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NVIDIA、GPU関連カンファレンス「GTC Japan 2012」開催

「GeForce GRID」が示す新たなクラウドゲームの可能性


7月26日 開催

会場:東京ミッドタウンホール&カンファレンス



NVIDIAの橋本和幸氏

 エヌビディア ジャパン(NVIDIA)主催によるGPUコンピューティング等に関するカンファレンス「GTC(GPU Technology Conference) Japan 2012」が、東京ミッドタウンホール&カンファレンスにて7月26日に開催された。この中でNVIDIAのエンターテイメント・テクノロジー シニア・ディレクターを務める橋本和幸氏は、「クラウドゲームを経済的に実現するGeForce GRID」と題し、クラウドゲームに関する発表を行なった。

 クラウドゲームとは、インターネット上にあるサーバーマシンを使ってプレイするゲームのこと。一般的なオンラインゲームでは、サーバーマシンはゲームのデータを処理・保持し、グラフィックスやサウンドの処理はプレーヤー側のマシンで行なわれる。クラウドゲームもインターネットを使ったゲームサービスだが、それとは全くの別物だ。

 クラウドゲームでは、3Dグラフィックスやサウンドなどゲームの処理はサーバー側で行なわれ、プレーヤーに映像や音声をストリーミングビデオとして送る。プレーヤー側のマシンはそのストリーミングビデオを見ながらゲームをプレイする。簡単に言えば、インターネットの向こう側に高性能なゲーム機があり、その映像をストリーミングで見ながらゲームをプレイするというものだ。

 橋本氏は講演の中で、クラウドゲームの利点と課題という基本的なところから説明し、同社のクラウドゲームプラットフォーム「GeForce GRID」を使ったデモを披露。さらにはクラウドゲームとオンラインゲームの融合という、今後のテーマについて語った。




■ クラウドゲームの利点と課題

クラウドゲームとオンラインゲームとの比較
既にクラウドゲームを提供している会社もいくつかある

 まず橋本氏はクラウドゲームについての理解を深めるため、クラウドゲームとオンライン配信型ゲームを比較して説明した。オンライン配信型の場合、ゲームをプレイする前にクライアントをダウンロードしてインストールし、場合によってはPCのドライバ類を含めたアップデートを行なう必要がある。しかしクラウドゲームであれば、サーバー側に既にゲームが用意されており、遊びたいと思ったときにすぐに遊べる。ユーザーにとっては大きなメリットであるとともに、サービス提供側にとってもインストールという最初の大きな障壁を難なく突破できる。

 次にクラウドゲームはデバイスに依存しない。ストリーミングビデオを再生できさえすれば、クラウドゲームをプレイできる(操作デバイスが必要なので、端末側の対応は必須)ので、スマートフォンやタブレット、スマートTVなど様々なデバイスでゲームを遊べる可能性が広がる。またインストール不要という点と合わせれば、出先で少しの空き時間がある時、スマートフォンなどで短時間だけゲームをプレイするといったことも可能になる。

 またクラウドゲームはセキュリティ面においても有利に働く。オンラインゲームにおいてはチート対策にかなりのコストがかかるものだが、クラウドゲームはデータ処理をサーバーでしか行なわないため、セキュアな環境を保てる。サービス提供側としては、セキュリティにかかっていた分のコストを節約できる。

 クラウドゲームにはそういったメリットがある反面、課題も残されている。第1に挙げられるのは、応答時間の短縮だ。ゲームの映像をエンコードし、それをインターネットを通して送信せねばならないので、その処理と通信に時間がかかる。その時間の分、プレーヤーの操作に対しての反応(応答速度)が遅れ、プレーヤーに操作の違和感をもたらす。また3Dグラフィックスの処理が重いゲームでフレームレートが低下すれば、それも応答速度を下げることになるので、そこのパフォーマンスも高めなければいけない。

 第2に、サーバーごとに抱えられるユーザー数の増大。通常のゲームであれば1台のマシンで1つのゲームを動かせばいいのだが、サーバーマシンをそんな贅沢には使えない。ビジネス的には、1台のサーバーマシンでできるだけ多くのユーザーをまかないたい。そのためには、サーバーマシンに搭載できるGPUの数を増やすことに加え、GPUを仮想化して、1つのGPUで複数のゲームを走らせるようにしたい。

 第3に、ネットワーク転送量の圧縮だ。クラウドゲームで多くのユーザーにサービスを提供することは、通信においては多数のストリーミングビデオを配信することと同じなので、できるだけ転送量を減らして運用したい。そのための方法としては、デバイスに応じた帯域制御がある。例えば同じクラウドゲームであっても、50インチのフルHDテレビと、5インチ未満のスマートフォンに対して、同じ品質の映像を送る必要はない。また3D映像は近くのキャラクターは動きが多くユーザーも注目しているが、遠くのものは動きが少ない。それらをレイヤーで分割してから適切な品質でストリーミングビデオにエンコードし、クライアント側で合成できれば、転送量の節約に繋がる。

 そういった課題をどう乗り越えていくか。その答えとしてNVIDIAが提示するのが、「GeForce GRID」というわけだ。


クラウドゲームにはいくつかの利点があるが、同時に多くの課題も残されている



■ “Kepler”が実現するクラウドゲームプラットフォーム「GeForce GRID」

NVIDIAの最新GPU“Kepler”によって作られる「GeForce GRID」

 「GeForce GRID」は、“Kepler”と呼ばれるNVIDIAの最新GPUを使ったクラウドゲームプラットフォームだ。一般向けには、GeForce GTX 680などNVIDIAの最新ビデオカードに搭載されている。“Kepler”はGPUとしてワット効率(消費電力と性能の比)がよく、H.264のハードウェアエンコーダを搭載し、低遅延のフレームバッファ(ディスプレイの出力映像を一時保存するメモリ)があり、GPU仮想化にも対応する。これを使ってクラウドゲームの課題に立ち向かう。

 まず応答速度については、NVIDIAと提携しているクラウドゲーミングサービスGaikaiにて、「GeForce GRID」を使った際のデータが示された。まず一般のコンソール機とテレビの組み合わせにおいては、ゲームの処理や3Dの描画処理などに100ms(ミリ秒)が必要。さらにテレビの表示遅延を66msとして、トータルで166msとした。

 対するGaikaiにおける「GeForce GRID」のデータでは、ゲームの処理はコンソール機にパフォーマンスで勝り50ms。続いてストリーミングビデオのエンコードには10ms。さらにネットワークの伝送遅延を30msとし、受信側のビデオデコードに5ms。テレビの表示遅延は同様で66msとして、トータルでは161msとなった。つまりコンソール機とテレビの組み合わせよりも応答速度が速い、というわけだ。橋本氏によると、日本ではネットワーク環境がより良好で30msを切る場合も多いとしており、そうなればクラウドゲームがさらに有利になる。

 ここで実際のイメージを掴むため、シリコンスタジオ株式会社のポストエフェクトミドルウェア「YEBIS 2」を使ったデモが行なわれた。処理には1チップの“Kepler”を使っているそうで、重めの3Dグラフィックスを処理しながらリアルタイムにストリーミング配信されていた。さらに橋本氏は同様のストリーミング映像を別ウインドウでもう1つ見せ、この2つを1チップで処理していると説明した。このデモは10日間程度という短期間で開発されたものだそうだが、2つの映像を秒間30フレームで配信できているという。

 「GeForce GRID」のサーバーでは、“Kepler”を4チップ搭載したカードを最大4枚実装できるとしており、1台のサーバーに計16チップを搭載できる。“Kepler”自体の持つ性能としては、1チップでH.264の720pの映像を4ストリーム出すことも可能だそうだが、720pであれば1ストリームで5〜8Mbps程度の通信帯域を必要とするため、インフラ面から考えると1チップ当たり720pを2ストリーム、サーバー1台当たり32ストリームというのが現実的な数字だとしている。


「GeForce GRID」はゲームやストリーミングビデオのエンコードを高速に処理することで、コンソール機でのゲームプレイと変わらない応答速度を実現する
シリコンスタジオの「YEBIS 2」を用いたクラウド対応デモ。2つの3D映像を秒間30フレームのストリーミングビデオに変換、という処理を“Kepler”は1チップで行なう



■ クラウドゲームが新たなオンラインゲーム体験を作る!

クラウドゲームを既存のオンラインゲームに対応させればこんな形になるが……
クラウド対応統合型オンラインゲームになれば、今までになかった多くの利点が生まれる

 橋本氏はさらに、「クラウドゲーム時代のオンラインゲームはどう変わっていくか」という話を展開した。単純にクラウドゲームのシステムでオンラインゲームを提供するとすれば、クラウドゲームのサーバーがオンラインゲームのサーバーと通信するという形になる。橋本氏はその構成図を見ながら、「オンラインゲームサーバーとクラウドゲームサーバーが別々にあるのは無駄ではないか。同じゲームのデータが32個並列で存在するのはもったいない」と述べた。

 そこで提示されたのが、クラウド対応統合型オンラインゲームだ。ユーザーがストリーミングビデオを見ながらプレイするという形は同じだが、サーバーはクラウドゲームとオンラインゲームが統合されて1つになっている。

 こうすることによって、さまざまなメリットが生まれる。例として挙げられたのは、ユーザーが作るコンテンツ(User Generated Contents, UGC)だ。UGCによって洋服のテクスチャを変更した場合、それが全てのユーザーに反映されるには、通常は全てのユーザーにそのデータが送られなければならない。しかしこの統合サーバーであれば、テクスチャデータはサーバーに保存された時点で、全てのユーザーに反映される。その処理が迅速であるとともに、メモリやストレージの使用量などUGCの抱える問題も、ユーザーレベルでは無関係になる。

 橋本氏は聴講する開発者に対し、「クラウドゲームによって、ユーザーに新しい体験を届けなければならない。すぐ遊べるというだけでは説得力が足りない。クラウド時代にはこんなことができるようになったというのを考えて欲しい」とメッセージを送った。

 また橋本氏は、クラウドゲームにおける今後の可能性についても言及した。クラウドゲームではUI操作においてコンマ1秒くらいの遅れがあり、ユーザーもそれを実感しやすいのだが、メニューなどの軽い処理はローカルで行ない、サーバー側では重い描画だけをやるという分業で対処できるのではないかと述べた。またこの場合は、ストリーミングビデオの解像度を落としたり転送レートを下げたりしても、文字が見づらいといったことは起こらないというメリットもある。

 さらにゲームエンジンのクラウド対応も呼びかけた。橋本氏は、「現状、3Dコンテンツの成長が止まっている状態にあると思う」と述べた。3Dコンテンツは、それを描画できるハードウェアを持っていなければ利用できないが、そのハードウェアは数が出ていない。そこに対してコンテンツを作る投資をしても、十分なリターンが得られない。またコンテンツのクオリティを上げればデータサイズも大きくなり、開発コストも増大する。よって企業としてはクオリティを上げる方向に進みづらい。

 しかしクラウドゲームであれば、大容量のデータを配信する必要がなく、ユーザー側のハードウェアに依存しないので、それらは問題にならない。橋本氏は、「今までは非現実的だった圧倒的なポリゴン数のゲームも実現でき、そこをユーザーにアピールするというアプローチも可能になるのでは」と語った。加えて、点を描画して立体を描くポイントクラウドも紹介。これは空間をスキャンして3Dデータを作れる技術で、リアルな空間を経済的に作れるのが利点だが、データ量が大きくなるという課題もある。しかしクラウドではデータ量の問題をクリアできるので、「ポイントクラウドも現実的なゲームテクノロジーになるかもしれない」と述べた。

 「GeForce GRID」は、サーバーベンダー各社から、北米では2012年末頃、日本では2013年初旬から提供できる予定としている。「GeForce GRID」によってクラウドゲームがさらに広がりを見せるのかはまだ未知数だが、オンラインゲームとの統合など、まだまだ今後の可能性がある分野であることは確かなようだ。


(2012年 7月 27日)

[Reported by 石田賀津男]