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【GDC 2013】任天堂、Wii U「Miiverse」の活用事例を公開
今後は3DS版やPC、モバイル端末でもMiiverseの利用が可能に
(2013/3/28 15:52)
毎年、大型タイトルの制作事例に関するセッションで人気を集めてきた任天堂だが、今年はセッション内容を目下売り出し中の最新ハードであるWii Uにしぼり、しかもゲームタイトルではなく、本体の機能、サービスの紹介に特化して、海外のクリエイターにWii Uのことをより認知して貰おうという未だかつてないものだった。
ただ、この任天堂の思惑とは裏腹に、今回GDC2013で実施された2つのセッションの反応はいまひとつで、いずれのセッションも空席が目立ち、奇しくもWii Uの厳しい現状を伝えるものとなった。
やはり任天堂には大型タイトルの制作事例を公開して欲しいと考える開発者が多いのか、そもそもWii Uにはあまり関心がない開発者が多いのか。細かい事情はわからないが、いずれにしても任天堂の思惑と、開発者の期待にズレがあったのは間違いないようだ。
とはいえ、各セッションの内容は、しっかり練り込まれた安心の任天堂クオリティで、具体的な活用事例の紹介や新しい発表を含むなど、ゲームファンにとっても有益な情報を含んだものだった。本稿ではGDC2013で実施された任天堂のセッションのうちのひとつ「Miiverse Support From Your Game」を取り上げたい。
Miiverseは「共感ネットワーク」。その使い方は「ゲーセンの“攻略ノート”」にそっくり
セッション講師を担当したのは任天堂のネットワーク事業部の水木潔氏。自己紹介では、他社でアーケードゲームの開発を手がけていた頃、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」に巡り会いこの開発現場を見てみたいと思ったのが任天堂に入るきっかけになったというエピソードが披露された。任天堂入社後は、宮本茂率いる情報開発本部で「ペーパーマリオ」のドット絵や、「ルイージマンション」のアシスタントディレクター、「マリオカート ダブルダッシュ」、「ニンテンドッグス」のディレクターなどを務めている。
その後、Wiiでは「はじめてのWii」や「Wii Sports」といった中核的なタイトルを手がける。こうした任天堂の本流であるパッケージゲームの開発からネットワーク系に転じたのは、当時開発が暗礁に乗り上げていたWiiのオンラインダウンロードサービス「Wii Shop Channel」の開発を手伝ったことがきっかけだという。現在はネットワーク事業部に移り、今回のセッションテーマであるMiiverseの開発を担当している。
水木氏が手がけたMiiverseは、Wii U独自のコミュニティ機能で、Wii U利用者にとっては馴染み深い存在だが、従来にはない完全に新設計のサービスになるため、Wii U非所有者にとっては理解しにくいサービスだ。水木氏は、まず動画の形でMiiverseの内容について紹介した。
Miiverseは、Wii U本体に統合されたコミュニティサービスで、基本機能はMii+掲示板で、投稿にスクリーンショットを添付したり、イラストを掲載したり、テキスト以外のコミュニケーション手段が豊富に用意されているのが大きな特徴となっている。各タイトルごとにコミュニティページが用意され、そこではゲームごとに、エンブレムやハイスコア、タイムアタック情報を共有したり、「ZombiU」のような高難易度ゲームでは、攻略情報を共有したりして助け合いも生まれているという。
水木氏は、こうした使い方について、自身がアーケードゲーム出身であることを引き合いに「ゲームセンターの攻略ノート」に近いと表現。この「ユーザー同士をつなぎ合わせる新しい仕組み」を社長の岩田聡氏にプレゼンした際、岩田氏は鋭く「共感ネットワークですね」とその意図を察したという。
Miiverseは、「プレイ履歴のある人同士がコミュニケーションできる」ところに最大の特徴があり、プレイした人だけが知っている知識を前提に、ゲームという要素を媒介にして、よりディープなコミュニケーションが楽しめる。
水木氏は、世界中で描かれた「ゼルダの伝説」シリーズのイラストを見せながら、「世界中のゼルダファンがゼルダのイラストを通じて、国境を越えて交流している」と紹介し、その素晴らしさを力説した。ちなみにイラストに関しては、人々が不快に感じるイラストが掲載されてしまうことを避けるため、24時間体制で監視しているという。つまり、任天堂はMiiverseを運営するために、かなりの人的リソースを投入しているわけだ。
水木氏はここで本題であるWii Uのゲームを、Miiverseに対応させるとどのようなメリットがあるかの説明に入った。
水木氏は、公式の掲示板が設置でき、公式アカウントの仕組みを使ってクリエイターやメーカー担当者が直接ユーザーとコミュニケーションを取ることもできるという。この公式アカウントは、通常のアカウントにはない特別な機能を有しており、それによってよりコミュニケーションを深められるという。
具体的には公式アカウントでは、YouTubeの動画を投稿することが可能で、「マリオ」シリーズのディレクターが「NewスーパーマリオブラザーズU」のスーパープレイの動画を投稿し、その話題で盛り上がることもできる。水木氏は「自由に発言ができるので、開発者にとってばつの悪い内容の発言もある可能性もある」と釘を刺しながらも、「Miiverse上で盛り上がりを作れば、ゲームの売上にも繋げられるのでは?」と促した。
次に水木氏は、「NewスーパーマリオブラザーズU」のプレイ中に、ゲーム側からMiiverseに投稿するという使い方を紹介。クリアしたばかりのステージの感想などを投稿すると、同じステージをプレイする人がそれを見ることができる。「マリオ」のワールドマップにコメントの吹き出しが表示されるのは最初は奇異に映ったが、リアルタイムで他のユーザーと楽しさや苦労が共感できるのはおもしろく、「NewスーパーマリオブラザーズU」の欠かせない機能のひとつになっている。実際、現在はゲーム内から投稿するユーザーが全体の66%にも達しているという。
ちなみに「NewスーパーマリオブラザーズU」で使用しているMiiverseのUIは、標準で用意しているもので、 Miiverse APIを呼び出すだけで誰でも使うことができるという。ちなみに特定の条件を満たしたプレーヤーにはタグを付けることができ、そのタグでユーザーをソートすることもできるという。
水木氏はゲームをクリアした人に贈られるタグ「Beat the game!」でソートした画面を見せてくれた。それぞれ喜びの声を上げており、クリアした感動が共有できるというわけだ。水木氏は、これを「タグをアーチブメント的に使っているケース」と規定し、Miiverseに対応させることで、ゲームファンに新たな楽しみ方を提案できることをアピールした。
続いて水木氏は、日本で発売が開始されたばかりの「ゲーム&ワリオ」を例に、Miiverseの活用例を紹介。「ミーバースケッチ」と呼ばれるモードで、記憶だけを頼りに60秒以内でスケッチした絵がMiiverseに投稿される仕組み。Miiverseの専用コミュニティには、たちまちうろ覚えで書かれた微妙な絵が投稿され、それを見て笑ったり、コメントを付けたりして楽しむことができる。
よりディープなMiiverseの使い方。投稿にゲームデータを埋め込むことでゲームとの相互関与も可能に
任天堂のオンラインサービスNintendo Networkの機能を使った活用方法にも言及した。
Miiverseでは、アバターをクリックするとそのユーザーのプレイ履歴などの情報を見ることができるが、 水木氏は今後期待しているのは、Miiverseのバイナリーデータをやりとりするようなゲームだという。
投稿をダウンロードする際に、その際に投稿に埋め込まれたバイナリーデータも一緒にダウンロードし、バイナリーデータからプレイデータを取得し、そのデータをデータストアからダウンロードする。と書くと概念的になりすぎるが、要するにMiiverseの投稿データには、テキストやイラスト、スクリーンショット以外に、ゲームデータそのものも格納できるため、これをゲーム側でうまく活用する仕組みをあらかじめ入れておくことで、Miiverseのコミュニティ機能をフル活用したゲームが開発できるというわけだ。
ちなみにサードパーティーでMiiverse APIを最初に活用したのは、日本のメーカーではなく、意外にもElectronic Artsの「ニード フォー スピード モースト ウォンテッド U」だという。同作では走行中にポーズをかけると、Miiverseの投稿を見ることができるという。
また、今後「Deus Ex Human Revolution Director's Cut」や「バイオハザード リベレーションズ」がMiiverseへの対応を表明しており、水木氏はメーカーがMiiverseの機能を使いこなしてくれることを非常に楽しみにしているという。
Miiverseには、ゲーム内にコミュニティを持つことができる「ユーザーコミュニティ」機能を備えている。特定のコミュニティコードを発行することで、コードを持つユーザーだけが参加できるコミュニティを作ることができ、そのフレンド内だけでマッチメイク
ただ、実はこの「ユーザーコミュニティ」の機能を使ったゲームは発売されていないという。第1弾として想定されているのが現在開発中の「Wii Fit U」で、Miiverseの「ユーザーコミュニティ」機能を使って“同好の士”を作り、そのコミュニティではトレーニングの履歴や運動量を共有することができるという。トレーニングは1人だとツラいが、Miiverseを通じて仲間と励まし合いながら行なうことで、「長続きしやすくなるのではないかと期待している」と述べた。
Miiverseの未来。今後はPCやモバイルからのアクセスや、3DS版の提供も予定
水木氏は、Miiverseの今後の展開に言及した。水木氏が現在想定しているのが、いわゆるソーシャルグラフを活用したSNS的な機能で、方向性としてはSNSそのものに近づくというよりは、より好みやプレイスタイルのあった仲間を探すための機能拡充といった感じで、特定条件下のユーザーのソートやサーチ機能が充実するようだ。
開発者からの要望で多いものとしては、投稿した内容から、直接ゲームの特定のステージなどにジャンプする機能だという。また、任天堂がGDCで出展した「Nintendo Web Framework」でもMiiverseを使えるという。「Nintendo Web Framework」を活用することで、Miiverseをマルチデバイスに対応させることもできるわけだ。
このマルチデバイスへの対応については、任天堂としても力を入れ、MiiverseをWebブラウザから閲覧できる仕組みを4月下旬からから5月にかけて導入するという。これによりブラウザが動くPC、スマートフォン、タブレットからMiiverseの利用が可能となる。
水木氏によれば、岩田社長がMiiverseを気に入っており、「Miiverseを見ているだけで寝る時間になってしまい、ゲームをする時間がなかなか取れないので、早くWeb版を作って、外出先でもMiiverseをチェックできるようにして欲しい」とせっつかれているという。まずは基本機能の実装から始め、「将来的にはMiiverse内の良い評判が、インターネット全体に広がっていくようにしていきたい」と抱負を述べてくれた。
また、時期未定ながら、Miiverseを、携帯型ゲーム機のニンテンドー3DS版の開発にも着手しているという。合わせて3DS版Miiverse APIの提供も行なうという。さすがにスペック的にWii UのMiiverseと同じ機能は提供できないようだが、3DSタイトルでも基本機能は利用可能ということで、近い将来、Miiverseの世界が3DSにも広がっていくことになるようだ。水木氏は、3,000万台という3DSのグローバルでの普及台数を口にし、この数の力によるコミュニティの広がり、Miiverseの活性化に期待を込めているようだ。
水木氏は、任天堂スタッフがMiiverseを通じて、外国の子供に絵を描くコツを教えるなど他のSNSではなかなか実現できない、世界のユーザーと交流できる楽しさがあると喜びの声を伝えてくれたというエピソードを披露し、自身としても「Miiverseを通じて世界中のゲームプレーヤーをひとつにしたいと考えていたので非常に嬉しくなった」とコメント。
「ただ、これはMiiverseの力ではなく、ゲームという共通のメディアの力のおかげ。ここで話ができているのもゲームのおかげ」だと語り、「Miiverseはどこまでもゲームに特化したネットワークサービスでありたいと考えている。SNSになろうとは考えていない」と方針を語り、今後、Miiverseの機能を活かしたタイトルが生まれることに期待を込めて講演を終えた。
Wii Uはまだインストールベースが限られるため、コミュニティの盛り上がりにも限界があるが、盛り上げるための準備やWii Uならではの遊びを提供するための仕組みは着々と整えられている。今年のWii Uの展開に期待したいところだ。