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「祖堅、お帰り」 「FFXIV」サウンドディレクター祖堅正慶氏、ガンを公表

5月16日発表

 スクウェア・エニックスは、プレイステーション 4/Windows/Mac用MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」のデジタルファンフェスティバルを2日間にわたってオンラインで開催した。最終日には、サウンドディレクターの祖堅正慶氏率いるバンドTHE PRIMALSのライブで盛り上がったのち、最後にスタッフが一堂に集まってのフィナーレとなった。そのステージ上で、祖堅氏は、自身が昨年、ガンを患っていたことを公表した。

ガンで闘病していたことを告白した、サウンドプロデューサーの祖堅正慶氏

 昨年の3月ごろにガンが発覚。その後、10月ごろまでずっと病室にいたのだという。松田社長とプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏が便宜を図り、その状態のまま作業ができるよう特別な体制がとられたという。

 抗がん剤の副作用でメンタルがまいってしまうこともあったという。しかし、「パッチ5.3が出て、『To the Edge』が出たころなんですが、プレーヤーのみんなが『漆黒のヴィランズ』をプレイして、面白かったと言ってくれた言葉が励みになって、ガンを克服することができました」と言葉を詰まらせながら告白した。

 現在は予後も良く、ほぼ寛解ということで、医師からデジタルファンフェスのステージに立つ許可が下り、再びステージに帰ってくることができた。「プレーヤーの皆さんが、ゲームをして楽しかったよと言ってくれた言葉が、一番心に響きました。ゲームと言うエンターテイメントは、人の心も救えるんだなとすごく思いました」と祖堅氏。

発表を聞いてショックを受けていた石川氏。ちょうど入院中の祖堅氏と、通常通りの仕事のやり取りをしていた

 スタッフにも秘密だったという病気の告白に、音楽を発注する側であるシナリオチームの石川夏子氏は、祖堅氏が病院にいる間にもいつも通りに曲を発注していた。だが、闘病中のベッドに仕事を届けるという役割だった石川氏は、「発注の曲数を変えるなと言われた私の気持ちにもなってくださいよ」と辛かった心情を涙声で吐露した。

 しかし祖堅氏は逆に「そうやって、みんなが気を遣わずにいつも通りに発注してくれたから、いつも通りの日常に帰って来られたんだ」と告白。「To the Edge」は病床にいる祖堅氏と、石川氏が、連絡を取り合い「あと1秒送らせて、ここは1秒早めて」とコミュニケーションをとって作り上げた曲だったという。「見事にはまりましたね!」という石川氏に、祖堅氏は満足げにサムアップして見せた。

石川氏の言葉に、祖堅氏はサムアップで返答

 開発スタッフにも言えないまま、ずっと事実と辛い気持ちを胸の中に締まっていた吉田氏は、「まずは祖堅、お帰り」と改めて出迎えた。しかし、祖堅氏の「戻ってきました。本当にありがとうございました」という言葉で感情があふれだし、途切れ途切れの涙声になりながら、「すごく迷ったんです。でも『俺、目標ねーとやっていけないから、頼むから変わらないでくれ』と言われて」とその時の状況を語った。「一番辛いのは祖堅なのに、開発にも言うなって……」。

吉田氏は涙に声を詰まらせながら、思いを吐露した

 新型コロナウイルス感染症の影響で見舞いにいくことすらできない。それでも祖堅氏は「プレーヤーが待っていてくれて、それで、良かったと言ってくれるのが、俺がガンと戦う最大の薬だから」と仕事をつづけた。

 吉田氏にとっては、祖堅氏は「新生FFXIV」当初からの戦友。「もう1回『FFXIV』をやり直す際に300人くらいのスタッフを集めて話をした時、みんなすごく複雑な顔をしていたけど、俺のマイクを調整していた祖堅だけが、2階の手すりの一番前にでてガッツポーズをして飛び上がっていたんです。やってやるぞと」。祖堅氏はその音楽の才はもちろん、明るく気安い人柄でファンの中でも特別な存在だ。

 「絶対にPRIMALSのステージをやるんだと言っていたのに、コロナでファンフェスは中止になっていくし、ライブはやらせてやれないし……」と思うに任せない状況に吉田氏は声を詰まらせた。それでも、祖堅氏は戻ってきた。「放送を見ているみんなもショックを受けていると思うけれど、祖堅は戦って帰ってきたから。またみんなで一緒に次の冒険に出られると思う」。

 無観客開催となったデジタルファンフェス。それでも、見ている人たちからのコメントは流れを止めることがなく、Twitterにも多くのコメントが投稿されていた。またゲーム内でも、リアルに集まれない人たちが、放送を見ながらチャットやエモートで応援し続けていた。

グリダニア、ミィ・ケット野外音楽堂でライブを見ながらサイリウムで応援する光の戦士たち

 そんな光の戦士たちに、吉田氏は「世界中の光の戦士のおかげで俺の盟友が帰ってこれました。本当にありがとうございます」と頭を下げた。「やはり皆さんに直接会いに行きたいので、次のファンフェス目指してがんばって行こうと思います。これからもよろしくお願いします」とその場を締めくくった。

 まだまだ新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、孤立しがちな毎日だが、デジタルファンフェスで数万人が共有した時間は、多くの人の心に感動を残したはずだ。祖堅氏の快癒と、さらなる活躍を祈念したい。