コーラス大柳の「ためにならないインディゲームレポート」
【第4回】コーラス大柳の「ためにならないインディゲームレポート」
Taipei Game Showインディゲームフェスタから活きの良いインディタイトルをご紹介
(2016/2/12 12:00)
こんにちは。コーラスの大柳です。
個人的に注目している台湾インディゲームの最新状況をうかがいに、1月28日から2月2日まで開催されていた台北ゲームショウへ行ってきました。実に6日間にもおよぶ長丁場のイベントですが、私の興味はインディゲーム。という訳で1月28日と29日に開催された台北ゲームショウの前哨戦ともいえるインディゲームフェスタにのみ参加してきました。
群雄割拠の台湾インディゲーム事情
インディゲームフェスタは、毎年台北ゲームショウと並行して同会場で2日間開催されているイベントです。大手メーカー各社のにぎやかな巨大ブースがひしめき合うメインフロアに比べると、知名度はまだまだのようで、一般のゲームファンよりも業界関係者の方が参加人数としては多いのが実情なのですが、多数のインディゲーム開発者が数年ごしの意欲作を持ち込んで参加してくるため、熱気・レベルともに国内インディゲームイベントには負けていません。
今年は、初日28日のビジネスデイではインディゲームフェスタのみ先行して開催されたり、1階にも一部出展タイトルが体験できるインディハウスコーナーが置かれるなど、主催者側としても台湾ゲーム業界を盛り上げようとしている努力を伺うことができます。大手メーカーに関する情報については他の記事に譲りますが、なにせ台湾ゲーム業界は中国系の資本が入っている会社を除くと、大きな影響力を持つ会社がほとんどありません。主催側もインディ界隈から第2、第3のRayarkみたいなスタジオが誕生してくれることを願っているのかもしれません。
さて、群雄割拠状態の台湾インディは、ゲーマー視点から見て、年々魅力を増しているのは事実です。これはひとえにモバイルの普及が功を奏しているのではないかと考えます。いまやPC以上に普及をしているスマートフォンは、まさに老若男女の必需品です。ここに様々な人たちが開発に参戦しています。独立した業界人のようなプロはもちろんのこと、学生や兼業開発者も多く、奥さん・子供連れで出展しているケースもあるくらいです。
PCよりも身近に自分たちのつくったゲームを利用者に提供できる環境ができたことはそれだけでも大きいですし、コミュニケーションツールとして肌身離さず持っているものですから、ちょっと「刺さる」ゲームがあると友人などを介して一気に「バズりやすい」ようになっているのも大きいのではないでしょうか。もちろん、Unityなどの開発環境も整備されたことも大きく寄与していると考えられます。
台湾インディの傾向としては、日本と西洋のいいとこ取りをしたデザインが目立つことです。どういうことかというと、ビジュアルは美少女など日本のアニメ・マンガテイストを取り入れたものが多く、中味はバリバリの硬派なゲームであるというものです。逆パターンとして何となく「World of Warcraft」の影響を強く受けたビジュアルにアジアで一般的な課金スタイルのゲームデザインを組み合わせたものなどもあります。もちろん見た目も内容もドコアな物もありますし、流行り物のジャンルから少しずつ良いところをつまみぐいしているバランスの良い(?)ゲームもあります。
全般的にインディは体力がないため、必然的に「運営」が必要になるようなゲームは苦手です。マネタイズまわりで日本の会社が求めそうな要素をカバーしているゲームはあまりないのが実情でしょう。いわゆる「ガチャ」をまわしてもらうことによってゲームを進めることが前提のデザインと、ペイワンス(買い切り)モデルは半々くらいといったところです。
台湾産ゲームというと、国内ではあまり耳にしないかもしれませんが、最近では日本のGame Bankさんと台湾のスタジオMoregeekさんによるアクションRPG「オービットサーガ」などの展開例もあります。今後は日台の共同パブリッシングは増えてくるかもしれません。というか各社の話を聞く限りでは間違いなく増えていくことでしょう。あなたがハマってるそのゲーム、実はメイドイン台湾かもしれませんよ?
前置きが非常に長くなりました。さて、2日間のイベント中、多数の国から、たくさんのゲームが出展されていました。カタログ上では非開発者・企業まで含めると120社・チームの出展があり、すべてを見るのはさすがに無理そうだったので、今回は出展タイトルの中から台湾で活動しているスタジオに注力して「これは」というタイトルをご紹介していきたいと思います。
この中には東京ゲームショウなどの国内イベントでも出展されたタイトルもあり、一度見たことあるなーという方もいるかもしれません。いずれもリリース済〜そう遠くない時期にリリースを予定しているものなので、今回の記事でタイトル名だけでも何となく覚えておいていただければ幸いです。
台湾インディゲーム業界の雄、Qubit Gamesの2作目がこの「Qubot」です。昨年の東京ゲームショウ インディゲームコーナーにも出展されていたので、もしかしたらプレイしたことある人もいるかもしれません。TGS向けにトレーラーもしっかり日本語化されています。過去にプレイステーション用アクションゲームの名作「God of War」の制作に携わったベテランも制作に加わっているため、パッと見からすでに「これは他と何か違うぞ」感が出ています。
ゲームのデザインは平たく言うと、みんなもよく知っている「モンスト」+αの要素です。ただしゲームは極めて良くできており、個人的な第一印象としては「モンスト」よりも楽しくプレイできました。おそらく(失礼ながら!)インディゲームらしからぬ洗練されたビジュアルとゲーム内容がそう感じさせるのかもしれません。
本作最大の特徴は単純に「よくできている」だけでなく、プレーヤーキャラクターたちが使うロボットの容姿を自由にカスタマイズすることができる点にあります。ちょうど「マインクラフト」で家を建てるようにブロックを組み合わせてベースのロボットを自分好みの姿につくりかえることができるのは、何とも男の子の心をくすぐる要素です。ちなみにカスタマイズしたロボットはサーバにアップロードすることで、他のプレーヤーとシェアすることができたり、モバイルおよびPC用の専用ビューアソフトを使って閲覧することも可能になるようです。
この試みは同社一作目のゲーム「Space Qube」でも取り入れられており、「Qubot」は同作のカスタマイズ要素をより発展させたものになります。ちなみに前作「Space Qube」ではリリース後、サーバに不適切なキャラクターが猛烈な勢いで跋扈したそうで「Qubot」では色や形状などから、それらしいものは自動的に排除されるように設計されているとか。
東京ゲームショウ後から日本のパブリッシャーとも交渉を進めているそうで、リリースのあかつきには日本版も遊べるようになるかもしれません。台湾インディの中では非常に期待度の高い1本と言っても過言ではありません。「Qubot」のタイトル名とゲーム画面をぜひ覚えておいてください。
「艦隊」と聞くと「これくしょん!」と言ってしまいそうになりますが、艦これとは全く関係ありません。
「艦隊神姫」は昨年のインディゲームフェスタにも出展されていたタイトルですが、ようやく完成が見えてきたようで現在Google Playでベータ版が配布する段階まで至っています。中文のみですが日本からでもプレイすることができます。開発のFingervoltの担当に聞いてみたところ、プレーヤーからのフィードバックは上々とのこと。
「艦隊神姫」はパッと見、弾幕シューティングゲームかと思わせますが、実際のところはタワーディフェンスゲームです。旗艦の各ポイントに神姫と呼ばれる武装した女の子を搭載して敵と戦います。神姫の武装は近距離・遠距離攻撃以外に旗艦の修復を行なえるものもあり、組み合わせによって敵への対応方法に幅が広がる設計になっています。戦闘は基本オートですが、神姫と旗艦はそれぞれエネルギーが貯まると個々の特殊攻撃が発動できるため、この発動タイミングもゲーム攻略に大きく作用してきます。
戦闘に連れて行ける神姫は6人までですが、旗艦に乗せられる人数は船の種類によって変わるため、乗艦しきれない神姫は予備となります。乗せかえは戦闘中いつでも可能なので、基本戦略としては体力が乏しくなってきた神姫を交代させたり、旗艦のダメージが深刻になってきたら回復役の神姫に交代するといった行動をめまぐるしくおこなっていくことになります。攻撃力・防御力などは神姫のカスタマイズが可能になっており、この点も既存のタワーディフェンスゲームと少し異なるのがポイントです。
ゲームは1章あたり15のストーリーにわかれており、さらに1つのストーリーは数ステージで構成されているため、ベータテスト版の時点でもかなりのボリュームがあります。各ステージの最後には中ボス、ストーリーの最後には巨大なボスとの対決が待っています。序盤ステージのプレイ時間はごく短く、ボスもそんなに強くないため30秒〜1分ほどで、チュートリアルがわりにサクサクと進めることができます。序盤以降は私もプレイできていないのでわかりませんが、プレーヤーが飽きないようなバランス調整がゲーム完成までに求められるでしょう。
本作は見た目「単なる美少女物」に写るかもしれませんが、ゲームはコアゲーマーでも本格的に楽しめるだけの内容を持っているのが最大の売りと言って良いでしょう。「美少女」+「ゲーム」の組み合わせは、前者が強調されすぎて後者が残念なケースになることが多いですが、この「艦隊神姫」は両方がバランスよく組み合わされており、現状のままでも完成度は高いなと感じさせるものでした。
ゲームはF2Pモデルです。台湾最大手のゲームメディア「バハムート」の掲示板を利用したコミュニティなども立ち上がっており、中文版の完成は近いように思えます。これは日本語環境でもぜひプレイしてみたい1作です。
・Click Chronicles (Buho)
一昨年立ち上がった台湾気鋭のインディゲームスタジオ、Bohoの新作「Click Chronicles」はいわゆる放置系ゲームとRPGのミックスです。
プレーヤーは4人で構成される勇者たちの装備やスキルを整え、冒険に出かけます。ゲームはストーリーを重視しており、歩いた距離によって様々なイベントが発生します。(会場では100キロ歩いたところで1つのイベントが発生)また、勇者たちは歩いた距離に応じて様々なインセンティブを得ることができるなど、プレーヤー側も飽きない仕掛けが随所に施されています。
ゲームのビジュアルは日本人を含めてアジア全般で受け入れられそうなもので、トレーラーで実際に動いているものを見ていただければ楽しそうな雰囲気も伝わってくるのではないかと思います。本作で関心した点としては、「Qubot」もそうでしたがUIまわりが洗練されていて、ゲーム全般がよく作り込まれているのがわかるところです。
UIまわりがいまひとつだったり、それに付随するボタンなどのデザインがゲーム全体の内容に比例していないことが多いのが台湾インディゲームの弱いところだと個人的には思っているのですが、このゲームではその辺の不足をあまり感じませんでした。開発にはゲーム業界歴の長い人が携わっているため、その経験が活きているのではないでしょうか。
「Click Chronicles」のリリース日は未定ですが、F2PモデルでiOSおよびAndroidで投入予定です。中文以外に英語化もされていましたので、他国語へのローカライズも期待できそうです。続報を楽しみにして待ちたいところです。
・PK School (LiRise Technology)
4本目は「PK School」(原題は「呆呆戰學校」)です。PK(Player Killer)なんていう物騒な名前とは裏腹のかわいいビジュアルが目につく本作は、台湾に実在する大学同士の戦いを題材にしたカードバトルゲームです。台湾にある全大学がゲームに登録されており、プレーヤーはいずれかの大学の卒業生として学内最強の同盟グループをつくりあげ、ライバル校を降して台湾ナンバーワン校の評判を得ることが目的です。
このゲームは要するに大学生同士が合コンだ、就職だ、といった場所で自然とにじみ出てくる要素(ランクとか、所属意識とか……)を、可愛いキャラクタで覆い隠して大いにバトルしてもらおう、というなかなか生々しい題材が内包されているといえます
ゲームの要となるバトル要素は近接・遠距離・防御の3枚のカードを組み合わせる、よくあるタイプなのですが相手が戦法を練っている間に挑発行為が可能なのがユニークなところで、作者いわく、これはSNSで使うスタンプのように台湾の学生さんが実際にSNSで使うようなものを多くモチーフにしているそうです。思わず笑ってしまうような挑発で相手の戦法をかき乱すという要素は、実際のところ有効かどうかはわかりませんが、面白い試みでした。
PK Schoolはゲームの内容として台湾以外のゲームファンに受け入れられにくいのですが、制作スタジオ側は、将来的に他国にローカライズをする場合は、ご当地の大学を入れたり、もしくはすべて架空の学校にしてアレンジするのもありかもしれないと言っていました。リリース後の反響が楽しみな1作です。
最後に紹介する「Monster Medic」は、欧米産ゲームに通じるビジュアルセンスを感じるマルチプレイ専用シューティングゲームです。このゲームが際立っているのは、iPad専用、オフライン2P協力プレイ専用というモバイル用ゲームの常識を徹底的に覆すゲームデザインにあります。真っ当な商売を考えると、絶対に作らないであろうデザイン思想にインディゲームの懐深さを感じます。
プレーヤーは巨大モンスターの病気を治療するため、モンスターの体内を移動できる2人乗りの船に乗って、病気の根源となるウイルスを直接退治していくのが目的です。プレイスタイルはリンク先にあるトレーラーを見てもらうのが手っ取り早いところなのですが、要するにiPadの上半分が船の操縦役、下半分がガンナーを担当します。強力な攻撃を繰り出せる特殊兵器は2人での操作が必須となります。
ゲームのベースは360度シューティングで、操作方法から見当がつくように、かなり忙しいゲームです。弾幕こそありませんが、ウイルスは弾幕並みに雨あられと襲ってきます。ガンナーの的確な射撃と敵をかわす操船テクニックが求められるのですが、これらの指示は顔をつきあわせているもう一人のプレーヤーと声をかけあいながら進めていくのが何とも楽しい。デザイン・ビジュアル共に水準以上ですし「これぞゲーム」と思える一時を体験できました。
作者はファミコン時代に2P対戦を楽しんだ頃を思い出して作ったそうで、現代のゲームで昔の楽しさを再現するため、オンラインマルチプレイやAIを組み合わせたシングルプレイなどは今のところ考えていないとのこと。この徹底ぷりは清々しさを感じます。まもなく配信を予定しているそうで価格は未定。リアル友達がすぐに確保できてiPadユーザーの人は、支援の意味も含めてぜひお買い求めください。
以上、とりあえず5タイトルのみ紹介しました。
正直な話を言うとオススメしたいタイトルはこの3倍はあるのですが、今回は特に印象に残っているもの取りあげてみました。コーラスでも台湾インディタイトルには注目しており、ぜひ今年のラインナップから加えていきたいと考えています。欧米だけでなく台湾ゲームにも強いコーラスとしてタイトルを開拓していきたいと思いますので、皆さんご支援をどうぞよろしくお願いいたします。ではまた次回。