インタビュー
1990年代の「元祖SDガンダム」担当者が、「ガンジェネシス」の魅力を語る
ユーザーの想像力で活躍したSDガンダムの物語を再び!
2017年9月26日 12:00
6体の“機甲神”が合体し、究極の超機甲神「ガンジェネシス」が誕生する! 1993年に組み立て玩具シリーズ「元祖SDガンダム」で商品化されたガンジェネシスは当時の子供達を夢中にさせた。そして2017年、コアである「機甲神エルガイヤー」の発売を経て、今回5体の機甲神がセットで発売決定、現在注文を受け付けている。
このエルガイヤー、ガンジェネシスに対する担当者の熱い想いは、弊誌では以前インタビューで取り上げている。今回は新しい担当者として岡崎聖氏に話を聞いた。岡崎氏は1990年代の「元祖SDガンダム」担当者であり、“ダルタニアン岡崎”という名でシリーズそのものにも深く関わっている。
岡崎氏はバンダイアメリカ支社や、円谷プロなどにも出向し、様々な商品、作品に関わっている人物だが、岡崎氏の作品やユーザーへの向き合い方の姿勢の“根底”には、「元祖SDガンダム」があるという。今回は岡崎氏にガンジェネシスへの想いだけでなく、「元祖SDガンダム」そのものへの思い入れや、今後の展開もインタビューした。
1993年のクリスマスの憧れ「ガンジェネシス」が、現代の技術で蘇る!
岡崎氏は1990年代の「元祖SDガンダム」において、“ダルタニアン岡崎指導員”という名前でシリーズに深く関わっていた。現在の「元祖SDガンダム」は、過去に岡崎氏が担当していたこともあり新しい担当者としてシリーズを進めていくことになったという。パッケージや最終的な仕様の詰めなども行なっている。
岡崎氏にとって「超機甲神ガンジェネシス」は思い入れのある商品だという。1993年当時は“クリスマス向け大型商品”を「元祖SDガンダム」でも毎年出しており、ガンジェネシスはエルガイヤーを含めた6つのすでに発売済みの機甲神を1パッケージにしてセット販売したものだという。
セットにするにあたり、各機甲神にメッキパーツを追加するなど、バラ売りとは異なる要素も盛り込んでいる。ガンジェネシスのセットはかなり好調な売り上げだったとのことだ。「元祖SDガンダム」では、ガンジェネシスの前の年あたりから年末の大型商品を投入する、という戦略をとっていた。子供達が楽しみにしていた大型商品の1つだったのだ。
ガンジェネシスが登場する物語は「騎士ガンダム」シリーズの1つとして、カードダスと協力して展開していた。カード事業部の担当者は岡崎氏と同期であり、「カードダスの物語と共に提供される立体物」として、「元祖SDガンダム」は役割を担っていた。物語の展開、新たなキャラクターの設定、商品化のタイミングなどは、カードダスを出していたカード事業部と綿密な連携で展開していたという。また、ホビー事業部の「BB戦士」シリーズは「武者ガンダム」が中心であり、2つのシリーズは影響を受け、ある時は競い合いながらシリーズを充実させていったという。
「SDガンダムって、ある意味自由な発想でストーリーやキャラクターが展開できたんです。TVシリーズなど他の多くのスタッフが関わるような“原作”もなく、ユーザーが自由な発想を盛り込める“余地”を多く持たせたシリーズでした。当時の子供達は手に入れた玩具で色々な物語を作る。そういうシリーズだっただけに、私達も想像力を働かせて、色々なものを自由に盛り込んでいきました」と岡崎氏は語った。
騎士ガンダムが中心となる「SDガンダム外伝」、武者ガンダムが活躍する「SD戦国伝」シリーズ、さらにはコマンドガンダムを中心における物語と、当時は3つの物語が主流になっていた。岡崎氏達はそれぞれの物語で差別化するように“ノリ”を変えていこうとしていく。
その中で騎士ガンダムはファンタジー色を強く打ち出してスタートするが、そこからさらに、騎士ガンダムがパイロットとなり、巨大ロボット“機兵”に乗り込むという方向性を打ち出していく。そこをさらに発展させて“ロボットの合体”という要素まで盛り込んだのが、ガンジェネシスなのである。
その岡崎氏が、ガンジェネシス、そして「元祖SDガンダム」シリーズの“リブート”を担当することになる。岡崎氏がリーダーとなることで前任者とは少しだけ変わった展開を見せるようになるという。前任者は「当時『元祖SDガンダム』のファンだった世代」というところで、シリーズの思い入れが強く、「当時商品化されなかったキャラクター」などこだわりの、コアな方向でのラインナップを展開していた。
しかし、エルガイヤー、そしてガンジェネシスという当時の“王道”、岡崎氏の言う「S級キャラクター」の投入と、ユーザーの反応の大きさが、これからの方向性に強く影響を与えた。「私も前任者の気持ちはとてもよくわかります。『SDX』は『騎士ガンダム』、『コマンドガンダム』など、まさにS級キャラクターを展開している。だからこそ『元祖SDガンダム』ではこだわりのラインナップを展開したい、という気持ちはわかる。しかし、ユーザーさんの反応から、どういったものが望まれているかがわかってきました」と岡崎氏は語った。
エルガイヤーのアンケート結果から、ユーザーの年齢層は当時10歳前後で、「元祖SDガンダム」を買っていた人達が中心だった。「当時小学生で、お小遣いを貯めたり、クリスマスに親に買って貰った子達が、復活した『元祖SDガンダム』を支えている、本当にありがたいと思いました」と岡崎氏はコメントした。彼らのために望まれているキャラクターを商品化していきたいという。
どのようなキャラクターを商品化していくか? それはこのインタビューでは明かせないが、まず9月29日から開催される「全日本模型ホビーショー」で、続いて12月頭に開催される「魂ネイション」でユーザーに向け提示されるという。こちらにも期待したいところだ。
余剰パーツのないこだわりの変形合体、カードダスの必殺技も再現
それではいよいよ、エルガイヤーと5体の機甲神を見ていこう。今回は見ることができたのは残念ながら分離状態の機甲神のみになる。機甲神として展示される試作品のため、合体用のギミックを使用できなくしていたのだ。それでも6体の機甲神が揃った姿は、大迫力だった。
「ガンジェネシスは合体した姿も魅力的なんですけど、6体の機甲神を並べた姿はね、とてもこう……夢があるんですよ」と言いながら岡崎氏は機甲神を並べていく。それは、とてもワクワクさせられる光景だった。
ガンジェネシスになる6体の機甲神は、コアとなるエルガイヤー、ボディとなる「機甲神ギガンティス」、右腕になる「機甲神オルフェリス」、左腕となる「機甲神ジュピタリアス」、右足になる「機甲神アクアリウス」、左足になる「機甲神マーキュリアス」で構成されている。
岡崎氏のお気に入りはギガンティス。1993年版より一回り大きいという。ギガンティスはボディの中にエルガイヤーを収納するのだが、1993年版はエルガイヤーの手足を取り外して合体させていたが、今回は設定通りすっぽりと入る。この機構は設計チームのこだわりだ。手足となる機甲神も余剰パーツが出ないように変形システムを工夫しているとのことだ。
ギガンティスの頭部はちゃんと背中にバックパックのようになるし、足になるアクアリウスとマーキュリアスの大きな頭もちゃんと隠れる。合体すると、約27.5cmという巨大なロボットが誕生するのだ。この大きさは、1993年版よりも大きなものとなる。それこそが最大の魅力だと、岡崎氏は語った。
各ロボットを見るほどにそのクオリティの高さに感心させられる。ランナーによる色分け、ディテール表現、手足の可動……もちろん合体を重視したスタイルではあるのだが、それでも例えば短い手足にちゃんと肘まで可動軸があったりと、各機甲神がロボットとしてのポーズ付けを楽しめるようにしている。当時の“おもちゃ”の雰囲気を充分に残しつつ、現代の技術によって“カッコ良さ”を増している。当時の子供達がイメージで“補完”していたものを、きちんと実現した立体物となっているのである。
アクアリウスとマーキュリアスは、胸部分が開き、必殺技を発射する機構が現われる。これはカードイラストに描かれていた技だったのだが、当時の立体物では省略されていた機能だ。メッキパーツや。クリアパーツの豪華さは当時のものからさらに豪華な感じになり、さらに造型もシャープになっており、まさに「当時の子供達が夢見たクオリティ」を実現した商品と言えるだろう。
改めて岡崎氏は6体の機甲神を見て、やはり中心となるエルガイヤーのカッコ良さが良いとしみじみとコメントした。そしてギガンティスの無骨さ、ぱっと見るだけで「力持ちなキャラクター」だとわかる、昨今のロボットではあまり見ないデザインもお気に入りだ。この無骨さは岡崎氏の大好きなロボット「ゴワッパー5 ゴーダム」のゴーダムを彷彿とさせるところが好きだという。
本商品のクオリティについて岡崎氏は、「前任の企画者も、設計者も、僕にとっては『ここまでやるのか』と思いました。僕自身はここ最近はテレビ番組を作ったり、特撮ヒーローなど作品作りの方が仕事の中心でしたので、立体物、玩具の業界の求める所のすごさ、しかもコレクターズ事業部はその中でも特にこだわった商品を作る部署です。そして何より、久しぶりにモノ作りの現場に戻ってきて、ユーザーさんの求めるレベルの高さに驚かされました」と語った。
商品はハイクオリティになっていく中、価格も上がっている。そしてその価格にあった価値のあるものにするために、企画、開発、設計の担当者達は想いを込め、努力を重ねて商品を生み出している。ユーザーの声と、それを実現する開発者のキャッチボールによってよりクオリティの高い商品が生み出されている。岡崎氏はその“熱さ”に久しぶりに直に触れることとなった。
岡崎氏が「元祖SDガンダム」に関わっていた1990年代当時とは、“できること”が大きく変化している。使える素材の材質や性質も違うし、部品の精度の大きな向上、さらに「15歳以上」という当時はなかった年齢区分と、そこをターゲットにしたマーケットが成立している現状は、当時とは“次元”そのものが異なる。その“違い”にはとても刺激を受けているという。
だからこそ「今ならばこういう表現ができる」、「今ならばこのキャラクターをこういう方向で立体化できる」という想いも岡崎氏の中で生まれている。それは、「元祖SDガンダム」に限らず、「SDX」も同様だ。
「『SDガンダム』のキャラクターは、バンダイのキャラクターの中でも特に“ケレン味”が強いキャラクターだと思っています。ガンダムに羽根を生やしたり、キラカードの効果を引き立てるためにキラキラ輝く装備品をまとったり、光を放ったり……SDガンダムのこのケレン味があったからこそ、『ガンダムSEED』や『ガンダム00』などの派手なMSも出てきた、というところもあると思っています。だからこそ、SDガンダムならではの派手できらびやかな商品、というのも作っていきたいですね。ユーザーさんに満足してもらえるS級キャラクターを投入していきたいです」と岡崎氏は語った。
ユーザーの想像力に感謝したい。今後はS級キャラクターが商品化
今後のラインナップについて岡崎氏は「こいつがいてくれなければ始まらないだろう」というものを出していきたいという。ガンジェネシス関連のキャラクターはもちろんのこと、“それ以外”のキャラクターも積極的に取り組んでいくという。
ヒントの1つは“遊び”の部分。ガンジェネシスは“合体”が最大の魅力だった。ロボットフィギュアの魅力を突き詰める「SDX」とは異なる魅力、遊びの楽しさを「元祖SDガンダム」では追求していく。当時の、「元祖SDガンダム」が持っていたギミック的な楽しさ、“玩具”としての楽しさも大事にしていきたいとのことだ。「当時はあったけど、今は立体物がほとんどないもの、そういうキャラクターを拾い上げていきたいと思っています」。
当時の「元祖SDガンダム」に関わった岡崎氏ならではというところで、1990年代の頃の話も聞いてみた。、「元祖SDガンダム」はホビー事業部の「SDガンダムBB戦士」とライバル関係でそれぞれの方向性を模索し、成長していった。岡崎氏は「『元祖SDガンダム』は色を塗らず、組み立て終わったら完成というところを重視していました。『BB戦士』はプラモデルとして手を加えて仕上げていくところが方向性だった。そこは意識していました」と岡崎氏は語った。
「元祖SDガンダム」は塗装が難しいABS樹脂を使ってることもあり、遊んで楽しく、誰が組み立てても相応のカッコ良さが出るような製品にしていたという。そして合体や必殺技再現などのギミックや遊びの部分。“玩具として”そこはきちんと組み込むようにしていった。そして「商品の連携」である。この商品を買うと、以前のキャラクターがパワーアップできる。6体の機甲神をバラ売りで揃える楽しさなど、各商品が他の商品と連携する楽しさも重視していたとのこと。
「BB戦士」のラインナップは武者ガンダムのラインが多く、だからこそ、「元祖SDガンダム」は騎士ガンダムを中心に置いていた。もちろんそれぞれ「おいしいキャラクター」は逃がさない。その上でそれぞれが、「同じキャラクターの商品でも違うものにするぞ」という気概を込めて製品を作り上げていったという。
「ホビー事業部の『BB戦士』担当の方々とはとても仲良くさせていただきました。よくあれだけ2つのラインがきちんと両立していたな、と思いますが、それだけ『SDガンダム』という素材、そして何よりユーザーが受け入れてくれるふところが深かったんだと思います」と岡崎氏は語った。ストーリーやキャラクター設定はかっちり決まったものではなく、情報は断片的で、隙間があった。そこに様々なストーリーや設定を自由に盛り込めたからこそ、大きな盛り上がりがあった。
パッケージにちょっと書いてあるストーリー、説明書の裏のコミック……そういったちょっとした物語を提示しながら、基本的にそれがどのように並んでいくか、どんな物語が展開していくかは、ユーザーの想像力にゆだねられていた。キャラクターの設定に「月の世界で語り継がれていた機甲神」と書いてあるが、その“月の伝説”そのものは細かくは設定されていなかったりするのである。
そういったユーザーが想像する余地のあるキャラクター構造そのものが、「自分だけの『SDガンダム』」を生みだし、“ものすごい自分だけのサーガ”、“伝説的なバトル”を作り出す。その記憶はどんな映像作品にもかなわない。それが今でも当時子供だったユーザー達を魅了しているのではないかと岡崎氏は語った。
こういったバックグラウンドを語る要素は、岡崎氏が担当する今後のシリーズにおいて重要なセールスポイントになっていく。「SDガンダムの魅力は“世界”なんです。商品、そして商品に書かれた物語を足がかりに、世界が広がっていく。商品を揃えるとさらに物語が膨らむ。商品そのものがメディアだったんです。1990年代の商品展開の時には“ライブ感”があった。そのライブ感も復活させたい、そう思っているんです」と岡崎氏は語った。
“物語性”はこれからの、「元祖SDガンダム」、「SDX」での大きなキーワードとなる。カード事業部もカードダスで「新約SDガンダム外伝」を展開している中で、10月にユーザーに発送される「SDX 太陽騎士ゴッドガンダム」にもこういった要素が盛り込まれる。
1990年代はファミコンが爆発的なブームを迎え、玩具業界は大打撃を受けていた。超合金も一旦休止になるなど子供達の遊びが変化した時代だった。しかしその中で「SDガンダム」はファミコンゲームに組み込まれ、それらのゲームも商品の世界を補完する“物語”となっていった。
ファミコンは“対抗相手”ではなく、共に世界を盛り上げる存在だったのが、「SDガンダム」としては大きい。それはテレビキャラクターが中心だったバンダイのビジネスとは大きく異なる盛り上がりであり、当時はSDガンダムが、「おもちゃショーのカタログの最初のページになる」というほど大きく成長した時期であった。変わりゆく時代の中「SDガンダム」のユーザーが玩具業界を支えてくれた、というのは、岡崎氏の長いキャリアの中でも特別な意味を持っているという。
「当時SDガンダムがヒットしたのは、ユーザーと共に物語を、世界を作って盛り上げることができたからです。この経験が僕がクリエイティブの仕事を続けられた理由の1つだと思います。この成功体験はその後の僕に影響を与えてくれました。この後僕は様々な仕事にチャレンジしていくことになりますが、キャラクターの物語を作るという所の根底にSDガンダムがあります」と岡崎氏は語った。
だからこそ、岡崎氏にとって「元祖SDガンダム」に限らず、SDガンダムという文化を支えてくれたユーザーは特別だ。パロディ、デフォルメからスタートしたSDガンダムだが、そのストーリー、文化はユーザー自身の思いが加わることで壮大な物語、サーガへと成長し、ユーザーそれぞれの大事な物語となっていった。こういった“流れ”を現在でも続けていきたい。それは当時の子供達への感謝であり、恩返しでもある。その1つが「新しい物語」だというのだ。
ユーザーへのメッセージとして岡崎氏は「本当に“想像してくれてありがとう”という言葉が一番伝えたいです。SDガンダムは皆さんの想像で無数の物語で活躍したからこそ大きなブームになったし、今でも活躍し続けられていると思います。皆さんの世界の中でこいつらは生きています。これから僕たちは、もういちど新しい物語を皆さんの中に生み出すべく、皆さんの大好きだったキャラクターがまた生き生きと活躍できるようにやっていきますので、よろしくお願いします」と語りかけた。
ユーザーの頭の中でキャラクターが自由に物語を作り、より思い入れを深くする。筆者はこのSDガンダムより少し上の世代だが、自由な物語の創造、自分の中でふくらんだキャラクターへの思い入れという意味合いはとても共感できる。自分の中でのSDガンダムがユーザーを支えているというのはとても面白く感じた。
「元祖SDガンダム」、「SDX」は、当時の担当者であった岡崎氏に担当がバトンタッチされ、新しい方向性が提示される。具体的な商品は、ホビーショー、魂ネイションで見えてくるという。今後の情報を待ちたい。
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