開の世界観を聞かせられたときにはどのように感じましたか。

三上氏: 最初からノリノリですよね(笑)。企画自体は5年以上前からのものなのです。暗闇です。原始人みたいな上半身裸の男が、真っ暗闇の中をたいまつを持って、出てくるモンスターがいたら何でもかんでも馬乗りになって殴る。シンプルだけどそんなゲームないでしょう? その須田さんらしさを出したゲームをいつか2人でやりたいねと言っていたら、「じゃあEAさんとコラボして一緒やろう」という具体的な話が出てきました。グラスホッパーのタイトルがメジャーになっていくためのステップとしては面白いなと思ったのです。

編: 非常にグラフィックスが綺麗ですが、何のエンジンを使っているのですか。

須田剛一氏: 「Unreal Engine 3」ですね。「Unreal Engine 3」は良いですね。かれこれ2年半くらい使っています。

編: 色んなシェーダーが使われていて綺麗だなと思いました。国産であれだけやれているゲームはなかなかないですよね。

須田氏: ありがとうございます。やはり「Unreal Engine 3」は描画まわりは出しやすいです。

編: よく使いこなしましたね。

須田氏: 開発に時間がかかりましたからね。「Unreal Engine 3」をさわりはじめて3年です。1年間くらいはスタッフがオペレーションを覚えるのに苦労しました。何人かが使いこなすと、ノウハウがたまってくるので、それを社内でドキュメントを整えて、日本語にも英語にもして蓄えるということをしていました。その3年間のノウハウは大きいです。

編: 「Shadows of The Damned」はパンクロックファンの須田さんの想いが詰まった作品だと感じました。構想に30年くらいかけたのですか?

須田氏: いえいえ、構想は5年です。僕のイメージもありますし、三上さんのイメージもありますし、後はディレクターのマッシモというイタリア人のゲームデザイナーが頑張ってくれました。そこですごく世界ができあがりました。

編: 会場がちょっとうるさくて音が聞こえづらかったのですが、音楽に対する工夫はどういったものがあるのでしょうか。

須田氏: 音楽の山岡はギタリストなので、ギターの音もこだわっています。生音が収録されていますので、是非うるさくないところでプレイしてみてください。すべてのプレイの場面において音は良いですね。

編: 鳴らし方とか鳴らす場面に工夫はあるのですか。

須田氏: 敵と戦うときの音や、何も無い時の音もそうなのですが、ホラーの環境音の作り方はかなり高い完成度にあると思います。



■ 最初はドクロではなく少女だった!? 「Shadows of the Damned」のゲームコンセプトについて

“地獄パンクホラーゲーム”と説明する須田剛一氏。まったく新しいゲームジャンルをさりげなく創造してしまうところが須田氏の凄いところだ
もともとは少女という設定だったというドクロのジョンソン。彼は武器とガイド役という2役を兼ねている
主人公のガルシアと、ヒロインのポーラ。キャスティングキャラクターはそれほど多くないようだが、いずれも個性的だ

編: 「Shadows of the Damned」のゲームコンセプトを改めて教えてください。

須田氏: “地獄パンクホラーゲーム”です。戦争の体験もそうですし、未来の体験も、宇宙の体験もそうですが、すばらしい経験がビデオゲームはできますよね。地獄の世界の体験はまだまだできていない。「Shadows of the Damned」は地獄の世界を体験して、没入することができる唯一の作品なのです。

編: 欧米市場を強く意識しているのが伝わってきました。

須田氏: そこはEAと組んだからというのが大きいですね。

三上氏: そこは多少意識して強くなったのかなと印象はありましたね。作っている最中におかしな話が出たこともあって。最終的にはグラスホッパーらしさが残ってよかったなと。

須田氏: 三上さんがグラスホッパーらしさを残してくれました。そういった部分をEAも理解してくれて、そこから順調になりました。

編: どうやら紆余曲折があったのですね。

須田氏: やはり簡単ではないですよ。いやー話せないエピソードはいっぱいありますね。

三上氏: だって、俺途中で降りかけたもん(笑)。

須田氏: そのくらいのことを経験するというのは大事なことで、組んでみないとわからないことはたくさんありますよね。EAがどういう会社なのかということや欧米市場がどういうことか、その苦労も初めてわかります。やってよかったと思います。

編: 今回発売日も発表されましたが、もう完成は目前ということですよね?

須田氏: 後はバグ取りとパラメータいじるといったところです。E3の段階で発売ですから。僕らが日本に帰ったときに完成版をチェックするだけです。

編: 先ほど遊ばせていただきましたが、「No More Heroes」だったり、「バイオハザード」だったり、「VANQUISH」だったり、いろいろな要素が合わさって不思議なゲームになっていますよね。

三上氏: 悪い言い方をすればはっきりしない。良い言い方をすれば非常にユニーク。それで満足できるスタイルになっていて、グラスホッパーさんの姿勢として、興味ある人は買ってくださいというゲームです。そういう部分が残っているのは、クリエイターから見てよかったなと思います。

編: 三上さんにお伺いします。このゲームで1番こだわった部分はどこの部分ですか。

三上氏: 僕からみてグラスホッパーらしさですね。

編: それはカッティングエッジということですか?

三上氏: 僕が意見をバーッと言い過ぎなかったことと(笑)、ユニークなゲームだけど、シンプルな部分でちゃんと遊べるよというのが頑張った点だと思います。グラスホッパーらしさを見失わない中で、できるだけちゃんと遊べる環境を作ってあげることが僕の仕事でありこだわりです。須田さんらしさを守ることが僕の仕事でした。

編: 今回グラフィックス周りは三上さんがご担当ですか。

三上氏: 今回そういう切り分けはありませんでした。結構、須田さんも言う人だし。

編: グラフィックスは「VANQUISH」をさらにパワーアップしたようなビジュアルエフェクトだったりしますが、このあたりはどなたがこだわったのですか。

三上氏: 最初は僕と須田さんのこだわりだったのですが、最後は現場のフィリップがかなりこだわって今のビジュアルになりました。開発スタジオは日本ですが、グラスホッパーには外国人のスタッフが30人くらいいます。

編: ゲーム全編を通じての欧米テイストはそのあたりから来ているのですか。

三上氏: そうですね。技術的なものからテイストまで、外国人スタッフがたくさん入ってきていますから、その影響はあると思います。

編: なぜ1人称ではなく、3人称のゲームにしたのですか?

三上氏: 1人称ではアクセントがないですよね。3人称にしたのは要するにキャラクターを見せるためですが、当初はモニターガンといって古いブラウン管がついたごつい銃があったのです。そこに小さな少女が乗っていて、一緒に物語を進めていくことになるわけですが、シナリオを進めるにしたがって、すごいスピードで大人になっていくという設定でした。

編: え? 今とはぜんぜん違う設定ですね(笑)。

三上氏: そう、それがドクロになってしまったという。幼女というのが問題になったのです。シナリオが進めば大人になっていくのですが、ダメだと言われて。

編: だからドクロになったわけですね。

三上氏: そうです。シンプルなわかりやすいシナリオに直して、今の世界観だったりキャラクターになったのです。最初から3人称+モニターガン+少女という設定で来ていたので、最初から3人称でした。

編: 主人公は比較的地味な格好をしていますが、衣装を変えることはできるのですか?

須田氏: 今後、変えるものを用意するかもしれません。

三上氏: 今のところその予定はないですが、着ているものを脱いだら全身タトゥーが入っています。それがカッコイイです。

編: それはどのようにして入手するのですか。

三上氏: 入手するのではなくて、色々なオープニングやカットシーンで見る事ができます。

編: 「Shadows of the Damned」の世界はすべて地獄ですか?

須田氏: そうです。

編: 地獄の中でも普通に見える部分と、闇に包まれている部分がありますが、どちらも地獄ですか?

須田氏: そうです。すべて地獄の中の闇の世界で、地獄のトラップみたいなものです。地獄の中にも闇の世界があるのです。

編: 地獄の闇を解放していくというのが基本的なゲームの流れになるのですか?

須田氏: そのロジックが基本になります。セカンドショットで光の力で解放していくのです。ゲームの導入は現世界のアメリカの東海岸が舞台です。導入がありまして、それからすぐに地獄に行きます。

編: 今回、武器がドクロのキャラクターですが、これはどなたのアイデアですか。

須田氏: それは僕のアイデアです。最初は幼女のアイデアで、これで物語が出来上がると思ったのですが、EAさんにダメ出しされてしまいました(笑)。幼女のゲームにうるさいというのはこれまでにも経験があったのですが、ここまでとは思いませんでした(笑)

三上氏: 500万本とか売れるゲームでなければ幼女はありだなと思いますけどね(笑)。

須田氏: モニターガンは別のゲームに盛り込みます。まだやっていませんからね。

編: ちなみにライトアップされた看板に何か謎のようなものが描かれていますが、あれはクエストのようなものですか。

三上氏: 謎解きのパネルのような絵があって、調べるとちょっとしたミニストーリーに進みます。

須田氏: 昔、実はパズルだったのですが、アクション中心の作品にパズルは鬱陶しいので止めました。

編: やりこみ要素はありますか?

三上氏: 1週目はルールやスタイルがユニークさゆえにわかりにくい部分があると思うので、馴染んできてからプレイ感覚が自由になるのです。そういう意味で2週目もある程度遊べるのではないかと思います。

編: ダウンロードコンテンツはどういったものが準備されているのですか?

須田氏: ダウンロードコンテンツについてはまだお話しできません。現時点では未定です。

編: マルチプレイや協力プレイはあるのですか。

須田氏: 残念ながら用意していません。色んな事情があって泣く泣くやめました。

編: 続編があるとしたらマルチプレイは盛り込まれますか。

須田氏: 2作目が出れば確実に入ります。

編: 続編はもう考えているのですか。

須田氏: まだわからないです。

三上氏: 勝手にあるとはいえないですからね。

編: 気になる日本展開はいかがですか。

須田氏: 少し待っていただければ確実に発売します。欧米の発売のほうが先になります。日本でもこのテイストを好きなユーザーはいると思いますから期待しています。

編: 日本展開はいつごろですか。

須田氏: 今年中にはなると思いますが、正式発表までもう少しお待ちください。



■ パンクロックの世界観について。パンクロックは「Shadows of the Damned」で学べ!

時にはインタビューそっちのけで2人で議論を始めてしまうことも。この体制が作品に良い影響を及ぼしているのは間違いなさそうだ
デーモンに金的を食らわせる。この辺りが“砕けたホラー”ということのようだ

編: しかし強烈なホラーゲームですよね。しかも凄くクオリティが高いから、思わずのけぞってしまうユーザーも多いと思います。

三上氏: 日本のユーザーが怖すぎて買えないというわけではなく、映画「ゾンビランド」のような砕けたホラーのような人気の波が来ると思います。

編: 砕けたロック系のホラーというとこれもEAさんになりますが、「Brutal Legend」がありましたね。

須田氏: あれはハードロックですよね。うちらはパンクロックですから。あっちは正統派のクラシックスタイルですからね。

編: パンクロックの1番の魅力は何でしょうか。

須田氏: 最初に発想したことを貫くことです。

三上氏: ちなみにシナリオは2番目に書いたものが最高なのです。チョー良いのです。最高です。

須田氏: ありがとうございます(笑)。

編: 実際にゲームに採用したのは第何稿なのでしょうか。

須田氏: 第5稿ですね(笑)。

三上氏: 5なの!? そうなの? ありえない。須田さんの場合、ちょっと変えるのじゃなくて、まったく違うのですよ。

須田氏: ちょっと直すのイヤなのです。全部書き直すのです。

編: 5本分のゲームシナリオがあるということですか。

須田氏: そういうレベルです。第2稿の評判が良いので違うゲームで使おうかな(笑)。

三上氏: チームの評判も良かったですね。

編: そういった未使用のシナリオは、ダウンロードコンテンツによる追加シナリオの配信などで活用できそうですね。

三上氏: ええ、話なんていっぱいありますからいくらでも作れますね。

須田氏: 250%作り直して、キャラクタも違って別ゲームの配信になってしまうかな(笑)。

編: ゲームの1番の魅力は何だと思いますか?

須田氏: アクションとコンバットですね。

三上氏: 僕はビジュアルとスタイルです。残酷な表現やセリフの言い回しの工夫だとか、マッシモが須田さんの部分を引き継いでグラスホッパーらしさが残っているのです。小ネタの1つ1つが楽しいのです。記憶に残るゲームになるのではないかと思います。

編: 今回のデモでは洋風のホテルのステージでしたが、他のステージはどういった世界観が広がっているのでしょうか。

須田氏: 森の世界や悪魔の世界の都市だとか「Shadows of the Damned」で描かれる地獄の世界は生活観があるのです。彼らが生活している生態系があって、暮らしている都市があり、それを描いているのが「Shadows of the Damned」の特徴です。

三上氏: リアルな世界観で人が住んでいるような「裏ゼルダ」風の世界です。現実世界とは別に黒いリアルな世界がもうひとつあって、そこに悪魔が棲みついている。すごくしょうもないようなステージもあります。女の裸体の上を歩くやつとか(笑)。

須田氏: あれは裸体ではなく下着を着ています(笑)。

三上氏: 裸のでっかい女性の上を歩いて進んでいくのです。最高なのですよ。

編: 地獄というと、EAさんの「Dante's Inferno」がありますが、あれとはまた異なる地獄になりそうですね。

須田氏: あれはオーケストラ的な意味合いでの地獄なのです。我々はパンクロックの地獄ですから。現代的な意味合いでの地獄です。

編: パンクロックを学ぶのに1番良い教科書は何ですか。

須田氏: 「Shadows of the Damned」ですかね(笑)。

三上氏: うん、その意見は正しい。

編: おふたりともノリノリですね(笑)。

須田氏: 音楽から入っていくよりは、ゲームから学んで、その後に音楽に入っていただければ。

編: アーティストではどなたがオススメですか。

須田氏: もちろんThe Damnedですね。

編: ゲームタイトルはそこからきているのですか?

須田氏: それもあると思います。ゲームを楽しんだ後はThe Damnedを聞いてみてください。

三上氏: 「ダビスタ」から入って、競馬場に通うようになった人も少なからずいるでしょうし、それで良いと思います。

編: グローバルでの目標出荷数は何枚ですか?

須田氏: 100万本以上です。頑張りたいです。

編: 日本のユーザーさんに一言ずつお願いします。

三上氏: 自分のゲーム史の記憶に残るタイトルになりました。遊んで損はしないと思います。

須田氏: 「地獄パンクホラーゲーム」という新しいジャンルができたと思います。EAから発売されるので欧米向けかと思うかもしれませんが、日本のデベロッパーが作ったゲームですし、まだ詳しくはお話しできないのですが、日本版はすごくスペシャルなものを用意しておきますので、注目して待っていてください。予約してください。宜しくお願いいたします。

編: ありがとうございました。


(2011年 3月 9日)

[Reported by 中村聖司]