(2016/3/18 00:00)
ユービーアイソフトのオンラインRPG「ディビジョン」が、3月10日に発売となった。
サードパーソンのアクションシューターとRPGを融合させ、さらにソロプレイとマルチプレイをシームレスでプレイできるといった斬新なゲームシステムを備えた本作。国内でも2度にわたるβテストが行なわれるなど、事前に多くのプレーヤーが触れる機会が設けられ、読者諸氏の中にもディビジョンエージェントとなって、荒廃したニューヨーク(以下、NY)の街を駆け回った人もいるのではないだろうか。
もちろん筆者もその1人で、待望の発売日からこの記事を執筆している現在もエージェントとして絶賛活動中だ。
弊誌ではこれまで「UBIDAY 2015」に出展された試遊版と、クローズドβテストのプレイレポートをお届けしていて、それに引き続いての本編レビューとなる。
ゲームの基本部分には大きな変更はないので、もし本作が気になっていてゲームをより深く知りたいという人は、そちらも併せてご一読いただければと思う。
とてつもなく広かった、オープンワールドのニューヨーク
原因不明のパンデミック後の荒廃したNYが舞台となる本作のフィールドは、マンハッタンのシンボルであるエンパイア・ステート・ビルを中心に、ゲーム内の距離にして約2km×3kmの範囲を自由に行き来できるオープンワールドとなっている。
建物の構造や街並みの見た目はもちろんのこと、地理も現実のNYの街を参考にしていて、Googleマップのストリートビューでゲーム中の同じ場所を検索して比較してみると、かなり忠実に作られていることが分かるはず。また縮尺も原寸に近いようで、試しにフィールド西側の南北に延びる9th Avenueを端から端まで約2kmをエージェントの全力で走ってみたところ、5分40秒かかることが確認できている。東西の両端はさらに距離があり、さらに建物内部や地下鉄、地下道など複雑に入り組んだ構造の屋内部分も存在しているため、全体としてかなり広く感じられるのではないだろうか。
そこら中に死体袋が転がり、暴徒が暴れ回る無法地帯と化してはいるが、自由に走り回れるオープンワールドゲームのフィールドとしては現実感にあふれ、戦いながらも観光的に見て回るにも非常に魅力的な舞台だと、個人的には感じられた。
RPGの王道のシステムが、アクションシューターに新たな面白みをもたらす
オープンワールドのアクションシューターというジャンルは珍しくないが、本作はゲームシステム全般にかなりRPG寄りの設計がほどこされている。
広大なNYのフィールドは複数のエリアに区切られていて、場所によって強さの異なる敵が現れる。プレーヤーは自律部隊「ディビジョン」のエージェントとなり、NYの秩序を取り戻すために活動するわけだが、マップ画面に表示される推奨レベルを無視してどんどん先のエリアに進めばあっさりとやられてしまうはず。
こちらの弾はほとんどダメージを与えられず、敵の弾が1発当たればHPのほとんどを奪っていくので、プレーヤーの腕でどうにかなるものではないのだ。
そこで自身の周囲に点在するさまざまなミッションをこなしたり、ランダムで遭遇する敵と戦ったりすることで経験値を得てエージェントのレベルを上げ、倒した敵から得たクレジットで武器や装備を調えていくことで、新たなエリアへと足を踏み入れられるようになるわけだ。
そして各エリアにあるストーリーに関連するメインミッションでは、最後に強力なボスが登場し、彼らを倒すことで大きな報酬やドロップした貴重な装備を得られる、という展開も王道のRPGを踏襲している。
もちろんアクションシューターとしての手触りも上々で、遮蔽物を使った緻密なカバーアクションや自らの装備しているスキル、そして攻撃時はヘッドショットを意識することで、戦略性の高い戦闘を行うことが可能だ。
またシューターとしての腕だけで押し切ることができない程度に敵の頭がいいということも特筆しておきたい。こちらに向けて単純に銃撃してくるだけでなく、当然ながら向こうもカバーアクションを行なってくるし、スナイパーやタンク、ラッシャーなど、11種類のアーキタイプが存在し、それぞれの役割をもってエージェントに対してガチ気味の攻撃をしかけてくる。これもやはりエージェントの成長や、マルチプレイによるCo-opによって対抗する必要があるということだ。
なおオープンワールドという性質上、エージェントのレベルがある程度上がると、それに合わせて敵の最低レベル底上げされていくので、NYのどこを歩いていても常にある程度の緊張感を保っていることも付け加えておこう。
ミッションをどう進行するかの選択肢が、エージェントのタイプを変える
エージェントがこのNYで行う活動は、マップ上で確認できる「メインミッション」、「サイドミッション」、「エンカウント」の3つのミッションが主となっている。単純にその場所にいる敵を倒すだけでなく、建造物のウィルス汚染の調査や人質の救助、フィールドに残された「ECHO(エコー)」というシステムをたどり、その場所で何が起きたのかを調べるなど、活動の内容は多彩だ。
そのうちメインミッションとエンカウントは、クリアすることでエージェントの拠点となる作戦基地(中央郵便局)内の3つの「棟」をアップグレードできる「資材」を入手でき、エージェントはそれにあわせて「スキル」、「タレント」、「PERK」のアビリティを身に付けられるようになっている。
スキルはファンタジーRPGにおける魔法的な存在であり、ボタンにアサインして任意のタイミングで使用することでエージェントに対して有利な効果をもたらしてくれるもので、タレントやPERKは装備あるいは取得することで効果がある特殊能力だ。
効果の内容は大まかに「自身や仲間の回復や治療」、「敵への攻撃」、「敵の攻撃に対する防御」に分けられていて、それぞれは作戦基地の「医療棟」、「技術棟」、「防衛棟」のアップグレードの度合に依存している。
腕に覚えがあるあるならば、何より先に技術棟をアップグレードして攻撃力を高めるのもいいし、筆者のように腕にあまり自信のない慎重派なら、医療棟や防衛棟を優先的にアップグレードしてもいい。これらのアビリティは1度習得してしまえばいつでも装備変更が可能なので、ミッションの内容やCo-op時のロールによってリアルタイムに変更していくことも戦術として重要となる。
各棟のアップグレード用資材は、ミッションによって入手できる種類が決まっていて、最終的には全棟とも100%までアップグレードできることになるが、ゲームを進めていく過程である程度の選択肢があるのは、オープンワールドゲームのシステムにもマッチしている。
それとこれは演出的な話になるが、棟をアップグレードしていくことで、ゲーム序盤では廃墟同然だった作戦基地が少しずつ機能していき、基地内に子供を含めた一般人の姿が見られるようになっていく。街が秩序を取り戻していく風景を見られるのが、個人的に嬉しくなるところだった。
そのほか、エージェントのカスタマイズは装備品によっても行なえようになっている。こちらもかなり充実していて、全て説明するとかなり長くなってしまうので、簡単に触れておこう。
プレーヤーのステータスには、攻撃力を表す「メインDPS」、体力を表す「HP」、スキルの効果に影響する「スキルパワー」があり、それぞれは武器や装備品によって変わる「銃器」、「スタミナ」、「電子機器」の数値に依存している。どの数値が上がるかは装備品個別で異なり、さらに防御力を表す「ARM(アーマー)」の数値も異なるため、こちらもプレーヤーのプレイスタイルなどで選ぶことになるかと思う。
全ての数値がまんべんなく高い装備品は基本的に貴重なものなので、それを探すトレジャーハント的な楽しみも備わっているというわけだ。
恐ろしくも、抜け出せなくなるほど面白い空間「ダークゾーン」
本作の独自のゲーム性を特徴づけているのが、マンハッタンの中心部にある高い壁に囲われた「ダークゾーン」(以下、DZ)だ。パンデミック発生後、統治していた軍隊に見放された高濃度汚染地域で、無数の暴徒がうごめいている一方で、軍隊が放置していった貴重なアイテム群が隠されているため、それを求めるオンラインのエージェントたちが駆け回っている。
DZの基本ルールはβテストのときと変わらなかったので、そちらについての説明は該当記事を読んでいただくとして、ここでは製品版発売直後のDZが一体どんな様子だったのかをお伝えしていきたい。
DZ内も外のフィールドと同様に、敵の強さが異なる6つのエリアで区切られていて、そこを遮るものはない。入る場所によってはいきなり強敵が現れる場所に行くことも可能だが、よほど強くなっていないかぎり返り討ちに遭うことは間違いない。
そもそもDZに現われる敵は、同じレベルでも壁の外の彼らとは比べものにならないほど強く、高いHPを持っていて、さらにかなりしぶとく追跡してくるので、それと対等に戦えるレベル(DZ内の敵の最低レベルは10)に達していない限り近寄らないのが賢明だ。
敵はβテストのときよりも頻繁に現われるようになっていて、前方の敵と戦っていたらいつの間にか背後を敵に塞がれていたり、DZの拠点となる「隠れ家」から出るといきなり出くわしたりすることなどということも少なくなかった。
またアイテムの回収地点でヘリを呼び出すと、それを狙うように敵集団がヘリポート周辺に現われるため、状況によっては回収がかなり困難となった。
筆者もβテストのときは、いつ撃ってくるか分からないローグエージェント(同じエージェントに攻撃をしかけてアイテムを盗む裏切り者エージェント=相手プレーヤー)の存在ばかり気にかけていたが、製品版では回収前に敵に倒されてしまうことが圧倒的に多かったということもお知らせしておく。
逆に彼らをわざと出現させるためにヘリを呼んでから待ち伏せ、返り討ちにしてさらにアイテムを入手するという錬金術的な戦い方も成立していて、回収地点周辺での攻防はよりカオスな駆け引きが繰り広げられるようになっていた。
ゲームにある程度慣れて、さらにDZで戦い方やマップの形状などがわかってくると、このカオスな駆け引きも相応に楽しめるようになってくるはず。
無限に湧いて出る強敵やローグエージェントは、プレーヤーの腕を磨く絶好の訓練相手であり、さらにお宝まで手に入るおまけ付きだ。感覚としてはRPGのダンジョンをお宝求めてひたすら潜っているようで、ツボにはまるとDZから出てこられなくなる(出たくなくなる)中毒性があり、ストーリー進行がおろそかになる可能性もあるので、これからプレイするという人はご注意いただきたい。
シューター初心者の人にも薦められ、中毒性も高いゲームシステム
オープンワールドのゲームではあるものの、アクションシューターというシステムが主体となっているため、いわゆる「なんでもできる」仕様ではないため、ゲームが少々単調だと感じた人も中にはいたようだ。
その一方で、シューターとしての手触りの良さと、エージェントの育生やトレジャーハントといったRPGとしての側面がツボにはまると、筆者のように延々プレイし続けてしまうような中毒性のある作品でもあった。止め時が見つからないオープンワールドゲーム特有のゲーム性も、それを後押ししている印象だ。
個人的に気に入ったのは、エリアにあるセーフハウスやダークゾーンで、ほのかなオンラインの気配を感じられていた点だ。同じサーバーで遊んでいるエージェントたちの姿を見られることでプレイ相手がいることを認識でき、気まぐれに彼らと一緒にプレイを楽しんで、好きなときに離脱できる手軽さは、普段あまりオンラインプレイに積極的ではない筆者のようなプレーヤーにも向いている仕様だった。
またアクションシューターに慣れない人でも、RPG要素によるバックアップがあり、じっくり挑むことで自然と腕が上がっていくゲームデザインなので、本作を機会にぜひこのジャンルにチャレンジしてみてもらえればと思う。