【特集】
【年末特集】この冬休みにイッキ見したい!2022年を代表する傑作アニメ7選
2022年12月29日 00:00
おたく・サブカル全般が得意分野のこもとめいこ♂(53)です。年末恒例、1年の締めくくり企画として、2022年の新作アニメを振り返り、「冬休みに見たい」7作品を選んでみました。
少年期に初代「超時空要塞マクロス」リン・ミンメイ役の飯島真理さんのレコードを集めていて、今は声優・アーティストのライブレポートも書くライターでもあるので、声優成分多めのチョイスになっております。
インドア派にも見てほしい!逆異世界転生モノ「パリピ孔明」
「パリピ孔明」は、四葉夕卜氏原作、小川亮氏作画による漫画のアニメ化作品です。原作は講談社のWebコミックサイト「コミックDAYS」にて、2019年末に連載開始。その後、紙の週刊誌「週刊ヤングマガジン」に移籍して2022年現在も連載中、単行本は11巻まで発売されています。
タイトルの「パリピ」とは、2015年のギャル流行語大賞にもなったスラングで、「パーティーピープル」「パーリーピーポー」の略語、陽キャ(陽気なキャラクターの人)の最上級といったイメージの言葉。
孔明は中国三国志時代の英雄諸葛亮、「亮は諱(いみな=実名)で字(あざな=実名以外に名乗っていた通称)は孔明」の孔明です。
その孔明が現代日本へ転生し、クラブの歌い手月見英子の歌に魅せられて、英子をトップスターにするための軍師になる……という物語です。
軽くて陽気な「パリピ」という形容詞と英雄・諸葛孔明の組み合わせという発想が、数多ある異世界転生モノ作品と本作が一線を画しているポイントです。
平凡な主人公が異世界へ転生し、現代の知識がチート化して大活躍するという、いわゆる「俺TUEEE系」に対し、非凡な歴史的軍師は、その本質が時間を下ってきてもやっぱり群を抜く能力を有しているというカウンターになっている面白さもあります。
「パリピ」+「孔明」という、ワンアイデアで終わることなく、現代のクラブシーンで能力を発揮していくという横軸がしっかり描かれる漫画力が伴って、Web漫画で始まった連載が紙の雑誌にまで進出している人気の原因だと言えるでしょう。
この変化球の人気作品、クラブシーンに欠かせない音楽を多数世に出しているエイベックスグループがアニメ化したことで、「歌」という要素に力を入れて原作ファンも納得の、意義ある作品にしています。
それこそ「パリピ」なイメージのあるエイベックスグループですが、アニメに関しては「解った」方が携わっているので、これまでもアニメファンに受け入れられる作品を制作してきています。本作も、主人公月見英子に本渡楓さん、孔明には置鮎龍太郎さん、他実力者をキャスティング。本渡楓さんは「ゾンビランドサガ」、「推しが武道館行ってくれたら死ぬ」など多数の作品でアイドル役でキャラクターソングをリリースしてきた歌唱力の持ち主ですが、本作では歌唱に96猫さんを配してのダブルキャスティング。それぞれの専門性へのリスペクトが感じられる配慮がなされています。
また、本作は漫画原作では表現できない、音声による「歌」が大きな魅力です。特に主題歌の「チキチキバンバン」はヌルヌルと動くダンスと原詞を超訳した歌詞がマッチしたOP映像が1000万再生を突破するメガヒット。元々中毒性のある曲調ですが、「猫も杓子も」で始まる「ヘンな訳詞」スレスレ、それでいて本作に沿った歌詞が絶妙で思わず何度も再生してしまいます。
原曲は、2013年にハンガリーのアーティストJOLLYがリリースした「Bulikirály」(ハンガリー語でパーティーキングの意)。その曲を2020年にエイベックスが配信リリース。そのユーロビートを本作のために結成されたスペシャルユニット「QUEENDOM」がカバーしたのが「チキチキバンバン」です。
アニメ版OPの映像は世界中でアニメファン以外にも大ウケ、JOLLYはリリースから10年を経て2022年4月末にiTunes Storeランキングでダンスチャート1位を獲得しています。
各種動画投稿サイトでも2次創作の「歌ってみた」、「踊ってみた」が多く見られました。2022年最も音楽が「バズッた」アニメ作品と言えるでしょう。ストーリー的にも、原作が続いている作品のアニメ化はどこをクライマックスに持っていくかが非常に難しく、「俺達の闘いはこれからだ!」な消化不良で終わる場合も少なく無いのですが、本作はその配分が巧みで、現状の1クールでちゃんと爽快感が得られるようになっているところが素晴らしいです。
筆者も当初「パリピ」に拒否反応が出て見るのを躊躇ったのですが、OPで入り込み、最後まで面白く見れました。「パリピ」ではないインドア派の皆さんに是非お勧めしたい作品です。
「SPY×FAMILY」アーニャの可愛さで声優の奥深い表現力の凄さを知る
「パリピ孔明」と同じ、4月改編期にTV東京が万を持して放送したのが、12月現在2期を放送中の「SPY×FAMILY」です。原作は遠藤達哉氏により、集英社のWebコミックサイト「少年ジャンプ+」で連載中の漫画で、現在紙の単行本が10巻まで発売されています。
物語は架空の国オスタニアが舞台で、主人公のロイド・フォージャーはコードネーム「黄昏(たそがれ)」、対立する国ウェスタリスの諜報部員。ロイド・フォージャーは極秘任務のため、市役所の職員で殺し屋でもあるヨル、人の心を読む特殊能力を持つ孤児員育ちのアーニャと疑似家族となる……というのがあらすじです。
恐らくは1960〜70年代頃の東西冷戦下のヨーロッパがモチーフになっていると思われます。当時の、スパイがスパイらしく活躍していたフィクションを思わせる骨太のストーリーと、3人の疑似家族が時にシリアスに、時にユーモラスに、家族としての絆を築いていく心温まる日常が絡み合う、楽しい作品になっています。
本作をTV放送しているテレビ東京は、ここ最近アニメに関しては「ポケットモンスター」に代表されるファミリーアニメのイメージが強いのですが、かつては「装甲騎兵ボトムズ」、「新世紀エヴァンゲリオン」を世に送り出し、1990年代までのアニメシーンを牽引していました。「アニメと言えばテレ東」だった歴史があります。
そのテレビ東京が大々的に放送を開始した「SPY×FAMILY」は、現在「イオン」をはじめとする様々な業種の企業とタイアップする人気を獲得。特に、種崎敦美さんが声を担当しているアーニャの「ちち」、「はは」、「がんばるます」など独特の幼児語はとても可愛らしく、テレビ番組でタレントが真似をしたり、街中で子供が真似をしたりする大人気キャラクターとなっています。
本作を選んだのは、そうした世代を超えるヒットとなっていることもありますが、アーニャを演じたのが種﨑敦美さんであるという点が最大のオススメポイントだからです。
本作はロイド・フォージャー役の江口拓也さん、ヨル・フォージャー役の早見沙織さんほか、豪華声優陣がキャスティングされており、種﨑敦美さんも「第十四回声優アワード助演女優賞」の人気、実力を兼ね備えた声優さんです。
大分から上京後ほどなく「となりの怪物くん」でヒロインの座を射止め、その後長く飲食店のアルバイトを続けながらコンスタントに主要キャラクターを演じ、「ダイの大冒険」では、2020年から2年間主人公の少年ダイ役を務めました。また、感受性豊かで、ラジオのメールで度々もらい泣きする一面もあって声優ファンならば誰もが愛するトップ声優の1人なのですが、故郷の大分はアニメ放送不毛地帯で、お母さんが娘さんの声を聴けるのはテレビ朝日のニュース番組「サンデーステーション」のナレーションだけという寂しい状況でした。
アーニャのあの台詞はそんな種﨑敦美さんだからこそ表現できた哀しみと寂しさ、憂いの籠もった可愛いさを感じざるを得ないのです。
以前「ウマ娘」の記事で書いたように、アニメ界には、役柄と運命的にシンクロする声優さんがいて、それはやはり他の作品、キャラクターとは別の輝きを放つのだと感じます。
そして「SPY×FAMILY」は大分朝日放送でもオンエアされ、コラボショップも設置される人気ぶり。先日、種﨑敦美さんは大分駅前に6000人を集めたイルミネーション点灯イベントにゲスト出演、ご家族の前で故郷に錦を飾られたのでした。また、Yahoo!検索大賞2022声優部門1位にも選ばれ、声優ファンとしては心の底から祝福したい、そんな特別な出演作が「SPY×FAMILY」なのです。
温かなファミリーアニメということで見るのを躊躇っていた方に、是非見てアーニャと種﨑敦美さんの素晴らしさを知ってほしいと思うます。
圧倒的夏の覇権アニメ!「リコリス・リコイル」
GAME Watch読者的に一番シンパシーを感じるのが、7月改編期の覇権アニメ、「リコリス・リコイル」でしょう。制作したアニプレックスによるオリジナル作品で、「ベン・トー」シリーズのライトノベル作家アサウラ氏が原案を担当しています。
物語の舞台は現実とはやや異なる現代日本。治安維持組織「DA」に所属する少女暗殺者「リコリス」と、犯罪グループとの死闘を描いています。
本作では、秘密裏に活動するDAの実態を知らしめようとするテロリストである真島と、錦木千束と井ノ上たきなとの闘いが主軸。そこに主人公、錦木千束を巡る様々な登場人物が関わってくることで物語が展開します。真島はハリウッド映画「ダークナイト」のジョーカーを思わせる劇場型のテロリストで、対するDAも「リコリス」を遣い棄てのコマの如く投入して対抗、ハードな戦闘シーンが多いのが本作の大きな特徴です。
本作はOP楽曲を、「魔法少女まどか☆マギカ」OPのClariSが担当。素早いカット割りの映像と共に彼女達のハーモニーが響いた瞬間、 「あ。これオタクが絶対好きになるやつ」 と、思いました。続いて、物語序盤でロシアの支援機関銃「PKM」を乱射する井ノ上たきなで心を鷲掴まれ、EDでその井ノ上たきなの映像に被るアンニュイなさユりさんの「花の塔」の歌詞「君の手を握ってしまったら」で完全に心を奪われてしまったのでした。
ミリタリーファンとして大きな魅力は、やはりこだわりが感じられる銃器描写の細かさ。オートマチック拳銃のリコイルや空薬莢の排莢、必要に応じて使われるサプレッサーなどのオプション、ギザギザのスパイクが刻まれた銃口で腹部を殴りつける他、納得のアクションがこれでもかと繰り返され、思わず何度も巻き戻してスロー再生したくなります。
しかし本作最大の魅力は命令を無視してDAから放逐された井ノ上たきなが、同じくDAをドロップアウトした錦木千束の達観した明るさに救われていく……というやはり「ちさたき」と呼ばれる錦木千束と井ノ上たきなの関係性です。
4巻まで発表済みのBlu-rayパッケージもすべて2人で構成されていますが、それだけ濃密な百合要素が展開されるのです。子役出身で経験豊富な若山詩音さんによる井ノ上たきなの不器用なコミュニュケーション力と、ベテランの安済知佳さんによる、ポジティブで明るい錦木千束の対比で物語は進んでいきます。終盤、錦木千束の純粋さ故の葛藤を、彼女への井ノ上たきなの一途な想いが救っていく展開は思わず魅入ってしまいます。
また、真島の計画は一応の決着をみますが、DAという組織の問題点を遺したままであり、今後の展開に含みを残しています。今後2ndシーズンも予想されますので、今のうちに見ておくことをオススメしたい一作です。
甦った80年代SFスラップスティックコメディ!原作準拠「うる星やつら」
小学館の週刊少年サンデーで1978年に始まった高橋留美子氏のデビュー連載作品が漫画「うる星やつら」です。
本作の主人公、諸星あたるは平凡な高校生。しかしある日突然外惑星から侵略にやってきたエイリアンの娘、ラムと地球の存亡を賭けた鬼ごっこをするハメに陥ります。ラムは空を自在に跳び回り、身体から電撃を発するという特殊能力の持ち主。諸星あたるは苦戦しながらもラムのツノを掴んで地球を救いますが、ラムの許嫁になってしまい、家に同居することになり……という物語です。
最初のアニメ版「うる星やつら」は1981年から1986年までフジテレビにて放送されました。その後、高橋留美子氏の連載作品はほとんどがTVアニメ化されていて、どの作品も世代を超えて愛されてきました。今回、小学館創業100周年を記念し、選び抜かれた原作エピソードを4クールに渡って再テレビアニメ化されることになり、四半世紀ぶりに「うる星やつら」の新しいアニメがテレビに帰ってきたことになります。
今回の再アニメ化にあたって謳われているのが「原作準拠」ということです。と言うのも、「うる星やつら」が始まった1980年代は、今では考えられないぐらいに原作を改編したアニメ作品が制作されていました。その中でも「うる星やつら」はオリジナル要素が強く、原作ファンから賛否両論渦巻くシリーズでもあったのです。特に、初期のスタジオぴえろが制作していた時期は押井守監督のオリジナリティが発揮されており、「うる星やつら」の世界観をはるかに逸脱したままエンディングを迎えることもありました。
筆者はアニメから「うる星やつら」に入ったものでして、あとから原作の「うる星やつら」を読んで逆に違和感を感じたのをおぼえております。
ということですので、原作により近い形での再アニメ化となると、自分の好きだった「うる星やつら」成分が消えた作品になるのではないかと危惧していたのが正直なところでした。
そして実際に放送された再アニメ化第1話は、OPこそ現代風にアレンジされておりますが、内容的には確かに原作をそのまま踏襲し、スマートフォンなどが登場しない、1980年代の日本の日常が再現された世界観の作品でした。原作準拠の前評判通り、高橋留美子氏のSFスラップスティックコメディの面白さが、忠実にアニメ化され、気軽に笑って見れる作品になっていました。
一方で、ラム役の上坂すみれさん他キャスト陣が、かなり元のキャラクターを踏襲して寄せた演技を見せてくれたのは、昔のアニメ版を見慣れた層にも違和感がないのは嬉しいところです。特に、最初のアニメ版で登場した、押井守監督のシャドウとも言うべき存在で、アニメ版のファンには絶大な人気を誇ったメガネというキャラクターがいるのですが、その元になったキャラクターのサトシが原作通り2話で登場。本作で佐藤せつじさんが、千葉繁さんのメガネに寄せた演技を披露してくれたのは、押井守版ファンとしても感激しました。
結果として、「うる星やつら」は、1980年代という、バブル前夜の時代を、モニター越しで現代から振り返り、感じることができる作品となっています。
原作ファンやアニメファンは懐かしく、30代前の世代にとって歴史となった80年代アニメの熱気を追体験できる作品としてオススメしたいです。そして本作で「うる星やつら」を知った上で、未見の方には押井守監督の映画「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」を是非見て欲しいです。「ビューティフル・ドリーマー」は公式2次創作と言っていい作品で、そのテーマ故にか、DVD化やBD化が他作品に遅れるといういわく付きの作品であり、「うる星やつら」の世界観と当時の熱狂を知った上で見なければその意味を完全に理解することができないのです。
殺伐とした抗争ゆえの面白さ!「アキバ冥途戦争」
傑作が揃った10月改編期2作目のオススメが「アキバ冥途戦争」で、制作したP.A.WORKSによるオリジナル作品です。P.A.WORKSは前述の「パリピ孔明」を制作したスタジオでもあり、原作作品のアニメ化も手がける一方で、「SHIROBAKO」などのオリジナル作品も多数世に送り出しています。
本作の舞台はメイドカフェが乱立する1999年の秋葉原。主人公、和平なごみは憧れのメイドになって萌えをご主人様に届けようとしますが、メイドカフェ同士の血で血を洗う抗争に巻き込まれる…というブッ飛んだ世界観の作品です。
見る前は、ダークホースと言っていい作品だった「アキバ冥途戦争」。予備知識なしで見始めて、いきなり「美味しくなーれ萌え萌えキュン」などのメイドのキメ台詞をリミックスしたOP「メイド大回転」にまずショックを受けました。
そして本編も、若き主人公、 近藤玲奈さん演じる和平なごみのメイドへのひたむきさに対し、メイドカフェ「とんとことん」の同僚のやさぐれた感じに思わず笑ってしまいました。特に佐藤利奈さんの演じる万年嵐子は刑務所帰りの35歳という設定は秀逸。「35歳でメイドって」というヒドい突っ込みにも負けず、メイドとしてどこかズレた頑張りを見せながら、抗争となると躊躇無くトリガーを引いてライバルのメイドを射殺するビジュアルも衝撃的です。最初はそのまま受け止められず、「なんちゃってでは?」と、どこかでギャグに着地するのかと思っていましたが、作品内でメイド同士がマジメに抗争をしていることを知ってがく然としました。「冥途戦争」はユーモラスな当て字ではなく、その通りの内容なのです。
メイドによる任侠モノ、それもバリバリの武闘派同士の抗争で、ヤクザをモチーフにした作品でも特に血生臭い、東映の「仁義なき戦い」や香港ノワール「男達の挽歌」を思わせる殺伐とした殺戮がこれでもかと繰り返されるのには驚かされます。そしてそれ故に、登場するのが「メイド」であるところが、一々ギャグとして思わず笑ってしまう、という怪作になっているのです。
また、キャラクターの中で私が特に注目しているのがロシア出身メイドのゾーヤです。3話まではOP映像にモザイクがかかっていたシークレットキャラクターで、声を担当しているのはジェーニャさん。旧ソ連で生まれたジェーニャさんは、お父様が特殊部隊スペッツナズの中佐という、世が世なら大統領令嬢だったかもしれない(プーチン現大統領は元KGBの中佐)方なのですが、「美少女戦士セーラームーン」の影響でアニメファンになり、2000年代に来日した経歴の声優さんです。
私はジェーニャさんが「秋葉いつき」名でアキバでメイドさんをして苦労しながら日本に定住することになった2005年頃から応援していて、「ガールズ&パンツァー」などに出演する一方、翻訳やアドバイザーとしてアニメ界に欠かせない存在にもなっていることが嬉しくも寂しく思っていました。そんな今年、ジェーニャさんが20年越しに「メインキャラクターを演じる」「アニメのOPを歌う」という夢を叶えたことは驚きと共に、我がことのように嬉しくて、最近買う習慣がなくなっていたCDを思わず購入するほどでした。
本作はそんな絶妙のキャスティングがメイドとして、大まじめに殺し合いをするという、現代の「萌え」文化へのカウンターによるパロディになっている面もあり、まさに涙と興奮と笑いの入り交じった必見の作品となっています。
激戦秋の覇権アニメ!ぼっちとギタリストのリアル「ぼっち・ざ・ろっく!」
「ぼっち・ざ・ろっく!」は、はまじあき氏が2018年から「まんがタイムきららMAXで連載している4コマ漫画が原作で、10月改編期に放送された作品です。
主人公の後藤ひとりは陰キャでコミュ症で(独り)ぼっちの少女。ある日「陰キャもバンドをやれば輝ける」という天啓を受け、3年間ひたすらギターを練習、名ギタリストとしてWebで人気者になります。相変わらず現実社会ではぼっちのままでしたが、ある日公園で伊地知虹夏に助っ人でギターを弾くように頼まれて、「結束バンド」に加入、ぼっちを卒業していく……という少女の成長ストーリーです。
掲載誌から、女子高生の日常が描かれる、いわゆる「きらら系」かと思いきや、下北沢の有名なライブハウス「SHELTER」をモデルにしたライブハウスを中心にしたリアルなバンドメンバーの描写が多いのが特徴です。本作はバンド関係者やメディアでも話題となっており、随所に散りばめられたバンドあるあるがリアル、ということで、バンド作品としても非常に評価が高くなっています。
個人的には後藤ひとりの陰キャ、コミュ症、ぼっちの描写が身に迫るリアルさでとても惹かれております。学校に趣味の物を持っていって話しかけられるのを待つ、話す時に眼を合わせられない、過去の黒歴史がフラッシュバックしてきて居たたまれなくなる、1度行った場所なのに、入れなくて扉の前で挙動不審な行動など、思わず「あーっ」と頭を抱えて消え入りたくなるリアルさがあり、共感せずにはいられません。
そのリアルコミュ症で、「ぼっち」という愛称を「初めてのあだ名」と喜んでしまうようなぼっちの後藤ひとりですが、結束バンドや、ライブハウスの人々との交流で物語は展開していきます。原作の4コマ漫画に沿った展開でありつつ、その行間の膨らませ方が実に巧み。精神崩壊を極端にデフォルメしたアニメならではのギャグ、実写映像のサンプリングや構図を広角にして歪ませたりといった演出が織り込まれています。結果として、ライブハウスにいるバンドという変化に乏しいシーンを飽きさせずに画面に集中させてくれます。1話ごとにオチがありながら、後藤ひとりの成長が感じられる物語構成も巧みです。
そういった丁寧な絵作りによってかつてのバンドによって輝く存在になっていくという成長ストーリーに自然に共感して、心温まる感動を与えてくれます。
回を追うごとに評価が高まっていったのは放送時のSNSの熱量からも明らかで、粒ぞろいの秋アニメにあって、最も支持された作品と言っても過言ではないでしょう。
コミュ症、ぼっち、陰キャに共感するインドア系で、「バンド」に拒否反応を示している方、「ほのぼの日常きらら系」だと思っていて未見の方にも、絶対に見てほしい作品です。
退廃した世界で格差を暴力で乗り越えろ!Netflixオリジナルアニメ「サイバーパンク:エッジランナーズ」
「サイバーパンク:エッジランナーズ」は、RPG「サイバーパンク2077」を元にした、配信サイトNetflixオリジナルのアニメで、日本のスタジオTRIGGERが制作しています。
物語の舞台は、20世紀末に築かれた架空の夢の街、テクノロジーと人体改造が一般化した巨大都市ナイトシティ。強烈な格差社会の貧困層に産まれた主人公の少年ディビットは、母の死と引き換えに、チート級の性能を持つデバイス「サイバーウェア」を入手。アウトローの傭兵「エッジランナーズ」として非合法の社会で生きていくことになります。
本作の今石洋之監督は、ガイナックスでの「天元突破グレンラガン」、スタジオTRIGGERを設立しての「キルラキル」と見てきましたが、とにかく魂のぶつかりあうような熱い闘いで見る者を引きつける作風が特徴です。
今作も、“最高のゲーム原作アニメ”と言われるほどに、原作の世界観そのままに映像化されていると各所で高く評価されています。私はゲーム版は未プレイなのですが、公式サイトの用語集を参考にストレスなく楽しめました。
特に物語の発端である第1話は、ディビットの生い立ちや現在を描きながら天涯孤独の身となり、素性の明らかではない拾い物のデバイスを身体に埋め込むまでが流れるように描かれ、理想的な序章となっています。
ロボットマニアの少年が最新の機動兵器に乗り込んで闘う「機動戦士ガンダム」、その第1話を完璧と評価する庵野秀明監督の「新世紀エヴァンゲリオン」のような、素晴らしいアニメの第1話です。1話で主人公が陥る境遇はそのまま見る側にストレスとして蓄積されるのですが、2話でそのモヤモヤが一気に解放される爽快感があり、是非味わってほしいと思います。
面白いということは勿論ですが、本作を特に見るべき作品としてオススメしたい理由は、今石洋之監督の発言にあるように、社会の格差が埋めがたいほど大きく拡がり、当たり前の努力では逆転不可能な固定化が2022年の世界で見られているという時代性があります。だからこそ、チートや非合法でしかそれを覆せないのではないか、と思いはじめている世代の皆さんに見てほしいと思います。
そしてもう1つは、Netflixオリジナル作品であるという点です。以前から、テレビを見ない、持ってない世帯が増加し、今はもう配信の時代と言われてきました。アニメも、DVDやBlu-rayといったソフトウェア(いわゆる円盤)が売れなくなり、制約が多く、低予算でスケジュールがキツいTVシリーズではなく、配信向けに制作していく方向になりつつありました。
しかし2022年、これまで右肩上がりで成長してきたNetflixの契約者数が減少に転じ、オリジナルアニメの企画が通らなくなったというニュースが報じられました。また、現代の視聴スタイルとしてSNSでの実況というものがありますが、それにはライブ放送のリアルタイム同時視聴が欠かせません。TV局による地上波とネットでの同時配信が当たり前になったこともあり、プラットフォームとしてのTVが再評価されてきています。また、製作サイドでも、リアルタムでバズることで、映像そのもの以外、主題歌の配信や関連書籍、グッズによる2次収入を見込んだ方が買い切りの配信制作よりも売り上げに繋がる、という考え方もなされてきているのが2022年のアニメの現状です。
本作は配信故にやはりハードな描写もあり、細部までの造り込みも含めテレビでは楽しめない表現であることも確かです。
ですので、TV放送された6作品と本作を見比べることで、双方の良さを感じられるし、アニメは今後どうなるのか、どうなっていくべきなのか、にも考えをはせられるということになります。
本作のためだけでも、Netflixに加入する価値はあると思いますが、そういった点も合わせて、本作は是非この冬に見てほしいと思います。
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©はまじあき/芳文社・アニプレックス
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