インタビュー

「THE PRIMALS Live in Japan - Beyond the Shadow」インタビュー

植松氏「FFの一作目を作って35年経って、やっといま面白がれるようになった」

【THE PRIMALS Live in Japan - Beyond the Shadow】

6月4日、5日開催

会場:幕張メッセ イベントホール

 スクウェア・エニックスは6月4日、5日の2日間、「FINAL FANTASY XIV」(以下、「FFXIV」)の公式バンド「THE PRIMALS」のライブコンサート「THE PRIMALS Live in Japan - Beyond the Shadow」を幕張メッセ イベントホールにて開催した。

 本稿では6月5日のライブ後に行われたTHE PRIMALSのメンバー祖堅正慶氏、GUNN氏、イワイエイキチ氏、たちばな哲也氏、マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏へのインタビューと、祖堅氏、植松伸夫氏へのインタビューをお届けする。

THE PRIMALSインタビュー

――2日間行われた公演の感想をお願いします。

祖堅氏: パンデミックもあって、自分の病気のこともあったんで、ライブの最前線から離れていましたが、ゲームはずっと休むことなくアップデートを続けていって……それでやっとこのパンデミックも少し回復傾向にあり、自分の体調もやれるだろうというところまできたので決断したのですが、こんな大きい会場にたくさんのプレーヤーが集まってくれたことに驚きました。パンデミックもまだおちついたわけじゃないですが、一回集ってみようかと集ったらこんなにたくさん集って、感無量というか……、ゲームというエンターテイメントのパワーは本当に強いなと思いましたし、そしてそのサウンドを手掛けているのは光栄だなと、このライブを通じて改めて思いました。

コージ氏: 今回ライブをやって、ファンの声はどうなのかなと思ってSNSを見てみたら、「ライブを見てTHE PRIMALSからパワーをもらえた、力をもらえた」とあったんですけれど、私も同じことを言いたいくらいですよ。私たちもずっと長い間パンデミックとかあって、自宅で作業したりしていて、開発者としてもファンから離れるのがとても辛かったんですよね。なのでみんなの前に今日立つことができて、みんなも私たちからパワーをもらっているのかもしれないけれど、私もファンたちからすごいパワーをもらっているので、とても感謝しています。

イワイ氏: 数年ぶりの有観客ということで、最初は緊張しましたが、ステージに出れば昔の感覚を思い出せて、今日で二回目ということもあって、いろんなことを思い出していけたと思ったら、もう終わりか、っていう感じです。

たちばな氏: ライブが、無事二日間終わってよかったなと。あとはスタッフ含めいろんな人に支えていただいて、本当にありがたいと思っています。なにより光の戦士のみなさんが変わらず元気そうだったので、そこがいちばんよかったと思いますし、ここ最近色々ある中でTHE PRIMALSのライブで少しでも解消できたならば嬉しいですね。

GUNN氏: 無事に終えたことをすごく嬉しく思っていますし、来てくれるみんなのことを考えながらメニューや演出とかをみんなで考えたのもあったんで、それが良い風に伝わっているといいなぁと。昨日の公演が終わったあとにちょっとSNSを見させてもらったんですけれど、喜んでもらっていたようなので、今日も無事に楽しめていたらいいなと思います。僕個人としても、楽しくみんなの顔を見れて、ライブができてすごくよかったです。

――今回のライブで「暁月のフィナーレ」で初めて登場した曲が何曲か披露されていましたが、みなさんのなかで特にお気に入りの新曲があれば教えてください。

祖堅氏: 先日発売されたミニアルバムからってことになるんですかね? 思い入れがあるのはアコースティックのオールドシャーレアンかな。

コージ氏: 「Endwalker」です。私はこの曲の歌詞を手掛けていて、UKバンドのArchitectsのボーカルであるサム・カーターさんが歌ってくれていますが、「え、このひとが歌うんですか?」とすごいびっくりして、光栄なんです。

祖堅氏: パンデモニウムじゃないんだ?

コージ氏: いや、パンデモニウムも好きなんですけど(笑)。

イワイ氏: 僕はパンデモニウムですかね。

たちばな氏: 「Flow Together」ですかね。なかなか、THE PRIMALSとしては新しい感じがしますし。

GUNN氏: オールドシャーレアンかなぁ。みんなそうだと思うんですけど、全部色々いじるところから一緒にやっていたので思い入れは全部あるけど、オールドシャーレアンと「Close in the Distance」です。

――今回のセットリストを見ると新生から暁月まで一通り入っていますが、ゲームのほうもひとまずの締めくくりみたいな感じですし、今回のライブもそういうのを狙ってセットリストを作成されたんですか?

祖堅氏: そうともいえるし、そうともいえないとも……。やっぱり、音楽の流れとゲームのストーリの流れって、ゲームをプレイすればその場面が思い浮かぶのがゲームサウンドですけれど、ライブならではのセットリストの流れっていうのがやっぱりあって、たとえば一番最後に泣かせる曲を持ってきてもいいんですけれど、ライブでそれすると、しゅん……として終わったりとかするじゃないですか。だからそういうのではなくて、最後はみんなで盛り上がろうぜとか、そういうことを考えて組んでいるので、決してゲームの流れをそのままライブでということでもなくてですね。ライブっていうコンテンツをひとつとして考えて、どの曲をどこに配置したらいいのかなっていうことで、今回こういうセットリストになってるという感じなので、一概に暁月まで締めくくってというよりかは、THE PRIMALSとして、そして今までやってきたことの集大成を今回作ったという感じのほうが強いかなと思ってます。だから演出とかもそれに沿って、ゲーム体験が蘇らえらせれるようなものを拘りました。

――アンコールの3曲はこれでテンション上げさせたまま帰ろうって感じがすごくしました。

祖堅氏: そうです。お祭りで帰るって言うのがやっぱりライブとしては一番良いんですよ。それは今まで何度もライブしてきて、いろんなパターンで終わってみたんですけれど、これが一番良いという結果がでているので、この形になりました。

――貪欲を演奏されるバック中に光の戦士から動画を募集するという試みをされましたけど、実際にやってみていかがでしたか?

祖堅氏: めちゃくちゃかっこいいプレイ動画を送ってきた方がたくさんいらっしゃったんで、逆にどれを使ったらいいんだろうというくらい、クォリティがめちゃくちゃ高かったんですよね。僕らもあれをリハからずっと見ているんですけれど、すごいテンション上がるんで、やりやすかったくらいです。プレイヤーのみなさんと一緒に2曲をやったみたいな感じが出て、すごい楽しかったです。パンデミックもあって、どうしても限られた地区、限られた時間だけでしか公演ができませんが、そうはいっても「FFXIV」のプレーヤーは全世界にたくさんいるじゃないですか。そういう人たちも参加できるようにと策を練ったつもりなんですが、思いのほか皆さんのクォリティが高くてびっくりしましたし、テンションあがりました。

――またもしライブがあるとすれば、またこういった企画をやってみたいですか?

祖堅氏: あぁ、ありますね。次の企画ももう思いついてるんで、もしライブがあるときがあれば、ぜひお披露目したいなと思ってます。

――THE PRIMALSでは今まで1時間半程度のライブが多かったですが、今回2時間半と一気に尺がすごく長くなりましたよね。すごく充実していましたが、大変だったとも思います。今回、2時間半もの時間を取られたのには理由があるのでしょうか?

祖堅氏: これはもうはっきりとした理由があります。1時間半の尺でやっていたのはファンフェスティバルのTHE PRIMALSなんですね。あれはもうファンフェスティバルのひとつの演目であって僕らがメインじゃないので、コンパクトにやってるんです。今回のライブは僕らが主導で動かしてるライブなので、僕らがやりたいことをやっています。僕らがやりたいTHE PRIMALSのライブとファンフェスティバルでは考え方が全然違って、ファンフェスティバルの場合、限られた時間でどうやろうか、ということが主軸ですし。全く別のライブの組み立て方をしているので、長さがこんなに違うっていう。ただテツさんからは「こんなに詰め込んだら疲れちゃうだろ!」って。

たちばな氏: 疲れちゃうっていうか、僕らがへたっちゃうとその様子がお客さんに伝わるのもよくないかなと(笑)。まぁ一応ミュージシャンの端くれとして、そこを心配したんですけれど。

祖堅氏: ありがとうございます。でもまぁ結果的にはよかったと思います。

――会場も、これまでのZeppから今回幕張メッセで随分大きくなりましたが、やりたかった演出はできましたか?

祖堅氏: そうですね。今回は光と絵にかなり力をいれた感じです。そこに炎がはいったらいいなと思っていたら、やってやるよっていわれて、「加重圧殺!」でやってみたら思いのほか、マジで熱いんですよね(笑)。で、いろんなミュージシャンに聞いてみたんですけど、サビ中で火を出すぐらいだったらやったことあるけど、一曲全部最初から最後まで火を焚くなんて聞いたことないけどねって言われちゃって(笑)。だいぶすごいライブだったんじゃないんですかね。僕もびっくりしました。

――今回のライブタイトルの「Beyond the Shadow」には、どういう意味が込められているんでしょうか?

コージ氏: それは私がつけたんですよ。今までの単独ライブのタイトルでは必ずシャドウが入っていて、それは「Shadowbringers」から取ってきているんですが……あとはTHE PRIMALSってゲームの中では悪役じゃないですか。なので闇な感じのタイトルがいいかなと思いまして。今回は「Shadowbringers」が終わってその次の「Endwalker」にいくところなので、「Beyond the Shadow」で「シャドウを超える」という言葉にしました。なのでシャドウの部分もあれば、そこを超えて次のステップに行く、という意味もあります。あと、英語の熟語で「beyond a shadow of a doubt」っていうのがあるんですけど、日本語だと「絶対に」というような意味合いで、「THE PRIMALSは絶対的だ!」という二重の意味を持っています。実はそんな厨二感あふれるタイトルとなっております。

――先行発売されたCDにオールドシャーレアンが入っていますけれども、ライブでアコースティックをやりたいという話があってオールドシャーレアンが選ばれたのか、それともオールドシャーレアンをアレンジするの話の中でアコースティックが選ばれたのか、どちらなんでしょう。

GUNN氏: これをやりたいんだよな、でもどうしようかわからないけど、っていうのを祖堅くんと話して、やるだけやってみようぜっていう風にやり始めました。

イワイ氏: ライブ版も、デモとは変わってきてますしね。

GUNN氏: そうですね。とにかく今回レコーディングで一発録りをやるっていうのにすごく拘ったんです。オールドシャーレアン、僕の記憶では24回ぐらいやりましたよ。

祖堅氏: そう、一日半くらいやったもん。

――幕張メッセ二日間、大成功と言っていいと思うのですが、次はこういうことをやりたいというようなことがあれば教えてください。

祖堅氏: 僕は野外のフェスに早く出たいですね!

コージ氏: 同じく、外でやりたい。涼しいだろうなって(笑)。

イワイ氏: もっとデカいアリーナクラスでやってみたいなぁと思いますね(笑)。

たちばな氏: いろんなところでもやってみたいけれど、ゲームと違う音楽フェスに出られたら面白そうだとちょっと思います。

GUNN氏: ぼくもそれは思っていて、海外のフェスとかも出てみたいですね。

祖堅氏: 海外はTHE PRIMALSってロンドン、パリ、ドイツ、韓国、中国、ラスベガス、日本でも4~5か所くらいやっていて、もしかしたら海外のほうがやっているかもしれないとかなんで、海外のフェスとかでもやってみたいねって感じです。お話があれば是非よろこんでいきます!

祖堅氏、植松氏インタビュー

――まずは本日の感想をお願いします。

祖堅氏: 今回はスペシャルゲストで植松さんにご協力いただいたのですが、最初は前座がいいとか日和られて、「何いってるんですか」ということでお伝えしたんですが、何回かお伝えしたのに「いや、前座がいい」と仰るから、これはあかんと思って、説得するために何回か植松さんのところまで足を運びました(笑)。「絶対に中でやってくれたほうがお客さんが喜ぶから!」と、そしたら「じゃあ、やるわ」って。

 演目のなかの一つとして「FFXIV」の世界観のなかにいる古代人というかレジェンドというか、そこに植松さんを投影させて演出できました。僕は「ゲームとの親和性」をすごく大事にしているので、今回のお客さんがゲーム体験と植松さんがオーバーラップして「ゲームってすごいな!」と思ってくれたら、凄く嬉しいなと。たぶんそれができたんじゃないかと思っています。

植松氏: 前座で出してくれっていうのは本気で思っていて、THE PRIMALSさんのライブに先輩面して出ていくのもいやだし、一人でああいう風にシンセサイザーを弄ることもやっていなかったので、一からやり直したいなと思って「ちょっと前座的に一曲二曲やらせてもらおうかな」と本気で思っていたんですけれど、昨日今日やってみて、「祖堅はこういう事を考えていたんだなぁ」ということがわかって、これで良かったなと。

 最初から最後まで遊園地にいるような感じで構成されているコンサートで、こういうことできるんだなって驚きました。ロックバンドじゃなくて、ゲーム音楽をやっているロックバンドだからこういうことができるんだなって。

 ゲーム音楽の歴史も今となっては何十年かになるわけで、始めのころは細々とやっていたのに、THE PRIMALSの今日のライブをみるともう花咲いちゃってるなと(笑)。ここまで来たというのは嬉しかったし、このエンタテイメントは素晴らしいなと思いました。

 僕はとても気持ちよくやらせてもらいました。お客さんが僕のことを覚えてくれていたのが嬉しかったですし、自分が今やっている音楽を面白そうに聴いてくれていた印象があったので、手応えもありました。

――今回のライブは演出プランに拘られたとのことですが二人の間でどのようなご相談がありましたか?

祖堅氏: まずそもそも服(アシエンのローブ)着てくれって言いましたよね。

植松氏: そうだよね。でも俺そういうの嫌だったのね(笑)。

祖堅氏: 絶対に嫌がると思った(笑)。

植松氏: いつもの恰好でやったほうが気楽だし、あのローブ凄く動きにくいんですよ(笑)。ローブが長いんで、歩いてて引っかかるしね。裾をまくらないと階段のぼっていけないのね。一曲目はフードを被ってくれって言われたけど、そうしたら譜面が見えないし(笑)。でも、SNSとか見ると僕の古代人の恰好でみんな喜んでくれていたので、祖堅の思い通りのことができてよかったですよ。

祖堅氏: そこは「FFXIV」のプレイヤーであることが大きいかな。植松さんがローブを着ることに意味あるし、そこに「悠久の風」が流れてくるというゲーム体験と密接にリンクしているというところが、ゲーム音楽ならではなのかなと僕は思っていました。

 植松さんが築いてきたジャンルは僕が生まれたときにはもう存在していたんですけれど、ゲームサウンドっていうのは本当に凄いんだというのをゲーム体験と共に伝えるというのが僕の使命というか、そんな風に考えているので、植松さんと一緒にできて感無量です。

――植松さんに演奏していただいた3曲が収録されるというアルバム「モジュレーション」も鋭意製作中とのことですが、コンセプトなどはありますか?

植松氏: 10曲くらい収録しようとおもっているけれど、基本的に全部ゲーム中で流れている音楽を土台にしています。今日やっていたファミコンの頃のPSG音源なんかは今のシンセイサイザーでなぞっているところもあるけれど、切り貼りしたりね。僕は昔の自分の作った曲を二度と聴かないタイプで、「恥ずかしい曲をつくっちゃったな」という思いがずっとあったんですけれど、そうは言っても自分の歴史としてあるのも事実なわけで、それをずっと見ないようしていく人生というのも嘘っぽいなと思って。でも実際に聴いてみたらやっぱり恥ずかしいわけですよ(笑)。だったらこれをどうやったら面白おかしく発表できるかなって考えたんですよね。

 分かりにくいかもだけど、若い頃に撮られた写真って、なんでこんな恥ずかしい顔しちゃってるんだろうとか皆さんもあるかと思うんです。でもフォトショップを使えば面白い写真にできるんですよ。そんな感覚かもしれない。昔つくった恥ずかしい曲をフォトショップを使って変調できないかなって。変調というのがモジュレーションということなんですけど、自分なりにこんな風にいじったら面白いんじゃないかって思えるようになったんですね。「FF」の一作目を作って35年経って、やっといま面白がれるようになったという感じです。

――ファンにひとこと

祖堅氏: とりあえず無事に終わってよかったです。僕、若いときに植松さんに多大なご迷惑をかけまくっているんで、今回のライブでちょっとでも楽しい気持ちになっていただければ恩返しできたかなって。でも、たぶん全然足りていないと思うので、また、たかりにいきますね(笑)。

植松氏: こんな素敵なコンサートの中で15分間という短い時間でしたけれど、15分でも参加させていただけたことがすごく嬉しかったです。あんまりこういう言い方はしたくないけど、祖堅も偉くなったというか、大きくなったという感じがしますよね。

祖堅氏: 僕もそう思います(笑)。

植松氏: 本当にクソガキだったもんね(笑)。「祖堅がこんな場を仕切っている、すごい!」っていう……。嬉しくもあり羨ましくもあって、でも「羨ましい」と思った時に、俺もまだイケるなって思って、モチベーションを上げて頑張ろうと思いました。

祖堅氏: 植松さんの元気な姿を見せれて、僕は満足です。たぶん皆も満足だったと思うので、ユーザーの皆さんと同じ気持ちです!

植松氏: こんなにたくさんの人間をみたのは久々でした(笑)。また人間を見にいきたいところです。ありがとうございました。