「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」レビュー

アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝

最高の作品の忘れがたいフィナーレに、お別れと祝福の花束を

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメント
開発元:
  • Naughty Dog
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
7,900円(税別)
発売日:
2016年5月10日

 この10年という1世代、Decadeを代表するゲームとは何か? いくつかのタイトルが並ぶなか、その中に間違いなく存在し、その頂点に置かれても不思議ではないのが「アンチャーテッド」シリーズだ。

 約9年前のプレイステーション 3ローンチに合わせ、過去に「クラッシュ・バンディクー」シリーズや「ジャック×ダクスター」シリーズを手がけてきた開発スタジオ「Naughty Dog」が、それまでのコミカル路線とは異なるアクションアドベンチャーゲームを制作した。それが「アンチャーテッド」だった。

 日本では、発売当初PS3の人気が低迷していたこともあり、静かな産声となっていたように記憶している。だが、触れた者はみな「アンチャーテッドは遊んだ方がいい」と口にした。それは確かに伝説のはじまりだったし、その後にナンバリングシリーズが発表されるごとに「アンチャーテッド」を包むシーンは確実に熱を帯びていった。

 Naughty Dogは高まる期待に見事に応え続け、本作はついにナンバリング4作目となった。最終作だ。主人公ネイサン・ドレイクことネイトの最後の物語。私はそれを見届け終わったので、レビューという形でお伝えしていこう。いかに最高だったのか、を。

ネイト最後の冒険……全ての表現がワンランク上のものになり、シリーズ史上最高の没頭感を生んでいる

 幾多の冒険を越え、ついに、ささやかだが、かけがえのない宝物を手に入れたネイト。だが、兄であるサムとの再会により、再び冒険へ……最後の冒険へと旅立っていく。

 本作の原題は「Uncharted 4: A Thief's End」。

 盗賊の最期。

 まずは軽いおさらいから。アンチャーテッドは、ネイトの愛称で呼ばれるトレジャーハンター、ネイサン・ドレイクを操作し、未知の財宝を巡る冒険の物語を楽しんでいくアクションアドベンチャーゲームだ。

 基本的なテイストとして、現地近くの町や村落で準備を整え、未開の地の大自然、そこにひっそりと眠る遺跡を目指すのが、シリーズを通してのお約束。映画だと「インディージョーンズ」や「ナショナルトレジャー」あたりの冒険トレジャーハンティングものに近い。

 もちろん、同じ財宝を狙うライバルたちがいて、彼らとの激しい戦い、銃撃戦が待っている。その中には、仲間との助け合い、救出劇があり、そしてプレーヤーを圧倒するほどの大ピンチがネイトを襲っていく。

 ネイトの口癖は日本語吹き替えだと「ヤベヤベヤベ!」なのだが、プレーヤーもシンクロしてそう口走ってしまう(「おい、マジかよ!」もそうだ)。

ネイサン・ドレイク(ネイト)CV:東地宏樹。エレナと結婚しトレジャーハンターを引退。幸せな生活を送っていたが、突如現われた兄サムにより最後の冒険へと旅立つ
サミュエル・ドレイク(サム)CV:井上和彦。ある日突然ネイトの前に現われ、海賊王エイブリ―が残した秘宝を巡る冒険に誘う
ビクター・サリバン(サリー)CV:千葉繁。ネイトのよきパートナーであり師匠でもある。今回のネイトの復帰には反対していたが、彼の無茶を放っておくことはできず、冒険を共にする
エレナ・フィッシャー(サリー)CV:永島由子。元々は人気ミステリー番組「アンチャーテッド」のレポーターとして活躍するジャーナリスト。ネイトと出会い数多くの命がけの冒険を共に潜り抜ける

 今作「アンチャーテッド4」においても、上のおさらいにあるような基本的な魅力は変わらない。……変わらないのだが、その表現、特にグラフィックスは、PS4へとハードウェアの世代が上がったことで圧倒的に高まった。

 そしてそれが、「アンチャーテッド」の変わらぬ魅力を1次元高いところへと押し上げている。

 冒険の舞台はいずれも、広く、高く、激しい。雄大な景色とそこに漂う空気感の表現には圧倒されるものがあり、ときには美しい絵画のようであり、ときには実写との融合のように思えるシーンがある。そして、そこに展開される人間ドラマこそが最大の魅力だ。

 これまでのシリーズ以上にプレーヤーを夢中にさせる、いわゆる“没頭感”が強い。シリーズ作以上にネイトの動きが生々しいからだろうか、世界が色鮮やかでディテール豊かに描かれているからだろうか。世界の大きなスケール感がなせる業だろうか。

 今作は、思わず笑ってしまうようなぶっ飛んだ激しい展開は少々鳴りを潜めたように思えるものの(とは言っても、もちろんすごいシーン連発ではあるのだが)、その分リアルさが増していて、思わずゾッとするような場面が増えたという印象だ。そうした場面をギリギリで切り抜けたときの「今のはヤバかった!」というネイトのセリフが、プレーヤーの心の声とシンクロする。

 朽ちて崩れてしまっている遺跡を辿っていくため、ネイトは壁の溝などを掴んでぐいぐいよじ登っていく。登り、飛び、しがみつく。シリーズの醍醐味とも言えるクライミングアクションだ。今作ではそこに、ロープを投げて引っ掛け、それを使って足場を飛び移る「グラップリングフック」が加わった。

 よじ登り、飛び移り、足場が崩れて滑り落ち、「ヤベヤベヤベ!」の声が響くなか、フックをかけてギリギリセーフ! フックによってクライミングアクションにダイナミックな動きが増え、スピード感も出た。また、ものすごい高所をフック1本で宙づりになるようなシーンは、その場所の危険さを印象的に見せてくれる。

 敵との戦闘でもフックは役立つ。フックを使って空中から飛びかかり一撃ノックアウト! 戦闘は正面から銃で撃ち合ってもいいし、物陰に隠れて背後からステルスキルを狙ってもいいが、フックを活用して飛び回るようなスピード勝負もできる。戦い方の幅が広がっていて、どんな戦法を取るかはプレーヤー次第だ。

 「アンチャーテッド」と言えば、“次に飛び移る場所がよくわからなくて、ハズレのところに飛んで落下死する”というのが筆者の“あるある”なのだが、今作でもそれはたまにあったものの、非常に少なかった。シリーズ作以上に緻密で、自然で、広がりのある地形なのにも関わらず、だ。

 よく観察してみると、同じような光景の中でも“次に行くべき方向”には何かしらのサインが、それこそ無意識下に働きかけるかのごとく自然に置かれていた。例えばそれは、周囲のものよりわずかに色が濃かったり、ちょっとした汚れの表現の多さや少なさであったり、ときにはネズミが走り抜けていった方向にカメラを向ければそっちが正解であったり。

 そうしたプレーヤー心理……というよりも、もはや人間の反応を見越したかのような密やかなガイド。非常に上手い作りになっていて、シリーズ中でも今作はかなりスムーズにプレイできる。そうした“あからさまでない、さりげない誘導”ができるようになったのも、表現力がより豊かになったおかげだろう。

 筆者を含む多くの日本人にとって最も幸運だったのは、“「アンチャーテッド」シリーズの日本語吹き替えが素晴らしい”ということだ。日本にも多くのファンを生んだのは、そこが大きかっただろう。その良さは、もちろん今作でも健在だ。

 ネイトとサリーの皮肉混じりのやりとり、いざという時のナチュラル&ラフな喋り、ぼろぼろになったネイトの弱音、エレナとの感情表現が裏にかいま見える掛け合い。今作ではネイト1人だけという場面が少なく、サリーやサムらと3人で行動する場面が多い。冒険中のちょっとした会話がたっぷり楽しめる。

 今作をプレイして最も驚かされたのは“エレナ”だ。

 ネイトの良きパートナーとなった彼女との、会話中の眼の動きや、表情の豊かさ、自然さ。それらは、これまで見たどんなゲームのキャラクターよりも、圧倒的なリアルさがある。それは写実的とかいった外見の話ではなく、心の内が常に表情から伝わってくるかのような、人間味を持っているという意味で、だ。

 特に眼の動きの細かさには恐ろしさを感じるほどであり、喋った後に眼を逸らす、うつむく、頬の動きと合わせて喜ぶ、細める。ネイトやサリーとは違って、エレナは女性らしい気遣いや勘の鋭さ、そして何よりもネイトを想っているという表現が必要になる難しいスタンスだ。それだけに彼女の感情表現には特別なこだわりがあったのかもしれない。

 そして、その作り込みは見事に成功していて、“表情と眼だけで彼女の心の内が伝わってくる”かのよう。

 もちろん他のキャラクターの人間味溢れる自然さも凄まじい。サムやサリーもとにかく表情に味があり、たまらないものがある。彼らほど、フェイシャルでの感情表現豊かに、人間味や内面までも外見から伝わってくるゲームキャラクターというのはいないかもしれない。

 そこまで作り込まれたキャラクターたちが、ときにシリアスに、ときにジョーク混じりに、魅力溢れるドラマを魅せてくれる。たっぷり感情移入してしまうのはもはや当然の結果で、プレイ中の没入感の高さ、ネイトとの一体感の高さの理由には“彼らを実在する人物のように親しく感じてしまう”というところもあるのかもしれない。

 シリーズ作をプレイしてきた人なら、彼らに既に親近感を持っているはず。特に人気の高いサリーとの再会には、会いたくて仕方がなかった友人に再会できたような気持ちになれるはずだ。

オンラインマルチプレイはフックの存在でスピーディーに、秘宝やサイドキックによってタクティカルに

 ストーリーをたっぷりと楽しんだ先には、オンラインマルチプレイが待っている。ネイトやサリーたちをはじめ、シリーズのあのキャラクターもこのキャラクターも使用可能で、5 vs 5のチーム戦を戦うTPS対戦ゲーム。ゲームルールには、シンプルな「チームデスマッチ」、ゾーンを奪い合う「拠点制圧」、宝の像を自陣まで運ぶ「宝探し」がある。

 かつての「アンチャーテッド」のマルチプレイには、正直なところおまけ感というか、好きな人なら……という気持ちがあったのだが、シリーズと「The Last of Us」のマルチプレイを重ね、本作ではかなり洗練されて独自の面白さがあるものに仕上がっていると思える。

 ストーリー本編同様にロープ移動のできる「グラップリングフック」が、対戦中のスピード感を速めていて気持ちいいし、「秘宝」という特殊な効果を持つアイテムによって戦況に変化も起きるようになった。

 敵を倒したり、落ちている財宝から得たドルで秘宝などのアイテムを対戦中に購入し使うのだが、そのドルを何に使うのかが対戦の鍵を握る。

 秘宝には敵の動きを鈍らせる「インドラの呪縛」、仲間を蘇生する「チンターマニ石」、敵の位置がレーダーに表示される「タパク・ヤウリの杖」、テレポート移動が可能になる「ジンの精霊」、亡霊が敵をホーミングして襲う「エル・ドラドの怒り」があり、いずれも使い方次第で強力な効果を発揮する。

 秘宝よりもダイレクトで強力だと感じたのが「サイドキック」というもの。CPU操作のいわば傭兵を雇うのだが、敵からすれば厄介な強敵が1人増えたようなものであり、単純な戦力アップにもなるし、囮にしてもいい。

 秘宝を選ぶか、サイドキックを選ぶか、はたまた……。ゲーム性が豊かになり、より楽しめるオンラインマルチプレイとなっている。

 対戦で得た報酬で、キャラクターをアンロックしたり、キャラクターの見た目を自分好みにカスタマイズ。かっこいいもの、かわいいもの、ユニークなものなど、たくさんの種類がある。

全てを満たして、伝説となったシリーズが去っていく。最高潮のまま迎える最高のフィナーレ

 本当に良く出来ているゲームというのは、その体験があまりに滑らかで、するすると、引っかかりもなく楽しめてしまう。よどみなく夢中でプレイできるから、気がつくとすごい時間が経っている。「具体的にどこが素晴らしかったのか?」と聞かれると、意外と思い当たらず、どこということもなく「全て」と答えるしかなくなる。

 「アンチャーテッド4」は簡単に言うと、そういうゲームだった。

 どんなゲームだって完璧ではない……というより、“完璧”という言葉そのものが曖昧で不確かだし、それは“絶対”という言葉の不安定さに似ている。

 だが、本作には「ここが気になった」というところが見つからない。満足感しか存在しない。もちろんそれは人によるだろうが、筆者にとってはそういう感想でしかなく、これ以上のものは望めないと頭と心が理解しているし、これ以上のものというのがどういうものなのか、自分のつたない想像力では思い浮かばない。2016年における最高峰であり、そしてプレイを終えたときに最高の気持ちだったということだけが、確かなものだ。

 ダイナミックな展開に「うわ、すごすぎ……!」とか、「今のはやばかった!!」とか、つぶやきながら夢中でプレイし続け、ネイトの葛藤、エレナのにじみ出るような想い、サリーとのジョーク混じりの魅惑的な会話、ネイトとは異なるサムの魅力。ドラマを楽しみ、ストーリーの意外性にも驚かされっぱなしだった。

 そうして終盤の気配が近寄ってくると、「このゲームを終わらせたくない、終わってほしくない」という気持ちが湧いてきた。この世界観を好きになりすぎた。気に入りすぎた。レビュアーとして失格かもしれないが、好きすぎて文句なんか何も出てきやしない。でも、本稿は“そうさせるほどのものが、ここにはあるんだ!”ということを伝えるレビューでもある。

 世界には、出会うと人生がより豊かになる、面白いもの、素晴らしいものがあって、ゲーム分野において「アンチャーテッド4」は間違いなくそのひとつだ。

 シリーズ作をプレイしてきたという人には、もともとこのレビューの長ったらしい文章はおろか、些細な言葉すらもそんなにいらないだろう?「最高の気持ちを味わえるから、プレイした方がいい」。

 シリーズ未体験という人は……できれば、「アンチャーテッドコレクション」等で、シリーズ作をプレイしてからの方がいい。そのひとつひとつが最高だし、それを積み重ねた先に味わう最後の物語は……最高のもうひとつ上だ。

 おおげさ過ぎるけど、最後にこう書いてしまおう(書きたいから!)

 「ゲームが好きなのにアンチャーテッドをプレイしないなんて、人生の半分ぐらい損している」

 ネイサン・ドレイクは伝説だ。

 伝説が最高の姿を見せたままに去っていく。

 あまりに素晴らしく、あまりに面白く。そして、あまりに寂しい。

 最高に魅力的なキャラクター達の、味わい深い、最高のフィナーレ。

 ありがとう、忘れない。

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(山村智美)