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【GDC 2013】GDC Expo ミドルウェア・開発環境関連レポート
インディーズ開発者に多彩な選択肢。急激に存在感を増すHTML5
(2013/3/31 18:37)
世界中のゲーム開発者が集まるGDCは、各種のミドルウェア企業がアピールを行なう場でもある。ゆえに、GDC Expoの出展内容には最新ゲーム開発環境のトレンドが色濃く反映されるものだ。
今年はUnity Technologiesを筆頭に、インディーズ開発者向けのミドルウェアがさらに選択肢を広げ、ゲームサービスのスモールスタートを強力に支援するクラウド関連や、次世代のWeb標準であるHTML5がらみの出展も存在感を増している。
それに対してハイエンド系のミドルウェアは少々勢いが低下しているようだ。「Crysis 3」をリリースした直後のCrytekこそCryEngine 3の出展を行なっていたものの、Epic GamesのUnrealEngine/UDK関連はExpo出展なしでビジネスミーティングだけになっていたり、以前は例年のように複数社の出展があったPCMMO関連のミドルウェアは、そもそも出展があるのか確認するのも困難なほどだった。より裾野の広い分野へ急速進化する、ミドルウェアビジネスの変化を感じずにはいられない。
本稿では特に勢いを感じたカテゴリーを中心に、GDC Expoの会場を回って得られた内容をご報告していこう。
今年も大型ブースを出展のUnity。Wii U対応で任天堂も急接近
Unity Technologiesは今年も、エントランスのすぐ目の前という最も目立つ位置に大型ブースを構える。ブース内では、Unityの開発環境を体験できるデモ機や、Unityで作られた新作を試せる試遊機、Unityと連動して使える多數のミドルウェアやソリューションの展示が行われていた。
今回最も大きなニュースは、既報の通りUnityがWii Uへのフルサポートを果たしたことだ。詳しくは関連記事をご覧頂きたいが、Wii Uのフィーチャーに対応するだけでなく、インディーズ開発者の参加を促すため、任天堂による様々な施策が連動することも印象的だ。
ブース内ではWii U向けに作られたUnityアプリが展示されており、Wii U Game Padのマルチスクリーン機能を活用して動作するデモを見ることができた。
新機種への対応という点では、Windows 8/RTとWindows Store向けのサポートも進行している。現在はベータテスト中ということだが、すでにいくつかのUnityゲームがWindows Store上でリリースされている。Unity開発者がゲームを発表できる場が急速に広がっているのだ。
Unityブースのすぐ隣の任天堂ブースでも、Wii Uで動作するUnityアプリの展示が行なわれていた。開発環境がそのまま置かれており、その場でビルド&ランを自分で試すことができるというオープンぶりだった。
Nintendo Web Frameworkに連動して存在感を増すHTML5ミドルウェア
Unityに並んで、任天堂ブースで新たに展示されていたのが「Nintendo Web Framework」だ。こちらの記事で既にお知らせしている通り、Nintendo Web Frameworkは、HTML5、Java Script、HTTP、CSSといったWeb向けの標準言語をサポートしたWii U向けの開発環境と
なっている。
現地のスタッフによれば、これは既存のPC/モバイル向けにデザインされたWebアプリを移植することが容易なだけでなく、Wii Uならではの機能をフルに使うことも可能であるという。例えばマルチすスクリーン出力、タッチパネルやジャイロ・加速度センサーや、Miiverseを活用したHTML5アプリも制作できる。
制作したアプリは他のネイティブWii Uアプリと同等の扱いとなる。eShopでの販売可能なほか、F2P&マイクロトランザクションタイプのサービスも展開できるといい、かなり柔軟な運用が可能となっている。
UnityとNintendo Web Frameworkの合わせ技で、既存のモバイルゲーム開発者の任天堂eShopデビューを熱烈アピールする任天堂。ブースの大半のスペースがクローズドのミーティングルームになっており、ひっきりなしに人が出入りする様子を見られた。
この動きに関連して、急激に存在感を増しているのがHTML5関連のミドルウェアである。
HTML5は次世代のWeb標準仕様だ。主要Webブラウザーでは既に実装が完了しており、PC、モバイル、そしてNintendo Web Frameworkと、HTML5仕様をフルサポートする環境は増加の一途にある。
HTML5は以前から次世代のWebゲーム開発環境として期待されてきたが、少し前まではブラウザの実装によって微妙に動作が違うとか、一部の仕様が最終的にどうなるかわからないとか、パフォーマンスが出ないなどの理由で、一部のアーリーアダプター以外は様子見という状況にあった。
それが昨年末にはW3Cにより仕様策定の完了が報告され、いよいよ状況が変わってきている。HTML5向けにゲームを作ればどのプラットフォームでも動くという目論見が現実になる。パフォーマンスはネイティブアプリに及ばないが、圧倒的な作りやすさ、可搬性がゲーム開発者の強力無比な武器になるのだ。
そこに早くから目をつけてきた企業のひとつが、日本のユビキタス・エンターテイメントだ。同社は2011年にHTML5向けゲームエンジン「Enchant.js」をリリースしている。
Enchant.jsはオープンソースで、無料で無制限に利用できるだけでなく、10分でゲームを作れるほどの簡易性と生産性の高さがウリだ。日曜プログラミングを楽しむホビー層を中心に支持を集め、現在は日本だけでなく海外にもユーザーが広がっている。
そのEnchant.jsは、昨年からGDC Expoに出展を行なっている。今回も自ら来客対応をしていたユビキタス・エンターテイメントのCEO、清水亮氏によれば、Enchant.jsを通じて直接の利益を得ることは考えてないという。
その狙いは。HTML5の圧倒的な裾野の広さを生かし、ゲーム開発そのものの裾野を広げ、プロでなくても、賢くなくても、誰もがゲームを作れる世界にしていく。そのプロセスを通じて、世界における自分たちのプレゼンスが高まっていけばいい、という考えのようだ。
米ベンチャーLudeiによるHTML5ゲームエンジン「COCOON JS」も面白い存在だ。HTML5向けに作成されたゲームをAndroid/iOS専用形式に変換し、ネイティブアプリ並のパフォーマンスを引き出すことができるというソリューションである。処理の重さが原因でPC向けオンリーになってしまうようなHTML5ゲームを、品質を落とさずにモバイル向けに展開できるというわけだ。
HTML5向けのミドルウェアは、今、非常な勢いでが登場してきている。Nintendo Web Frameworkに見られるようにゲームコンソールでの利用も視野に入り、HTML5は今後ますますゲーム開発・配信のインフラとして存在感を増していくはずだ。
ゲームユーザーとしては、Webで手軽に遊べるゲームが、もっともっと面白くなっていくことを期待したい。