インタビュー

gumi&よむネコのタッグによる“VRMMORPG構想”を聞く gumi國光宏尚氏、よむネコ新清士氏インタビュー

3月収録

 gumiは3月10日、VRデベロッパーのよむネコへの出資比率を増やし、関連会社化した。これに伴いgumi代表取締役社長の國光宏尚氏が、よむネコの取締役会長に就任し、合わせて両社の人的交流やノウハウの共有も行なうということで、よむネコはgumiグループの一員になると共に、gumiのVR事業がいよいよ本格化していくことになる。

 よむネコはもともとgumiが立ち上げたVR特化のインキュベーションプログラム Tokyo VR Startup第1期チームであり、よむネコ代表取締役社長の新清士氏は、Tokyo VR Startupsの取締役に就任しており、國光氏と新氏はVR事業の立ち上げから深いパートナーシップで結ばれている。

 これまで両者は、親密な関係を続けながら、会社的な関係は一線を引いてきたが、今回、関連会社化したことは何を意味しているのか。また、「エニグマスフィア」で、VRデベロッパーとしての地位を確立させたよむネコはgumiと共にどこに向かおうとしているのか。今回は両社の舵取りを担う國光氏と新氏の話を伺った。

 今回gumiという大きな後ろ盾を得た新氏からは、VR業界のトップランナーの地位を確実なものとしたいと慎重に言葉を選びながら将来のビジョンを語ってくれたのに対して、ソーシャルゲーム業界有数のビッグマウスである國光氏からは、“「ソードアートオンライン」的なMMORPG”の制作着手をはじめ、新氏を慌てさせるほど大胆なプランを縦横無尽に語ってくれた。國光氏の発言を余すところなく文章化したため、非常に長いインタビューになってしまったが、ぜひ最後まで読んでいただき、両者のVR事業に関する大きなビジョンを確認して貰いたい。

よむネコへの出資経緯とその狙いについて

よむネコ代表取締役社長の新清士氏
gumi代表取締役社長の國光宏尚氏
よむネコのデビュー作となった「エニグマスフィア」
「Job Simulator」(Owlchemy Labs)
「Rec Room」(Against Gravity)

——まず今回の出資について、その経緯について教えて下さい。

新氏: よむネコでは2016年に「エニグマスフィア」を、各社からのご支援を得て無事リリースすることができました。問題はここからどういうふうに攻めるかということを考えなくてはならない。「エニグマ」は、Steam版の3月末発売に向けてキャンペーンを用意しているところですが、その先、どうすればVR市場で生き残っていけるんだろうかと考えていたんですね。

 そもそも我々よむネコが持っている目標というのは、複数のユーザーが持っているインタラクション環境を、VR空間で提供するというのが目標になっていたんですね。そうすると「エニグマ」を拡張していきたいということを考える中で、結構ネックになっているのは、VR市場の立ち上がりの遅れです。

 アメリカではVRでヒットしているタイトルが出始めていて、去年トータルでSteamだけで1ミリオン売ったゲームが9社出てきました。その波及タイトルも生まれつつあります。とはいっても、市場規模を見るとまだまだゆっくり立ち上がっている状態で、逆に日本の状態はすごく遅れていて、国内市場の立ち上がりはアメリカ市場に比べても遅れています。

 我々としてはここでもの凄くリードをしておきたいところなんですが、例えば海外のメーカーでは、50億円規模の大きな単位の増資を受けて動き始めているところも出てきていて、彼らもまだマーケットが成長途中であることはわかっているわけです。でも2、3年経った時に爆発的に来るというのが見え始めているんですね。よむネコも今いただいている資金の中で、やりくりをしながら仕事をしていくことはできるのですが、2、3年経って爆発的に差がついた時に、予算をかけている会社とかけなかった会社は、出てくるプロダクトに明白に差がついてくると思うのですね。

 今我々はやっとトップランナーのところで入って競争ができている状態なのに、その状態で、ではここでなんとなく予算を抑えながら我慢して、日本のマーケットが立ち上がるのを頑張っていくのか、それとももっと思い切った仕掛けを作って攻めるような態勢を作ればいいのかというところを國光さんとすごく議論をしたんですね。それで國光さんのほうから、「では、思い切ってgumiグループに入らない?」という話を頂いたんですね。

 國光さんとはすごくビジョンが一致しているので、我々が作るものはワールドマーケットで勝負ができるもので、2、3年後にVRの市場が立ち上がってきたときに、トップランナーにいる状態になると。そこまではいいのですが、ワールドワイドでやるときに、「エニグマ」で非常に感じたのですが、アメリカのマーケットへの売り込みの難しさです。

 やはり日本にいた時に、特にVRはユーザーテストをすごく繰り返して、その良さを検証してきた。「エニグマ」に関しては日本国内に関してはすごく成功できていると思うのですね。それはやはりセガさんのほうから非常に高くご評価いただいて、3月20日からジョイポリスで稼働を始めるのですが、ユーザーテストを繰り返して、その積み重ねで評価を頂いているので、そこの部分は上がってきている。でもその良さをなかなか海外に発信するのが、難しい。プレスリリース程度ではやはり難しかったのですね。

 今後、我々はアメリカやヨーロッパに対してプレゼンスを上げていかなくてはいけない。そうするとよむネコ単体で広報の機能をもって、そこまでやるのかと考えたときに、それだったらもうgumiグループは海外に対してスマートフォンで成功させたノウハウを持っているので、その海外の有力なチームとリンクをしていったほうがいい。しかも今VRファンドとか、ワールドワイドに情報ネットワークを持っているので、それをより活用しやすい環境にするためにもグループに入ったほうが合理的だよねと言う結論になったということですね。

國光氏: 僕らの方からすると、よむネコをグループ化した理由は大きく言うと3つあって。1つは、VRマーケットが見えてきたのかなと。東京の方ではTokyo VR Startups、韓国の方ではSeoul VR Startupsというインキュベーションプログラムをやっていて、ここで合計13社への投資と、後はアメリカベースのVRファンド、ここが今17社に投資するという形で、特に17社の中のゲーム会社でもAgainst Gravityという「Rec Room」の会社とか、Owlchemy Labsという「Job Simulator」の会社とか、成功するメーカーが出てきていて、そういうのを見ていると、VRゲーム市場がいよいよ立ち上がってきたのかなと。

 1年半ぐらい前までは、実際ハードもできないし、ハードが出たとしてもお客さんが買うかどうかもわからないというような状態だったのに、今実際HTC Viveで1億円を超えるような売上を上げるタイトルが生まれてきて、「Job Simulator」あたりだと4億弱の売り上げが来るところまで来ていて、いよいよ市場が立ち上がってきたかなと感じています。今までは市場がまだなかったから作ろうみたいな形で投資してきたのですが、いよいよ市場が見えてきた。だったらこの辺りで思い切りアクセルを踏む時期ではないのかなというのが1つ目です。

 2つ目は、「とはいえ、日本はきついよな(笑)」というところで、やはりほとんどの会社の売り上げは基本欧米なんですね。特にその中でもアメリカ。今後より伸びてくるところというと、中国、韓国のロケーションベース。なのでおそらくマーケットという意味で言うと欧米のハイエンド、HTC ViveやPS VRあたり。あとは中国・韓国を筆頭にしたロケーションベースという形。日本でいうと、こういうのと比べるとまだ当面の間は市場が小さいだろうなという感じなので、ここはワールドワイドに広げていかなくちゃいけないねという読みがあります。その際、我々gumiのノウハウが活かせるだろうということ。

 3つ目は、VR市場が当面は欧米マーケットと、中韓とかのロケーションベースがメインという中で、日本の会社がではどんなコンテンツを作っていくんだというところで、「Robo Recall」みたいな感じのゲームが生まれつつあって、欧米だったらかなりのゲームがシューターだけど、同じものを作って日本でイケるのかな? と考えたときに、やはりここはMMORPGしかないだろうという結論に至ったんですね。

 やはり世界中の方が、日本の会社が作るVRに求めているのって、「ソードアートオンライン」的なああいうMMOしかないだろうと。よむネコと一緒にやっていくとしたら何を作る? という話をしてきた中で、作りたいゲームの方向性が「SAO」的な、ああいう形のMMOが、はやり日本の会社が作る必要があるよねというところがかなり一致したので、だったら一緒にやろうよというそういう感じですね。

【Robo Recall Announce Trailer】

——今國光さんから発せられた“VRMMO”というフレーズはかなりインパクトのある発言ですが、そのお話については後ほどお伺いするとして、まずは基本的なビジネスの話から質問させてください。私はTokyo VR Startupsを最初の立ち上がりの時から取材していますが、最初の取材時に、gumiさんがVRに出資する理由を伺ったんです。当時の答えはあくまで日本のVR市場を育てたいと。gumiのビジネスどうこうじゃないんだということでした。しかし私は、有望な企業は最終的にgumiが吸収するのだろうなと思ったのですが、「それはない」という回答でした。ちょっと意地悪な質問になるのですが、私は2年前に予想した通りの展開になったなと感じたのですが、そのあたりは実際はいかがなんでしょうか?

新氏: そういう意味では、國光さんとこういう形でグループにジョインするということが決まったのは、最近の話で、様々な議論する中でほんとにこの数カ月前にはまったく耳にしていなかったのです。むしろ、一応我々は上場対応する形で銀行さんにも入っていただいたりしていたのですが、今回外れていただいたんですね。ですからこういう風になるという話は、本当に数カ月前まで議論もちゃんとしたものはなかったですね。どういう風に攻めようかという今後の戦略を立てる中で、出てきたいくつかの選択肢の中で詰めていく中で、その方がいいのではないかという結論になったということですね。

國光氏: 実際にいくと日本の方で合計9社、韓国のほうで4社いるスタートアップの1社という形です。特にTokyo VR Startupsでいくと、先行しているハシラスさんはソニーさんから出資を受けてという形だったりとか、後はインスタVRさんなんかはGREEベンチャーから出資を受ける形なので、どちらかというと、各社適切な、各社の戦略とか向かっていきたい方向性の中のところで、適切なパートナーを各社が選んでいったという形なのかなと思っています。その中で偶然新さんのよむネコは、うちの方向性とあったので、では一緒に行こうという形になったのではないかなということですね。

——なるほど、今回の出資で6%ほど比率を増やしたことになりますが、この6%の意味を教えて下さい。

國光氏: そこは結構明確で、今後よむネコをスケールさせていくという形で言うと、大きく2つ。今の時点では、サーバーサイドエンジニアや、デザインを含めてまだまだ弱いので、そういった意味でいうとうちの方のエンジニアや、デザイナーをよむネコに入れていきつつ、よむネコが開発しているゲームのクオリティを上げていくためです。一方、gumi側からすると、よむネコが持っているVRのノウハウ。すでに1年半という期間やってきているということがあるので、そこのところを勉強させてもらうという2つです。

 あとは実際マーケティングを含めて弊社のビジネスはかなり海外中心になってきています。アメリカを含めての海外のマーケティングはもうずっと何年もやってきていて、大きいチームがあるので、そこのところをちょっと絡ませてみたいなということです。ちょっと出資してますということだけでは、さすがにガツっとうちのエンジニアとかデザイナーやマーケティングチームを入れるというのは難しいよねということなので、ここはグループ会社、法律的に言うと、持分法適用会社にしました。

 一方「なぜ100%じゃないの?」という点では、100%にしちゃうと中で働いている人が「今更リーマンになってもね。まだまだベンチャーとして、これで終わりじゃないよ、ここから始まりだよ!」というベンチャー精神を潰したくなかったからです。ここからVRMMOというと長い長い旅路がスタートするので、当然今働いている人もそうだし、今後入ってくる人へのインセンティブみたいなものも当然必要になってくるだろうなというところで、うちの会社としては、ここから伸ばしていくために、人の送り込み含めてガッツリやるほうがいいと。それをやるためには、何の関係もなかったらきついので、持分法適用でグループ会社化する。一方将来、中の人、ここから入ってくる人含めたインセンティブは絶対にいるよねという。だから100%じゃないよねという、ここらへんが基本的なスキームですね。

——すでに数カ月前によむネコさんを取材したときに、インキュベーションセンター内のオフィスが「もう手狭で手狭で、それなのに人が足らないので、近々引っ越しを考えているんです」っておっしゃっていたので。では具体的に何か計画は?

新氏: たぶんこちらに引っ越してきて、より両社の関係性を深めていくことになると思います。こちらの開発チームと連絡を取ったりとか。

——いま何名くらいですか?

新氏: いま合計6名ですね。たぶん15名くらいになってくると思います。

——今回の増資の金額ってどれくらいなんでしょうか?

國光氏: 今回は増資ではないです。今回は、関連会社になるので、今までの株主の構成を少し調整しただけです。特にgumiのグループ会社に入ると、投資会社は、大手企業傘下の会社には興味がなくなりますから、その株をgumiがもらいます。そのことによってgumiが19.8%持ちます。これからのゲーム開発資金は、gumiから提供する予定です。

——中長期的な視点では、出資比率を、50%、100%と増やして行く可能性はあるのでしょうか?

國光氏: それは将来的には当然、ありえますね。

——新さんと、よむネコのモチベーションとして、次は海外だということを繰り返し発言されていますが、「北米の動きをにらみつつ動いていきたい」という発言の意味と、最初の一歩として何を考えているのかということを聞かせていただけますか。

新氏: アメリカはやはりPC市場がすごく引っ張っているのが現実ですね。これはグーグルのトレンドとかそういうデータを見るとすごく明白になるのですが、やはりVRというと、Gear VRやOculusがきて、次にPS VRとHTC Viveが同じくらいになるのですね。ところが日本国内は一方で、PS VRと、あとはほとんどないみたいな状態なのですね。

 そうすると、我々がターゲットにしているのは、もともとヨーロッパがターゲットにしている割とハイエンダーなのですね。ハイエンダーのほうが体験がリッチで、かつそこの中でも没入感も高く、体験の満足度も高い。それらのものが、いずれ値段が下がってきてもっとある程度普及するであろうという想定で、会社を運営しています。そうすると、マーケットとしてはどうしても今はPCの市場。入れるとしてもPS VRの市場。そうすると、日本単体で考えてみると、日本ではPCの市場は立ち上がらないんですよ。当然PS VRは視野に入れていくのですが、同時にPC市場のハイエンドを意識すると、北米の動きを注視せざるを得ないということですね。実際そういう意味では、ヨーロッパの企業も含めてある程度数字を出せている企業というのは、やはりアメリカの市場で売れているかどうかというのが明白に数字に出ているのですね。いかにアメリカでどうやって成功させるのかというのが、よむネコが成功できるかどうかのキモだっていうのが、すごく分かってはいるのです。

——3月に行なわれたGDCではVRはまさにロケーションビジネス花盛りというか、コンシューマVRがなかなか立ち上がらないから、ではロケーションVRでという風にも私は見えたのですが、そのあたりはどのようにご覧になってますか?

新氏: ロケーションVRは日本国内ではわりと先行はしていると思いますね。ただし、これは中国などにもマーケットができていていますが、とはいえ、伸びしろはコンシューマに比べるとちょっと低いですね。なぜかというと要因は単純で、要するに今はロケーションの方に対して人が付かなければいけないので、そこのコストを払うと収益面でみるとすごい大きな柱になるほどの広がりは出なさそうなのですね。我々から見ても、セガさんとやらせていただいて、まあほかにも広がる可能性もあって、中国とか韓国とかと可能性はあり、そういうところをにらんではいくのですが、最終的にはBtoCのほう、コンシューマの方が圧倒的に市場規模が大きくなるであろうと、あくまでそのプロセスとしてアーケードも見ていくという感じですね。

——私もGDCで取材していて、ロケーション向けのVRコンテンツを手がけているメーカーに、「本当にロケーションビジネスが欧米で立ち上がるのか?」と聞いた時に、「いや、全然立ち上がるよ」と皆さん自信たっぷりにおっしゃるのですが、いずれも具体的な根拠にとぼしくて、私にはちょっと信じられませんでした。というのも、やはり大型のショッピングモールやBestBuy、Walmartなどの大手家電量販店には、VRの体験コーナーがありますが、どこもガラガラですよね。その1台すら埋まらないのに、ジョイポリスの「ZERO LATENCY VR」(参考記事)みたいな規模間で、全米1,000店舗とかちょっと想像ができないんですね。そのあたりの温度感は、メーカーの立場からはどのように感じていますか?

新氏: ジョイポリスと組めたのはものすごくいいことで、彼らは凄いんですよ。本当に凄い。独自マニュアルを作成されたりとか、どういうところが問題になるのかとか、安全基準とか本当に厳しくて、しかもそれをアルバイトに対してコーチングもすごく上手で、そのあたりのオペレーションが上手いのですね。このクオリティを日本国内でさえ、100店舗とかって無理じゃないかっていう気がするくらいクオリティが高いのですね。

 たぶんこれと同じことがアメリカで、数千店舗は無理だろうなとは正直思っています。今回のGDCでも、私たちもセッションをいくつも聞きましたけど、アーケード系の会社はまだやっぱりまだ絵に描いたモチ状態ですよね。だからThe VOIDとか一部のものでオペレーションをやっている、もしくはディズニーランドに入ってくるようなものであればコントロールできるかもしれませんが、全米のゲームセンターに置いてやるというのは疑問ですね。ただし日本のようなところでコントロールできるようなところがある程度ノウハウを広げていくことができれば、可能性はあるかなとは思っています。

國光氏: 韓国や中国のロケーションベースはかなり肯定的ですよ。さっき言ったみたいに欧米は、結構しんどいと感じる一方、やはりアジアの方では、Seoul VR Startupsのパートナー企業にYJM Gamesというメーカーがいますが、彼らも今まさにロケーションベースのビジネスを、もうすでに3カ所くらい展開しています。加えて、Seoul VRのメンバーの1社のホンビンというところも、次世代的なVRのロケーションベースのオペレーティングシステムを作っていこうとしています。

——それはシステム的な意味のOSですか?

國光氏: すべて。決済もそうですし、マニュアルもそうだし、トータルで全部のオペレーションを作って、まさに普通の今まである既存のネットカフェみたいなところもそうだし、フランチャイズ的なものを築いていこうというスタートアップが結構増えてきています。

 今のロケーションベースの問題点は4つだけだと思っています。1つはこれがダントツなのが、基本HTC Viveを使うのですが、コードとセンサーが邪魔。だから干渉問題もそうだし、場所もという形なのですが、これはすでにおそらく1年以内に解決されるはずです。OculusにしてもViveにしても、スタンドアロン型、コードレスみたいな形というのが出てくるはずです。これはもう間違いなく出てくるのは時間の問題なので、そうなってきたときに場所対効率というか、1プレーヤーができることは、飛躍的に上がってくるだろうなという形と思っています。

 2つ目は、これもまた韓国のSeoul VRの話ですが、みんな結構ロケーションベース系が多いのですよ。ルーフトップという会社が作っている「Virtuix Omni」ってVRデバイスがあるじゃないですか。あれのすごく小さい版。ほんとにすごく小さくて、椅子に座るぐらいのサイズで、その場で歩いたりできるんですね。だから普通の歩くタイプのFPSとか、そういうVRコンテンツも動かずにその場でできるようになってくるという。

【Virtuix Omni - Omni Arena】

 普通にViveでルームスケールで遊んだら、1人でも結構な広さがいるじゃないですか? でもそれが椅子ぐらいのサイズで、Viveのルームスケールでやっているような自由なインタラクションが可能になるという。だから、1つの大きな問題である、必要な場所に対してプレイできる人が少ないから場所対収益性が悪いということは、徐々に解決されてきています。

 3つ目はゲーム性だと思うのですね。今のゲームって基本みんなVive向けに作っているから、初めて買った人向けにチュートリアルも無駄に長い。非ゲーム性みたいなところも、要するに長時間やれるように作ってくれている形なのですが、でもロケーションベース型でいうと、最初からチュートリアルなんていらないゲームを作るべきですよね。

 遊び方もちょっとずつやっていくとレベルを上がっていくというスタイルよりは、最初からレベル初級版、中級版、上級版と選べるようにして、チュートリアルレスで、なおかつ、自分の実力に合わせたプレイができる。その上でゲーム性というのを作り込んでいくことが割と重要になってくるのかなと考えています。

 4つ目はビジネスモデルで、韓国とか中国とかで話をしていても、たとえば、韓国のインターネットカフェの収益のかなりの部分が“食事”らしいのですね。日本のカラオケと一緒です。場所の利用料ではなくて、そこに結構みんなでワイワイと遊びにいって、飯を食いながらそこで友達とプレイ。みんなが飲み物や食事を頼んだりとかいう形で儲ける。だから利益率でいうと、飲食の方がはるかに高いということで、VRもそういうビジネスモデル、つまり、何分プレイしていくらだけではなくて、カラオケボックスとかに近い形のビジネスモデルを採用して、そこに合わせたゲームが必要ですよね。

 ロケーションベースのビジネスはこの考え方が大前提になっていくと思います。これだけ場所を取っていくらという形だったらビジネスにしづらいけれど、場所対収益がしっかり上がってきて、コンテンツもそれに合わせる形で進化してきて、なおかつビジネスモデルがゲーム以外でもしっかり儲けるという形が出てくると、これはかなり十二分に稼げるようになるのかなと思っています。

 そういうモデルが今後アジアでは確実に出てくるでしょうし、たぶん日本も普通のインターネットカフェやカラオケをやるよりも、こっちの方がいいじゃんということになって、わりと大きく広がってくるのかなと。おそらく僕らゲームを作る側からのほうも、まずはベースのゲームというものを1つ作って、これは家庭用、これはアーケード用というのを作り分けて出していくという。そこで両方でしっかりした収益を出していくというのが、形になりそうだなという印象を持っていますね。

 もう1つ、収益面でみんなが模索しているのが、1サーバーあたり月額何円というライセンスフィーになりそうなんですね。

——サーバーといいますと?

國光氏: コンピュータ。例えばネットカフェに、20台PCとViveが置いてあって、20個にインストールするみたいな。それが1台当たり100ドルとか。そういう感じで20台だったら、1つの店舗で2,000ドルみたいな、そういう感じからまずは始まりつつ、将来的にはコンテンツが増えてくると、プレイされた分だけの、プレイされたら何円とかいう形が入ってくるという形になってくるかなと思っています。この辺りのビジネスモデルは割とネットカフェでもすでにPCゲームのところで証明されているところなので、なのでビジネスモデルも見えてきたのかなという。

——確かに欧米に比べてアジアのVRは有望だと思います。私も1月に台湾に行って来たのですが、HTCが直営しているVIVELANDは、儲けを度外視していろんな実験をやってますよね。今は辛抱の時期だとわかっていて、将来に備えてロケーションビジネスのいろんな実験をやっています。まだ未発売のコンテンツを先行投入して、遊んで貰った後、必ずアンケートをしっかり取る。体験エリアの周囲には常にギャラリーがいて、その後ろを、視察の方々がスタッフの解説を受けながらその様子を眺めている。これは壮大な実験場だなと思いました。かたや欧米というのは、マーケットが大きいという割には個々で観ると、寒々としているのですよね。わかりやすい例が欧州ではPS VRがいくらでも余ってるし、北米でもサンフランシスコのGameStopに行ったら、PS VRがペリフェラルも含めて普通に買えました。こんなことって日本じゃまずありえない光景ですよね。PS Moveのような周辺機器すら買えず、SCEJAの皆さんはひたすら頭を下げ続けている状態です。これは韓国、台湾、香港、中国全部同じなのですよね。アジアでは、全面的にVRはすごくホットだと思いますが、欧米ではなんだか寒々としてる。国や地域によってVRの受け取り方って違うので、各エリアに向いたコンテンツもまた違うのかなという気がしますね。

國光氏: そう、だからよりたぶんロケーションベース型とかだと、みんなでやっていて楽しいとかですよね。6人くらいの友達で行こうよみたいな形ですよね。

【VIVELANDレポート】