「イースVIII -Lacrimosa of DANA-」レビュー

イースVIII -Lacrimosa of DANA-(通常版)

今度の舞台は古代種が跋扈する“失われた世界”! 正統進化したシステムで神秘に満ちた冒険を描く、定番アクションRPGシリーズ完全新作

ジャンル:
  • アクションRPG
発売元:
  • 日本ファルコム
開発元:
  • 日本ファルコム
プラットフォーム:
  • PlayStation Vita
価格:
7,344円(税込)
(通常版)
6,200円(税込)
(ダウンロード版)
9,504円(税込)
(限定版)
発売日:
2016年7月21日

 パソコンゲーム黎明期より続く日本ファルコムのアクションRPG“イース”シリーズ。その完全新作である「イースVIII -Lacrimosa of DANA-(ラクリモサ・オブ・ダーナ)」のPlayStation Vita版が7月21日に発売された。2014年の開発発表当時はプレイステーション 4参入タイトルとして告知されていた作品だが、発売はPS Vita版が先行することとなり、PS4版の発売は2017年に予定されている。

 長いシリーズの歴史の中でゲームシステムも“半キャラずらし”が有名な2Dトップビューから斜め俯瞰視点、フル3Dへと変遷してきている作品だが、シリーズの大きな転換点として2009年にPSPでリリースされた「Ys SEVEN」よりパーティバトルを採用。2012年にPS Vitaでリリースされた「イース セルセタの樹海」および本作「イースVIII -Lacrimosa of DANA-」もこのシステムを踏襲している。

 そこで本稿ではこれら近作からの変更点なども交えつつ、巨大生物“古代種”が跋扈する無人島という新たな舞台ならではの冒険を紹介していきたい。

今回アドルが流れ着くのは無人島。漂流者を集め、村の発展と探索を進めていく

浜辺へ流れ着くアドル・クリスティン。シリーズファンにはお馴染みの光景だ
ヒロインとの出会いはラッキースケベから!? 違った意味でも「イース」新時代を感じさせる

 本作の舞台となるのは、近海を通る船が謎の沈没を遂げると噂される無人島“セイレン島”。主人公の冒険家“アドル・クリスティン”は次の目的地へ向かう旅客船“ロンバルディア号”に乗り込んだが、突然船を襲った巨大海洋生物により船が沈没してしまい、アドルはセイレン島の浜辺で目を覚ます。ロンバルディア号の乗客の1人であり同じく島へ漂着した貴族の少女“ラクシャ”と出会い、ロンバルディア号の船長や相棒の“ドギ”とも合流したアドルは、他にも漂着しているかもしれない乗客乗員と、島から脱出する手立てを見つけるため探索に乗り出すのだった……。

 というわけで、もはやシリーズの定番とも言える“アドル、浜辺へ漂着す”からの冒険スタートだが、今回の舞台は無人島。漂流者を発見し、冒険の拠点となる“漂流村”に連れていくことでそれぞれの人物の職能を活かした施設などが増えていくという、サバイバル生活もゲームの楽しみのひとつとなっている。当然お金によるアイテム購入の概念もなく、装備品やアイテムは宝箱からの入手以外だと、素材からのクラフトや物々交換が基本となるのもユニークだ。

 漂流村の発展は、探索にも大きく関わってくる。ツタをよじ登れるようになるグローブ、暗闇を照らせるようになる石など、さまざまなアイテムを入手することで行ける範囲が広がっていくのが本作のような探索型アクションゲームの醍醐味だが、本作では加えて、巨大な倒木や土砂などを、人手を集めて撤去することで先に進めるようになるという要素が目新しい。撤去に必要な人数が表示されるため、「あと何人集めればこの先を開拓できる……!」と、漂流者探しが冒険を進める上でのモチベーションにも繋がるという仕掛けだ。

フィールドを探索して無人島を開拓していく。日本ファルコムの最近の作品に搭載されている“アクティブボイス”が本作にも搭載。状況に応じた会話がボイスと画面右上へのポップアップで展開し、パーティでの冒険を盛り上げる
漂流者を集めることで拠点となる村が発展。更地だった村に施設が充実していく
無人島なのでお金の概念はない。装備品は漂流者の手を借りて素材から作成していく
人が増えることでどんどん道が拓け、行動範囲が広がっていく

冒険家とは、地図を埋める者のことである!「セルセタの樹海」で導入された地図作成システムがさらに進化

「セルセタの樹海」で導入された地図埋めシステムはさらに楽しく、使いやすく

 こうしてセイレン島を探索することになったアドル達だが、これをゲームシステムの面で演出するのが地図作成の要素だ。前作「セルセタの樹海」でも導入されていたシステムで、最初は白紙の地図が、アドル達が踏破することで地形や素材の採取ポイントなどが描き込まれ、完成度が上がっていく。

 完成度に応じて報酬が得られる点なども踏襲されているが、本作ではさらにリファインされ、より使いやすく、地図埋めが楽しいシステムに仕上がっている。具体的にはまず、島全体を見渡す広域地図と、エリア分けされた各エリアの地図を切り替えることが可能になった。さらに、各エリアごとにも地図完成率が表示され、発見した採取ポイントと取得できた宝箱の数も総数と併せて表示される。加えて、前述の倒木や土砂といった障害物も×印でマーキングされる。

 このため、今はまだ行けない場所、取れない宝箱なども、地図を頼りに容易に確認可能。地図を眺めながら、「この先へ行けるようにするにはどうすれば……」と想像するワクワク感にも繋がっている。ちなみに「セルセタの樹海」では、広い樹海のどこで地図の埋め残しがあるのか探すのに苦労する場合があったが、本作ではエリア分けによりその点が解消されているのもありがたい。地図上から各地のチェックポイントを選択して移動することもでき、探索アクションゲームの面白い所だけに集中できるストレスフリーな作りが好印象だ。

島の各地に点在するロケーションポイント。サバイバル生活に癒やしをもたらしてくれる

 また地図には、セイレン島の各地に点在する面白い地形や絶景が“ロケーションポイント”として記録され、こうしたポイントを見つけるのも探索の醍醐味となっている。希少な素材を豊富に採取できることもあるため、積極的に探していきたいポイントだ。

セイレン島は絶滅したはずの古代種が跋扈する“失われた世界”。スリルに満ちた冒険が展開する

 セイレン島の探索を続けるアドル達は、これまでのアドルの冒険で出会った魔物とも異なる、爬虫類や鳥類、魚などの姿をした巨大な生物に遭遇する。ある生い立ちにより古代生物の知識が豊富なラクシャによると、これは絶滅したはずの古代種と呼ばれる存在。(作中では明言されないが)いわゆる恐竜、翼竜、魚竜の類である。それがなぜ今、セイレン島に出没するのか……。コナン・ドイルの古典小説「失われた世界」を彷彿とさせる設定で、この謎に迫っていくのも本作の物語のテーマとなっている。

 こうした古代種の圧倒的な存在感が、バトルでも示されるのが面白い。アドル達の武器では古代種を倒すことはできず、その対抗手段を探すのも冒険の目的となる。霧の中から突如現われる、ティラノサウルスのような古代種に追い掛けられるような場面もあり、ドスンドスンという足音とともに画面が揺れる演出などはスリル満点だ。ちなみに「ちょっとだけ戦ってみよう」などと試してみるのはお勧めしない。一瞬で最大HP以上のダメージを受け、全滅の危機に陥るのがオチだからだ(筆者の経験談である)。

アドル達が最初に遭遇する古代種。アドル達の武器で倒し切ることはできず、漂流村にとっての天敵となる
フィールド移動中、霧の中から突然現われた古代種に追い掛けられる。リアルに怖い

スキルをバンバン使いまくれる爽快感のあるパーティバトル。ジャンプアクションも復活!

SPの最大値が100以上に増えるようになったほか、SPが溜まりやすくもなった印象。スキルをどんどん連発可能だ
4つのスキルを◯×△□ボタンそれぞれに割り当てられる。スキルは攻撃範囲や威力のほか、敵を行動不能にさせるスタンの起こしやすさにも違いがある。さらに本作の新要素として特効属性での攻撃を重ねることで敵の防御を崩すブレイクがあり、これを狙いやすいスキルも

 前述の通り、本作のバトルは過去2作を踏襲したパーティバトル。キャラクターによって斬撃、打撃、射撃という攻撃属性があり、前線メンバーを3人選んでパーティを組んで戦う。操作キャラクターは瞬時に切り替えることが可能で、操作していない2人は自動で戦ってくれる。

 攻撃により“SP”が溜まり、これを消費することであらかじめ4つまでセットしたスキルをRボタンと◯×△□ボタンの組み合わせで発動できるのも従来通りだが、プレイした印象としては従来よりSPが溜まりやすく、加えてアイテムによりSPの最大値を増やすことも可能となっており、スキルを連発しながら戦う爽快なバトルを楽しめる。

 また、ゲームを進めると漂流村を襲ってくる獣などから村を守る“迎撃戦”が発生。連続で次々と現われる敵集団を倒していく熾烈なバトルだが、戦況に応じてHPとSPが自動回復するという要素があり、敵の大群vs高火力という総力戦を存分に味わえる。

 そのほかアクション関係の要素としては、「イースVI~ナピシュテムの匣~」など一世代前のシステムにはあったが、「Ys SEVEN」以降なくなっていたジャンプが復活。未開の島らしいダイナミックな地形をジャンプを駆使して探索していく楽しみが用意されているほか、バトルにおいても飛び上がって敵の弱点を突いたり、落下しながらの下突きなど凝ったアクションを楽しめる。

 戦闘では状態異常もポイント。RPGの状態異常というと、たとえば毒なら「放ってけば直る」などと軽視されがちだが、本作の毒は効果時間が非常に長く、放っておくのは致命的。他の状態異常も危険度は高く軽視できない。その代わり、状態異常攻撃を受けてもいきなり状態異常が発症するのではなく、攻撃が蓄積してゲージがフルになることで初めて発症。ゲージが溜まりきる前に予防的に治療することもできるという、サバイバルらしい雰囲気のある作りとなっている。もちろん逆に、敵に対して状態異常を有効活用するのもアリだ。

迎撃戦は厳しい戦いだが、どんどん敵を倒して素材を入手できる機会でもある。バリケードなどの設備を整えて戦闘を有利に運んだり、漂流村の住人がさまざまなサポートスキルで支援してくれる要素も
ジャンプアクションが復活。ダイナミックな地形を踏破していくのが楽しい

アドルが夢に見る神秘的な少女。“二人の主人公”が紡ぐ物語

 探索を進めるうちに、アドルは見知らぬ少女“ダーナ”が現われる夢をたびたび見ることになる。最初はセピア調の回想シーンのような形で描かれる夢だが、あるときからそれはより実感を伴ったものへと変わる。ゲームシステム的に言えば、実際にダーナを操作するパートが発生する。

 アドル達とは異なる文明を持つように見えるダーナの世界だが、なぜかそこでのダーナの行動によりアドル達の道が拓けたり、ダーナの側もアドルのことを認識していたりと、その関係は謎に包まれている。その神秘的な出で立ちと、お転婆ながら心優しい人物像も魅力的で、彼女は何者なのか、アドル達の冒険とどう関わってくるのか、気になってしまうこと請け合いだ。“もう一人の主人公”とも言える彼女とアドル、それぞれの世界がある意味で集束する場面は、本作、あるいはシリーズ全体でも屈指の美しさと感動を誇る名シーンであると感じた。

アドルはダーナの成長の軌跡を夢に垣間見、やがてそれは実在感を伴うものとなる

ゲーム後半で一気に広がりを見せる、謎と神秘に満ちた世界。「これぞイース」と心から感じられる大作

 長年にわたり、リメイクも含め多くの作品がリリースされている「イース」シリーズ。システム等も時代に応じて移り変わっており、「何をもって『イース』らしさとするか」は人それぞれだと思うが、筆者としてはまず「フィールドを開拓し行動範囲を広げていく探索アクションゲームとしての楽しさと、神話や伝承といった謎と神秘を紐解いていくワクワク感の融合」を挙げたい。

 その点「イースVIII -Lacrimosa of DANA-」は、無人島開拓の楽しさは抜群だが、何しろ無人島なもので神秘という面はやや薄いかな? と思っていた……が、いやはやとんでもない。ある一点を境に、思わず息を呑むような光景と共に作品世界は大きな広がりを見せ、「これぞアドル・クリスティンの冒険だ!」と喝采したくなる謎と神秘に満ちた展開が待ち受けている。ネタバレになるため詳細は伏せるが、“進化”がキーワードとなるスケールの大きい物語も見どころだ。

拠点でポーション類を作成できる数が瓶の数で制限されるという要素は面白いのだが、このほかに回復効果を持つ果実や料理を豊富に採取・作成できるので、ある程度ゴリ押しが効いてしまう。より歯応えを求めるなら、ボス戦ではポーション類のみの使用に限るといった縛りプレイがお勧め

 一方、「イース」シリーズのもう1つの柱と言えるバトル面、特にボス戦に関しては、戦いながら敵の攻撃パターンや倒し方を見切る面白さや、古代種というテーマ性、熱いBGMなどは申し分ない。ただ、「セルセタの樹海」に続き本作も回復アイテムを豊富に持つことができ、いざとなればゴリ押しもできてしまう点は、間口を広げるという意味では良さを感じつつも「『イース』はもう少しストイックでいて欲しいな」という気持ちもある。

 これも時代の流れなのだろうと思いつつ、より歯応えを求めるなら難易度設定の変更や、自主的な回復アイテム使用回数縛りなどをお勧めしたい。また、ゲームクリア後にはレベルや使用アイテムなどが固定のボス戦タイムアタックも可能となるので、こちらを極めるのもよいだろう。

 とはいえそんなことは全体の中では些細なこと。従来よりさらにボリュームアップし、アクションRPGとしては大長編と言える規模になった「イースVIII -Lacrimosa of DANA-」だが、その世界観とアクション、ストーリーに魅せられ、最後まで熱中してプレイできた。出自も考え方も違う登場人物達が共に困難を乗り越え、互いを知ることで絆を深めていくドラマも胸を打つ。

個性的な登場人物達の織りなすドラマも見どころ

 ただそれだけに、かえすがえすもPS4版の発売が来年となったことがもどかしい。同じPlayStation Vitaでリリースされた「セルセタの樹海」からはグラフィックスの品質が格段に上がっており、PlayStation Vitaでも十分にその世界観を堪能することはできるが、画面全体を覆うような迫力で迫ってくる古代種や、島の各地で見られる絶景の数々を、ぜひPS4の綺麗な画面で見てみたいと感じさせるゲーム内容だった。

 探索型アクションゲームが好きで、ゲームをするならやっぱり携帯機という方、当面PS4を買う予定はないという方なら、今すぐ本作をプレイすることに躊躇する必要は全くない。しかしPS4版をプレイする予定があるなら、数々の名シーンを、ぜひPS4の画面で初見のインパクトと共に味わってほしいというのも筆者の正直な気持ちである。もしPS4版を待つなら、ネタバレに気を付けつつ2017年のリリースを楽しみにしていてほしい。

スリルと神秘に満ちた冒険を存分に堪能できる大作に仕上がっている
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