インタビュー

「アストロボット」インタビュー 目指したのは「日本の懐石料理」

リードゲームデザイナー・矢徳浩章氏が語る“小さくても強い”遊び

【アストロボット】

9月6日 発売

価格:
通常版 7,980円(税込)
デジタルデラックス版 8,980円(税込)

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、プレイステーション 5用アクション「アストロボット」を9月6日に発売した。

 同作は「ASTRO BOT: RESCUE MISSION」「ASTRO's PLAYROOM」に登場するキャラクター「アストロ」が活躍するスペースアクションアドベンチャー。PlayStation StudioのTeam ASOBIが開発を手がけており、その丁寧なステージ構成と遊び心たっぷりの細かい仕掛けで、発売間もなくメタスコア94という高い評価が付けられている。

 今回、そんな発売を迎えたばかりの「アストロボット」を開発する、Team ASOBI リードゲームデザイナー・矢徳浩章氏にオンラインインタビューする機会があった。本稿では早速その内容についてお届けしていく。

Team ASOBI リードゲームデザイナー 矢徳浩章氏
【『アストロボット』 - ロンチトレーラー】

技術デモではなく「フルゲーム」として作る

――本日はよろしくお願いします。早速ですが「プレイステーション」が発売されてから、今年で30周年の節目を迎えます。「アストロボット」の開発にあたって、Team Asobiとしてはどのような姿勢で開発に臨んだのでしょうか。また、開発チーム内でプレッシャーはありませんでしたか?

矢徳氏:開発チーム内にプレッシャーは特になくて、むしろみんな楽しんで作ることができたと思います。前作では、デバイスの機能を楽しくユーザーさんに体験していただくために、技術デモとしての側面がありました。今作は前作と活用しているデバイスが同じものになりますので、“技術を見せるゲームにはならない”ように気をつけました。

 「DualSense」を活かすことは、我々Team ASOBIの強みの一つになりましたので、その強みは今作でもっとグレードアップしつつ、機能を知ってもらうためではなく、1本のゲーム体験として新鮮で楽しく、快適になるように努めました。

 具体的には、前作ではDualSenseのタッチパッドをよく使っていましたが、今作では「アストロ」のコアとなるアクションの中にタッチパッド操作を強制するように入れてしまうとテンポが悪くなってしまいます。そこで、より「アダプティブトリガー」と「ハプティックフィードバック」にフォーカスした体験を構築するようにしました。


――実際に「アストロボット」をプレイさせていただき、どこか懐かしいアクションゲームの手触り感を感じました。今、この時代にこうした簡単操作で楽しいアクションゲームを改めて世に出すのは、何か意図があるのでしょうか?

矢徳氏:Team Asobiのメンバーは、日々たくさんのゲームをプレイするようにしています。ですが、特別今の時代に合わせたりだとか、逆に「一石を投じたい」という気持ちでゲームを作っているわけではありません。

 僕たちはゲームをプレイしたことがないような小さなお子さんから、昔からゲームを遊んでいるゲーマーまで、“どんな人にでも楽しいと思って貰えるゲームを作りたい”と、そういう信念でゲームを作っています。初めてゲームを遊ぶ人にとっても、操作が簡単である方がプレイしやすいと思います。

 また、ゲーマーにとっても、本作のようなアクションゲームは馴染みがあると思いますので、その両立ができているのかな、と考えています。

――DualSenseの機能をふんだんに活用されていて、PS5のゲーム体験が高いレベルに昇華されていました。アダプティブトリガー、ハプティックフィードバック、3Dオーディオ、いずれも欠かせないものだと思いますが、今作でイチオシの体験があれば、ぜひお聞かせください。

矢徳氏:僕らはアイディアを考えるときに、今作は特にDualSenseを活かしたものから考えるようにしました。ゲームデザイナーがアイディアを出すのではなく、チーム全体がブレインストーミングで、アイディアを考えるようにしています。その中でも特にハプティックフィードバックとアダプティブトリガーは、いつも僕らの頭の中にありました。

 たとえばそのアイディアの中に「スポンジを絞る」というアイディアがありました。“水を含んでいない状態で絞るスポンジ”と、“水を含んでいる状態のスポンジ”を絞ったときに、アダプティブトリガーの重さが変わったりだとか、ハプティックフィードバックの振動の仕方が変わったりすると、今までにない体験が得られるんじゃないか、といった感じです。

 そういうアイディアがある中、本当にそこの部分だけプロトタイプした際に「良いものが出来たな」という感触があったので、今度は「アストロボット」というジャンプアクションゲームの中に、どのように入れるのかを考えていきました。


 アストロ自身がスポンジになってしまえば、水を含んだ状態と含んでいない状態で絞るという要素を、アクションの中に入れやすいのではと考えましたが、ゲームを作る上では「それにどのような意味があるのか」も考えなくてはなりません。

 そこで、水を含んだ状態で移動して水を運び、草の根に水をかけて花を咲かせたりだとか、オイルで汚れた場所に水をかけたら綺麗にすることができる、という要素などを洗い出していきました。

 そして、もっとジャンプアクションに関係のある要素を入れたいと考えたとき、水を含んだスポンジが大きくなって高い場所へジャンプできたり、物を壊しながら進める要素を入れたりして、スポンジを感じる体験にできたかなと思っています。

 今作は15種類のパワーアップが登場して、どれも思い入れがあります。ですので、イチオシの体験と言われると、その一つひとつすべてになるかなと(笑)。ただ、わかりやすいのは「スポンジ」かなと思いますので、ぜひみなさんに手に取って、アダプティブトリガーとハプティックフィードバックを体験していただけたらと思います。

――すると「アダプティブトリガー」と「ハプティックフィードバック」、この2つの要素から作中にある数々のステージも作られていったのでしょうか?

矢徳氏:そうですね。流れとしては「パワーアップはどういうものがいいか」というところからが入りやすいんです。何故かというと、アダプティブトリガーとハプティックフィードバックを体験してもらうためには、「道具」をユーザーさんにあげなくてはいけなくて、その道具を使うことが“パワーアップ”になりやすいと思っているからです。

 ただ、それだけでステージを作るわけにはいかなくて、「スポンジのパワーアップができたから、次はどんな敵がいたら良いだろう」「どんなギミックがあったらいいだろう」と、組み合わせを考えていく必要があります。

 火で出来た敵がいればそこに水をかけると倒せたり、火の玉をアストロに投げてきたら、水をかけて蒸発させる一方でスポンジが小さくなってしまうなど、駆け引きが作れます。また、ギミックですと、ステージに置いてあるスポンジに水をかけて大きくさせ、それが足場になって進めるといったアイディアに、時間制限で足場が小さくなる要素を加えれば、それが緊張感にもなります。


 こうしてパワーアップとの相性が良い敵、ギミックを考えて、ステージを作る役者を揃えていきました。ですが、ずっと同じ体験をユーザーさんがしても面白くないので、どういった順番と組み合わせで“いつも新しい体験”をできるか考える必要がありました。ユーザーさんがステージをプレイしたときの気持ちを想像しながら、同じことをさせないように、いつも新しい組み合わせでステージを作っていきました。

――確かに今作は惑星が50以上もありますが、毎回新しいステージに行くたび、全く異なる体験とロケーションなので「どうやって作っているんだろう」と、いつも驚かされていました(笑)。

矢徳氏:大変でしたが、楽しかったです(笑)

 たくさんのアイディアが出ましたが、製品版ではそのうちの“本当に良いもの”だけを残しています。ユーザーさんには美味しいところだけ食べていただけるんじゃないかと思います(笑)。


喜んで協力を得られた「カメオボット」たち

――「アストロボット」には、過去プレイステーション作品の登場キャラクターをモチーフとしたカメオボットが、数多く登場していました。今作に落とし込む際に苦労したところなどがあれば、お聞かせください。

矢徳氏:今作は「プレイステーションの30周年をみんなで楽しくお祝いしませんか?」ということで、パートナーさんと相談してきました。どのパートナーさんもとても優しく、皆さん喜んで、お祝いのためにコラボレーションしてくださいました。その点においては、全く苦労はありませんでした。本当に皆さんのポジティブなご対応に感謝しております。

 今作のカメオボットは、レスキューしたときにカメオボットが貰えて、ゲームを進めていくとガチャマシンが登場し、ガチャマシンからカメオボットの道具を貰えます。道具を貰うと、カメオボットは道具を使って生き生きとしたアニメーションをするようになり、アストロがカメオボットをパンチすると、元のゲームに関連したジョークを見ることができます。


 ほかにも、カメオボットをレスキューしたときと、ガチャマシンで道具を獲得したときは、カメオボットに関係するテキストも用意されています。世界中にいるモチーフ元のゲームのファンが、そのテキストを読んだり、アニメーションを見たりして、思い出がよみがえり、ニヤリとできるものを作っています。何しろ数が多いので、大変でもあり楽しくもありました。

 また、お子さんがプレイされていても、初代PSゲームのカメオボットについて知らないことが多いと思います。そのプレイを見ている家族や友達が、もしそのカメオボットを知っていたら、「昔こういうゲームがあって楽しかったんだよ」と話ができると思っていて。これらカメオボットが“ユーザーさん同士の会話の架け橋”に”なってくれたら、プレイステーション30周年のお祝いとして、これほど嬉しいことはないなと思います。

――私もゲーム中に小ネタの数々を目にして、「懐かしいなぁ」と思い出に浸っていました。過去作を引っ張り出して、プレイし直そうかなと思ったくらいで……(笑)。

矢徳氏:ありがとうございます(笑)。

 チーム内でも新しいカメオボットを作るとき、“一番そのゲームに思い入れが強い人”を探して、その人と話して「こういう思い出があったよ」「こういうところが良かったよ」というのを聞き、アイディアを精査するようにしています。


「アストロ」は新たなマスコットキャラクターになるのか?

――今作でも過去のプレイステーション製品が登場していますが、前作「ASTRO's PLAYROOM」に比べて、ゲーム内における表現で拡張させた部分や進化した部分があればぜひ教えてください。

矢徳氏:プレイステーション製品の歴史を紹介していくというのは、前作でしっかりやりましたので、今作では同じことをしないようにしました。そこについては“拡張”というよりも“意図的にやらなかった”ことですね。

 その代わり、PS5のような見た目をした宇宙船が登場してきて、それが壊れてしまうので、ゲームの進行に従って、それをDIYのように修理する要素を入れたり、ゲーム終盤ではたくさんのプレイステーション製品がその世代のカメオボットと共に登場し、ゲームプレイとしても楽しめるシーンがあります。ぜひ皆さんゲームクリアまで遊んでいただけると嬉しいです。


――「アストロ」と言えば、PS5にプリインストールされている「ASTRO's PLAYROOM」、PS4のVRゲーム「ASTRO BOT: RESCUE MISSION」など、“最初に触れやすいゲーム”そんなイメージがあります。今作でまた「アストロ」にスポットが当たった経緯などがあれば知りたいです。

矢徳氏:前作の「ASTRO's PLAYROOM」を作ったときに、良いアイディアとか良いプロトタイプがまだたくさんあったのですが、小さなスケールのゲームでしたので、入り切らなかったものがたくさんありました。それらを新しいフルゲームの「アストロボット」として詰め込んで、製品にしようというのが自然な流れだったと思います。

――つまり、前作からの“正統進化”というところが大きいのでしょうか。

矢徳氏:そうですね。王道のアクションゲームの中にDualSenseを活かしたアイディアがふんだんに詰まっていると思っています。ただし、フルゲームとして成立させるために、できるだけ“コンテンツは多いけど味の薄いゲーム”にならないように気をつけて作っていました。これは、味の薄いゲームでユーザーさんの時間を奪いたくない、という気持ちがあったからです。


 理想のイメージは「日本の懐石料理」でした。一つひとつの料理やアイディアが小さくても強く、かつたくさんのバラエティがあって、飽きることがない。進めば進むほど、どんどん新しいものが楽しめるようになる。それが結果的にフルゲームになるといいなと思って作ってきました。

――プレイステーションには長い間、「トロ」のようなマスコットキャラクターのような存在が大きく目立ってきませんでした。「アストロ」は、今後「トロ」のようにプレイステーションを象徴するキャラクターになったりするのでしょうか?

矢徳氏:僕らとしてはアストロが「次のプレイステーションのマスコットキャラクターになるように」だとか、「プレイステーションを象徴するキャラクターになるようにしていこう」ということは特に考えてはいません。ただ、自分たちが自信を持って「アストロは魅力的だよ」と言えて、実際にユーザーさんにもそう感じてもらえるように努力しています。

 それだけではなくて、今作ではほとんどのパワーアップを動物のキャラクターにして作りました。アストロに、魅力的なファミリーができたと思っています。皆さんにもそう感じていただけたら嬉しいのですが……どうでしょうか(笑)。

――いやぁもう、作中に登場するキャラクターが皆本当に可愛いですよね(笑)

SIE広報担当 新子氏:(思いが溢れて会話に参加)どちらかと言ったら、マスコットキャラクターにしたいのはPRやマーケティングかもしれませんね(笑)。私のデスクは、すでにいたるところに“この子たち(アストロのグッズ)”がいます……(笑)。

一同:(笑)

――遊んでいる側としては「プレイステーションの新しい象徴的なキャラクターになるんじゃないかな?」という予感があります。が、作り手側としては、単純に1人のキャラクターとして、長く愛され続けるような方向性に持っていきたいということなのでしょうか。

矢徳氏:その通りですね。


――最後になりますが、Team ASOBIのビジョンとプレーヤーに向けてのメッセージをお願いします!

矢徳氏:Team ASOBIは大事にしていることが5つあります。「マジカル(魔法のような体験)」「イノベーティブ(革新的)」「プレイフル(遊び心)」「ユニバーサル(誰でも遊べるもの)」「ポリッシュド(品質の高いもの)」です。

 「アストロボット」は、これらを完璧にクリアできるように、Team ASOBIのみんなで頑張って作ってきました。Team ASOBIは東京オフィスの一つのフロアでゲームを作っていまして、こうやって日本の一画で作った物が、日本のユーザーさんはもちろん、世界中のユーザーさんに楽しんでいただけることにとってもワクワクしています。

 本作は特に、キャラクター操作のレスポンスの良さや、ステージに入ったときに自然と次にやることがわかるスムーズなゲームプレイ、日本のスタジオらしいユーザーさんへの“おもてなし”が行き届いたゲームになれたのではないかと思っています。

 このゲームをプレイしてくれたユーザーさんが、笑って楽しんでくださることで、「また明日もお仕事・学校を頑張ろう!」と、元気や活力になってくれたらいいなと思っています。

 また、たくさんのパートナーにも喜んでコラボレーションしていただけました。そのカメオボットたちを通して、友達や家族と懐かしいゲームの話をしてくれたら嬉しいです。

 このゲームが時間を潰す物ではなく、「これまでゲームを遊んできてよかったな」「これからもいろんなゲームに期待したいな」と、ワクワクしていただけるものになっていたら、Team ASOBI一同とても嬉しく思います。皆さんにぜひ、手に取ってプレイしていただけることを、願っております。よろしくお願いします!

――本日はありがとうございました!