インタビュー
原点回帰であり方向転換。「ストリートファイター6」開発者インタビュー
「モダンタイプ操作で優勝する人がいてもおかしくない」。新システムや世界観、気になる疑問を直撃!
2022年6月17日 15:00
- 【ストリートファイター6】
- 2023年 発売予定
- 価格:未定
格闘ゲームの金字塔であり、カプコンの看板タイトルである「ストリートファイター」シリーズ。謎に包まれていた最新作「ストリートファイター6(スト6)」のゲーム部分が一部が明らかになった。
情報解禁と同時に、本作のメディア向けの体験会と合同インタビューが行われた。前作からガラリと変わった作品のイメージとゲーム性。どのようにして「スト6」が今の形に進化したのか、本作の開発を手掛けるプロデューサーの松本脩平氏と、ディレクター中山貴之氏に話を聞いた。
プレイスタイルの幅が格段に広がった「スト6」ならではの新システム
――実際にプレイしてみて、前作と比べてゲーム性が大きく変わったなという印象を受けたのですが、ゲーム性を変える際に強く意識した部分はありますか?
中山氏:今回はバトルの展開は早くなっているんですよ。ダウンした後の攻防ですとか。今回モーションなどは全て1から細かく作り込んでいるのでしっかり見えるようにしたいなと思いつつ、それをやり過ぎるとバトルスピードが遅くなってしまうので、試行錯誤しながら調整しています。
あとは防御の新しいシステムを追加して、攻めるだけじゃなく守る側にもちゃんと遊びがあるというところを意識して作っています。ドライブインパクトやドライブパリィがそれの代表的な要素になってます。
――ドライブシステムが「スト6」攻防のカギを握っている感じでしょうか?
中山氏:そうですね。ドライブゲージをどこで使うかとか、キャラクターによって“このキャラクターはオーバードライブを使っていった方が良い”とか、キャラの得意不得意がありつつもプレーヤーの好みのスタイルで戦えるといった手段をたくさん用意しました。ルークなんかはオーバードライブが強いキャラクターなんで、ガンガン使っていくと攻めやすいんですけど、すぐガス欠になっちゃうんですよ。そういったところも注意しながらのプレイが必要です。
――触ってみて、ドライブパリィが表裏と中下段が効かなくてかなり強いと思ったんですけど、そこは調整中といった感じでしょうか?
中山氏:そこも発売まで調整していきますが、ドライブパリィはゲージを払って強い行動ができるというのは強調したかった感じですね。ドライブパリィは開発中は“何とかなる防御”という名前で、ドライブインパクトは“何とかなる攻撃”だったんですよ。強い攻撃と強い防御を作って戦わせようという感じで。あと、ドライブインパクトのかみ合わせなど、ドライブパリィにも弱点はちゃんとございます。
――また今回は、スーパーアーツゲージはスーパーアーツにしか使わないんですね?
中山氏:そうですね。「ストV」のときはEX技とクリティカルアーツのゲージを一緒にしていたことでどっちを使うか悩むことが多くて、ここ一番というときに逆転用にクリティカルアーツが撃てなかったという場面が結構ありました。なので、今回は完全に別にしようという話になりました。
――ドライブシステムの他にも、今回から「クラシック」と「モダン」の2つの操作タイプが登場しましたが、シンプル操作のモダンタイプは初心者に向けたシステムといった感じなのでしょうか?
中山氏:モダンタイプが初心者の方に向けた簡単操作、イージーモードみたいなつもりは全くありません。どちらかというと、新しい操作形態の提案ですね。ゲームパッドに特化した操作方法になっているので、アーケードスティックなどを持っていなくても遊びやすいようにと思って作りました。
なので特段、クラシックタイプが有利、モダンタイプが不利みたいなのはなく同列で、ユーザーさんの好みで遊んでもらえたらと思っています。
――触ってみて、モダンタイプにはモダンタイプのやり込みがあると感じました。ユーザーごとにクラシックとモダンのそれぞれでやり方があって、最終的にはクラシック対モダンの頂点対決、みたいなことが理想のイメージでしょうか。
中山氏:おっしゃられる通りで、大会やイベントでどちらの操作タイプの人がいてもいい世界にしたいと思っています。
松本氏:モダンで優勝する人がいても全然おかしくないですし、少しでも“これなら自分もいけるかもしれない”と思えるような要素を今回は用意しました。昔の「ストリートファイターII」は格ゲーファンではない人でも触っていたので、そういったところを「スト6」ではもう1度やりたいなと思いました。
――他のゲームですと、モダンタイプのように1ボタンで技を出すと性能が落ちていたりとかがありますが、そういうのも「スト6」には無い感じですか?
中山氏:細かいところを言うと少しはあります。威力の面だったり、今も調整しながら数値などを見ているところです。ただ、モダンタイプであってもコマンド入力でも必殺技を出せて、1ボタンとコマンド入力とでは若干の性能差はつけています。
――威力の他にも、1ボタンでの必殺技だと全て“強の必殺技”になるので、慣れた人同士のプレイだとやはりクラシックの方が有利の様に感じるのですが。
中山氏:意外と、そんなことはないんですよ。アシストコンボがあったり、簡単にオーバードライブが出せたりとか、モダンならではのメリットもあるんです。ガチガチにプレイしているバトル班スタッフに対して、モダンを使ったプログラマースタッフが良い勝負をしているみたいなことがよくありますね。
松本氏:メリットはもう1つあって、モダンだとキャラクターの性能をすぐに試せるんですよ。例えば溜めキャラを使っていた人がコマンドキャラを使ってみたいってなったときに、今までだと技やコマンドを覚えなきゃいけなかったところ、まずはモダンでプレイして入っていけるように間口が広がったとは思います。
――モダンタイプとクラシックタイプとでは操作形態や若干の性能の違いがありますが、2つのタイプのすり合わせの調整でこだわっている部分はありますか?
中山氏:調整の部分は格闘ゲームを作っているうえでずっとついて回る部分なんですけど、この部分はもう“対戦しまくる”しかないんですよ。毎日1日中対戦しているチームもありますし、自分が担当して作ったキャラだけではなく、他の人が作ったキャラと入れ替えて戦ってみたりしてバランスをとっています。パラメーターはかなりたくさんあるので、攻撃の発生が早ければ強いのか、やられ判定が大きければ弱いのか、そういったのを込みで良いバランスになるように頑張っています。
――システムを理解している開発者同士での対戦はどんな感じになりますか?
中山氏:これが面白くてですね。開発している人間がプレイしてもかなり個性が出まして、全然ドライブパリィを使わない人もいるし、ドライブラッシュをゴリゴリ使うタイプもいるし、オーバードライブを的確に使う人がいたり、それぞれドライブゲージの使い方がバラける感じになっていて面白いなと思いました。
――これがプロゲーマーとかになってくると、同じキャラを使っていてもプレイスタイルに差が出そうですね
中山氏:そうですね。ドライブシステムではそういったところを狙っていたりします。
――ドライブシステムの存在で、1キャラクターごとに幅や深い調整が必要になると思うんですけど、「ストV」や「ストIV」よりもキャラは減るのでしょうか?
中山氏:それは今お答えするのは難しいですね(笑)。ですが、キャラクターはとても大事にしているので出せるものはいっぱい出したいですね。
松本氏:「ストV」のシーズン5からキャラクターをしっかり深掘りして露出するようにはしていますので、今後も同じく紹介していきたいと思っています。
――新モード「ワールドツアー」ですが、どういった内容になるのでしょうか?
松本氏:今の時点では、PVで出てる部分がすべてにはなってしまいますが、内容そのものは「ストリートファイター」の世界に“入れる”ことを狙っています。「ストリートファイター」では対戦を好んでいる方がいるのと同じく、キャラクター背景や世界観を好きな方が本当にいっぱいいるんですよ。
その中には対戦するのはちょっと……という方もいて、そういった方は自分が「ストリートファイター」の世界に入れるという部分に喜びが感じられると思うんですね。単純に“行ってみたい”と思える世界を作ったのがワールドツアーになります。
――PVではプレーヤーキャラクターの顔が見えなかったですが、これは意図的なものでしょうか?
松本氏:そうですね……(不敵な笑み)。まずは“こういう世界観ですよ”という部分をお見せしたかったので。今回はこのレベルの情報にしています(笑)。
――PVで春麗が戦っていた女の子はリーフェンでしょうか?
中山氏:それはどうなんでしょうねぇ(笑)。
松本氏:そういったイメージを膨らましてもらいたいというのも、あのPVの意図しているところです。
「スト6」の世界観やキャラクターについて
――今回、新キャラのジェイミーの設定がユンとヤンに憧れるとあったのですが、今作の時系列はどういった位置なのでしょうか?
中山氏:時系列でいうと「ストリートファイターIII」より後の話になります。今までリリースしてきた「ストリートファイター」シリーズでは「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」が最後の話だったんですけど、それよりも後の話になります。
――それでは、シャドルーは壊滅しているんですね
中山氏:「ストIII」の時点でもう無かったんですけど、時代背景的にはシャドルーは壊滅している……体ですね。そう言っておかないと、もしかしたらいつか復活するかもしれないので(笑)。
――リュウと春麗のデザインもガラリと変わりましたが、どういった感じで今のデザインに決まったのでしょうか?
中山氏:今回発表させてもらったジェイミー、ルークの新世代と、昔からいる旧世代のレジェンドたちという差を出したかったんですよ。上の世代はマスター感といいますか、達人の域に達しているという雰囲気を見せたかったんですね。
リュウの師匠で剛拳というキャラがいるんですけど、彼は袈裟を着た修行僧みたいな姿をしていて、リュウも進化していったらこっちの方に行くんだろうなとみんなで考えてデザインが決まりました。春麗もお化粧の感じを変えたり。細かいんですけど、耳のピアスの質感なんかも変えたりしました。
――それでは、これから登場するであろうレジェンドたちも時代背景に合った感じになる感じでしょうか?
中山氏:姿を想像していただけるとすごくありがたいです。
――今作の舞台がメトロシティということで「ファイナルファイト」色が強いという印象でしたが、世界観だけではなく「ファイナルファイト」ファンに向けた要素などもあったりするのでしょうか?
中山氏:難しいですが、あるといえばあります。「ストリートファイター」と「ファイナルファイト」はストーリー的にも繋がっているので、これは「ファイナルファイト」のネタなんじゃないかというものはいろいろ出てくると思います。
――PVでもヒューゴの姿が看板にあったり、ハガーの像が出てきたりしましたね
松本氏:中山自体が「ストリートファイター」と「ファイナルファイト」の世界観を大事にしていて、「ストV」のときはキャラクターやアレンジコスチュームで「ストリートファイター」との関わりを作ってきましたが、そういったものを「スト6」でも踏襲しています。
――対戦が始まる前の入場シーンでも、「マッドギア」で見たキャラがいてワクワクしましたね
松本氏:こちらも好きで作っているので、そういう会話をしてもらえるのは嬉しいですね。SNSの反応を見ても良かったなと思いました。
中山氏:PVには小ネタがゴロゴロ入っているので、細かく見てもらいたいですね。
――「ストV」では次回作の重要人物として登場したルークですが、今作では主人公という位置づけでよろしいのでしょうか?
中山氏:「ストリートファイター」シリーズは全キャラクターが主人公というつもりで作っているので、その内の1人ということには間違いないです。ただ、キャラクターセレクト画面の初期カーソルはルークに合っているので“そういう扱い”と思っていただければと
「ストリートファイター」の魅力を生かしつつ、新しく生まれ変わった「スト6」
――「ストIV」、「ストV」では墨を強調したビジュアルでしたが、今作ではポップかつ、ストリートアートに寄った感じになっています。ビジュアルを大きく変えた狙いは何ですか?
中山氏:過去の「ストIII」が楽曲にヒップホップを使っていたりしまして人気が高かったんですよ。そこで遊ばれているユーザーさんとのシンクロ率が高い文化だなと感じていたところだったので、グラフィティやヒップホップなどのストリートという要素を入れました。
「ストリートファイターI」のオープニングでは、壁にグラフィティが描かれているところをパンチで突き破ってタイトルロゴが出てくるスタートなんですけど、そういった過去作で大事にしていた部分やユーザーさんに好まれていた部分を考えていったら、結果今の形になりました。
――対戦中の演出も派手になっていて見ていて楽しいと感じたのですが、これは最近のゲーム実況やeスポーツなどの見る人も意識した部分はあったのでしょうか?
中山氏:それはありました。「ストV」のときからプレイしている人だけではなく、見ている人にも何が起こったかを分かりやすくしようというのはずっと心掛けていまして、それをよりビジュアル化しました。実は体力ゲージが1Pと2Pで赤と青に分かれていたり、そういったところも意識しています。
――タイトルロゴも大きくイメージが変わりましたね。
中山氏:タイトルロゴは、普通であれば、作っている現場とプロデューサーが結構揉めるところです。ただ「スト6」は松本とも話をして、何も揉めることもなく“方向性こっちだよね?”といった感じで。揉めなかったよね?
松本氏:そうですね。まず最初にアラビア数字に変えたところが大きい部分ですね。そこは単純に「ストV」とかでも「スト5」で表記されることも多かったので分かりやすくしました。あとは世界観に合ったロゴデザインにしようというところで、今までの赤や黄色という部分は後ろの表現にしつつ、タイトルは白でシンプルにしてグラフィティが入るようにするというのはディレクターと話していてすぐに決まりました。
中山氏:SNSとかで検索するときも「VI」よりも「6」の方が使われるのでそっちに統一した方が良いとなりました。
――今回キャラクターが大きく見えるのですが、「ストV」よりは大きくなっているんですか?
中山氏:カメラが寄ったり離れたりするので、体力ゲージの位置なんかも調節して、キャラクターが大きく表示されるようになっています。
――今回実装された自動実況モードについてですが、この機能を入れた背景などを伺えますか。
中山氏:これは自分が最初から企画書に入れていまして、大会などを見ていてトップのプレーヤーの試合に実況がついているのがすごい事だなと思ったのと、自分のプレイに実況がついていたら嬉しいだろうなというのがありました。
ローカル対戦で友達と遊んでいるときにアールさんやViciousさんの実況が入っていたら、対戦しているときの気分が違いますよね。そういう体験をして欲しかったし、そこからeスポーツの方にも興味を持ってもらいたいというのがありました。あと、実況者のパラメーターにテンションというのがありまして、良い試合をすると実況がどんどん派手になっていくという要素もあります。
――実況者は今後追加されていくと思いますが、基本はキャスターといった感じでしょうか? 例えばキャラクターを演じている声優さんが実況などはあるのでしょうか。
中山氏:いやー、どうでしょうねぇ。全くの0ではないと思います。
――実況者とは別に解説者という枠もありましたが、2人以上の方が喋るというパターンもあるのですか?
中山氏:それに気づいてほしくてメニューに入れておいたんですが、そういったパターンもあります。まだ誰がとは言えませんが。
――実況のバリエーションを見ていると収録は大変そうですね。実況を入れるにあたって気をつけた部分などはありますか?
中山氏:収録は大変でした(笑)。実況をしてくれているアールさんなどとも打ち合わせをして、こういうタイミングではこういう事を言うよね? みたいなディスカッションをかなり細かくやってもらいました。あとはセリフの物量ですよね。本当にたくさん録りましたね。
松本氏:実況の内容にあまり違和感を感じなかったと思うんですよね。字幕も13言語対応していますので、世界中の人達に楽しんでもらえるかなと思っています。
――日本語実況と英語実況ですと、喋っている内容は完全に同じではなく、実況者によってニュアンスが違かったりするのでしょうか?
中山氏:そうですね。意味は同じような事を言っていても、実況者の個性が出るようにアレンジしています。アールさんでしたら有名な「いってみましょぉぉ」みたいな、聞いたことあるようなものを入れ込んでいます
――実況者の方にここまでスポットの当たるゲームは無かったと思うんですが、実況者のファンやeスポーツの空気が好きな人に向けたというのもあるのでしょうか?
中山氏:身近に大会を感じてほしかったというのはありますね。オンラインのイベントも多いんですけど、オフラインのイベントに参加して、対戦格闘ゲームが好きな人同士で盛り上がっているところに実況がついているというのは素晴らしいと思っているので、手軽にその空気が体験できればと思っています。
――今作では映像がすごく良くなっていますが、プレイステーション 4のスペックでも問題なく動くのでしょうか?
中山氏:現状の開発段階では60fpsで問題なく対戦できています。
――今回プレイさせてもらいましたが、ユーザーさんが触れる機会などは考えていたりしますか?
松本氏:いっぱい触ってもらいたいとは思っているので、そこは追い追い発表したいと思います。
――では最後に、ユーザーに向けてメッセージをいただけますでしょうか。
中山氏:開発チーム一同、対戦ゲームや「ストリートファイター」が好きで、ファンの一員だと思って作っています。コンテンツも山盛り作っていますのでご安心してお待ちいただければと思います。
松本氏:いつもストリートファイターを応援していただき本当にありがとうございます! 映像を見ていただいた通り「スト6」は多くのチャレンジをしています。現役バリバリのプレーヤー、過去作はプレイしていたけどご無沙汰の方、対戦は苦手だけど「ストリートファイター」の世界観やキャラクターが好きな方、そして新たに「ストリートファイター6」から初めていただける方! それぞれに楽しんでいただける内容を開発メンバーが本当に一生懸命作ってくれています。今後も新情報をお届けしていくのでお楽しみに!
――本日はありがとうございました!