インタビュー

「メタルビルド マジンガーZ」メカデザイナーの柳瀬敬之氏インタビュー

初期案から分化、可動のディテールをたっぷり楽しめるマジンガー!

 2018年1月に公開される「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」。「マジンガーZ」の“後日談”として、徐々に情報が公開されている。予告映像では現代のアニメ技術で動くマジンガーZが機械獣を蹴散らす姿が描かれ、作品への期待をかき立てている。

最初に公開された「メタルビルド マジンガーZ」。シルエットはアニメのマジンガーZと同じだが、ディテール表現に大きな特徴がある

 バンダイコレクターズ事業部はこの「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」の主役ロボットを「メタルビルド」ブランドで商品化するという。本商品は設計チーム「ケミカルアタック」の坂本洋一氏がディレクションを担当し、メカデザイナーである柳瀬敬之氏原案と監修を担当、原作ロボットをアレンジしている。劇場版のマジンガーZそのものを再現するのではなく、あえてアレンジ商品を劇場版公開から時間をかけずに発売するのは何故だろうか?

 いまやメタルビルドブランドは、コレクターズ事業部を代表すると言えるアクションフィギュアブランドだ。「やれることは全部する」を合言葉に、ふんだんに盛り込まれた金属パーツ、エッジを利かせ、ディテールにこだわった造型、広い可動範囲、ふんだんな付属パーツ、多彩なギミック……その豪華な内容は多くのファンを魅了し、モチーフとなるキャラクターのファンだけでなく、メタルビルドというブランドそのものにも多くのファンがいる。そのメタルビルドが、「マジンガーZ」に“挑戦”するのである。これはとても興味のあるテーマだ。

 今回は劇場版マジンガーZをデザインし、「メタルビルド マジンガーZ」のコンセプトデザイン、そして商品の監修を行なったメカデザイナーの柳瀬敬之氏、そして「メタルビルド マジンガーZ」を担当するバンダイコレクターズ事業部の佐藤央氏に話を聞き、「メタルビルド マジンガーZ」の魅力と様々なギミック、そして「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」へのこだわりについてインタビューを行なった。「メタルビルド マジンガーZ」はもちろん、劇場映画への期待も高まる話を聞くことができた。

ゆっくり動く巨大感から、激しく素早いアクションまで……様々な“幅”を考えたデザイン

 最初に聞いたのは柳瀬氏が「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」のマジンガーを手がけた経緯。東映アニメーションが「マジンガーZの物語から10年後の世界を描く」という原案を提示した時点で、柳瀬氏にマジンガーZのアレンジの依頼があったという。それは現在からおよそ3年前で、この時はメカデザイナーとして柳瀬氏と、脚本の小沢高広氏の2名が決まっているだけで、監督も決まっていなかった。

「メタルビルド マジンガーZ」を担当するバンダイコレクターズ事業部の佐藤央氏。今回は柳瀬氏の写真はNGのため、佐藤氏のみの撮影となった
特設ページで掲載されていた柳瀬氏の設定画。装甲の分割、ディテール表現に大きな特徴がある

 柳瀬氏への映画側の依頼としては「CGで描くためのマジンガーZのデザイン」ということだった。過去のアニメで描かれたマジンガーZそのままではなく、現代のCGで描かれるマジンガーZへ、ある意味での“ブラッシュアップ”を依頼されたのだという。プロデューサーと柳瀬氏が話した中で「パシフィックリムのイェーガー(ロボット)の方向性」というところを足がかりに柳瀬氏はデザインを固めていった。

 「CGでいくのか、セルシェーダーでいくのか、そういう方向も決められておらず、何となくセルシェーダーよりで、という感じでデザイン作業を進めていきました」と柳瀬氏は語った。巨大感を感じさせるデザインで、ディテールを多くする方向でマジンガーZをデザインしていった。

 ここで柳瀬氏が提示したものは「メタルビルド マジンガーZ」の特設ページにある、手足や腹部に細かい分割線が描かれたものである。劇場版はこういったラインが減らされている。この経緯は柳瀬氏の初期のデザイン案から、“映画でのマジンガーZの描かれ方”が決まる上で、ラインをすっきりさせた現在の方向性へと変わっていった。

「最初の頃は動きに合わせて色々なパーツが動くイメージだったんですが、映画でのアクションは動きが激しく、『ディテールよりシルエットを見せたい』という監督の意向もあって、ディテールの線を目立たせない方向にしました。一方で『メタルビルド マジンガーZ』は初期案に近く、ディテールを目立たせる方向になっています」と柳瀬氏は語った。

 柳瀬氏は方向性が決まってからも頻繁にデザインに手を加えたという。腹部のミサイルパンチ用のハッチや、アイアンカッターが出るための前腕部のシャッターなど、武器の演出に合わせて書き加えたデザインも多い。映画を進めながらマジンガーZのデザインはアップデートしていったとのことだ。

 映画版マジンガーZと、「メタルビルド マジンガーZ」は、柳瀬氏の初期コンセプトから言わば“分化”した存在となる。映画のマジンガーZが映画内の要素に合わせて変化したのと同じように、「メタルビルド マジンガーZ」も商品とするために、独自のカッコ良さを実現するために様々な所に手を加えている。足の付け根のデザインや装甲の裏のディテールなど、柳瀬氏が新たに描き起こした場所も多いとのことだ。

 佐藤氏は初期コンセプトに近いデザインを採用した理由について、「立体物としての“見栄えの重視”」を挙げる。関節が動くときのメカニックらしさを感じさせる構造や、装甲板の可動、ロボットとしての“説得力”の面白さを考え、装甲板が細かく分割された柳瀬氏のデザインが非常に魅力的だったという。「すごい! コレは“玩具映え”するぞ、と思ったんですよ」と佐藤氏は語った。

 柳瀬氏の初期案からのマジンガーZを立体化するというところはバンダイコレクターズ事業部内で決まったものの、実はどのブランドから出すかは最初は決まっていなかった。「超合金魂」で出すという案もあったのだが、柳瀬氏の名前を前面に出す「デザイナーの名をきちんとアピールするブランド」として、「メタルビルド マジンガーZ」としての商品化が決定したとのことだ。

柳瀬氏の初期設定画のイラストから生まれた「メタルビルド マジンガーZ」

 このため、柳瀬氏の提示したコンセプトである「装甲の分割」を積極的に取り入れつつも、関節構造や、各部の可動などはケミカルアタックの坂本氏と、バンダイのデザイナー集団「スカルファイブ」の石川雅弘氏の設計による玩具ならではの関節構造、全体のデザインのアレンジが加えられている。ここに柳瀬氏の監修や、「メタルビルド マジンガーZ」用に描き起こした細部のデザインを盛り込んで、商品として煮詰めていった。

 今回のマジンガーZではやはり目立つのは、装甲の分割ラインだ。柳瀬氏はこの複雑な装甲に関して「映画の大画面でマジンガーZが動くときの説得力を考えた」という。大きなアクションをするとき、各パーツがどう動くのか、肘や膝を曲げたとき、関節部分を装甲でいかにガードするか、そういった“説得力”を考えてのデザインだという。大画面でマジンガーZが映し出されたときの説得力、メカが人間のように動く構造を考え、この分割線の多いデザインを行なったとのことだ。

 そしてこの装甲の分割、可動を考えたデザインは、「メタルビルド マジンガーZ」の設計において非常に助かったと佐藤氏は語った。関節を動かすときの装甲の可動は、ポーズをつけるときの“楽しさ”にも繋がる。動かすことで改めてデザインの楽しさがわかり、説得力が生まれる。このデザインが、立体物としての大きな魅力になっているとのことだ。

【メタルビルド マジンガーZ】
これまでのマジンガーZとは一味違うデザイン。多彩な武器、ド派手なエフェクトパーツにも注目