Game Developers Conference 2009現地レポート
Casual Games Summitレポート その2
新たな市場への鍵は、オンラインコミュニティとコンテンツの融合
Casual Games Summitの2日目は、新しいゲームの提示が中心となった。今年のCasual Games Summitはビジネス書の「ブルーオーシャン戦略」の視点から、市場を分析し、その上でのアプローチが語られている。ブルーオーシャンとは「競争相手のいない全く新しい市場」を指す。
初日では既存の市場“レッドオーシャン”でのカジュアルゲームメーカー、デベロッパーの取り組みが語られたが、2日目ではいよいよ“未来”への展望を提示することになる。カジュアルゲームメーカーの次の手とは、どんなものだろうか。
シンプルなルールと、すぐに把握できるゲーム性、そこから生まれる楽しさ。「カジュアルゲーム」は特にiPhoneの中心コンテンツとしてかつてない広がりを見せている。Xbox 360やPS3でも物理エンジンを大胆に取り入れるなど、様々なアプローチで多彩なコンテンツが生まれ始めている。時代の先端を走るカジュアルゲームというジャンルで、北米の「カジュアルゲームメーカー」たちはどのようなチャレンジをしているのだろうか。
■ ロールプレイ要素や協力プレイにフォーカスしたオンラインコミュニティ、高いストーリー要素……模索が続くブルーオーシャンへの道
「HOTEL i win」の特徴を説明するiWin Senior ProducerのNathan Fahrenthold氏 |
Zynga VP Business Development Hugh de Loayzaは自社のポータルサイトでの取り組みを語った |
レッドとブルーをミックスした市場。オンラインや他プラットフォームへカジュアルゲームが挑戦するとき、新しいビジネスチャンスが生まれるのだろうか |
北米のカジュアルメーカーたちが行なっているアプローチの1つが「オンラインコミュニティ」である。「HOTEL i win」はソーシャルネットワークサービスにアバターをつけたサービスだ。基本プレイ無料のアイテム課金でのビジネスモデルをとっていて、プレーヤーは観光地を訪れた「旅行者」として、ホテルの一室で生活をする。
画面にはプレーヤーキャラクターがいる場所、そしてたくさんの友達が別ウィンドウで表示されている。メインターゲットは女性で、着飾ることができる多彩な服が用意されている。アバターとソーシャルコミュニケーションサービスというのは韓国、台湾、そして日本でも盛んだが、「HOTEL i win」の世界観が“本格的”なのが面白いと感じた。
ゲーム部分はフィールドの移動も画面切り替え型のシンプルなものなのだが、ホテルの背景や旅行者の設定などが凝っている。プレーヤーはロールプレイをした上で友人たちとコミュニケーションを楽しめそうである。
オンラインコミュニティのもう1つの方向性を提示したのがオンラインカジュアルゲームのポータルであるZyngaのソーシャルサービスである。ここではポーカーやパズルゲームなどさまざまなゲームをソーシャルネットワークと連動して楽しめる。これまでのオンラインゲーム以上にプレーヤーごとの個性が見えるのが大きな特徴だ。
シングルプレイでも他プレーヤーや友達のランキングを確認できる。ソーシャルネットワークにゲームの要素を加えたものとしては、「Face book」があるが、比べると「Face book」は1ユーザーがソースをそのまま貼り付けゲームを提供できるが、Zyngaはプロが商品として作るコンテンツであり、ソーシャル以上にゲームが中心だという。
司会を務めていたZynga Executive PoducerのDavid Rohrl氏からは、「オンラインゲームそのものは数年前からあったのに、なぜ今なのか」という質問がでたが、ソーシャルサービスを説明したZynga VP, Business DevelopmentのHugh de Loayza氏は「『Face book』で改めてゲームコンテンツとソーシャル機能の親和性に開発者が気がついたからだ」と答えた。競争相手のいないブルーオーシャンを目指すための戦略としては、先駆者がいるというところで疑問が残るところだ。
ソーシャルネットワークとゲーム性の融合、と言う部分ではアジアには「ハンゲーム」があり、それ以外にもオンラインゲームに特化したソーシャルサービスなど、現実とゲーム内の境界線が従来のものより曖昧なサービスなども登場している。2つのタイトルは技術を持つ欧米メーカーらしいアプローチだが、目が覚めるほどの新戦略とは感じられなかったのが正直なところだ。
2日目のCasual Games Summitでは、さらに3タイトルがカジュアルゲームの新戦略として紹介された。「WOMEN'S MURDER CLUB」は従来のカジュアルゲームを統合しながらよりドラマ制を強くした作品。数人の女性のみで結成されたチームが殺人事件に挑戦する、というコンセプトだ。
殺人事件など重要な部分ではヒドゥンオブジェクトと呼ばれるジャンルのゲームになる。プレーヤーはその場所に隠れた様々なオブジェクトを探し出し、秘密を解き明かしていく。ゲーム部分はここだけではなく、鑑識の女性となってヒントから犯人を割り出したり、ジャーナリストとなって証拠を集めたりする。
鑑識間の場合はパズルゲームを解き明かすことでヒントを得ることができる。ジャーナリストの女性はアクションゲームで見張りを避けて奥に潜入する。濃厚なミステリーとストーリー要素はカジュアルゲームの手法を活かしながらコアゲームを好む層や、ミステリーが好きな女性の人気も獲得しているという。
「Build a lot」は、地主となって家を貸し出し、その資金を元にさらに多くの家を所有しながら経営を行なっていくシミュレーションゲームだ。Hip Soft Owner/Developerの Brian Goble氏が「私の妻はリアルタイムストラテジーが好きなんですけど、戦争は嫌いなんです。このゲームを思いついたのはそこもヒントになっています」と語る。「Build a lot」は借家の経営というこれまであまりなかったテーマと敷居の低いゲーム性により、多くのファンを獲得している。チュートリアルを充実させ、ゲーム要素をスムーズにプレーヤーに理解させることもできたという。
「CampFu」は、アメリカの子供たちの多くが体験している「キャンプ生活」にフォーカスした作品。アバターとカジュアルなゲーム性が中心となるゲームだ。この作品の面白いところは「協力性」にある。ゲームは「Dinner Dash」のような注文された商品を客に届ける、という「タイムマネージメント」といわれるルールだ。しかし「CampFu」のゲームでは1人のプレーヤーが畑を耕し、1人のプレーヤーが種を植え、1人が水をやる……客に商品を渡すためのプロセスを数人で協力する「Co-opプレイ」が楽しめるのだ。客を満足させた報酬は協力したプレーヤーたちでわけることができる。
これまで、カジュアルゲームというジャンルにおいてはソーシャル機能を持たせる場合対戦ゲームに付加的につけられるか、逆にソーシャルネットワークサービスにアバター機能やリアルタイムチャットを持たせる、といったものが多かった。「CampFu」はカジュアルゲームメーカーならではの機能を付与したゲームといえるだろう。
2日目はコンテンツへの模索だけでなく、どうゲームを作っていくか、市場へはどう働きかけていくかも議論された。Arkadium CEOのKenny Rosenblatt氏は、オンラインゲームを作るためのデベロッパーの方法論を語った。メーカーはよりコアに、ゲーム性を重視して作り出そうとするが、より多くのユーザーに向けて作るにはどうするか。すべて自社でまかなおうとするのではなく、ノウハウを持つ会社にアウトソーシングすることも重要だと説明した。
この他にも様々な意見が出たが、完全なレッドオーシャンでも、未知の市場でもない「パープル(赤と青の混じり合った場所)」もあるのではないかという意見を出したのが、Sandlot Games President/CEOのDaniel Bernstein氏だ。Bernstein氏はオンラインゲームの開発や、自社タイトルのマルチプラットフォーム戦略を進めた上での経験を語った。
Casual Games Summitの2日目は、新しいユーザーと市場が待つブルーオーシャンを目指してチャレンジするカジュアルゲームメーカーの取り組みが紹介された。しかし、今回紹介されたタイトルは、既存のシステムを組み合わせたゲームばかりで、ユニークではあるが衝撃的な革新性といったものは感じなかった。それは、同時にカジュアルゲームメーカーたちの次のビジネスを生み出すための“焦り”も感じられた。
アイデアが楽しく、手軽に、低価格で楽しめるカジュアルゲームは現在、iPhoneを通じて爆発的に発展している。Casual Games Summitと同時に行なわれていたGDC MobileでのIGF Mobile AwardsはiPhoneのゲームばかりだったという。また、Wiiのタイトルの多くもカジュアルゲーム的アプローチを持つものだ。
これまで以上にゲーム業界全体の目がカジュアルゲームに注目しているのに、本来専門家であるはずのカジュアルゲームデベロッパーが、「PCダウンロードビジネス」という従来のビジネスに囚われすぎているのではないか。それは、昨年期待されていたコンシューマへのチャレンジが全く報告されていないところからも感じた。ゲーム制作には本来ハードの垣根はなく、逆に新たなデバイスや状況でふくらんでいくものだと思う。カジュアルゲームメーカーのユーザーへアプローチしていく熱意は、それを充分可能にしてくれると思う。
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
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(2009年 3月 27日)