インタビュー

「Twitch」トップインタビュー。日本支社設立でTwitchはどう変わるのか?

「Twitchの中心がゲームである、という部分が揺らぐことはありません」

9月21日~24日 開催

会場:幕張メッセ

APACディレクターのレイフォード・コックフィールド氏
シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏

 ソーシャルビデオプラットフォームを運営するTwitchは、東京ゲームショウ 2017開催期間中の9月22日に、日本支社設立を発表した。また、それに合わせる形で、APACディレクターのレイフォード・コックフィールド氏ならびに新シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏の両名が来日、東京ゲームショウ2017会場内にて囲みインタビューを実施した。Twitchが日本支社を設立することによって、今後、どのような展開を見せていくのか。興味深いお話を聞けたので、その内容をお届けしていこう。

――日本支社を設立することで体制を固め直しているとのことですが、それによってなにが変わっていくのでしょうか?

レイフォード・コックフィールド氏:人が増えます。Amazonのやり方に則っているのですが、これからさらに人を増やしていきます。2015年から始まり、2016年まで市場を学び、それに必要な人材を獲得してきました。それを実行していくにあたって、より人数を増やしていければと思っています。

 Twitchの成長に関してですが、日本ではここのところ年単位で見て2倍ずつ視聴時間が成長しています。ほかにも大事な指標であるチャットインタラクション(コメントを打つ量)も2倍以上のペースで伸びてきています。そのため、この市場をより開拓できるようにと思っています。

――日本にはいろいろな動画サービスが参入していますが、その競争が激しいなかで、日本のサービスとして根付かせるために重要なことは何でしょうか?

マイケル・アラゴン氏:「Twitchは、ほかの競合をどのように意識しているのですか」という質問を受けることが結構多いのですが、「競合が何をやっているかではなく、自分たちのユーザーが何を求めているか」ということを第一に考えており、それにフォーカスすることが大事だと思っています。

 とにかくストリーマーファースト、コンテンツを発信している人を第一に考えて、ユーザーとインタラクション……こちらがフィードバックを受けて、やるべきこと、何をすべきかということを常に考えています。そのため、この機能が必要とか、ほかではこれが流行っているではなく、ユーザーの声を受けて「自分たちがこれをすべきだということ」を大事にしています。

 インタラクションというのはすごく大事になってくるのですが、とくに大事なのはチャットの部分で、Twitchのチャット部分は匿名ではなく名前が出るようになっています。これはコミュニティの形成にすごく役立っていて、ストリーマー自身、コンテンツクリエイター自身と似ている人がコミュニケーションを取れるようになります。見ている人自身もコミュニケーションを取ることになりますし、そこに生まれた新たな関係を1つのコミュニティとして捉えてくれる人が出てくるからです。

 それにこの2週間ほど前ですが、新しい機能を日本語化しました。これまでもチャンネルの下の部分で自己紹介を書けるようになっていたのですが、そこに色々と機能を加え、自分のSpotifyのリストを見せてその場で購入を促したり、デジタルなペットを表示しておいて見ている人が遊べる……など、動的な機能を付けています。

 そういったところからクリエイターとファンのコミュニケーションをより取れるようにして、我々が市場に必要なフィードバックを得ることができるように取り組んでいます。これはグローバルでもそうですが、日本でも大事なことだと思っています。

レイフォード氏:Twitchは独特で、エコシステム(生態系)というのを大事にしています。これは例えば、会社があったら、売上などを第一に気にされるかと思うんですけれど、我々はそういうものよりも、使っている方々がどう感じているのか、その人達がうまくいっているのか、使っている方々が健康的かつ持続可能な状態でうまくいっているか……ということを大事にします。

 もし我々のパートナー、それはユーザーであれ、ゲームパブリッシャーであれ、ビジネスパートナーであれ、その方々がうまくいっていると感じているのであれば、遅れてでもTwitchの方に利益が見えてくるはずですので、広告での売上などよりは、この全体のエコシステムを大事にするようにしています。

――2年間、日本市場を研究されたとのことですが、戦略としてはどのように展開していくのですか?

マイケル氏:日本のコンテンツ、日本で見られるものというのはほかの国と比べて多様性が高いです。アメリカなどでは見るものが集中する傾向があり、例えばあのゲームのこれ、このゲームのこれ、とわかりやすいのですが、日本だと多様性がある。それにより、最近Twitchが始めたクリエイティブの部分、アートであったりミュージックであったりを発信する人や見る人が割合的に高い国になっています。そのため、日本で展開していくにはよりコンテンツに多様性を持たせなければならない。Twitchもグローバルではアニメの一挙放送などをやっていますが、日本ではより意識していろんなコンテンツに取り組まねばならないという風に感じています。

レイフォード氏:アジア全体で言えるのですが、有名な人やインフルエンサーがいろんな側面を持つ傾向が高い。例えばウメハラ選手ですと、結構長いことプレーヤーもやっていますが、本が出ていて、漫画が出ていて、また、番組を見ていてもいろんなことが出てきます。

 インフルエンサーがいろんなことをやっているという点はかなり違いがあり、アメリカですと特定のゲームが強い人はそのゲームだけをやる人であったり、デザイナーはデザイナーとして1つで特化して終わりがちなんですけど、日本、およびアジアのほかの国だとインフルエンサーがいろんな供給をしてくるので、そういったものにも対応しなければなりません。

 そのため「日本市場で何をすればいいか」ということに関してなのですが、ちょっと前の質問でマイケルが申し上げたように、ユーザーの声を聞かなければなりません。今Twitchにいる日本のユーザーが何を欲しがっていて、どう改良すればいいのかに声を傾ける必要があります。そのために日本オフィスで人を採用します。

 それはビジネスオペレーションを行なう人であり、フィードバックが来たら「これを日本式にこうしなければいけない」と本社とコミュニケーションを取って開発をしていかなければなりません。市場で生き残るためには我々の今のユーザーを大事にして、それを生かすための人を採用するべき、ということです。

 つまり、各分野のスペシャリストを採用して、きちんとその声を吸い上げることができる人をこれから日本支社で増やしていきたいということですね。そのため、日が経てばあまり私のインタビューを見ることは恐らくなくなり(笑)、それは、ゴールが達成できたということなので、いいことだと思います。

――何人ぐらい採用される予定でしょう?

レイフォード氏:今年、10人にすることを目指しているのですけども、それは今年中に10人にしなければいけない、というわけではなく、我々のコミュニティに必要であると思った人物を正しい時期に採用していければと考えています。

――ゲーム部門についてお聞きします。この部門は、日本ではどのぐらいの位置づけで運用されるのですか。

マイケル氏:ゲームはつねに中心にある焦点であって、それがそうそう変わることはありません。ゲーマーはゲームだけをやって生きているわけではなくて、サイエンスフィクションの映画……「スターウォーズ」を見ることもありますし、ほかのアート、アニメに関するものに興味があったりもします。ゲーマーがコミュニティにいるためにTwitchで供給できるものは、ジャンルとして色々と取り込んで供給したいのですが、Twitchの中心がゲームである、という部分が揺らぐことはありません。

――日本だとPCのゲームが人気ですが、スマホのタイトルとの親和性というのも非常に大事なんじゃないかなと思います。日本に法人ができるにあたって、よりコアな施策をやっていくという展開はあるのでしょうか。

マイケル氏:グローバルで言っても、コンテンツはPC、コンソール、モバイルとあったなかで、PCとモバイルはすでに同じぐらいの規模になっていて、Twitchでもすでにモバイルをどうにかしなければ、という動きをしています。数カ月前ぐらいにTwitchのアップデートが来ています。これでスマホからTwitchを配信できるようになりましたし、スマホからの視聴に関してもだいぶUIが変わりました。日本はモバイルに関して配信する方も見る方もかなり進んでいるのですが、Twitchがモバイルを大事にしてこれに合わせていかなければならない、というのは日本でもグローバルでも変わりません。

――「Twitch Prime」の日本での展開について伺います。今後の展開と、日本においてのAmazonとの連携がどうなるかについて教えてください。

レイフォード氏:「Twitch Prime」に関しては、日本にもうすぐ来ます! 日付はまだ発表できないのですが、すでに進行中です。AmazonとTwitchの全体の連携というのは、例えばTwitch Primeをアメリカで出したときは連携して発表しましたが、技術的に同じ連携を日本のAmazonとでは開発できなかったので、それによって時間がかかっています。Amazonとの連携に関しては、グローバルでも色々あります。ですが、ローカルに関しては、日本でのローカルチームが増えれば、ローカル向けの協力、連携に関する発表ができると思います。

マイケル氏:グローバルでは、Amazonゲームスタジオ、AGSという部門がありまして、Amazon自身でゲームを開発しています。それ関連で、「Lumberyard」というAmazonのゲームエンジンがありまして、それはすでにTwitchと連携できるようなゲームエンジンになっています。ほかにAWSのサーバーサービスもあります。

 こういったAmazonとTwitchのビジネス的な連携に加えて、Twitchのユーザー、ストリーマーが自分のチャンネルで拡張機能を使って自分が愛用しているマウスやPCのパーツなどをAmazonを経由して直接売ることができる、といった連携が可能になっています。

 また、TwitchとAmazonの上層部がミーティングを高い頻度で行なっており、我々が持っているものでどんな部分が協力できるか、といったことを協議しています。

――ローカルで出てきたものを、グローバルに展開するお考えなどはあるのでしょうか。

レイフォード氏:通常、日本で出てきたものを海外でふくらませるためには、言語の壁があります。例えばウメハラ選手のチャンネルでは、ゲームをプレイしているところであったり、ウメハラ選手が路上で何かをしている番組など色々とやっています。ただ、ウメハラ選手の番組の場合は、屋内でやる場合は同時通訳がついています。そうすることで、ローカルのコンテンツをグローバルにお届けすることが可能です。ほかにも、例えばもともとライブストリームをしていなかったところ、DJのプレイやクラブなどをライブストリームして一気に海外で知名度が上がり、急に観光客が来るようになった場所がある、という事例もあります。そういった音楽とかクリエイティブの部分は言語を超えるところがありますね。

 とくにゲーム大会は海外でやっている大会の一環にしてもらったり、海外からわざわざストリーミングクルーが来て、その大会の英語実況を海外に発信するといった、日本ブランドを海外に発信するということも既に行なわれています。今回の東京ゲームショウも、そのいい例だと思います。東京ゲームショウにつきましては去年からメディアパートナーに入っていまして、今年もメインステージおよび「e-Sports X」に日英両方が付いており、そうして世界に発信するようになったきっかけもあります。

 また、日本発信のもので、Twitch用のチャットで使える、コメントとして使う用のスタンプがあるのですが、これは日本用のものを8個ほど入れてあります。もともと日本人向けに作った絵柄だったのですが、外国人にヒットしてしまいまして、今ではグローバルでも使われているものがいくつかあります。

 Twitchは文化をグローバルで共有しているので、日本でも似たようなマインドがありまして、日本でうまくいっているもの、ローカルでうまくいってるコンテンツっていうのは世界でも受けるはずなんです。なので、Twitchはちゃんとそういうものを見つけてあげて、グローバルでも受けるようにちゃんと拡散できる、そういった輪を広げていくのが我々の使命でもあります。

――ユーザーサポートについておうかがいします。究極のサポートの形として、Twitchが自身の資本でアニメを作る、というところまで行くことがあり得ると思うのですが、そういった可能性はあるのでしょうか?

マイケル氏:まずはじめに、急にアニメに行くかどうかはわかりません。アニメというコンテンツは日本のなかだと難しい構造になっていまして、急に進出できるかどうかはわからないですが、他の国で取り組んでいるように、既存のメディアの作品や、スポーツに関するものはすでに獲得していまして、そういったプレミアムコンテンツというものは、新しいビューワーをTwitchにもたらすという性質があります。

 そうした新しいビューワーが今すでにあるTwitchのユーザーのストリーマーのコンテンツを見るようになると、今いるストリーマーにより収入が増えるといいますか、サポートを受けられるようになりファンも増えるので、プレミアムコンテンツはぜひともやっていきたいところです。結論を言うと、究極的にアニメを作ることが有り得るのかと言われると「有り得る」というのが答えで、今後、そういったプレミアムコンテンツをやっていければ、とは思っています。

――e-Sportsとの関連性についてお聞きします。日本において、e-Sports周りをどのように強化していきたいのか、といったビジョンはおありでしょうか?

レイフォード氏:e-Sportsに関して、日本で法律が変わりそうな動きがあるのを見ていて、Twitchは日本が今、動いている方向について歓迎しています。Twitchが圧力をかけてそういう風にしているわけではないのですが(笑)。すごくいい方向に向かっていると、喜ばしく思っています。もし、すべてが何でもできるという状況になりましたら、Twitchは世界のe-Sportsに対して提供できているのと同じものを日本でも提供したいと思っています。それはスターの活躍であったり、ライブストリームで収益を上げるようなサポートであったり、大会自体へのサポート、賞金のサポートといったものがあります。e-Sportsに関しては、すでに日本で行なわれているものを結構サポートしている部分もありますので、それらについても一緒にずっとつづけていければと思っています。

――どうもありがとうございました。