インタビュー

「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」設計デザイン担当坂埜竜氏インタビュー

今までのダブルオーとはひと味違う可動、そして重みを楽しんで欲しい!

 バンダイはアクションフィギュア「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー+GNソードIII」を5月に発売する。価格は14,040円(税込)。今回、本商品の設計デザインを担当したDRAGON STUDIOの坂埜竜氏に話を聞いた。

「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」は全高約13cmのボディに多彩なギミックを盛り込んでる

 「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー+GNソードIII(以下、「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」)」は金属部品をふんだんに使うことで重量感、金属の質感など、リッチな雰囲気をもたらしている。

 そして充実した装備と、独特な可動など1/144スケール、全高約13cmのボディに多彩なギミックを盛り込んでる。今回は本商品にこめた坂埜氏のこだわりを取り上げていきたい。

勢いと、力の入り具合……劇中の“動き”を再現できる関節構造

 「ダブルオーライザー」は、アニメ「機動戦士ガンダム00」の後半の主役機である。半永久機関である「GNドライヴ」を2機搭載することで規格外の力を発揮するはずだった「ダブルオーガンダム」は、GNドライヴのマッチングがうまくいかず完全な性能を発揮できなかった。

デザインを担当したDRAGON STUDIOの坂埜竜氏
今回は彩色前の試作品を前に話を聞いた
こだわりの膝関節。“コの字”ではなく自然な曲がりに見えるように設計されている
首もドラム状の関節になっている
ぐいっと肩に力を込めたようなポーズが可能

 そこで支援機「オーライザー」と合体し、GNドライヴを安定させることで当初予定した本来の性能を発揮することが可能となった。合体形態のダブルオーライザーは、機体を粒子化させて敵の攻撃を無効化したり、GN粒子により人々の思いを伝達させるなどMSとして別次元の性能を発揮した。

 立体化フィギュアとしてもダブルオーライザーは魅力的な素材だ。格闘戦が主体のダブルオーガンダムは派手なポージングが似合うし、大型の剣「GNソードIII」を構える姿なども楽しい。そしてなにより“合体”である。玩具としての遊びごたえも盛り込んだそのコンセプトは、これまでも様々な商品が生み出されている。「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」はどのような商品になったのか? 今回は試作品を見ることができた。

 今回の試作品はダイキャスト部分の検証も兼ねているという。可動や素材の検証のためか黒い成型色が使われており、シャープな造形も相まってちょっとダークヒーロー風だ。触ってみてまず気が付くのは金属部品の多さだ。特に足部分は関節だけでなく、腿、すねも金属パーツで構成されており、手に持つとずっしりと重みが感じられる。

 「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」の設計デザインにおいて坂埜氏は、「アクション性の高いダブルオーライザーを追求する」という方向で作っており、独特のアレンジを効かせる「METAL BUILD」シリーズとは異なる方向を目指している。坂埜氏は「『METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー』はデザインは劇中の“動き”を再現できる方向でデザインしました」と語った。

 坂埜氏のこだわりは特に“関節”に込められている。手足の関節の“位置”をオリジナルのデザイン画とは絶妙に変化させ、さらに軸部分もずらして配置することで、動きと勢いのあるポーズを可能にしたという。素立ちの形でもマッシブな雰囲気があり、パワフルさが感じられるスタイルになっている。

 まず最初に坂埜氏が挙げたのが「1軸関節」。これまでのMSフィギュアの多くが肘や膝を深く曲げるために上腕と前腕の間、腿とすねの間に関節パーツを挟み込み“2軸”にすることで手を肩につけたり、正座をさせることができるほどに深く曲がる表現を可能にしていたのだが、坂埜氏は1軸で腕や足がしっかり曲がるように関節の軸を調整している。「人間の関節は2軸じゃなくて、1軸です。それに私はどうも2軸関節を曲げたときの“コの字”シルエットがあまり好みじゃなかったので、今回はあえて1軸の関節表現にこだわっています」と坂埜氏は語った。

 坂埜氏は“動くダブルオー”を本商品で追求したかったという。ケレン味のあるポーズ、力がこもり、激しい動きを感じさせる。“勢い”を感じさせるダブルオーライザーを本商品で追求したかったという。

 このため、胴周り、肩の関節にも幅広い可動域が持たせてある。腰をひねったり、上半身を大きく反らせたり、射撃ポーズでもただ腕を伸ばすだけでなく、ぐいっと肩を入れて射撃を行なうなど派手な動きができるポーズが実現できる設計になってるという。腹部分はブロック構造で細かく分割され、腰と胸への接続は可動域の広いボールジョイントで自由な表現を可能としている。肩周りの関節設計も複雑でその表現力の高さが楽しい。

 今回特に動かしていて面白いのが膝部分だ。腿部分のパーツが膝の動きと連動し、ロボットらしい棒が折れたような極端なシルエットではなく、人間の膝のような丸みを帯びたラインを作り出す。ここも2重関節のラインではなく、1軸での機構にこだわった部分だという。「膝はデザイン上2軸で構成していますが、曲げたときのシルエットができるだけ“くの字”に見えるように設計しています。今回は人間的な関節構造をダブルオーで実現したかったんです」と坂埜氏は語った。

 首部分もより設定画に近い解釈で立体化をしている。首回りが“ドラム状”の関節になっているのだ。これにより自由度が増し、ぐいっと下を向いたり見上げることが可能になっている。ダブルオーガンダムや、ガンダムエクシアは肘や膝にドラム状の関節が使われており、統一感が生まれている。

 こういった関節表現やパーツ分割は現在の3Dでの設計技術と、工場での精度の高い部品製造技術によって樹脂素材を多用する通常の「ROBOT魂」シリーズでも可能だが、「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」ならではのポイントは、金属パーツを多様したことで生まれる金属の“質感”と“重量感”だという。「私自身トライサンプル(試作品)を手にしたとき、見た目以上の重量感に驚きました。写真で伝わりにくいのですが、これはかなり豪華な感じですよ」と坂埜氏は語った。

 実際、試作品を目の前にすると“金属を使った豪華さ”が強く伝わってくる。金属と樹脂パーツの組み合わせは「METAL BUILD」シリーズを前にしているような感覚、所有者が細部をチェックしてその商品の豪華さに満足する感覚に近い、「すごい商品が目の前にある」という気持ちをかき立ててくれる。本商品は「METAL BUILD」シリーズよりサイズは小さいが、このサイズで精巧な金属パーツが作れるのも現在の技術ならではだという。最先端の技術を盛り込んだダブルオーライザーフィギュア、というわけだ。

 坂埜氏は「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」製作に当たりTVシリーズから劇場版まで見直して集中的にチェックしたが、ダブルオーガンダム/ダブルオーライザーの動きの“速さ”にチェックしていてかなり苦労したという。その中でお気に入りがダブルオーガンダムとアルケーガンダムの地球上での対決シーン。坂埜氏はこの時のダブルオーガンダムの動きを大いに参考にし、その戦闘シーンを再現できることを目標にしたという。

【METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー】
魂ウェブでは彩色された試作品の写真を見ることができる

たっぷりのギミックを差し替えなしで再現! 誰も見たことのないダブルオーライザー

 本商品のもう1つの大きな特徴である充実したセット内容を見ていこう。最大のセールスポイントがオーライザーとの“合体機構”である。ダブルオーガンダムの背中のハッチを開くことでジョイントが現われる。パーツの取り外しや交換がなく合体が可能だ。

背中のハッチを開くと、ジョイント部分が現われる
GNソードIIIは肘部分としっかり接続される
大型のGNソードIIIをさらに大きく見せるライザーソード用エフェクトパーツ
GNソードIIをGNツインランスに
肩のGNドライヴは回転させるとクリック音がするギミックが
こちらもギミックが詰め込まれたGNシールド

 オーライザーは劇中同様3つに分離し、ダブルオーガンダムに接続される。坂埜氏のお気に入りは両肩のGNドライヴ。オーライザー部分を動かすとGNドライヴのコーン部分が回転し、カチカチと音がする。このクリック感は商品オリジナルギミックであり、原初的な“動かす楽しさ”を感じさせてくれるギミックだ。このクリック音は合体していない状態でもGNドライヴを回転させることでならすことができ、つい楽しくて回して音を鳴らしてしまう。

 オーライザー本体は劇中同様複雑に折り曲がりダブルオーガンダムに接続する。オーライザーはシンプルな面構成を心がけていると坂埜氏は語った。こちらも差し替えなしのフルアクションだ。

 ダブルオーガンダム単体ではこれまでの立体物よりも足が太めでマッシブな印象を受ける。これは坂埜氏の狙い通りだという。ダブルオーガンダムはノーマル状態でも両肩にGNドライヴがついた上半身にボリュームのあるデザインでどうしても上半身が大きくなりすぎてしまう。坂埜氏は上半身に負けないようにあえて太ももや足を太めに設定し、ダブルオーライザー形態でもバランスが取れるようにプロポーションを調整したという。

 武装としてメインとなるのが「GNソードII」と「GNソードIII」。IIは二刀流の軽やかでスピーディな戦いのポーズが似合うし、IIIはエクシアの戦い方を彷彿とさせるダイナミックなポーズがぴったりハマる。もちろんどちらも差し替えなしでライフルモード/ソードモードに変形し多彩なシチュエーションをカバーできる。

 IIはジョイントパーツを使うことで「GNツインランス」にできる。IIIは大型のエフェクトパーツが付属しており、長大な刃を出現させるダブルオーライザー最大の攻撃「ライザーソード」も再現可能だ。坂埜氏のこだわりはIIIの“フィット感”。パーツが腕にきちんと合うように設計されており、ロックすることでIIIがきちんと腕に装着される。

 ここでも肘関節の設計が活きてくる。エフェクトパーツをつけたときの“大きさ”が楽しいところだ。今回、「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」ならではのバランスが提示できたのではないかと、坂埜氏は語った。

 「GNシールド」もこだわった部分だ。シールドを合わせるとき、合体させるとき、多彩な変化を見せるシールドを差し替えなしで再現している。GNシールドの刃が伸びる表現もスライドでカバーしており、小さな部品にあらん限りのギミックを仕込んでいるという。

 今回試作品を見ることができたが、こういった試作品を3~4回作り直して仕様を決め、商品が作られるという。気がついた点を直してもらうのはもちろんだが、工場側でも改良を繰り返しており、製品のギミックへのこだわりと、精度は、設計デザイナー(商品設計担当者)や企画担当者はもちろん工場側での力で完成品へと繋がっていく。

 それは一朝一夕でできるものではなく、バンダイと中国の工場の職人など多くのスタッフの努力のたまものだと坂埜氏は語った。特にダイキャストはどうしてもゲート跡が出てしまうので、これはすべて手で磨くしかない。しかも「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」は細かいダイキャスト部分が多いため、限られた工場でしかできない技だという。「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」は、最先端の技術と、職人の技で生まれる商品だと坂埜氏は語った。

 坂埜氏は自分で設計デザインした商品が立体物になり、それを触れる瞬間は最高だと語った。何よりも楽しいのは、工場試作品の前、コンピューター上で作っていたデーターが光造形で打ち出され、それを組む瞬間がたまらないという。デザイナーはまず部品を打ち出し、部品の合いや組み上がりを自分の手でチェックする。画面上では気がつかない立体化したときに生まれる矛盾点なども組んでみることでわかる。

 形状や素材によってネジの位置も、数も変わってくる。キャラクターの表現はもちろんだが、坂埜氏達設計デザイナーは様々な要素を考えてデザインを行なっていくのだ。そうして完成した原型を元に工場が試作品を作り、何度かのキャッチボールを経て商品原型が完成する。坂埜氏はこういった仕事を始めてから20年以上になるが、それこそ昔は原型を手で樹脂を削って作っていた。「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」は今の技術だからこそできる商品だという。

 坂埜氏は最後にユーザーへのメッセージとして、「『METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー』はやはりダイキャストのボリューム、重さを楽しんで欲しいと思います。そしてなにより“可動”を楽しんでください。」

【魂ネイションズ AKIBAショールームでの展示】
「魂ネイションズ AKIBAショールーム」で展示されていた「METAL ROBOT魂 ダブルオーライザー」の彩色試作品