【特別企画】

「アストロボット」のアレコレが開発陣から直接聞ける! Team ASOBIファンミーティングレポート

【「アストロボット」ファンミーティング】

2月27日 開催

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、プレイステーション 5用アクションアドベンチャー「ASTRO BOT(アストロボット)」において、ゲーム制作を手掛けた開発スタジオTeam ASOBI初のファンミーティングを2月27日に実施した。

 「ASTRO BOT」と言えば、昨年2024年12月に行なわれたゲームの祭典「The Game Awards 2024」にて、最優秀賞のゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞したシングルプレイ用のアクションアドベンチャーだ。そんな本作は、12月13日に配信されたアップデートを記念し、フォトコンテストキャンペーン「『アストロボット』フォトコンテスト」を実施していた。このキャンペーン期間中に別途専用の応募フォームから応募したプレーヤーの中から、抽選で10名を限定招待したイベントが、本ファンミーティング「Team ASOBI ファンミ!」となっている。今回は都内で開かれたファンミーティングの様子をお届けしていく。

会場では「ASTRO BOT」に関する様々なグッズや資料が置かれていた
【『アストロボット』 - ロンチトレーラー】

Team ASOBIの前身は“研究開発”。デモ開発から始まり徐々に確立されていったアストロの誕生秘話

 最初のトークセッションでは、スタジオディレクターのドゥセ・ニコラ氏から、改めてTeam ASOBIについての紹介が行なわれた。Team ASOBIは“誰でも遊べるゲーム”を手がけるスタジオであり、ゲーム制作にあたっては幾つかのポイントを大切にしていると話す。

 それは過去にTeam ASOBIのリードゲームデザイナーである矢徳浩章氏へのインタビューでも明かされた理念のようなものだ。魔法のような体験「MAGICAL(マジカル)」、ソニーのモノづくりの歴史に通じる革新性「INNOVATIVE(イノベーティブ)」、楽しさを追求する「PLAYFUL(プレイフル)」、子どもからお年寄りまでが楽しめる「UNIVERSAL(ユニバーサル)」、PlayStationのスタジオらしい品質の高さを象徴する「POLISHED(ポリッシュド)」の4つである。

 また、ニコラ氏はゲームを考える上で“おもちゃの感じ”も大事にしているとが明かす。ストーリー以上に、プレーヤーがゲーム中、インタラクションに対してどんな思いを持てるかが一番大事なのだという。こうしたゲーム制作のマインドを国際色豊かなチームメンバーたち(スタッフの8割は日本人とのこと)と共有しながら、ゲーム開発に臨んでいるようだった。

スタジオディレクター ドゥセ・ニコラ氏

 意外なことにTeam ASOBIの前身はゲーム開発ではなく、R&D(研究開発)だったという。新しいアイディアを研究し、実際にそのデモを制作することが中心で、当時はそのデモからゲーム開発を本当に行なうことになるとは想像していなかったとニコラ氏は話す。

 トークセッション中は当時開発していたデモの映像も公開され、コントローラーの中にキャラクターが吸い込まれたり、吐き出されたりするAR技術を用いたデモが披露された。シニアゲームデザイナーの森田玄人氏いわく、10年以上も前のものになるらしい。こうしたデモ版から“遊び”としてどうかをテストしていき、さらにアーティストによってキャラクターの持つ「可愛らしさ」、「カッコよさ」、「PlayStationのハードウェアと合わせた際の違和感のなさ」を突き詰めていったようだ。

 動きも可愛らしくなるように“子どもっぽいもの”を意識しつつ、「こういうキャラクターがコントローラーの中に住んでいたら」といったところからアストロは始まっていく。そうした中、チーム内で好評だったプロトタイプ版から、プレイステーション 4にプリインストールされているソフト「プレイルーム」のリリースに繋がっていったとのことだ。

シニアゲームデザイナー 森田玄人氏

 「プレイルーム」にはダウンロードコンテンツとして配信された「ニンジャボット」というミニゲームが存在している。これはTeam ASOBIとして“初めて自分でキャラクターのコントロールを行なった”コンテンツであり、現在の「ASTRO BOT」にとっては先祖のようなものだと森田氏は明かした。

 以降、PlayStation VRでもプロトタイプの研究が同様に進められていき、その成果は「THE PLAYROOM VR」として結実する。このタイトルはVRを着用したプレーヤーと、他4人のプレーヤーが同時に参加して遊べる、最大5人参加のパーティーゲームだが、この中の「ロボットレスキュー」が後の「ASTRO BOT」にとっても重要な存在になっていった。

画像は「プレイルーム(THE PLAYROOM)」のDLC「ニンジャボット」より
「ニンジャボット」は4人プレイに対応するため、マフラーの色でプレイヤーキャラクターを見分けた。マフラーのデザインにもこだわったそうだ

 シニアゲームプレイプログラマーの吉田匠氏は、「ロボットレスキュー」について、ジャンプアクションをVRで行なうとどうなるのかを研究して生まれたものであり、目の前のキャラクターを操作して遊ぶことに可能性を感じたのだそうだ。また、「ASTRO BOT」におけるプレーヤーカメラに向けたアストロの可愛いリアクションも、この時期には実験的に研究をしていたとのこと。

 ただ、VRハードではプレーヤーが手にしている実物のコントローラーが見えないという事情がある。そのため、ゲームでは可能な限りボタン数を減らして直感的な操作性を目指す必要があった。これがきっかけで、あえて×ボタンと□ボタンのみを使用する操作に簡略化することになったが、その時の操作性が好感触であったがため、現在の「ASTRO BOT」においてもシンプルな操作性が踏襲されている。

シニアゲームプレイプログラマー 吉田匠氏
アストロの一挙一動の愛らしさには開発チームの研究の歴史があった

 「THE PLAYROOM VR」の時点でキャラクターの見た目はアストロにほとんど近いものの、この時期にはまだ名前がなかったようである。しかし、ゲームとして迷子のボットたちを助けながら、コントローラーの中へと集めていく遊びはここで生まれていた。「THE PLAYROOM VR」の反響は大きく、結果として後の「ASTRO BOT: RESCUE MISSION」へと繋がっていった。そうしてゲームタイトルにもある通り、初めて「アストロ」の名前が付けられるに至った。

 森田氏は「技術を検証して出来た“面白い”と思ったものを世に出したら評価をもらえて、じゃあもっと作ろう!というサイクルで、僕らとアストロが共に育ってきた」と、Team ASOBIのこれまでを振り返った。そしてファンミーティングを実現するまでになったことについて、来場者へ改めて感謝を述べ、拍手と共にこのプログラムは幕を閉じた。

画像は「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」より
「ASTRO BOT」では救出したボットたちがコントローラーの中へ集められていく

来場者が直接色々と聞けるQ&Aコーナーも!

 プログラムの中には来場者参加型のQ&Aコーナーも設けられていた。最初の質問では「アストロのエネルギー補給はどうしているのか?」といった質問が寄せられた。最初の質問から森田氏とニコラ氏はお互い顔を見合わせながら一瞬考えるが、ふとマイクを手にしたニコラ氏が「あの、そこまで考えてないですね」とバッサリ。会場では思わず笑いが巻き起こった。

 ニコラ氏はプロジェクト中、キャラクターに口を付けたらどうなるのか、アーティストに提案して試してみたのだという。しかし、アストロの持つ可愛さが変わってしまったり、口を付けたことで発生するアニメーションの存在だったりを考えて、口は無い方向性に決まったようだ。だが、ゲーム内ではアストロたちに口が無いのに、何かを食べている描写がある。これについて、シニアコンセプトアーティストの中井俊彦氏は「公式な発言として捉えられると……笑」と前置きした上で、「それらしいフリをしているのかなって僕は捉えています」と答えた。

最初の質問からニヤニヤが止まらない森田氏とニコラ氏
アストロに口が付くことについてアートディレクター ブルクナー・セバスティアン氏は拒絶するかのように首を横に振り続けた
シニアコンセプトアーティスト 中井俊彦氏(右)

 質問の中にはプレイステーション 5の処理に関するマニアックなものもあった。作中のステージの中で大量の宝石が降って来る場面など、裏ではどれだけの処理を行なっていたのかといったものだ。これに回答したの吉田氏だ。「ASTRO BOT」では、PS5の処理能力を限界ギリギリまで使っており、大量の宝石、水の表現、スポンジになって水を搾り出すアニメーションなど、フレームレートが安定せず苦労したことを明かした。ゲームの最適化を最後の最後まで対応していたようである。

 また、一番最初のステージに登場する丸太を、アストロのホバリングで切断できるという部分も、ゲームとしてはかなり重い処理をしているとのこと。しかし、実際はその要素にそもそも気付かないプレーヤーが多いことに対して、やや残念がっている様子であった。他にもバルーンに乗った際、バルーンが変形する場面では、さまざまな処理を行なっているのだという。

「実況動画を見ると(丸太を)切ってくれ切ってくれ」と感じるという吉田氏
海やステージ内のアストロが泳げる水中場面など、水の表現にも注目したい
大量のオブジェクトが出現するステージが作中には度々登場している
アダプティブトリガーの感触も気持ちいスポンジ状態のアストロ

 ファンミーティングの最後にはレクリエーションとしてクイズ大会が開かれた。上位入賞者たちにはアストログッズが進呈されている。クイズ大会では簡単な問題から、ゲームをかなり遊び込んでいないと記憶が定かではないような、ちょっとマニア向けの問題など全7問が出題されている。だが、今回のファンミーティングに訪れた来場者の中には、唯一全7問を見事に正解した人の姿もあった。

 Team ASOBIによる初のファンミーティングは、限られた人数でのイベントだったが、ファンとクリエイターを繋ぐ希少な機会になったことだろう。プレーヤーたちは「ASTRO BOT」を開発したTeam ASOBIのクリエイターたちに、そしてTeam ASOBIのクリエイターたちは「ASTRO BOT」をプレイしたプレーヤーたちに、お互い感謝を伝え合う交流の場になっていたと思える。いまやPlayStationの新しい顔になりつつあるアストロの今後の活躍にも、いちプレーヤーとしては期待したいところだ。