インタビュー

【特別企画】最高のシェリルを! 「FIGURE SPIRITS KUJI」インタビュー

こだわりの造形、新しいビジネスモデルはいかにして実現したか?

11月23日発売予定

1回:5,800円(税込)

 BANDAI SPIRITSロト・イノベーション事業部は、11月23日より一番くじの新ブランド「FIGURE SPIRITS KUJI(フィギュア スピリッツ くじ)」を発売する。価格は1回5,800円(税込)。

 従来の一番くじは1回500円から1,000円で展開しているが、この「FIGURE SPIRITS KUJI」は1回5,800円(税込)と今までにない価格。ラインナップもバラエティに富んでいるのが特徴の一番くじとは違い、こちらは3種のフィギュアのみで構成されたくじである。

 今回のフィギュア用イラストには、「マクロスF(フロンティア)」のキャラクターデザインを担当する江端里沙氏が、今回のくじのために新規で描きおろし、それを約20cmのハイクオリティスケールフィギュアとして再現している。イラストは凄まじい情報量であるが、フィギュアはそのイラストをこだわりの造形と彩色で再現するという。

 「FIGURE SPIRITS KUJI」は、最高のシェリルのフィギュアを生み出すために生まれたブランドだと、開発チームの野添よう子氏は語る。そしてこの新しいくじをどう販売していくか、ビジネスモデルでも様々な施策を行なっているという。今回は開発チームの野添氏と、営業チームの辻英一郎氏に、「FIGURE SPIRITS KUJI」だからこそできたフィギュア表現、今後の施策や展望を聞いた

A賞:10th アニバーサリー Crimson Scarlet Queen シェリル・ノーム フィギュア
B賞:10th アニバーサリー Royal Blue Queen シェリル・ノーム フィギュア
C賞:10th アニバーサリー シェリル・ノーム フィギュア

最高のシェリル フィギュアを生み出すために、立ち上がった新ブランド

 最初に、「何故『FIGURE SPIRITS KUJI』という新ブランドを立ち上げたのか?」という質問をしたのだが、野添氏は「新ブランドを立ち上げようとしたのではなく、まず、“シェリルのフィギュア”を高いクオリティで表現するためのフォーマットが必要だったんです」と答えた。「こういう規格の商品を作ろう」ではなく、「このシェリルのフィギュアを出すためには、こういうビジネスモデルを作るしかない」というのが、「FIGURE SPIRITS KUJI」が誕生した理由だというのだ。

BANDAI SPIRITS ロト・イノベーション事業部開発チーム・チーフの野添よう子氏

 2018年は、アニメ「マクロスF(フロンティア)」の10周年となる。その10周年を記念する商品として、シェリルのリアルなフィギュアを出したい、というのが最初のスタートだった。「リアルで凝ったフィギュアというのは今価格が高騰する傾向があります。そのなかで、ロト・イノベーション事業部ならばどういうフィギュアが出せるだろう、というのがスタートでした」と野添氏は語った。

 そのフィギュア用に「マクロスF」のキャラクターデザインを担当する江端里沙氏に描きおろしてもらえたのが今回のイラストである。過去の「マクロスF」の一番くじは様々な展開を行なったが、フィギュア用にイラストを描きおろしてもらったのは初めてとのことだ。そのイラストの情報量はまさに凄まじい。江端氏のイラストの特徴である衣装の細部もディテールがものすごく気合いが入っている。

【江端氏のイラスト】

 繊細なタッチのイラストでありながら、10周年を記念したゴージャスな雰囲気の王冠、マント、ふくらんだ袖といった豪奢なイメージが目に飛び込んでくる。そしてストッキングや、服に描かれたバラのデザイン、透明なリボン、首元を飾るペンダント、髪の毛に巻き付いたチェーンのような髪飾り、複雑な模様が描かれた斜め掛けのサッシュ……などなど、「本当にこれを再現できるのか?」というほどに描き込まれた、緻密な情報量に圧倒されてしまう。

 江端氏のイラストをどう立体化するか、野添氏は原型師と綿密に話し合っていった。「イラストをそのまま立体化する!」という点が特にこだわった部分だという。実際フィギュアを見ると、江端氏の豪奢なイラストを細部まで忠実に再現した、その造形に圧倒される。複雑な髪型は塗り分けられているし、蝶の羽根の髪飾りはクリアパーツが使われている。袖やマントは塗装により陰影が強調され、ベルトのバックルのバラの造形も細かい。

 ストッキングやサッシュに描かれたバラのデザイン、ハイヒールの細かい造形も見入ってしまう。細かくチェックすると改めて感心させられるのはスカート部分である。クリアな素材にラメが入っていてグラデーションの塗装で複雑なイラストを正確に再現している。ハート型のクリア素材の台座にもイラストのような塗装が盛り込まれている。商品はこの見本からさらにブラッシュアップが行なわれるとのことだ。

今回は彩色見本を前に話を聞いた。どちらもそのイラストの再現度、そして造形の細かさに感嘆させられる。商品はさらにブラッシュアップされるという

 A賞は赤、B賞は青がメインカラーとなっている。赤と青では全く雰囲気が違う。青はドレスが黒となり、一気に存在感が増している。ストッキングに包まれた足の雰囲気、ベルト部分の紫のバラ……黒い手袋もシックな雰囲気だ。スカートの金のラメは漆黒の宇宙に輝く星々を思わせる。立体物を並べて比較すると、「バラは赤の方が華やかそうだ」、「スカートのグラデーションは青の方が宇宙の雰囲気が出てるな」など、印象が異なり興味深い。

 ネットの評判も「Aも良いけどBもいいな」とどちらも人気だという。細部までチェックしたくなり、細部をチェックするほど新しい発見がある、そんなフィギュアである。「FIGURE SPIRITS KUJI」ではさらにC賞が用意されている。C賞はA賞のマントを外したバージョンである。

顔の造形はもちろん、髮に絡まる鎖のような髪飾り、蝶型の髪飾り、首の飾りなどその繊細さに見入ってしまう
ベルトのバラの飾り、模様の描かれたサッシュ、バラがデザインされたガーターベルト、セクシーでありながら造形の細かさにも驚かされる
スカートのクリアパーツとグラデーション塗装の表現力
マントは塗り分けにより、しわの形が強調されている
スティックや靴の造形も力が入っている
青は服、袖、ストッキング、スカート、髪飾り……ほとんどの色が赤と異なっている。特に目を惹くのはスカート。クリア素材にグラデーションのかかった黒で塗装されており、金色がちりばめられていて、宇宙のような雰囲気だ

 現在はC賞の正面は公開されているが、最大のウリである“背中”を公開していない。野添氏はC賞について、「フィギュアの背中を見せたかった」とのこと。こちらの背中の写真も近日公開予定とのことだ。シェリルは露出度の高いセクシーな衣装も好むキャラクターである。マントを外すと、グッとセクシーな雰囲気が増すという。マントに隠されたお尻もポイントとのことだ。

 確かに言われてみると、マントや大きな袖のある衣装だが、ドレスそのものは身体の線をはっきりと浮き出させている。また、スカートは腰につけられているが足ははっきりと出ており、太ももとガーターベルトがなまめかしい。シェリルらしい、かなりセクシーなコスチュームと言える。マントを外して背中を見てみたい、という気持ちもわき上がる。

 「FIGURE SPIRITS KUJI」は、A賞、B賞、C賞の全3種となる。1回のくじで、どれか1つのフィギュアが必ず当たる。カラーリングの異なるA、Bにマントを外したCを加えることで、どの賞でも“当たりの感じ”を出すことを気をつけたという。確かにセクシーさが増すC賞も大きな魅力だ。もちろん、C賞のマントを外したイラストも今後公開予定。

角度を変えると様々な発見がある

 「江端さんの描くシェリルは毎回、衣装によって顔も雰囲気も大きく変わる。ここは『マクロスF』のもう1人の歌姫・ランカと大きく違うんです。ランカはある程度共通した雰囲気があるんですが、シェリルは本当に絵によって違う。その雰囲気を再現するのは大変でした」と野添氏は語った。

 江端氏の強いこだわりが感じられるポイントとしては「シェリルの目の瞳孔」だという。イラストを拡大すると、シェリルの目の中の黒い部分がハートの形をしているのだ。イラストを拡大しないとわからないようなポイントだが、フィギュアでもこの要素は再現する。このようにシェリルのフィギュアは、細部を見れば見るほど作り手のこだわりが感じられるのだ。

イラストのアップ、瞳がハートマークになっている

 また、「座ったシェリルのフィギュアも作りたかった」とのこと。野添氏はこれまでもシェリルのフィギュアを手がけているが、座ったシェリルのフィギュアを、約20cmの大きなサイズで表現したい、という想いをこのフィギュアで実現したのだ。

 フィギュアの監修は「マクロスF」総監督を務めた河森正治氏が担当している。こちらの風景も近日公開予定とのことだ。

 本商品の発売日は11月23日、この日はシェリルの誕生日である。この記念すべき日に発売する、というところもこだわりポイントとのこと。次の章では「FIGURE SPIRITS KUJI」という新しい商品をいかに販売するかという営業戦略の面白さや、パッケージ、店頭での見せ方なども聞くことができた。

高価格のくじ、ハイクオリティのフィギュアを受け入れてもらうための施策も

 いかにハイクオリティなフィギュアを製作し、販売していくか。野添氏はクオリティと共に、価格もアップしていくフィギュア業界の中で、高価格フィギュアに負けないクオリティのフィギュアをロト・イノベーション事業部のこれまでのノウハウを、世に出したい、そのために設定したのが1回5,800円(税込)という価格であるという。

 「営業からはできるだけ価格は抑えたい。お札1枚で会計が済むのがお客様が買いやすい値段なんです。5,000円なら、1万円札で2回引ける。何とか下げられないか、100円、200円と話し合って今の価格になりました」と営業の辻氏は語った。「開発としては約20cmの大きさで出したい、クオリティを今までの一番くじとははっきり違うものにしたい。どうしても1回5,800円(税込)でいきたいという話し合いを1カ月以上しました」と野添氏はその話し合いの大変さを語った。

BANDAI SPIRITS ロト・イノベーション事業部 営業チームマネージャーの辻英一郞氏

 「FIGURE SPIRITS KUJI」という新ブランドも立ち上げ、新しいビジネスモデルを提示する。これもまた思い切った戦略だ。従来の「一番くじ」というブランドではない、という宣言を行なうのだ。野添氏は「FIGURE SPIRITS」というブランドにしたいと言ったが、どうしても「くじ」はつける様に辻氏に説得されたという。全く新しいものだとアピールしたい野添氏に対し、辻氏が考えているのは、いかにユーザーに、問屋に、販売店に親しみを持ってもらい、新ブランドを受け入れてもらうかである。両氏の考えはどちらも理解できる。

 辻氏と野添氏は「この新ブランドをいかに受け入れてもらうか」に細心の注意を払っている。通常のフィギュアは無彩色の試作品を公開し、新商品であることをアピールするが、「FIGURE SPIRITS KUJI」は、赤と青のシェリルの彩色済みの試作品ができるまでその存在を明かさず、豪華なフィギュアをいきなり見せることでインパクトを狙ったのだ。「このクオリティのフィギュアが1回5,800円(税込)のくじで確実に入手できるのか」という、新しいビジネスの具体的なイメージをユーザーだけでなく、流通業者と販売店に持ってもらう事を心がけたという。

 流通経路も考えた。従来のコンビニ中心では価格はネックになる。書店や、模型店、ホビーショップや量販店の玩具売り場など、価格帯の高い商品も販売できる売り場に限定し、出荷数をある程度調整してのビジネスを進めることとした。

 「フィギュアを買うお客様は価格の感覚も一番くじのお客様とは違う可能性がある。コンビニでお菓子を買うついでにくじを引く、というのではなく、シェリルのフィギュアが欲しいからくじを引く、そういうお客様を想定しています。1回5,800円(税込)は、フィギュア1体の価格としては抑えていると思います。これまでフィギュアを買ったことがなくても、シェリルのこのフィギュアは欲しい、そういう価格になったと思います」と辻氏は語った。

パッケージの試作品。イラストが配置されフィギュアと見比べられる
新しいフィギュアくじとして、ロゴも新調

 販売店向けの施策としては、「詳しくはお店の人にお問い合わせ下さい」という一文を入れられるチラシデータを作り、それに販売店が一文を書き込めるスペースも用意した。書籍なら関連する書籍を、玩具売り場なら関連玩具をアピール、詳しい店員ならこだわりの一文が入れられる。そして問い合わせのきっかけを作ることで、ユーザーだけでなく、販売店にも商品の認知度を上げていく。チラシにはもちろん江端氏のイラストも配し、そのイラストをフィギュアが再現している事を印象づける。

 フィギュアの箱にも江端氏のイラストをプリントし、その豪奢な雰囲気を主張させる。江端氏のイラストを手に入れられるのはこのパッケージのみ。パッケージにもどうしても価値を持たせたかったという。このように様々なアイディアを込めての販売となるのだ。

 「FIGURE SPIRITS KUJI」はもちろんこのシェリルのフィギュアでは終わらない。ワンフェスでは第2弾として「魔法少女まどか☆マギカ」の暁美ほむらのフィギュアを展示していた。もちろんシェリルと共に「マクロスF」のランカ・リーも期待したいところだ。今回の試みの反響で、さらなる広がりが見えてくるという。

作りたい物を突き詰めつつも、きちんとビジネスとして成立させる事を心がけていく。2人の話からはプロフェッショナルの意気込みが伝わってくる

 最後にユーザーへのメッセージとして野添氏は「今回の『FIGURE SPIRITS KUJI』は私の開発人生の全てをつぎ込んで作り出しました。常にお客様を驚かせること、感動させること、私の上司からチームに配属されてからずっと教えてもらいました。その考えを今回しっかり盛り込めたと思っています。購入してくださるお客様を決して後悔させません。ぜひ11月23日、店頭でこのくじを買って、シェリルを手にしてください。」と語った。

 辻氏は「お客様にドキドキワクワクしてもらいたい、そのために私達は商品を作っています。お客様達が笑顔になって、箱から開けたときに驚いて、喜んでいただければ、それが一番うれしいと思います。そのためにがんばりますので、よろしくお願いします」とユーザーに語りかけた。

 「とにかくシェリルの最高のフィギュアを作りたい」、その想いは、まず江端氏のイラストから強く伝わる。透明の蝶の髪飾りに、飾りの絡まった髮、グラデーションのかかった透き通るスカートに、複雑な模様が描かれたガータベルトにサッシュ……豪奢で、繊細で、凄まじい情報量のイラスト、これを精密に立体化する、というのは本当に驚かされる。そして原型師はそれに応え、しかも工場生産品でもそのクオリティを実現させようとしている。

 くじのフィギュアは普通のフィギュアとはまた違うビジネスだ。今回は営業視点の話も聞けたのが良かった。いかに想いを込めて作り、それを売るためには何をするか、ビジネスと視点をきちんと持ちながら新しいことをする。次はどんなものが生まれるかも楽しみだ。

※ 今回撮影した試作品は10月25日より、ボークス 秋葉原ホビー天国1Fに展示される予定。気になる人はチェックしてみよう。